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KYOKO DREAMIN XⅠ: side:B

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 しばらく歩いていると、遠くでぼんやりと光っているものが見えた。
 川尻たちは警戒し、道路から降りて荒野を散開して進んだ。
 光は川尻たちに近づいて来る。
 バイオノイドにしてはおかしい。

 数百メートルの距離になった時、川尻たちは止まって物陰に潜んだ。
 カサンドラを構える。
 近付いた光るものは人型をしていた。
 さらに近くなると、人型の顔が見えて来た。
 その顔に、川尻が驚愕した。

 「お前!」

 川尻が叫んだ。
 他の男たちが驚いて川尻を見て、そして身構えた。

 「諸見なのかぁ!」
 「「「「!」」」」

 川尻の叫びに、男たちも驚く。
 あまりの異常事態だったが、川尻が駆け寄るので、仕方なく他の男たちも後に続いた。

 一人の男が、全身から淡い光を発していた。

 「お前、諸見なのか?」

 光の男は答えない。
 ただ、前を向いて歩き続ける。
 川尻が光の男の前に回った。

 「おい、お前は死んだんだろう!」
 
 光の男は立ち止まり、川尻を一瞥した。
 幽かに微笑んでいるように見えた。

 「諸見! お前どこへ行くんだ!」


 《あなたが都市の人間を見捨てて行くのなら、自分がまた守りに行きます》 


 「!」


 光の男はそう言って川尻たちが逃げて来たマドリッドへ向かって行った。
 川尻たちは、その背を見ていた。

 「待て! 諸見! 俺が戻る!」

 光の男が振り返った。

 「俺が! 俺が行く! お前はもう十分にやった! 今度は俺の番だぁ!」

 光の男が微笑んだ。
 はっきりと笑う顔が見えた。
 そして消えた。

 「川尻!」
 「俺は戻る! あいつは自分の身をバラバラにして死んだ! 二度とそんなことはさせない。今度は俺がやるんだ!」

 川尻は道を戻り始めた。
 後ろを四人の男がついてきた。

 「お前らまで死ぬことはねぇぞ」
 「何言ってんですか! 今度は俺たち、でしょ?」

 四人が笑っていた。

 「バカだな」
 「そうですね」
 「「虎」の人間ですからね!」
 「おっかねぇ地獄の方が、何もねぇ天国よりましだ」
 「いつか亜紀さんのオッパイを拝みましょう!」

 五人で笑った。




 一晩かけてマドリッドへ戻った。

 すぐに10体のバイオノイドと接敵した。
 川尻たちは死ぬ覚悟を決めた。
 カサンドラを握り駆け出した。







 その時、上空から激しい雷撃が前方を覆った。
 顔をかばい、目を開けると、バイオノイドは全て消し炭になっていた。

 「大丈夫ですかー!」

 上空から、そう声を掛けて少年が降りて来た。
 恐ろしいまでに美しい少年だった。

 「すみません。巻き込む恐れはあったんですが、躊躇ってる間がなくて。お怪我はありませんか?」
 「ああ、大丈夫だ。君は?」

 川尻が少年に問うた。

 「はい、僕はあまりまだ表に出ないことになってるんですが」
 「君はもしかして」

 川尻は少年のあまりにも美しい顔を見て思った。

 「吹雪と言います。六花の息子です」
 「タイガー・レディ!」
 「はい!」

 少年が微笑んだ。
 一層壮絶な美しさになった。

 「マドリッドからの連絡が途絶えたので、父が心配して僕に行くようにと」
 「そうだったのか!」
 「みなさんの他には?」
 
 川尻は簡単に経緯を話した。
 80名の仲間がもうこれだけになったと。
 一時は都市を捨てて逃げようとしたが、思い直して最後まで戦うつもりで戻ったことを。

 「そうなんですか! ご立派です! じゃあ、僕も手伝いますので、まずここのバイオノイドを駆逐しましょう」
 「ありがとう! ところで君の能力はどれほどと思っていいのかな?」
 「士王兄さんほどではありませんが、母と同様くらいと思っていただければ」
 「「「「「!」」」」」

 「じゃあ、行きましょうか」
 「宜しくお願いします」

 川尻たちは敬礼した。

 「いえ、僕は「虎」の人間ですが、軍属ではありませんので。普通に接して下さい」

 そう言って吹雪は赤くなった。
 そのはにかむ顔もまた美しかった。




 吹雪の力で、バイオノイドは全て破壊された。
 1時間の出来事だった。
 生存者400人余りを集め、使用可能な車両に乗り込んだ。
 マドリード=バラハス空港へ移動し、吹雪が連絡した輸送機で生存者が救出された。




 川尻は、二度と逃げないことを誓った。
 「虎」の言うヴァルハラという場所で、諸見に笑って会いたかった。
 自分を救ってくれた礼を言いたかった。




 無性に諸見に会いたいと思った。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 石神の別荘から帰った翌日の朝方。
 響子はベッドで目を覚ました。

 「また不思議な夢だ」

 知らない人間たちばかりだった。
 一人だけ、六花の子どもだという「吹雪」という美しい少年がいた。

 「六花の子ども……」

 六花によく似ていた。
 美しく、そして愛らしく優しい。

 「やっぱり六花の子ね」

 響子は嬉しくなった。
 明日は六花がここに来る。
 話したい。
 目を閉じた。

 (今の夢を六花に話していいですか?)

 いつものように、大きな優しい虎と一緒にいる、美しい光の大天使に聞いてみた。
 光の大天使は微笑みながら、首を横に振った。

 (ダメですかー)

 しばらく前から、響子は虎と光の大天使を見ることが出来るようになった。
 レイが死んだ後からだ。
 最初に話された。
 石神高虎を見守る存在なのだそうだ。
 レイはすぐに光の大天使によって傍に置かれるようになったと聞き、響子は喜んだ。
 だが、常に傍にはまだいられないらしい。
 でも、そのうちに一緒に来られると言っていた。

 (分かりましたー)

 光の大天使は笑って消えた。

 「でも、六花、楽しみね」




 響子は笑ってまた眠りについた。
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