富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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山中家の子どもたち

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 「なあ、石神。今週の土曜日に、うちに泊まりに来てくれないか?」

 山中が妙なことを言った。

 「え、いいのかよ?」
 「頼む! お前に来て欲しいんだ」
 「罠?」
 「なんでだよ!」

 それまで、俺が遊びに行きたいと言うと、まず断られた。
 俺が懇願し、何とか許してもらえるという感じだった。
 それが、山中の方から頼んでくる。

 「もちろん喜んで行くけどさ。何かあったのか?」
 「ああ、それがな」

 山中は、2歳になった双子がとにかく元気で、奥さんがヘトヘトになっていると言った。

 「美亜さんが倒れそうなんだ。いや、もう倒れた。ちょっと寝込んでるんだよ」
 「そうなのか!」
 「まあ、大したことでもないんだけど、疲れているのは確かなんだ」
 「分かった。おい、明日の夜からでもいいか?」

 木曜日だった。
 確か二月の節分あたりだ。

 「いいのか! 頼むよ!」
 「よし、任せろ!」

 亜紀ちゃんが8歳、皇紀が5歳くらいだ。
 



 金曜の晩。
 俺は山中と一緒に帰り、家に向かった。
 玄関を開けると、亜紀ちゃんが駆けて来た。

 「石神さんだぁー!」
 「おう! こんばんは!」
 「こんばんはー!」

 俺に抱き着いて来る。

 「亜紀! 僕にも!」
 「おとーさん、おかえりなさい!」

 俺に抱き着きながら、亜紀ちゃんが言った。
 山中が俺を睨むが、とにかく上がれと言った。
 俺は亜紀ちゃんを抱き上げて奥に行く。

 奥さんが寝間着で起きて来た。

 「あなた、すいません。ちょっと寝てしまって」
 「いいよ、寝ててよ」
 「あ、石神さん! 今日は本当にすみません」
 「いいんですよ。山中が言う通り寝てて下さい。俺が夕飯を作りますから」
 「本当にすいません」

 奥さんはげっそりとしていた。
 これは相当だと思った。
 俺たちが話していると、双子が俺の足元に這い寄って来る。

 「「ダァー」」
 「おう! 今日は俺が夕飯を作ってやるからな!」

 俺が抱き上げると、両側から俺の顔に何度もキスをする。
 可愛らしい。

 「おい、気を付けろ! 二人はよく耳を齧るからな!」
 「え?」

 耳を舐められた。

 「大丈夫か?」
 「ああ」

 山中が驚いている。
 皇紀はなんだか知らんが、床で伏せたまま動かなかった。
 双子を置いて抱き起すと、薄目を開けて気を喪っていた。

 「おい!」
 「ああ、いつものことだ。美亜さんがいないと、いつも皇紀が瑠璃と玻璃の相手をしててな。疲れ果てるまで付き合うんだよ」

 見ると、耳は齧られて血が滲んでおり、顔は何カ所か赤くなっている。
 殴られたのだろう。

 「お前、偉い奴だな」
 
 俺がそう言うと、薄っすらと笑った。

 俺がカレーの用意をした。
 材料は買って来た。
 子ども用に、甘めに作る。
 俺が作っている間、亜紀ちゃんが何度も腰に抱き着いて来る。

 「おい、危ないから座ってろ」
 「はーい!」

 そう言いながら、また抱き着いて来た。
 山中がまた俺を睨んでいたが、今日は何も言わない。
 いつもなら、「お前はもう帰れよ」と何度も言っている場面だ。
 双子が山中に抱き着き、嬉しそうに笑うと「イタイ!」と叫んだ。
 耳を齧られたらしい。

 俺は野菜を摺り下ろし、奥さんのために別途スープカレーを作った。
 ライスは入れない。
 スープ状にすれば、大抵はお腹に入れられる。
 消化も負担がない。
 何種類も野菜が摂れるので、栄養的にもいい。
 山中に断って、寝室へ運んだ。
 ベッドでそのまま召し上がってもらった。

 「あ、美味しい!」
 「そうですか。結構甘くしたんで、カレーっぽさが少ないんですけど」
 「いいえ、本当に美味しい。石神さんはお料理も上手いんですね」
 「いや、そんなことは。俺がいますんで、ゆっくり休んで下さいね。今日はもう寝て下さい」
 「ありがとうございます」

 俺は食器は後で片付けると言って、脇に置いてもらうように言った。
 甘くしたココナツミルクも置いて来た。

 居間に戻ると、子どもたちがワイワイと食べていた。
 山中がカレー塗れになりながら、双子に食べさせている。
 俺も手伝った。
 俺がスプーンですくい、口に持って行くとパクっと食べる。
 カワイイ。

 「お前、上手いな」
 「そうか?」

 山中は何度も手で払われていた。
 俺が口に持って行くと、キラキラした目で俺を見て、パクっと食べる。
 何のこともねぇ。

 俺は山中に頼まれ、双子を風呂に入れた。
 亜紀ちゃんも入りたがったが、山中に止められた。
 皇紀も一緒に入れたかったが、風呂が狭い。

 俺は二人の身体を洗い、仰向けにして髪を洗ってやった。
 二人はニコニコしていた。
 山中が様子を見に来る。

 「あー! そうやって洗えばいいのか!」

 瑠璃に石鹸を投げられた。
 玻璃が石鹸入れを投げた。




 風呂から上がり、二人の髪を乾かす。
 そのまま寝室へ連れて行き、寝かせた。

 「ありがとうな。ちょっと飲めよ」
 
 山中がビールを出してくれた。
 風呂から上がった亜紀ちゃんが、俺の足に乗って来る。
 ニコニコしていた。

 「お前は本当にうちの子らに懐かれてるよなぁ」
 「そうか? まあ、俺も大好きだからな」
 「ありがとう」

 山中にもビールを勧めたが、飲まなかった。
 恐らく、家ではそんなに飲めないのだろう。
 四人の子どもを育てるのに、金がかかる。
 俺のために用意してくれたのかもしれない。

 「お前が相手だと、瑠璃も玻璃も大人しいよ」
 「そうか。普段はどんななんだ?」

 皇紀がへたばるまで相手してもらうらしい。
 その後は奥さんと亜紀ちゃんが受け持つ。

 「とにかくな、暴れまわるんだ。悪気は無いんだろうけど、手当たり次第にあちこち殴るんだよ」
 「へぇ」

 「でも、不思議なんだよな。お前がいると全然そんなことがない」
 「そうなのか?」

 そういうことで、俺はよく山中の家に呼ばれるようになった。
 奥さんが身体を持ち直すまでは、毎週行った。
 その後もよく呼ばれた。

 



 双子が5歳になると、段々と暴れるような悪戯は無くなった。

 「お前ら、最近は暴れなくなったな」
 「「エヘヘヘヘヘ」」

 嬉しそうに笑う。

 「なんかつまんねぇな」
 「うん」
 「ちょっとは暴れてもいいんだぞ?」
 
 双子がお互いを見た。

 「あのね、石神さんがよくくるからね」
 「きもちわるいのがいなくなったの」

 「なんだ、そりゃ?」

 「わかんない」
 「まえはしょっちゅうきたからね」
 「なかなかいなくならなかったよね」
 「そうだよ」

 よく分からない。

 「ヘンなのがいたのか?」
 「うん!」
 「でも石神さんって、ボォーッってしてるじゃん!」
 「だからみんなにげてくよね!」

 オチンチンのことだろうか。
 根本はボウボウしているが。

 「もう、ちかよれないみたいよ」
 「こわがってるよね」
 
 取り敢えず、オチンチンを出してみた。
 双子を安心させたかった。

 「石神! 何をしてるんだぁー!」

 山中に怒られた。




 双子が段々暴れなくなり、奥さんも元気になった。
 でも、それからは山中もよく家に遊びに行かせてくれるようになった。
 暴れなくはなったが、奇想天外な悪戯が多かったせいもある。

 「石神さん! 私飛ぶから見ててね!」
 
 ハーがそう言って、二階の窓から飛び出した。
 慌てて俺が捕まえ、俺が二階から落ちた。
 奥さんが蒼白になっていた。

 「石神さん! おやつをどーぞ!」

 真っ黒い何かが俺の前に置かれた。

 「なんだ、こりゃ?」
 「ケーキ!」

 皇紀が口から黒い物を出して白目をむいて失神していた。

 ウサギのぬいぐるみをやると、「わーい!」と1分後に、二つとも首がぶっちぎれていた。
 奥さんが叱ると、テーブルにウサギの首を置いて手を合わせていた。
 奥さんが俺に謝って縫い合わせたら、なんか恐ろしいものになった。
 山中と笑った。

 亜紀ちゃんはあまり悪戯に巻き込まれなかった。
 ある日双子に聞いてみた。

 「亜紀ちゃんには、あんまり酷いことをしないよな?」
 
 怒るとコワイと言った。

 「亜紀ちゃん、やさしいんだけどね」
 「うん。怒ると鬼がでてくるよね」

 なんかコワイらしい。
 



 双子が小学生になった。
 俺はその祝いに呼んでもらった。

 「石神、いよいよ瑠璃と玻璃が小学生だよ」

 夕飯を食べ、子どもたちが寝て山中と一緒に飲んでいた。
 奥さんにも勧める。
 酒は俺が用意した。
 山中が感慨深げにそう言った。

 「大変だったな」

 俺は実感を込めて言った。
 山中が笑った。

 「まあな。でも楽しかったよ。最初は病気ばかりで心配したけどな。どんどん元気になっていってくれた」
 「ちょっと元気過ぎだったけどな」
 「アハハハハハ!」

 奥さんも笑っていた。

 「これからも成長が楽しみだ」
 「そうですね」

 山中と奥さんが顔を合わせてそう言った。
 幸せそうだった。

 「ちょっと寝顔を見に行こう」

 山中がそう言い、三人で子ども部屋に行った。
 そっとドアを開ける。

 亜紀ちゃんが端に寝ていて、双子が皇紀の両側で寝ていた。
 二人とも、皇紀に向いて寝ている。

 「皇紀が大好きなんだな」

 亜紀ちゃんが寝返りをうち、三人に向いた。
 手を伸ばして抱き締めていた。

 「仲がいい兄弟だ」
 「ああ」
 「お前と奥さんの子どもだな」
 「そうだな」
 「ウフフフ」

 そっとドアを閉めて戻った。





 酔った山中が階段の一番下で足を滑らせ、尻を思い切り打った。
 相当痛かったはずだが、寝ている子どもたちのために、声を上げなかった。
 辛そうに立ち上がり、奥さんが肩を貸した。

 居間で三人で大笑いした。
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