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挿話: とことん愛深き女

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 乾様の御店の中で、お二人はソファに座られた。
 私とディディは立っている。

 「おい、トラ。なんだよ、こりゃ」
 「あははは」
 「笑ってんじゃねぇ!」

 「乾様、コーヒーでもお淹れしましょうか?」

 ディディがちゃんと申し出て、私も安心した。

 「「お前かよー!」」



 初めての場所なので、私が念のためにキッチンへ一緒に付いて行った。
 インスタントコーヒーだった。
 私が付いてきて良かった。
 これは教えていない。
 私がやり方を見せ、ディディが二杯目を粗忽なくこなした。
 戻るとお二人が掴み合いをしている。

 「絶対持って帰れ!」
 「無理ですよ!」

 ディディが「六花スマイル」で微笑んで、お二人を御止めした。

 「おい、今なんかちょっとビリっとしなかったか?」
 「蓮花、てめぇ……」

 「コーヒーをお持ちしました。拙い腕前ですが、どうか」
 「お前、何でそんなに完璧丁寧なんだよ」

 お二人は座られ、コーヒーを飲んだ。
 石神様がコワイ顔をなさっている。
 
 「蓮花、やり過ぎだぞ」
 「申し訳ございません」
 「それでどうせまだあるんだろう。他には何が出来るんだ?」
 「はい。コーヒーを召し上がった後で、皆様にお見せします」
 
 「トラよ……」
 「まあ、とにかく見てみましょう」




 お二人と、お店の方々を連れて、外へ出た。

 「先ほど、「整備モード」はお見せしましたので」
 「ああ、そっちはもういいや」
 「それでは、単純な「掃除モード」を」
 
 ディディは「整備モード」を外し「掃除モード」を装着した。
 こちらはさほどのものではない。
 箒を手に持ち、周辺を掃き始める。

 「こっちは普通だな。異常に滑らかに動くのを除いてな!」
 「そうですね。ちょっとニコニコしてるのがいいじゃないですか」
 「そうだなぁ」

 建物のウインドウへ近づいた。
 窓ガラスを拭き始める。
 正面のウインドウを1分で拭き終わり、二階部分の窓を始める。

 「おい、背中の棒が伸びたぞ!」
 「アハハハハ」
 
 スクイージとブラシ、そして放水のマニピュレーターが、伸びて拭いている。
 三階の窓も、同様にお見せした。

 「もういい。他にもあるのか?」
 「はい。「料理モード」が」
 「後で試そう。まさか武装はねぇだろうなぁ!」
 「いいえ。乾様は石神様の大切なお方。ですので航空支援付の中隊規模の陸戦はこなせるほどに」

 そう言って、私はトラックの中の最も大きな装備をお見せした。
 8本のブレード、荷電粒子砲、レールガン、それに7.62ミリチェーンガンを今回は持たせる。
 最大の「殲滅モード」を装着すると、ディディは身長3メートル、体重2トンになる。

 「おい!」

 叫んだ石神様の首を、乾様が後ろから締めておられる。
 危険な状態だ。

 「乾様! ディディは乾様の下僕ですが、優先順位は石神様が上に設定されております!」
 慌てて私は叫んだ。
 
 「警告いたします。乾様、石神様を御放し下さい」

 ディディの冷徹な警告に乾様が驚いて手を離した。
 ディディは構えを解いた。

 お二人を落ち着かせ、私は残りの性能をご説明させていただいた。

 「接客は通常の姿で十分でございましょうが、「遊園地モード」もございまして、御子様方に喜んでいただけるようにいたしました」
 「なんだよ、それ?」

 ディディは直径2メートルの「コーヒーカップ」を装着し、自分の周りをゆっくりと回転させてみせた。
 時折、回転の向きが変わる。

 「今はあちらに残して来ましたが、宜しければ「観覧車」と「メリーゴーランド」も製作いたしております。ご希望があれば「フリーフォール」と「ジェットコースター」も設計段階は終わっておりますので」
 「こいつ、必要ねぇじゃんかぁ!」

 他のモードについてご説明すると、お二人は頭を抱えられた。
 特に「飛行モード」については、「絶対いらねぇ」と怒鳴られた。
 敵戦力を先制攻撃し、半径30キロを灼熱地獄に変えるものなのだが。

 「トラ、聞いた通りだ。とてもじゃねぇが、ここには置けねぇよ」
 「はぁ。俺もまさかここまでやるとは」

 「あの」
 「あんだよ?」

 「わたくしは、ディディにこちらで身命を賭してお尽くしするように言い聞かせました」
 「まあ、そうだろうな。見たらよく分かるよ」
 「もしもここを追い出されることになれば」
 「なんだ?」

 ディディは小刀を手に持ち、地面に座った。
 ブラウスの前をはだけた。

 「死してお詫びヲォー!」
 「「待て待て待てぇー!」」

 乾様と石神様で必死に止めた。
 




 何とか乾様もご納得され、ディディがお仕え出来るようになった。
 乾様に伺い、装備を整備室内に運ばせて頂いた。
 武装はいらないと断られた。

 「乾さん、すみませんでした」
 「もう、なんか、どうでもいいや」
 「申し訳ない」
 「まあ、有能みたいだからな。綺麗だし礼儀正しいし」
 「そうですね」
 
 私は乾様の御言葉を聞いて、うっかりしていたことを思い出した。

 「あの、もう一つ、言い忘れてしまっていたことがございました」
 「まだあんのかよ!」
 「トラ、いいよ。もう驚く力がねぇ」
 
 「乾様は独身と伺っておりましたので」
 「それがどうしたんだよ」
 「はい。夜伽が出来る機能も、ちゃんと装備しております」

 「「!」」

 「イトミミズの巾着三段俵締め。もちろん口も、あと後ろも可能です。ああ、ディディ自身でメンテナンスいたしますので、乾様ご自身で洗ったりなさらなくても……」

 「トラぁ!」

 「じゃ、じゃあ、俺、これで帰ります!」
 「ふざけんな! てめぇ!」
 「アハハハハハハ!」

 私は石神様に手を引かれ、急いで外に出された。

 「ディディ! しっかり働けよ!」
 「かしこまりました」

 「トラぁー!」

 ディディはちゃんと状況を判断し、乾様を優しく後ろから抱き締めていた。







 ディディ、しっかりとお仕えなさい。
 
 そして、どうかあなたも可愛がっていただいて幸せにおなりなさい。 
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