上 下
983 / 2,806

南原姉弟

しおりを挟む
 12月三周目の金曜日の夜。
 亜紀ちゃんといつものように一緒に風呂に入り、寛いだ。
 寒い時期は、風呂が一層楽しい。

 「もうすぐクリスマスですねー」
 「そうだな」
 「クリスマスのパーティと一緒に、栞さんの送別会をするんですよね」
 「ああ、そうだ」
 
 「タカさん」
 「なんだよ?」
 「寂しいですか?」
 「ばかやろう」

 俺は笑った。

 「栞さんが蓮花さんの研究所へ行くことは秘密なんですよね?」
 「そうだ」
 「私たちも口には出さないようにしますから」
 「そうだな」
 
 まあ、そのくらいが丁度いい。
 栞の子が花岡家の最高峰になることは、「業」も知っているからだ。
 絶対に狙ってくる。

 「それだけ、栞さんが生む子どもは狙われるということですね」
 「分からん。だが警戒する必要は十分にある」
 「そうですね」

 「落ち着いたら、また会えるさ」
 「はい! 私も弟が出来るんで楽しみです!」
 「頼むぞ」
 「いっぱい可愛がりますよー」
 
 俺は笑った。
 本当にこいつらがそうすることは分かっている。




 「あ、ところで栞さんの家に新しい人が住むって?」
 「あいつ、そこまで喋ったのか」
 「誰ですか?」
 「俺の弟」

 「エッェェェェェェェェェーーーーーーーーーー!!!!」

 亜紀ちゃんが立ち上がり、ショックからか足を絡め、俺に倒れ込んだ。
 俺の頭に捕まり、亜紀ちゃんのボーボーが俺の顔に貼りつく。

 「テメェ!」

 亜紀ちゃんがそのまま、俺の頭をポカポカ叩いた。

 「た、た、た、タカさーーーーん! 聞いたことないですよ!」
 「ウルセェ! まず離れろ!」

 亜紀ちゃんの尻の肉を掴んで引き離した。
 亜紀ちゃんはちょっと穴が拡がったとか言って湯船に座った。

 「なんなんですかぁー!
 「あのな、黙っていたわけじゃないんだが、弟と言っても正式なものじゃないんだ。お袋の再婚相手の子どもでな。今は33歳か。自衛隊の高級官僚コースなんだよ」
 「はぁ」
 「今は既に一佐で、超優秀な男だな。将来は陸自の幕僚にまで昇り詰めるだろうよ」

 亜紀ちゃんがじっと俺を見ている。

 「あのタカさん」
 「あんだよ」

 「そういうお話は改めて」
 「あ?」

 「今はタカさんとの関係を!」
 「だから、戸籍上は他人だが弟なんだって。向こうは超多忙なんでほとんど会ってねぇけどな。でも仲良しなんだよ」
 「そうなんですか!」
 「もちろんお袋が再婚してからの付き合いだけど、最初から意気投合してな。ああ、南原左門という名前だ」
 「あー! 南原さん来るー!」
 
 俺の通信は双子に管理させているが、食材などの御届け物は亜紀ちゃんが最終的に管理する。
 毎年盆と暮れには、左門から酒が届いている。

 「タカさんに贈ってくれる人って膨大にいるじゃないですか! だから気付きませんでしたよ!」
 「いいよ、別に知らないでも。俺も左門とはほとんど会ってないしな。もう10年以上も直接は顔を合わせてねぇ」
 「だって!」
 「年に数回電話で話す程度だよ。お袋が死んでからは、南原家とはほとんど交流がねぇしな。左門と、あとは姉の陽子さんくらいだ」
 「姉ぇーーーーーー!!!!」

 うるさいので頭を引っぱたいた。

 「毎年、千疋屋のフルーツを手配してるだろう!」
 「あー! 南原陽子さん行くー!」

 もう一度引っぱたいた。

 「そんな程度の交流だよ。俺がお前たちを引き取ったくらいの話はしているけど、もう会うことは無いと思っていたからな。お袋が世話になったんで、そのお礼をしているだけだ」
 「知らなかったぁー」
 「陽子さんは優しい人でな。俺なんかを弟だって言ってくれて、会えばいろいろ気遣ってくれた。それにお袋のことも本当に面倒見てもらって。あっちでお袋が楽しくやってたのは、陽子さんのお陰なんだ」
 「そうだったんですかぁー!」
 「左門とは別途、仲が良くなったからな。今でも直接、まあほとんどねぇが、まだ付き合いが続いていたということだ。それだって、ほとんど疎遠と言っても良かったんだがな」
 

 「じゃあ、どうして今度栞さんの家を?」
 「自衛隊への窓口だよ」
 「えぇ?」
 「警察の方は、早乙女がやってくれるようになった。だから自衛隊にも俺たちとの繋がりが必要なんだ」
 「ああ」
 「俺たちは、ちょっと変わってるからな。それに今後は「業」との本格的な戦いが始まるだろうよ。俺は独立した戦力を持つようになったけど、日本の国家権力とも出来れば友好的に連携していきたいんだ」
 「なるほど! アメリカが協力してくれますが、日本の自衛隊とも」
 「そういうことだ。日本の中で好き勝手をするよりも、出来るだけ軋轢を生みたくねぇ」
 「はい」
 「政治面ではまた別途考えているけどな」
 「え?」
 「まあ、それは本当に今後の展開次第だ」
 「はぁ」

 亜紀ちゃんはしばらく黙って考え事をしていた。
 今の話を整理しているのだろう。

 「それじゃ、左門さんが今後タカさんと連携していくんですか?」
 「それは今話している最中だ。近く来るかもしれない」
 「ほんとですか!」
 「でも、まだお前たちには会わないよ。話が上手く決まったらだな」
 「はい!」

 風呂を上がって、亜紀ちゃん、柳と酒を飲んだ。




 亜紀ちゃんが俺に断って、左門の話を柳にした。

 「びっくりです!」
 「まーな」

 柳も驚いている。

 「父は知ってるんですか?」
 「当たり前だろう?」
 「もうー!」

 俺は左門のことを少し話してやった。

 「左門とは、お袋の再婚が決まって、お互いの家族で会ったときに初めてな」
 「はい」

 「今は身長は175センチほどで、流石に頑丈な身体をしている。当時はまだ小学生だったけどな」
 「へぇー」
 「陽子さんとは年が離れていた。お袋さんが一年前に死んで、新しい母親が来るとなって、緊張していたな」
 「なるほど」

 「俺はお袋と仲良くしてもらいたくて、左門と一杯話した。お袋がどんなに優しい人間かってなぁ。俺が無茶苦茶な子ども時代でお袋に苦労をかけたと話したら、俺に懐いてくれた。「トラ兄さん」と呼んでくれるようになったよ」
 「「アハハハハハ!」」

 「陽子さんが俺に最初から気遣ってくれてな。それも左門を安心させたんだ」
 「タカさんはいつでも誰とでも仲良しになりますよね!」
 「まあ、二人ともいい人だったからな。再婚相手の人もな」
 「そうなんですか」

 「わざわざ当時いた横浜まで来てくれてなぁ」




 俺は懐かしく思い出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話

mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。 クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。 友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

処理中です...