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南原姉弟

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 12月三周目の金曜日の夜。
 亜紀ちゃんといつものように一緒に風呂に入り、寛いだ。
 寒い時期は、風呂が一層楽しい。

 「もうすぐクリスマスですねー」
 「そうだな」
 「クリスマスのパーティと一緒に、栞さんの送別会をするんですよね」
 「ああ、そうだ」
 
 「タカさん」
 「なんだよ?」
 「寂しいですか?」
 「ばかやろう」

 俺は笑った。

 「栞さんが蓮花さんの研究所へ行くことは秘密なんですよね?」
 「そうだ」
 「私たちも口には出さないようにしますから」
 「そうだな」
 
 まあ、そのくらいが丁度いい。
 栞の子が花岡家の最高峰になることは、「業」も知っているからだ。
 絶対に狙ってくる。

 「それだけ、栞さんが生む子どもは狙われるということですね」
 「分からん。だが警戒する必要は十分にある」
 「そうですね」

 「落ち着いたら、また会えるさ」
 「はい! 私も弟が出来るんで楽しみです!」
 「頼むぞ」
 「いっぱい可愛がりますよー」
 
 俺は笑った。
 本当にこいつらがそうすることは分かっている。




 「あ、ところで栞さんの家に新しい人が住むって?」
 「あいつ、そこまで喋ったのか」
 「誰ですか?」
 「俺の弟」

 「エッェェェェェェェェェーーーーーーーーーー!!!!」

 亜紀ちゃんが立ち上がり、ショックからか足を絡め、俺に倒れ込んだ。
 俺の頭に捕まり、亜紀ちゃんのボーボーが俺の顔に貼りつく。

 「テメェ!」

 亜紀ちゃんがそのまま、俺の頭をポカポカ叩いた。

 「た、た、た、タカさーーーーん! 聞いたことないですよ!」
 「ウルセェ! まず離れろ!」

 亜紀ちゃんの尻の肉を掴んで引き離した。
 亜紀ちゃんはちょっと穴が拡がったとか言って湯船に座った。

 「なんなんですかぁー!
 「あのな、黙っていたわけじゃないんだが、弟と言っても正式なものじゃないんだ。お袋の再婚相手の子どもでな。今は33歳か。自衛隊の高級官僚コースなんだよ」
 「はぁ」
 「今は既に一佐で、超優秀な男だな。将来は陸自の幕僚にまで昇り詰めるだろうよ」

 亜紀ちゃんがじっと俺を見ている。

 「あのタカさん」
 「あんだよ」

 「そういうお話は改めて」
 「あ?」

 「今はタカさんとの関係を!」
 「だから、戸籍上は他人だが弟なんだって。向こうは超多忙なんでほとんど会ってねぇけどな。でも仲良しなんだよ」
 「そうなんですか!」
 「もちろんお袋が再婚してからの付き合いだけど、最初から意気投合してな。ああ、南原左門という名前だ」
 「あー! 南原さん来るー!」
 
 俺の通信は双子に管理させているが、食材などの御届け物は亜紀ちゃんが最終的に管理する。
 毎年盆と暮れには、左門から酒が届いている。

 「タカさんに贈ってくれる人って膨大にいるじゃないですか! だから気付きませんでしたよ!」
 「いいよ、別に知らないでも。俺も左門とはほとんど会ってないしな。もう10年以上も直接は顔を合わせてねぇ」
 「だって!」
 「年に数回電話で話す程度だよ。お袋が死んでからは、南原家とはほとんど交流がねぇしな。左門と、あとは姉の陽子さんくらいだ」
 「姉ぇーーーーーー!!!!」

 うるさいので頭を引っぱたいた。

 「毎年、千疋屋のフルーツを手配してるだろう!」
 「あー! 南原陽子さん行くー!」

 もう一度引っぱたいた。

 「そんな程度の交流だよ。俺がお前たちを引き取ったくらいの話はしているけど、もう会うことは無いと思っていたからな。お袋が世話になったんで、そのお礼をしているだけだ」
 「知らなかったぁー」
 「陽子さんは優しい人でな。俺なんかを弟だって言ってくれて、会えばいろいろ気遣ってくれた。それにお袋のことも本当に面倒見てもらって。あっちでお袋が楽しくやってたのは、陽子さんのお陰なんだ」
 「そうだったんですかぁー!」
 「左門とは別途、仲が良くなったからな。今でも直接、まあほとんどねぇが、まだ付き合いが続いていたということだ。それだって、ほとんど疎遠と言っても良かったんだがな」
 

 「じゃあ、どうして今度栞さんの家を?」
 「自衛隊への窓口だよ」
 「えぇ?」
 「警察の方は、早乙女がやってくれるようになった。だから自衛隊にも俺たちとの繋がりが必要なんだ」
 「ああ」
 「俺たちは、ちょっと変わってるからな。それに今後は「業」との本格的な戦いが始まるだろうよ。俺は独立した戦力を持つようになったけど、日本の国家権力とも出来れば友好的に連携していきたいんだ」
 「なるほど! アメリカが協力してくれますが、日本の自衛隊とも」
 「そういうことだ。日本の中で好き勝手をするよりも、出来るだけ軋轢を生みたくねぇ」
 「はい」
 「政治面ではまた別途考えているけどな」
 「え?」
 「まあ、それは本当に今後の展開次第だ」
 「はぁ」

 亜紀ちゃんはしばらく黙って考え事をしていた。
 今の話を整理しているのだろう。

 「それじゃ、左門さんが今後タカさんと連携していくんですか?」
 「それは今話している最中だ。近く来るかもしれない」
 「ほんとですか!」
 「でも、まだお前たちには会わないよ。話が上手く決まったらだな」
 「はい!」

 風呂を上がって、亜紀ちゃん、柳と酒を飲んだ。




 亜紀ちゃんが俺に断って、左門の話を柳にした。

 「びっくりです!」
 「まーな」

 柳も驚いている。

 「父は知ってるんですか?」
 「当たり前だろう?」
 「もうー!」

 俺は左門のことを少し話してやった。

 「左門とは、お袋の再婚が決まって、お互いの家族で会ったときに初めてな」
 「はい」

 「今は身長は175センチほどで、流石に頑丈な身体をしている。当時はまだ小学生だったけどな」
 「へぇー」
 「陽子さんとは年が離れていた。お袋さんが一年前に死んで、新しい母親が来るとなって、緊張していたな」
 「なるほど」

 「俺はお袋と仲良くしてもらいたくて、左門と一杯話した。お袋がどんなに優しい人間かってなぁ。俺が無茶苦茶な子ども時代でお袋に苦労をかけたと話したら、俺に懐いてくれた。「トラ兄さん」と呼んでくれるようになったよ」
 「「アハハハハハ!」」

 「陽子さんが俺に最初から気遣ってくれてな。それも左門を安心させたんだ」
 「タカさんはいつでも誰とでも仲良しになりますよね!」
 「まあ、二人ともいい人だったからな。再婚相手の人もな」
 「そうなんですか」

 「わざわざ当時いた横浜まで来てくれてなぁ」




 俺は懐かしく思い出した。
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