974 / 2,806
雷鳴
しおりを挟む
12月初旬の土曜日。
俺は六花と静岡まで鰻を喰いに行った。
久しぶりだ。
二人で鰻を堪能し、また東京へ向かう。
「石神先生! やっぱり雨が来そうです」
「そうか、しょうがねぇな!」
バイクは雨が降ると辛い。
特に、俺たちのようなパワーのある大型バイクはスリップの危険がある。
まあ、俺も六花も操縦は上手い。
なんとでもなるだろう。
しかし、清水ジャンクションを過ぎると、激しい雨になってきた。
前が見えにくい程に降っていく。
そして空が光リ、雷鳴が轟いた。
雷雲が拡がっている。
しかも、東京方面に向かってだ。
時折、落雷も見えた。
「六花! ヤバい! 御殿場で降りるぞ!」
「はい!」
インカムで話し、俺たちは御殿場で高速を降りた。
二人とも既にずぶ濡れだ。
俺たちは高架下にバイクを停め、一息吐いた。
六花がスマホで天気を見ている。
「数時間、雷雲は動かないみたいです」
「そうか」
「どうしましょうか?」
寒い。
俺はともかく、六花を温めたい。
「ホテルに泊まるか」
「はい!」
ずぶ濡れで、尚一層美しい女が嬉しそうに笑った。
六花がスマホで近くのホテルを探す。
「このホテル、いいんじゃないですか?」
「どれ、見せろよ」
見た。
「ラブホじゃねぇか!」
六花の頭をはたく。
普通のホテルを探せと言った。
洋館のような雰囲気のいいホテルがあった。
六花が早速予約する。
スウィートのダブルベッドだ。
「ツインでいいよ」
「一個無駄になるじゃないですか」
「……」
途中のホームセンターで、適当に服を買う。
カーゴパンツにセーター、それに下着など。
六花が道を確認し、俺の前を走る。
雷鳴は少し離れた場所で、激しく轟いていた。
「すみません、ツーリング中に大雨で」
ずぶ濡れで来たことを詫びた。
「いいえ! 大変でございましたでしょう!」
フロントでタオルを渡された。
手荷物は無かったので、キーを預かって部屋へ向かった。
まだ夕方の6時だ。
しかし、外はすっかり暗くなっていた。
俺たちは部屋ですぐにライダースーツを脱ぎ、風呂へ入った。
「ジャグジーですよ!」
大きな明るい浴室で、六花が喜ぶ。
俺はすぐに湯を溜め、二人でシャワーを浴びた。
まだ溜まっていない浴槽に六花を座らせ、俺は一旦部屋へ戻った。
備え付けのバスローブを着て、フロントに内線する。
俺たちのライダースーツの乾燥を頼んだ。
それと、バーボンとビール、ピザと適当につまみをルームサービスで注文した。
ライダースーツを渡し、酒とつまみを二時間後に持って来るように言った。
風呂に戻る。
大きな浴槽なので、まだ半分も溜まっていない。
六花は俺の顔を見て微笑み、早く入れと手招いた。
俺は六花を足の間に入れて、俺にもたれかけさせる。
形のいい胸を触りながら、耳を舐めた。
六花はそれだけで痙攣した。
二人で愛し合ううちに、湯が溜まった。
「ツーリングで、いつも雷が落ちるといいですね!」
「冗談じゃねぇ」
凍え切る前にホテルに入れて良かった。
六花も大丈夫そうだ。
風呂を上がり、六花の髪を乾かしていると、ルームサービスが来た。
先ほど鰻を食べたが、既に腹が減っていた。
二人でビールを飲みながらピザを食べ、ゆっくりとバーボンを飲む。
俺は家に電話して、雷が激しいので、今日は御殿場に泊ると言った。
「しっぽりしてくださいー!」
亜紀ちゃんが言った。
「うるせぇ!」
外はまだ雷が激しい。
雨が窓に叩きつけている。
「凄いですね」
「そうだなぁ」
部屋は暖房が効いて温かい。
「昔な、こんな雷の中を走ったんだ」
「誰とですか?」
「保奈美という女だ」
「へぇー」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
あれは12月のクリスマス後だった。
冬休みになり、俺は保奈美と蘆ノ湖へツーリングに出掛けた。
二人で弁当を持ち、ボートに乗って遊んでいたところに、大雨が降って来た。
慌てて岸に戻り、急いで帰った。
まだ3時くらいだったが、辺りは薄暗くなっていた。
激しい雨の中を、滑らないように走った。
俺は保奈美の前を走り、水が溜まった路面を注意深く避けて走った。
保奈美も後ろを着いて来る。
雷が鳴り始めた。
山に落ちるのが見えた。
一瞬、周囲が真っ白になった。
段々保奈美が遅れた。
俺は一旦止まって、保奈美を道路脇に寄せた。
雨に濡れ、身体が凍えている。
俺よりもずっと細い保奈美は、寒さに耐えられなくなっている。
バイクは風を直接受ける。
低体温症を起こしていた。
辺りに雨を避けられる場所は無い。
俺は保奈美を後ろに乗せて、山道へ入った。
それほど経たずに、作業小屋のような場所を見つけた。
戸を開き、中へ保奈美を入れた。
林業の作業員の小屋らしい。
ありがたいことに、部屋の中に炉があり、薪も積んであった。
俺は急いで火を起こし、保奈美の服を脱がせてタオルで拭い、置いてあった毛布を身体に巻いた。
一旦外へ出て、保奈美のCBRを取って来た。
保奈美はガタガタと震えている。
「もっと火の傍に寄れよ」
俺は保奈美を横たえ、炉の横に寝かせた。
服も炉の周りに置く。
俺も下着姿になり、服を乾かした。
「トラ、寒いでしょう」
「大丈夫だ」
自分が相当辛いだろに、俺を気遣う。
毛布があって助かった。
保奈美では、この中で下着になれない。
日が暮れた。
電気は通っていない。
炉の火だけが照明だった。
突然、窓が真っ白くなった。
直後に、大きな雷鳴が響いた。
随分と近い。
俺の身体も渇いたので、保奈美の毛布に一緒にくるまった。
俺の前に座らせ、なるべく毛布を保奈美に巻いた。
「トラ、あったかい」
「そうか」
しばらくそうしていた。
保奈美はまだ辛そうだ。
俺は一旦離れて、小屋の中を探した。
小さな鍋があった。
それと一握りの米と缶詰。
缶詰はサバの水煮とミカンだった。
俺は外に出て、鍋に雨水を受けた。
また身体が濡れた。
鍋に米を入れ、炉にかけた。
上手くは出来ないだろうが、注意深く火加減を見ながら、雑炊を作る。
柔らかく出来ればいい。
鉈があったので、薪を薄く割ってスプーンのようなものを作った。
米も研いでいなかったが、それなりの雑炊になった。
サバ缶を開けて、保奈美に鍋の雑炊を食べさせた。
「不味いだろうが、腹に入れておけよ」
「ありがとう」
保奈美が微笑んで言った。
半分食べて、俺に寄越した。
サバはほとんど口に入れていない。
「バカ、お前が全部食べるんだよ!」
「でもトラだって何も食べてないじゃない」
「俺は後でお前を喰う」
保奈美が笑った。
「お前が元気でないと困るよ。俺は全然大丈夫だからな。まずお前だ」
「分かった」
でも、保奈美がちょっとだけでも食べろと言う。
俺は一口もらった。
「おい」
「なに?」
「意外と美味いな!」
「アハハハハハ!」
保奈美が笑った。
俺も嬉しくなった。
美味いはずが無かった。
保奈美が食べ終え、二人でミカンの缶詰を食べた。
保奈美が俺に毛布に入れと言った。
身体を触れ合うと、さっきよりも保奈美の体温が高い。
雑だったが食事をし、保奈美も体力を取り戻したようだ。
雷鳴が響いている。
俺たちは黙って、窓の外を見ていた。
「凄い雨だね」
「ああ。天気予報じゃ違ったのにな」
「そうなの?」
「そうだ。小雨程度のことだったんだよなぁ」
「それって、この辺のこと?」
「あ? ああ!」
当時は今のように他の地域の天気予報は簡単には知れない。
俺は地元の天気ばかり見ていた。
「そうかぁ!」
「ウフフフフ」
俺が謝ると、保奈美は俺と一緒ならどうでもいいと言った。
「じゃあ、そろそろ私を食べる?」
「おう!」
むしゃぶりついた。
外で雷が光るたびに、美しい保奈美の白い裸身が浮かんだ。
雷鳴の中で、二人で大きな声を上げた。
翌朝。
嘘のように晴れ上がり、俺たちは小屋を出た。
「勝手に色々使っちゃったなー」
「そうだね」
置いて帰る金は無かった。
俺たちは小屋にあった当番表という紙に、俺の住所と名前を書いた。
《大雨で、勝手に薪、米、缶詰を頂いてしまいました。今はお金が無いので、後日弁償します。ご連絡下さい》
数日後、手紙が届いた。
《困ったときはお互い様。ここにあったもので役立ったのなら、それで構いません》
保奈美にも手紙を見せた。
二人でお礼の手紙を書き、サバとモモの缶詰を5個ずつ送った。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
話を終えると、六花がニコニコしていた。
「それではそろそろ、私をお食べになりますか」
「さっき喰っただろう!」
「え? 私とヤル口実だったのでは?」
「お前に口実が必要だったことはねぇだろうが!」
「石神先生は、雷が鳴るとヤリたくなると」
「そんなわけあるか!」
「ヤラないんですか?」
「飲み終わってからだぁ!」
六花が大笑いした。
あの時、俺たちはお互い金が無く、「愛」しかなかった。
金が無い俺は女を凍えさせ、精一杯頑張って、クソ不味い飯しか喰わせられなかった。
今俺は金も持ち、女を凍えさせることも無いし、美味いものを食べさせてやれる。
でも、保奈美は微笑んでいた。
何も無く、何も出来ない俺に、優しく微笑んでくれた。
「トラ、温かい」
あいつはそう言ってくれた。
確かに、愛がそこにはあった。
激しい雷鳴の中で、保奈美の微笑みが白く輝いた。
時折窓が真っ白に光り、六花の白い美しい裸身を露わにした。
六花は俺の顔に額を付け、微笑みながら眠った。
俺は六花と静岡まで鰻を喰いに行った。
久しぶりだ。
二人で鰻を堪能し、また東京へ向かう。
「石神先生! やっぱり雨が来そうです」
「そうか、しょうがねぇな!」
バイクは雨が降ると辛い。
特に、俺たちのようなパワーのある大型バイクはスリップの危険がある。
まあ、俺も六花も操縦は上手い。
なんとでもなるだろう。
しかし、清水ジャンクションを過ぎると、激しい雨になってきた。
前が見えにくい程に降っていく。
そして空が光リ、雷鳴が轟いた。
雷雲が拡がっている。
しかも、東京方面に向かってだ。
時折、落雷も見えた。
「六花! ヤバい! 御殿場で降りるぞ!」
「はい!」
インカムで話し、俺たちは御殿場で高速を降りた。
二人とも既にずぶ濡れだ。
俺たちは高架下にバイクを停め、一息吐いた。
六花がスマホで天気を見ている。
「数時間、雷雲は動かないみたいです」
「そうか」
「どうしましょうか?」
寒い。
俺はともかく、六花を温めたい。
「ホテルに泊まるか」
「はい!」
ずぶ濡れで、尚一層美しい女が嬉しそうに笑った。
六花がスマホで近くのホテルを探す。
「このホテル、いいんじゃないですか?」
「どれ、見せろよ」
見た。
「ラブホじゃねぇか!」
六花の頭をはたく。
普通のホテルを探せと言った。
洋館のような雰囲気のいいホテルがあった。
六花が早速予約する。
スウィートのダブルベッドだ。
「ツインでいいよ」
「一個無駄になるじゃないですか」
「……」
途中のホームセンターで、適当に服を買う。
カーゴパンツにセーター、それに下着など。
六花が道を確認し、俺の前を走る。
雷鳴は少し離れた場所で、激しく轟いていた。
「すみません、ツーリング中に大雨で」
ずぶ濡れで来たことを詫びた。
「いいえ! 大変でございましたでしょう!」
フロントでタオルを渡された。
手荷物は無かったので、キーを預かって部屋へ向かった。
まだ夕方の6時だ。
しかし、外はすっかり暗くなっていた。
俺たちは部屋ですぐにライダースーツを脱ぎ、風呂へ入った。
「ジャグジーですよ!」
大きな明るい浴室で、六花が喜ぶ。
俺はすぐに湯を溜め、二人でシャワーを浴びた。
まだ溜まっていない浴槽に六花を座らせ、俺は一旦部屋へ戻った。
備え付けのバスローブを着て、フロントに内線する。
俺たちのライダースーツの乾燥を頼んだ。
それと、バーボンとビール、ピザと適当につまみをルームサービスで注文した。
ライダースーツを渡し、酒とつまみを二時間後に持って来るように言った。
風呂に戻る。
大きな浴槽なので、まだ半分も溜まっていない。
六花は俺の顔を見て微笑み、早く入れと手招いた。
俺は六花を足の間に入れて、俺にもたれかけさせる。
形のいい胸を触りながら、耳を舐めた。
六花はそれだけで痙攣した。
二人で愛し合ううちに、湯が溜まった。
「ツーリングで、いつも雷が落ちるといいですね!」
「冗談じゃねぇ」
凍え切る前にホテルに入れて良かった。
六花も大丈夫そうだ。
風呂を上がり、六花の髪を乾かしていると、ルームサービスが来た。
先ほど鰻を食べたが、既に腹が減っていた。
二人でビールを飲みながらピザを食べ、ゆっくりとバーボンを飲む。
俺は家に電話して、雷が激しいので、今日は御殿場に泊ると言った。
「しっぽりしてくださいー!」
亜紀ちゃんが言った。
「うるせぇ!」
外はまだ雷が激しい。
雨が窓に叩きつけている。
「凄いですね」
「そうだなぁ」
部屋は暖房が効いて温かい。
「昔な、こんな雷の中を走ったんだ」
「誰とですか?」
「保奈美という女だ」
「へぇー」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
あれは12月のクリスマス後だった。
冬休みになり、俺は保奈美と蘆ノ湖へツーリングに出掛けた。
二人で弁当を持ち、ボートに乗って遊んでいたところに、大雨が降って来た。
慌てて岸に戻り、急いで帰った。
まだ3時くらいだったが、辺りは薄暗くなっていた。
激しい雨の中を、滑らないように走った。
俺は保奈美の前を走り、水が溜まった路面を注意深く避けて走った。
保奈美も後ろを着いて来る。
雷が鳴り始めた。
山に落ちるのが見えた。
一瞬、周囲が真っ白になった。
段々保奈美が遅れた。
俺は一旦止まって、保奈美を道路脇に寄せた。
雨に濡れ、身体が凍えている。
俺よりもずっと細い保奈美は、寒さに耐えられなくなっている。
バイクは風を直接受ける。
低体温症を起こしていた。
辺りに雨を避けられる場所は無い。
俺は保奈美を後ろに乗せて、山道へ入った。
それほど経たずに、作業小屋のような場所を見つけた。
戸を開き、中へ保奈美を入れた。
林業の作業員の小屋らしい。
ありがたいことに、部屋の中に炉があり、薪も積んであった。
俺は急いで火を起こし、保奈美の服を脱がせてタオルで拭い、置いてあった毛布を身体に巻いた。
一旦外へ出て、保奈美のCBRを取って来た。
保奈美はガタガタと震えている。
「もっと火の傍に寄れよ」
俺は保奈美を横たえ、炉の横に寝かせた。
服も炉の周りに置く。
俺も下着姿になり、服を乾かした。
「トラ、寒いでしょう」
「大丈夫だ」
自分が相当辛いだろに、俺を気遣う。
毛布があって助かった。
保奈美では、この中で下着になれない。
日が暮れた。
電気は通っていない。
炉の火だけが照明だった。
突然、窓が真っ白くなった。
直後に、大きな雷鳴が響いた。
随分と近い。
俺の身体も渇いたので、保奈美の毛布に一緒にくるまった。
俺の前に座らせ、なるべく毛布を保奈美に巻いた。
「トラ、あったかい」
「そうか」
しばらくそうしていた。
保奈美はまだ辛そうだ。
俺は一旦離れて、小屋の中を探した。
小さな鍋があった。
それと一握りの米と缶詰。
缶詰はサバの水煮とミカンだった。
俺は外に出て、鍋に雨水を受けた。
また身体が濡れた。
鍋に米を入れ、炉にかけた。
上手くは出来ないだろうが、注意深く火加減を見ながら、雑炊を作る。
柔らかく出来ればいい。
鉈があったので、薪を薄く割ってスプーンのようなものを作った。
米も研いでいなかったが、それなりの雑炊になった。
サバ缶を開けて、保奈美に鍋の雑炊を食べさせた。
「不味いだろうが、腹に入れておけよ」
「ありがとう」
保奈美が微笑んで言った。
半分食べて、俺に寄越した。
サバはほとんど口に入れていない。
「バカ、お前が全部食べるんだよ!」
「でもトラだって何も食べてないじゃない」
「俺は後でお前を喰う」
保奈美が笑った。
「お前が元気でないと困るよ。俺は全然大丈夫だからな。まずお前だ」
「分かった」
でも、保奈美がちょっとだけでも食べろと言う。
俺は一口もらった。
「おい」
「なに?」
「意外と美味いな!」
「アハハハハハ!」
保奈美が笑った。
俺も嬉しくなった。
美味いはずが無かった。
保奈美が食べ終え、二人でミカンの缶詰を食べた。
保奈美が俺に毛布に入れと言った。
身体を触れ合うと、さっきよりも保奈美の体温が高い。
雑だったが食事をし、保奈美も体力を取り戻したようだ。
雷鳴が響いている。
俺たちは黙って、窓の外を見ていた。
「凄い雨だね」
「ああ。天気予報じゃ違ったのにな」
「そうなの?」
「そうだ。小雨程度のことだったんだよなぁ」
「それって、この辺のこと?」
「あ? ああ!」
当時は今のように他の地域の天気予報は簡単には知れない。
俺は地元の天気ばかり見ていた。
「そうかぁ!」
「ウフフフフ」
俺が謝ると、保奈美は俺と一緒ならどうでもいいと言った。
「じゃあ、そろそろ私を食べる?」
「おう!」
むしゃぶりついた。
外で雷が光るたびに、美しい保奈美の白い裸身が浮かんだ。
雷鳴の中で、二人で大きな声を上げた。
翌朝。
嘘のように晴れ上がり、俺たちは小屋を出た。
「勝手に色々使っちゃったなー」
「そうだね」
置いて帰る金は無かった。
俺たちは小屋にあった当番表という紙に、俺の住所と名前を書いた。
《大雨で、勝手に薪、米、缶詰を頂いてしまいました。今はお金が無いので、後日弁償します。ご連絡下さい》
数日後、手紙が届いた。
《困ったときはお互い様。ここにあったもので役立ったのなら、それで構いません》
保奈美にも手紙を見せた。
二人でお礼の手紙を書き、サバとモモの缶詰を5個ずつ送った。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
話を終えると、六花がニコニコしていた。
「それではそろそろ、私をお食べになりますか」
「さっき喰っただろう!」
「え? 私とヤル口実だったのでは?」
「お前に口実が必要だったことはねぇだろうが!」
「石神先生は、雷が鳴るとヤリたくなると」
「そんなわけあるか!」
「ヤラないんですか?」
「飲み終わってからだぁ!」
六花が大笑いした。
あの時、俺たちはお互い金が無く、「愛」しかなかった。
金が無い俺は女を凍えさせ、精一杯頑張って、クソ不味い飯しか喰わせられなかった。
今俺は金も持ち、女を凍えさせることも無いし、美味いものを食べさせてやれる。
でも、保奈美は微笑んでいた。
何も無く、何も出来ない俺に、優しく微笑んでくれた。
「トラ、温かい」
あいつはそう言ってくれた。
確かに、愛がそこにはあった。
激しい雷鳴の中で、保奈美の微笑みが白く輝いた。
時折窓が真っ白に光り、六花の白い美しい裸身を露わにした。
六花は俺の顔に額を付け、微笑みながら眠った。
2
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、
ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、
私のおにいちゃんは↓
泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる