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亜紀さん道

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 11月最初の日曜日。
 文化の日を含め、土曜からの三連休になる。

 夕べは亜紀ちゃん、柳、双子と一緒に寝た。
 楽しかった。
 だが、柳をかまって可愛がっていたせいか、亜紀ちゃんが俺に甘えて来る。

 「タカさーん、どっか遊びに行きましょうよー」
 朝食の後で、ソファの俺に後ろから抱き着いて来る。

 「よし! 庭の竜胆を見に行くか!」
 「えー!」
 
 柳が後ろで笑っていた。

 「今日はハーレーに乗るんだよ! 早く慣らしを終えたいからな」
 「じゃー、私もCBRで!」
 「六花が泣くだろう!」
 「あー、じゃあ自転車で行きます」
 「やめろ!」

 亜紀ちゃんは300キロ出す。

 「真夜でも誘って遊びに行けよ」
 「うーん」
 「たった一人の友達だろう!」
 「ひどいですよ!」

 でも、真夜の家に出掛けることにしたようだ。
 先月、空いている住宅へ移らせた。
 なかなか商売を上手くやっているためだ。
 6LDKのなかなか大きな家だった。
 庭もある。

 俺はハーレーで出掛けた。
 


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 「亜紀さん、いらっしゃい」
 真夜は突然に来た亜紀に驚いたが、笑って中へ入れた。
 自分の部屋へ案内し、妹に紅茶と菓子を頼んだ。

 「真夜、聞いてよ!」
 「はいはい、石神さんですね?」
 「そう! よく分かるね」
 「だって、亜紀さんが不満そうにするのって、いつも石神さんのことですから」
 「そっか!」
 「私は亜紀さんが大好きだから分かりますよ」

 「あ! それ「亜紀ちゃん道」だから!」
 「はい?」

 「「亜紀ちゃん、大好きだよー」って言うのが「亜紀ちゃん道」の第一条だよ」
 「そうなんですか」

 真夜は笑った。
 嬉しかった。

 「亜紀さんは綺麗だから、たくさんの人が「亜紀ちゃん道」に入りそうですね」
 「ダメ。タカさん専用だから」
 「え、じゃあ私も」
 「あ! 今から二車線道路になりました」
 「ありがとうございます」

 二人で紅茶を飲む。
 ビスケットは「カントリー・マァム」だ。
 前は特売のカンパンだった。
 それが食事の時もあった。

 「真夜もやっと一軒家になったね」
 「石神さんのお陰です」
 「まー、私たちが前の家をぶっ壊したしね」
 「アハハハハ」

 「足りないものとかある?」
 「そんな! 十分過ぎですよ! 本当は私たち死んでましたもん!」
 「そう言わないでさ。あ、服とか大丈夫?」
 「はい! 基本制服があればいいし。他の服は何枚かあれば」
 「真夜ってお洒落だったじゃない!」

 亜紀がショックを受けたようなので、真夜は慌てた驚いた。

 「いえ、もう興味は! それに前の服はみんな派手で。だから全部売りました」
 「え!」
 「あんなの、もう着られませんよ。今思うとバカみたいな、って亜紀さん! どうして泣いてんですか!」

 真夜は亜紀が涙を零しているのを見て慌てた。

 「だって。私が無茶なことをしたから、真夜が……」
 「そんなことないですって! 無茶したのは私ですから! 喧嘩が強いの連れてって、亜紀さんたちに酷いことしようと」
 「えーん!」
 「亜紀さん! 勘弁して下さい!」

 真夜は石神から、亜紀が不安定になったら肉を喰わせろと言われていた。
 下に降りて、急いでハムを焼いて戻った。
 亜紀がニコニコして食べているので驚いた。

 「じゃあ、真夜! 今日は服を買いに行こう!」
 「ダメですって!」
 「私ってカワイイ?」
 「え、はい。亜紀さんはカワイイですが」
 「はい! 「亜紀ちゃん道」!」
 「……」





 地下鉄で新宿へ向かった。

 「あの、それでどこまで行くんでしょうか?」
 「新宿の伊勢丹かな。あとはブラブラ街を見て歩こう!」
 「高いのは絶対ダメですよ!」
 「大丈夫だよ」
 「ギャップとかがいいんですが」
 「なにそれ?」
 「知らないんですか! 安くていいのが一杯あって」
 「却下」
 「やっぱ、高いの買おうとしてるー!」
 「アハハハハハ!」


 新宿三丁目で降りた。
 地下街から伊勢丹へ入る。

 「あ、ちょっと寿司つまんでこー」
 「はぁ」

 亜紀は10貫ほど頼み、真夜と食べた。

 「タカさんが時々寄るんだ」
 「へー」
 「パッと頼んでサッと食べて出て行くの」
 「そうなんですか」
 「粋ってもんよ!」
 「はぁ」

 大将がニコニコ笑っている。

 「いつもご利用ありがとうございます」
 「エヘヘヘヘ」


 二人はエスカレーターで4階まで上がった。
 亜紀は最初にシャネルに向かう。

 「ちょっと、亜紀さん!」
 「あによ?」
 「ここはダメですって!」

 「いらっしゃいませ、石神様」

 店長が挨拶に来る。

 「こんにちは」
 「今日はお父様は?」
 「新しいハーレーで出掛けました。カワイイ娘を置いて」
 「まあ!」

 店長は笑った。

 「今日は私の友達の服を見たくて」
 「さようでございますか。御用がありましたら、なんなりと御呼び下さい」
 「はい」

 真夜はスタイルがいい。
 亜紀のスレンダーな体型はシャネルの真骨頂だが、真夜も痩せているので似合うと亜紀は思った。
 胸はずっと大きいが。

 「あ、このスーツなんかいいんじゃない?」
 「スーツなんか着ませんよ!」
 「いいじゃない。いつかOLにでもなったら」
 「亜紀さん!」

 亜紀はそう言いながら、幾つかのジャケットとスカート、パンツを試着させた。

 「じゃあ、この4着をお願いします」
 「かしこまりました」

 採寸した。
 その後、ディオール、フェラガモで買物し、冬物を20着ほど揃えた。
 真夜はげんなりしている。

 「じゃあ、食事休憩ね!」
 「おーう……」

 亜紀は電話し、外へ出て、フグの店に行く。
 石神と何度か来た。
 
 「あの、亜紀さん、フグなんて高い店で」
 「大丈夫よ。あ! あんた私が肉ばっかり食べてると思ったでしょう! たまには他のも食べるのよ?」
 「たまにってことは、ほとんど肉ってことじゃ……」
 「くよくよすんな!」
 「してませんが」

 「へい、らっしゃい!」

 店の人間が大きな声で挨拶した。
 若い店員に、座敷に通される。

 「じゃあ、電話で言った通りに8人前お願いします!」
 「大丈夫ですか?」
 「え? あ、やっぱ10人前で」
 「いえ、そうじゃなくって!」

 店長が出て来て挨拶してきた。

 「これは石神さん、またご利用をありがとうございます」
 「今日もお願いしますね!」
 「はい。すぐに支度します。それで8人前で?」
 「やっぱり10人前! 大丈夫ですか?」
 「もちろん!」

 店員にバカヤロウと言う声が聞こえた。
 真夜はもう慣れているので何も言わない。

 ふぐ刺しが来た。
 大皿に5枚。
 亜紀が狂喜した。

 「私、ふぐ刺しって大好き!」
 「そうですか。綺麗ですね」
 「え?」

 見た目はどうでもいいらしい。
 
 焼き物の用意がされた。
 グロテスクなふぐの切り身が山盛りで来る。
 店員がコンロに火を入れ、網を乗せて下がった。

 亜紀が網に乗せ、次々と食べる。
 真夜も焼き始めた。
 亜紀の目が光っている。
 
 「亜紀さん?」
 「……」

 亜紀の額に汗が浮かんだ。
 真夜が自分が焼いた物に箸を伸ばした。
 亜紀が右手を左手で押さえていた。
 渾身の力で、笑顔を作った。

 「怖いですってぇ!」

 亜紀が店員を呼び、コンロをもう一つ用意させる。
 部屋の隅に移動し、離れて食べた。

 「……」

 鍋も同様にして食べる。
 




 「あー、美味しかったね!」
 「何か随分と」
 「何?」
 「いえ、何でもありません」
 「じゃあ、今度は路面店を回ろうか!」
 「亜紀さん、もうヘトヘトです。今日はどうかここまでで」
 「そう? 大丈夫?」
 「はい」
 「ちょっと喫茶店に寄ろうか?」
 「そうして頂けますか?」

 二人は靖国通りを歩き、歌舞伎町に行った。
 喫茶店に入る。

 中にいた数人が立ち上がり、亜紀に頭を下げた。
 亜紀は手を振って、席に着いた。

 「あ、亜紀さん」
 「うん、いつものことだから」
 
 亜紀はチョコパフェとクリームメロンソーダを頼んだ。
 真夜は紅茶だ。

 「キレイなネェチャンたちだな」
 店に入って来た男たちが、亜紀と真夜に近づいた。
 真夜が席を立って、亜紀の前に立った。

 「おい! やめろ!」
 先ほど頭を下げていた男たちが止める。

 「あ?」
 「この方に厄撒くんじゃねぇ!」
 「あんだよ、てめぇは?」
 「何でもねぇ。お前らのために言ってんだ」
 「おい、俺らは稲城会のもんだぞ。うちと揉めたいのか?」
 「バカ! お前この方を知らねぇのか!」
 「なんだ?」

 「石神亜紀ですよー」
 亜紀が笑顔で言った。

 「「「!」」」
 三人の男が硬直した。

 「亜紀の姐さん、すみません! こいつら何も分かってなくて」
 止めた男が頭を下げて来た。

 「あなたは?」
 「千万組の下のもんです。亜紀の姐さんのお顔は知ってましたんで」
 「そうなんですか」
 「勘弁してやってください」
 「こいつら、千万じゃないんでしょ?」
 「はい。でも稲城会は一応うちらが面倒見てますんで」
 「ああ」
 「言い聞かせますんで」
 「じゃあ、いいですよ」
 「ありがとうございます」

 男は仲間と一緒に三人を連れて出た。
 亜紀たちの支払いもして行った。

 「千両さんとこの人はいーなー!」
 「すみません」
 「やっぱ、真夜も離れて良かったんだよ」
 「そうですね」

 「タカさんに話そ!」
 「そうですね!」

 亜紀の機嫌が良くなったので、真夜は安心した。
 亜紀が笑っているのが嬉しい。

 「ところで亜紀さんは、千万組でも人気があるんですね!」
 もっと機嫌を良くしようと、真夜が言った。

 「うん!」
 「何かされたんですか?」
 「うん。タカさんと盃事に行ってね」
 「はいはい!」
 「武闘派の辰巳組って連中をステアーAUGでね!」
 「はい、すてあー?」
 「三十人くらいぶっ殺したの!」
 「……」

 なんでそれで人気になるのか、まったく分からない真夜だった。





 真夜はあまりに高額の買い物に申し訳なく、亜紀にその気持ちを伝えた。

 「じゃあ、一緒に温泉を掘ろう!」
 「はい?」
 「うちに来て!」
 「はい」

 真夜は、翌週ダイヤの鉱脈を掘り当てた。 
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