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ハーレーダビッドソン CVO Tri Glide TYPE KYOKO

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 11月の最初の土曜日。
 乾さんから連絡が来て、注文のハーレーダビッドソンCVO Tri Glide が出来たと聞いた。
 慶長小判の礼というか、決着と言うか。
 六花の換装も終わったとのことで、二人で出掛けた。

 渋谷から東横線に乗る。
 
 「石神先生! いよいよハーレーですか!」
 「おお。前は俺の好みじゃないと思っていたんだけどな。段々分かって来たよ」
 「いいですよね! 本当にツーリングバイクって感じで」
 「そうだよな。あの抜群の安定感は、他のバイクにはないよなぁ」
 
 俺たちはウキウキだった。

 「相当改造しましたよね」
 「ああ。見た目とあとは乗り心地だよ」
 「響子、喜ぶでしょうね」
 「そうだな。最初は泣くだろうけどな!」
 「泣くとカワイイですよね!」

 「「ワハハハハハハ!」」

 俺たちは笑った。



 今日はライダースーツではない。
 二人でお揃いの、ジーンズに黒のタートルネック、それに俺は赤、六花は白の革のジャケットを着ている。
 ジャケットは、エルメスのスペシャル・オーダーだ。
 靴はアルフレッド・バニスターのロングブーツ。
 俺のものはド派手な色使いで、意味のない革のベルトが巻かれている。
 それを六花が見て気に入り、一緒にショップに行こうとした。
 俺は銀座のショップで買ったが、今はもう無くなっていた。
 探すと新宿のルミネにあった。

 行って驚いたが、昔の前衛的なデザインは面影すら無かった。
 残念がった六花は、ユーズドで良いものを探して買った。
 赤のものだ。


 「じゃあ、陳さんの店に寄ってから行くぞ!」
 「最後は石神先生のチンさんですよね!」
 「当たり前のことを言うなぁ!」

 「「ワハハハハハハ!」」

 今日はそういうつもりではなかったが、どうもそういうことになった。



 陳さんは大歓迎で迎えてくれた。
 最近よく俺が通うので嬉しいと言ってくれた。

 頼んでおいたコースに、北京ダックは3羽と伝える。
 六花が足りなければ、追加すればいい。
 まあ、大体2羽で満足するようだ。

 陳さんがサービスで「上海カニ」を持って来てくれた。
 俺が足を捥ぎ、甲羅を引っ繰り返して前掛けをめくった。
 そこにソースを注ぎ、六花に渡す。

 「そこに実を付けて食べろよ」
 俺はそう言って、フィンガーボウルで指を洗い、布巾で拭う。
 六花は楽しい食べ方で、ニコニコしながら美味しいと言った。

 「甲羅に旨味が残ってるからな。そうやって食べると美味いんだ」
 「ナリュヴォドォ!」

 いつもの口一杯に詰め込んで、輝く笑顔になった。
 俺の分も残せと言おうとしたが、その笑顔を見たので全部食べさせた。

 大満足で店を出た。
 前回乾さんと来た時に、思い切り食べられないので自分で支払うと言っておいた。
 今日の上海カニは、多分乾さんからのものだ。
 俺が来たら、何か一品美味いものをとでも言ってあるのだろう。
 ありがたい。



 乾さんの店にタクシーで行った。
 歩いてもいいのだが、早く見たかった。

 「乾さん!」
 ドアを開け、乾さんに挨拶した。
 
 「おう、待ってたぞ!」

 店に入ると、また榎田さんたちもいた。

 「お前がバイクを買ったって言ったら、みんな集まったんだよ」
 みんなで俺のハーレーを見た。

 「最新の三輪かよ!」
 棚田さんが驚いて言った。

 「しかもまた、すげぇ改造をしたなぁ!」
 「全部乾さんがやってくれたんですよ」
 乾さんに頭をはたかれた。

 「冗談じゃねぇ! みんな聞いてくれよ!」
 乾さんが、隣の土地から小判がザクザク出たと話した。

 「トラの仕込みだったんだ! こいつ、ヌケヌケと知らないなんて言いやがって! 最初は危うく騙されるとこだった」
 「そうですよ! この六花がドジ入れやがって!」
 六花はニコニコしていた。
 みんながその美しさに打たれた。

 俺のハーレーダビッドソンCVO Tri Glideは後輪が二つあり、常に自立出来る。
 その安定した走りが売り物だ。
 何しろ、カラーが気に入った。
 「ダンテズレッド」と「ダンテズブラック」、「ダンテ」だ!
 そのカラー名で即決した。
 深い黒みがかった赤が、なんとも色っぽい。
 エンジンの性能は、ドゥカティ スーパー・レッジェーラには及ばない。
 しかし、スピードを出すつもりはないマシンだ。
 響子とのツーリングを意識した。

 乾さんに頼んだ改造のほとんどは、響子の乗り心地のものだ。
 サスペンションを出来るだけ柔らかくし、シートのクッションもそうだ。
 背もたれを高くし、ハーネスを取り付けられるようにして、響子が眠っても大丈夫にした。
 響子と俺のための、ドリンクホルダーも付けてもらった。
 それと、別に、響子側のシートには、ステンレスの細長い筒もついている。
 荷台も拡張し、響子の毛布なども入るようにした。
 シートには「KYOKO ONLY」と金の文字で書いてある。
 他にはライトを増やしたことくらいだ。
 元々の三つ目のライトに、他に5つの小さなライトを付けてもらった。


 「流石に慣らしはやってないからな」
 「はい、大丈夫です」

 六花のNinjaもみんなで見た。

 「すげぇな! もう空飛ぶんじゃないか?」
 みんなで笑った。
 
 ライト部分に色が付いている。

 「六花がオッドアイなんで、それに合わせてもらいました」
 俺が説明すると、みんなが六花の目とライトを見比べた。

 「トラに愛されてるね」
 「はい!」
 六花が最高に嬉しそうに笑った。

 しばらく話し、俺たちは店を出た。

 「今度は響子を連れて来ますよ!」
 「ああ、楽しみにしてる」

 病院へ向かった。



 「タカトラー! 六花ぁー!」
 響子が俺たちに驚いていた。

 夕方の4時半だ。
 本当は響子が午睡から起きる頃に帰ろうとしたが、つい乾さんの店で話し込んでしまった。

 「今日はどうしたの?」
 「お前を食事に誘いに来た」
 「えー!」
 響子が喜んだ。

 六花が着替えさせる。
 デニムのズボンに厚手のセーター。
 それに革の上着。
 カワイくてじっと着替えを見ていると「タカトラのエッチ」と言われた。
 その通りだが?

 「オークラ?」
 「いや、もっと遠くだ」
 「へぇー」
 ウキウキしている響子を、駐車場まで連れて行く。

 「お前を乗せるためのマシンを買った。前に行った横浜の乾さんが用意してくれたんだ」
 「!」

 響子が泣く。
 俺と六花は笑って見詰め合った。
 シートの「KYOKO ONLY」の文字を見て、また顔をクシャクシャにする。
 抱き締めて頭を撫でた。

 「ほら、乗せるぞ」
 俺が響子を後ろのシートへ抱えて乗せた。
 
 「わぁー! スゴクいい!」
 「そうか」

 俺が念のためにハーネスをゆったりと締め、六花が細長い魔法瓶をドリンクホルダーに挿し込んだ。
 響子が喜んだ。

 「この筒は何?」
 「ああ、お前の「焼き鳥入れ」だ」
 「!」
 響子が大興奮した。

 「今はねぇ。またいつかな」
 「うん!」

 ジョーク的なものだが、本当にやれば響子は喜ぶだろう。
 インカムを付けて、ヘルメットを被せた。

 麻布のフランス料理店に向かう。
 一応今日は、響子の様子を見るためだ。

 俺たちはゆったりと走った。
 ハーレー独特の振動がいい。
 響子のシートにはあまり響かないが。
 しばらく走って、俺はワーグナーの『ワルキューレの騎行』を流した。
 いいスピーカーから迫力のサウンドが響く。
 響子が驚いた。

 


 予約した店で、響子は旺盛な食欲を見せた。
 俺も六花も安心した。
 俺と六花を交互に見て、響子はニコニコしている。

 「もう、うちの子らと一緒に食べても大丈夫だな」
 「えー! 死んじゃうよー!」
 俺と六花が笑った。

 「六花が守ってくれるよ」
 「ダメだよ! 六花もケダモノになっちゃうじゃん」
 「そっか」
 六花が響子の皿のポテトを奪おうとする。
 響子がダメーと言い、ニンジンを寄越した。

 「「人参は喰え!」」

 三人で笑った。

 俺は家の温泉の話をした。
 小判や金銀の鉱脈、ナゾの金属が出てきた話をした。
 響子が興奮する。

 「なんか、ちっちゃい羽の生えたのも出てきたらしいぞ?」
 「ほんとにー!」
 「今度、一緒にうちの庭を掘ってみるか?」
 「うん!」

 皇紀システムが捉えた羽人間(?)の画像をスマホで響子に見せた。
 どういうわけか、全身が光っていて、ようやく背中の羽がうっすらと見える。
 響子は大興奮した。




 大喜びの響子を連れて、また病院へ戻った。
 響子はずっとゴキゲンで、俺の肩を叩きながら、クイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』を歌っていた。


 なんか、あの羽人間に見覚えがあるような気がするのだが……。
 思い出せない。
 六花のマンションに行き、そんなことは全部ぶっ飛んだ。  
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