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スヤスヤ・ロボ 或いは「ROVO the Ripper」、または「にゃほふー」
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最近、ちょっと悩んでいることがある。
ロボの「ズボッ」だ。
あれは流石にマズイ。
脳は繊細だ。
ちょっとした異物で相当な影響が出る。
微小な脳腫瘍でさえ、命に関わるものになる。
血栓や溢血でほんの一部の脳細胞が壊死しただけで、運動能力に多大な影響を及ぼし、人格が変わる。
ロボの爪(ロング・モード)は、太さ5ミリ程度か。
十分に脳を破壊する。
それなのに、あいつはいつも一気にやる。
俺が気付いたら、もう刺さっている。
誰にも言えない。
もちろん、刺された本人にも。
幸いにも、今のところ多大な影響は見受けられない。
ちょっとヘンな笑い方をするようになるだけだ。
多分、それだけだ。
頼むから、それだけにしてくれ。
ロボは綺麗好きだ。
トイレの後はお尻を丁寧に舐める。
その舌で、手を丁寧に舐める。
そこから出た爪で「ズボッ」っとやる。
「……」
ロボに言い聞かせた。
「お前の爪でさ、人間の頭を刺すのは絶対にやめてくれな」
「にゃ?」
「いや、そんな不思議そうな顔しないでよ。や・め・ろ」
「にゃ」
「お前、本当に分かってるのかよー。大変なことになっちゃうんだよ」
「にゃ」
怪しい。
俺はタマを呼んだ。
あいつはロボと意思疎通がしっかり出来るようだ。
「タマ!」
キャミソールの女が出た。
「おい!」
「なんだ」
「なんだ、その恰好は!」
「お前が喜びそうなものにした」
「……」
突っ込んでいる余裕はない。
まあ、見てくれはいい。
「お前、ロボに頭に爪を刺すのを止めさせてくれよ」
「なに?」
「爪だよ! もう何人か被害に遭ってんだ」
「そうなのか?」
「いいから言え!」
「ロボ、主が人間の頭に爪を刺すのをやめてほしいと言ってるぞ」
「にゃ」
「そうだ。不味いことになるらしい」
「にゃー」
「そうじゃない。人間の脳への影響を恐れているんだ」
「にゃ」
「そうだ。そうしてくれるか?」
「にゃ」
何か会話が成立しているようだ。
俺には「にゃ」しか分からんが。
しばらく話し合っていた。
「分かったらしい」
「そうか、助かったぞ」
「でもな、主が考えているようなことは無いようだが」
「どういうことだ?」
「ロボ、爪を出してくれ」
「にゃ」
ロボが爪を伸ばした。
「触ってみろ」
「あ?」
ロボが俺の前に手を置いた。
爪を触る。
触れなかった。
「これは霊的なものだ。物質を挿し込んでいるのではない」
「なんだと?」
「だから、脳を壊しているのではない」
「じゃあ、何をやってるんだ」
「にゃ」
「脳をいじっているらしい」
「それがダメなんだぁ!」
俺が怒鳴ったので、ロボとタマが驚いた。
「主、そうは言うが、ロボは主の望みを叶えたいようなんだ」
「にゃ!」
「にゃんだと?」
「主がいつも「よく眠ってくれ」と願うだろう。だからロボがよく眠れるようにしているのだ」
「意味が大分違ぇ!」
俺が怒鳴ったので、ロボとタマが驚いた。
「とにかくだ! 今後は人間の頭に爪を入れるなよ!」
ロボは分かったというサインなのか、タマの肩に乗り、タマの頭に爪を出し入れした。
スカスカと刺されても、タマは何のこともない。
「頼むぞー」
「ニャァ」
ロボが飛び降りた。
カツン
「!」
俺はロボに駆け寄り、爪を確認した。
「一本、本物じゃねぇかぁ!」
ロボが俺から目線を避けた。
「おーまーえー!」
「にゃ」
「分かった主。ロボももうやらないと言っている」
「本当か! 俺の大事な人間にやったら承知しねぇからな!」
「にゃ」
「大丈夫だ」
「やったら本気で怒るぞー!」
そう言って解散した。
ある日曜日。
俺は夕食後に何となくロボとテレビを観ていた。
ロボは満腹で毛づくろいも終え、俺の足の上で気持ちよさそうに寝ている。
亜紀ちゃんがコーヒーを持って来て一緒に座る。
『それでは、中野区〇〇町周辺の怪奇現象の紹介です! リポーターのマメスケさん!』
『はーい! マメスケでーす! 今、問題の中野区〇〇町に来ていますー!』
『マメスケさん、どういう怪奇現象なんですか?』
「なんだよ、うちの町じゃねぇか」
「そうですね、コワイですね」
亜紀ちゃんと真剣に観た。
『ということで、ここ数週間でいろんな動物が眠っているのが発見されているんです!』
『それは不思議ですね!』
『はい! しばらくすると目を覚ますようなんですが、路上や家の庭なんかでぐっすり寝てるんですよ!』
『どんな動物が今まで見つかってるんですか?』
『イヌ、ネコ、カラスなんかですね』
リポーターが話している間に、実際に発見された動物の眠っている映像が流れる。
『それに牛や馬』
『え!』
「「え!」」
『牛はちょっと齧られた痕も。それにイノシシ、シカ、タヌキ、リス……』
『それは!』
「「……」」
『ゾウやキリンなんかも』
『エェ!』
「「おい!」」
俺たちは叫んだ。
『それに、問題は三日前に見つかった、巨大な鳥です』
スマホで撮影されたらしい映像が出た。
でかい。
5メートルほどもある。
全身が極彩色で覆われている。
『なんですか、これは!』
司会者も驚いている。
『分かりませんよ! そんな鳥は見たこともありません!』
『でも、こんなのって!』
『今、発見者の女性に来ていただいてます。それで、どんな鳥だったんですか?』
綺麗な女性が、リポーターにマイクを向けられた。
「栞じゃねぇか!」
「栞さん!」
『私も驚きました! 朝起きたら、家の庭にいたんです! 写真を撮ったら丁度目を覚まして』
『それで、どうしたんですか!』
『鳥が起き上がってこっちを向いたんです』
『それは怖かったですね!』
『はい! でも私もちょっと合気道をやってるんで構えたんですね』
『そうなんですか!』
『そうしたら、笑ったんです』
『え! 鳥がですか?』
『はい! 「ニョーホホホホホ、にゃほふー」って!』
リポーターは困った顔をした。
『それはちょっと……』
『あ! 本当にそう笑ったんですよ!』
『分かりました、ありがとうございます!』
『マメスケさーん! どうもありがとうございました! 「中野区 謎のスヤスヤ動物」でした。ハッシュタグ、「中野区スヤスヤ」です。また続報が入りましたら、ご紹介いたします! さて次のニュース……』
「「……」」
ロボは俺の足の上で死んだふりをしている。
「まあ、ほどほどにな」
俺はそう言って身体を撫でた。
目を開き、俺の顔を舐めにきた。
しばらく、近所にスマホやカメラを構えてうろつく人間が増えた。
「うぜぇな」
俺がつぶやくと、ロボが俺に振り向いた。
「やめろよな!」
「にゃー」
慌てて止めた。
その後、散歩するロボの姿がネットに上がるようになった。
「カワイー、でかネコ!」
「10分カワイイと言うと、ダンスする!」
全国からネコ好きが集まるようになった。
まあ、ネコ好きに悪人はいねぇ。
またしばらくすると、沈静化した。
ロボがちょっとつまらなそうにしていた。
ロボの「ズボッ」だ。
あれは流石にマズイ。
脳は繊細だ。
ちょっとした異物で相当な影響が出る。
微小な脳腫瘍でさえ、命に関わるものになる。
血栓や溢血でほんの一部の脳細胞が壊死しただけで、運動能力に多大な影響を及ぼし、人格が変わる。
ロボの爪(ロング・モード)は、太さ5ミリ程度か。
十分に脳を破壊する。
それなのに、あいつはいつも一気にやる。
俺が気付いたら、もう刺さっている。
誰にも言えない。
もちろん、刺された本人にも。
幸いにも、今のところ多大な影響は見受けられない。
ちょっとヘンな笑い方をするようになるだけだ。
多分、それだけだ。
頼むから、それだけにしてくれ。
ロボは綺麗好きだ。
トイレの後はお尻を丁寧に舐める。
その舌で、手を丁寧に舐める。
そこから出た爪で「ズボッ」っとやる。
「……」
ロボに言い聞かせた。
「お前の爪でさ、人間の頭を刺すのは絶対にやめてくれな」
「にゃ?」
「いや、そんな不思議そうな顔しないでよ。や・め・ろ」
「にゃ」
「お前、本当に分かってるのかよー。大変なことになっちゃうんだよ」
「にゃ」
怪しい。
俺はタマを呼んだ。
あいつはロボと意思疎通がしっかり出来るようだ。
「タマ!」
キャミソールの女が出た。
「おい!」
「なんだ」
「なんだ、その恰好は!」
「お前が喜びそうなものにした」
「……」
突っ込んでいる余裕はない。
まあ、見てくれはいい。
「お前、ロボに頭に爪を刺すのを止めさせてくれよ」
「なに?」
「爪だよ! もう何人か被害に遭ってんだ」
「そうなのか?」
「いいから言え!」
「ロボ、主が人間の頭に爪を刺すのをやめてほしいと言ってるぞ」
「にゃ」
「そうだ。不味いことになるらしい」
「にゃー」
「そうじゃない。人間の脳への影響を恐れているんだ」
「にゃ」
「そうだ。そうしてくれるか?」
「にゃ」
何か会話が成立しているようだ。
俺には「にゃ」しか分からんが。
しばらく話し合っていた。
「分かったらしい」
「そうか、助かったぞ」
「でもな、主が考えているようなことは無いようだが」
「どういうことだ?」
「ロボ、爪を出してくれ」
「にゃ」
ロボが爪を伸ばした。
「触ってみろ」
「あ?」
ロボが俺の前に手を置いた。
爪を触る。
触れなかった。
「これは霊的なものだ。物質を挿し込んでいるのではない」
「なんだと?」
「だから、脳を壊しているのではない」
「じゃあ、何をやってるんだ」
「にゃ」
「脳をいじっているらしい」
「それがダメなんだぁ!」
俺が怒鳴ったので、ロボとタマが驚いた。
「主、そうは言うが、ロボは主の望みを叶えたいようなんだ」
「にゃ!」
「にゃんだと?」
「主がいつも「よく眠ってくれ」と願うだろう。だからロボがよく眠れるようにしているのだ」
「意味が大分違ぇ!」
俺が怒鳴ったので、ロボとタマが驚いた。
「とにかくだ! 今後は人間の頭に爪を入れるなよ!」
ロボは分かったというサインなのか、タマの肩に乗り、タマの頭に爪を出し入れした。
スカスカと刺されても、タマは何のこともない。
「頼むぞー」
「ニャァ」
ロボが飛び降りた。
カツン
「!」
俺はロボに駆け寄り、爪を確認した。
「一本、本物じゃねぇかぁ!」
ロボが俺から目線を避けた。
「おーまーえー!」
「にゃ」
「分かった主。ロボももうやらないと言っている」
「本当か! 俺の大事な人間にやったら承知しねぇからな!」
「にゃ」
「大丈夫だ」
「やったら本気で怒るぞー!」
そう言って解散した。
ある日曜日。
俺は夕食後に何となくロボとテレビを観ていた。
ロボは満腹で毛づくろいも終え、俺の足の上で気持ちよさそうに寝ている。
亜紀ちゃんがコーヒーを持って来て一緒に座る。
『それでは、中野区〇〇町周辺の怪奇現象の紹介です! リポーターのマメスケさん!』
『はーい! マメスケでーす! 今、問題の中野区〇〇町に来ていますー!』
『マメスケさん、どういう怪奇現象なんですか?』
「なんだよ、うちの町じゃねぇか」
「そうですね、コワイですね」
亜紀ちゃんと真剣に観た。
『ということで、ここ数週間でいろんな動物が眠っているのが発見されているんです!』
『それは不思議ですね!』
『はい! しばらくすると目を覚ますようなんですが、路上や家の庭なんかでぐっすり寝てるんですよ!』
『どんな動物が今まで見つかってるんですか?』
『イヌ、ネコ、カラスなんかですね』
リポーターが話している間に、実際に発見された動物の眠っている映像が流れる。
『それに牛や馬』
『え!』
「「え!」」
『牛はちょっと齧られた痕も。それにイノシシ、シカ、タヌキ、リス……』
『それは!』
「「……」」
『ゾウやキリンなんかも』
『エェ!』
「「おい!」」
俺たちは叫んだ。
『それに、問題は三日前に見つかった、巨大な鳥です』
スマホで撮影されたらしい映像が出た。
でかい。
5メートルほどもある。
全身が極彩色で覆われている。
『なんですか、これは!』
司会者も驚いている。
『分かりませんよ! そんな鳥は見たこともありません!』
『でも、こんなのって!』
『今、発見者の女性に来ていただいてます。それで、どんな鳥だったんですか?』
綺麗な女性が、リポーターにマイクを向けられた。
「栞じゃねぇか!」
「栞さん!」
『私も驚きました! 朝起きたら、家の庭にいたんです! 写真を撮ったら丁度目を覚まして』
『それで、どうしたんですか!』
『鳥が起き上がってこっちを向いたんです』
『それは怖かったですね!』
『はい! でも私もちょっと合気道をやってるんで構えたんですね』
『そうなんですか!』
『そうしたら、笑ったんです』
『え! 鳥がですか?』
『はい! 「ニョーホホホホホ、にゃほふー」って!』
リポーターは困った顔をした。
『それはちょっと……』
『あ! 本当にそう笑ったんですよ!』
『分かりました、ありがとうございます!』
『マメスケさーん! どうもありがとうございました! 「中野区 謎のスヤスヤ動物」でした。ハッシュタグ、「中野区スヤスヤ」です。また続報が入りましたら、ご紹介いたします! さて次のニュース……』
「「……」」
ロボは俺の足の上で死んだふりをしている。
「まあ、ほどほどにな」
俺はそう言って身体を撫でた。
目を開き、俺の顔を舐めにきた。
しばらく、近所にスマホやカメラを構えてうろつく人間が増えた。
「うぜぇな」
俺がつぶやくと、ロボが俺に振り向いた。
「やめろよな!」
「にゃー」
慌てて止めた。
その後、散歩するロボの姿がネットに上がるようになった。
「カワイー、でかネコ!」
「10分カワイイと言うと、ダンスする!」
全国からネコ好きが集まるようになった。
まあ、ネコ好きに悪人はいねぇ。
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