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バージン・イノシシ

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 俺は諸見を呼んだ。
 俺の前に座らせる。

 「どうだ、喰ってるか」
 「はい!」

 「お前までよく来たな」
 「はい。東雲さんたちにはお世話になってますので、何かお手伝いできたらと」
 「そうか」
 「でも、半人前で、何も」

 俺は笑って肉をもっと喰えと言った。

 「お前みたいな人と関わるのが苦手な人間がよ、こうしてここに来てくれた。それだけでみんな嬉しいんだよ」
 「そうだよ、諸見。俺たちは仲間だかんな!」

 東雲が諸見の隣でそう言った。
 諸見が恥ずかしそうに俯いて笑った。
 
 「まあ、次は訓練だ。お前も体当たりで行け」
 「はい!」

 


 食事が終わり、一休みした。
 夜になる。

 「さー! いよいよ運動の時間だよー!」
 「ついてきなさいー!」

 今回はちゃんとブリーフィングを済ませてある。
 敵の兵力と兵装を全員が分かっている。
 その代わりに、作戦指揮官として東雲が立ち、東雲の指揮で動くように言われた。

 窪地に着いた。

 拠点兵器はレールガンと荷電粒子砲が一台ずつ。
 デュール・ゲリエは14体となっている。

 東雲は「虚震花」を使える者に地面の爆破を指示し、突入の指揮を執った。
 亜蘭には遊撃を与える。

 「お前の出来はまだ分らん。好きなように動いて俺たちを助けろ!」
 「はい!」

 俺と亜紀ちゃんとロボは上で見物した。

 東雲たちは三方から窪地の小屋へ走り、同時に「虚震花」で地面を爆破する。
 土煙で視界が閉ざされ、レールガンは襲ってこない。
 荷電粒子砲が稼働し、広範囲に電撃が走る。
 しかし、それも土ぼこりでほとんどが遮断された。
 「虚震花」は連続して撃たれている。
 東雲たちは、小屋に近づいた。

 ドアが開き、デュール・ゲリエたちが飛び出して来る。
 その足元に、亜蘭が「ブリューナク」を連射した。
 デュール・ゲリエたちは踏むべき地面を喪い、亜蘭が開けた大穴に落ちて行く。

 「全員かかれぇー!」

 東雲がチャンスを逃さずに、デュール・ゲリエに襲い掛かった。
 数人が指示でレールガンと荷電粒子砲を破壊する。
 諸見が得意な「龍刀」でレールガンの砲塔を切断した。

 15分ほどで戦闘が終結した。
 双子が喜んで拍手していた。

 「よくやったぁー! よし! 帰るぞ!」

 誰も怪我をしなかった。
 俺と亜紀ちゃんは残り、ロボに「ばーん」をさせた。




 ベースキャンプに戻ると、みんな風呂に入っていた。
 双子も裸だ。
 亜蘭が気を喪っていた。

 双子はしきりに東雲の指揮と全員の働きを褒めた。
 特に亜蘭の独自の戦闘を褒め称えた。
 亜蘭には聞こえていない。

 俺と亜紀ちゃんも風呂に入った。
 亜紀ちゃんは流石にタオルを巻いている。
 俺は双子にもタオルを巻けと言った。

 誰かが酒を見つけて持って来た。
 全員で飲む。
 双子は冷えたソーダを持って来て、諸見にも渡す。
 亜蘭を誰かが起こし、亜蘭もソーダを飲んだ。

 ワイワイと楽しく飲んで騒いだ。
 誰かがロボを抱えて来た。

 「ロボさん! 一緒に入りましょう」

 止める前に、ロボを抱えて湯船に入った。
 ロボの尾が割れた。

 「全員出ろ!」

 俺が叫び、亜紀ちゃんと双子が跳び上がった。
 他の連中は何のことか分からずに俺たちを見ていた。
 ロボの電撃で、全員が昏倒した。

 「「「……」」」

 ロボは飛び上がり、俺の所へ駆けて来た。

 「オーヨチヨチ」

 俺はタオルでロボを拭いてやる。
 亜紀ちゃんと双子は、沈んだ東雲たちを担いで上げて行った。




 気が付いた東雲たちと、またテーブルで飲んだ。
 双子と亜蘭と数人は先に小屋に入って寝た。

 諸見はトマトジュースを飲みながら、俺たちに付き合った。

 「夜の山はいいなぁ」

 俺が言うと、みんなが俺を見た。

 「今日は楽しかったですね」

 東雲が言った。

 「そうかよ。そんな恰好させられて、訳の分らん肉を喰わされたのにか」
 「アハハハハハ!」

 全員が笑った。

 「でも楽しかったですよ。みんなで必死に獣を狩って、一緒にガンガン喰って。訓練だって楽しかった。自分は今日の日を忘れませんよ」
 「そうか」
 
 みんなが幸せそうな顔をしている。

 「諸見、どうだ。楽しいか?」
 「はい!」

 笑っている。

 「お前もよくやったな。見事な「龍刀」だった」
 「ありがとうございます」
 「お前なら背中を任せられる。お前は必ずなんとかしてくれる男だからな」
 「!」

 諸見が泣き出した。
 みんなが「そうだそうだ」と言った。
 諸見の肩をみんなが叩く。

 「でも、イノシシとか美味かったですよ!」
 「俺がいるんだ! 不味いものなんか喰うかよ!」

 みんなが笑った。


 「俺が初めてイノシシを狩って食ったのは、高校三年の時だな」
 「へぇー」
 「族の仲間と映画を観るのが恒例になってな。『ランボー』の第一作を観に行ったんだよ」
 「はぁ」

 「その中でよ。ランボーが森の中でイノシシをナイフで仕留めるというシーンがあってなぁ。それで、俺たちもやろうって話になった」
 「えぇー!」



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 「井上さん! トラなら出来ますよ、あれ!」
 「おい、無茶言うなよ!」
 「大丈夫だよ! お前はやれる!」
 「おい!」

 帰りに寄った喫茶店で盛り上がった。
 もうほとんど決定事項で、井上さんが「じゃあ、行くか」と言った。


 冬休み。
 俺たちはバイクで丹沢に行った。
 恐らく、俺や井上さんにとって、最後の集まりになる。
 井上さんは家業の建築屋に入り、俺が卒業前に族を抜けるのと一緒に辞めることを宣言していた。

 丹沢の山に入り、手にはみんなナイフを持っている。
 作戦も何もない。
 後輩たちが広範囲に散開し、イノシシを見つけたら俺たちに向かって追い込む。
 俺がやる。

 そんないい加減なものだった。
 俺も井上さんも、見つからなくて当たり前と思っていた。
 ただ、みんなでバカなことをやりたかっただけだ。

 数時間、俺たちは待った。
 くだらない話をしていた。
 そろそろ帰るかと言い始めていた。




 「行きますー!!!」

 誰かの声がした。
 何事かと思った。
 
 凄い地響きがした。

 来た。

 二メートル近い、超大型のイノシシだった。

 「おい! トラ!」
 「俺?」

 まさかと思った。

 「ランボーがやったのって、もっと小さかったですよね!」
 「もう文句言ってられねぇぞ!」
 「ちょっとぉー!」

 俺はナイフを握って突っ込んだ。

 吹っ飛ばされた。

 「ウワァーーーーーー!!!」

 みんなが必死に逃げた。
 追われた何人かが木に登った。
 イノシシが巨体で木に体当たりをする。

 「たすけてくれぇー!」

 行きたいが、流石にみんな足が動かなかった。

 「トラ!」

 井上さんが俺を呼んだ。
 俺は幸い咄嗟に横に跳ねて、衝撃を逃がしていた。
 身体はまだ動く。

 「テメェー!」
 突っ込んだ。

 ぶっ飛ばされた。

 「トラぁー!」
 今度は頭を打った。
 ふらつく。

 イノシシがまた木に突進した。
 三人が衝撃で落とされた。
 イノシシが三人を睨む。

 「助けてくれぇー!」

 イノシシが止まったので、俺が背に飛び乗り、左手で鼻を掴んだ。
 右手のナイフで首周りをメッタ刺しにする。
 イノシシは暴れたが、必死に左手で身体を固定した。
 メッタ刺しにする。

 何分やっていたのか、イノシシはやっと倒れた。

 みんな呆然と見ていたが、俺に駆け寄って来た。
 みんな泣いていた。
 俺は引っ繰り返って息も絶え絶えだった。
 俺が無事で良かったと言い、お前はスゲェと褒められた。
 冗談じゃねぇ。
 イノシシに突き殺されたなんて、お袋に申し訳なさ過ぎだ。

 みんなで適当に解体し、その場で火を起こしてイノシシを食べた。
 誰も調味料を持って来ていなかった。
 不味かった。

 「ランボーも不味かったんだよ」
 「おい、もうその話はやめろ」

 一応、大体喰った。




 ランボーは多分、塩コショウくらいは持っていただろう。
 俺たちはバカだった。

 帰りはみんなで大笑いしながら帰った。





 最高の思い出だ。
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