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オオルリ
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初夏頃からか。
うちの庭に、一羽の青い鳥が遊びに来るようになった。
オオルリの雄だ。
非常に美しい青い羽で、腹部が白い。
庭で遊んで、俺の寝室のベランダにもよく止まっている。
子どもたちが綺麗だと騒いでいる。
俺が庭に出ると、よく肩に止まった。
「タカさんはいーなー」
双子が特に羨ましがった。
子どもたちが「ルリちゃん」と名付けた。
ルーが特に喜んだ。
《ピリーピー》
いつからか、美しい声で鳴いて、来たことを告げるようになった。
誰かがいると、窓を開けて眺めるようになった。
ロボも興味深げに見ている。
この辺は公園も多く、木が茂っている。
どこかに巣を作ったのだろう。
しかし、どうしてうちに遊びに来るのか。
レイが特に気に入ったようで、美しい青だと感動していた。
「タカさん、エサは何をあげればいいの?」
双子が俺に聞く。
こいつらは食わせれば懐くと思ってやがる。
「知らねぇ。調べてみろよ」
俺は何でも知っているわけじゃない。
6月のある日。
ベランダのガラス戸を開けていたら、部屋の中へ飛び込んで来た。
俺がいるが、警戒心がまったくない。
ロボも俺のベッドで大人しく観ている。
俺は机で論文を読んでいたが、机に跳び上がり、チョンチョンと近づいて来た。
「焼き鳥」
俺が言っても逃げない。
机の端で、気持ちよさそうに囀り出した。
《ピリーピー、ピピピピ》
それを聞いたか、レイが入って来た。
驚かせないようにドアの前で、黙って囀りを聞いていた。
やがて、また開いたガラス戸から飛び去った。
「石神さんは動物にモテますね」
「まーなー!」
そのうち、窓が開いていると、よくルリちゃんが家の中に入って来た。
レイと子どもたちが喜んだ。
俺がいると、長く囀る。
いないと、数秒のうちに出て行ってしまう。
俺の近くに寄り、俺の肩や腕に止まるので、レイが羨ましがった。
「石神さん! 私にも止まるように言って下さい!」
「無理言うな!」
一応やってみた。
「ピリピー?」
俺の肩に止まり、頬に顔を撫でつけて来た。
レイが怒った。
病院で、響子の部屋にいると、窓辺にルリちゃんがいた。
「タカトラ! 綺麗な鳥だよ!」
「ルリちゃんだな」
「えー!」
俺は、しばらく前からうちに遊びに来ているのだと説明した。
「そうなんだ! じゃあ、タカトラに会いに来たのかなー」
俺はそっと窓を開けた。
ルリちゃんが中に入って来た。
「入って来たよ!」
響子が小さな声で言った。
驚かしてはいけないと思ったのだろう。
「静かにな」
俺は響子の背中を抱き、一緒に見ていた。
すると、響子の頭に止まった。
「!」
響子が喜んだ。
ルリちゃんは、響子の頭に止まり、俺を見詰めていた。
その週の土曜日に、俺はレイを連れて庭に出た。
ルリちゃんが来ていた。
俺はレイの背中を抱き、動くなと言った。
ルリちゃんが飛んできて、レイの頭に止まった。
俺を見詰めた。
「!」
1分程、ルリちゃんはレイの頭にいて、やがて飛び立って行った。
「石神さん!」
「おう、良かったな」
「はい!」
何で嬉しいのかはよく分らん。
たまに、レイがいる時に、そうやって庭でレイの身体に止まらせた。
一緒に飲んでいる時に、レイはルリちゃんがカワイイと言った。
「メーテルランクの『青い鳥』ってあるじゃないですか」
「ああ」
「まさしく、あれですね!」
「アハハハハ!」
レイにとって、ルリちゃんは幸せを運んでくれるようだ。
そのうち、しょっちゅうレイに呼ばれるようになった。
休みが一緒の時には、よく庭に出ようと言われる。
俺は面倒なので、よく断った。
レイが残念そうな顔をし、一人で庭でルリちゃんを待っていることがあった。
俺がいないと、ルリちゃんはレイには止まらなかった。
暑い中、レイはルリちゃんが来ると庭に出て、飛び去るまで眺めていた。
「写真でも撮ったらどうだ?」
「何で早く言ってくれないんですか!」
怒られた。
皇紀が引っ張られ、俺も無理矢理連れ出され、ルリちゃんを自分の身体に止まらせた。
「はやくー!」
皇紀が一生懸命に、何枚も写真を撮った。
レイがカメラを奪い、庭で遊ぶルリちゃんを撮りまくった。
双子が監視カメラの映像からルリちゃんが映ったものを編集し、レイにあげた。
レイが涙を流しそうなほどに喜んだ。
時間があると、その映像をいつも観ていた。
俺は通販で見つけて、オオルリのぬいぐるみを買い、レイにやった。
また大喜びしてくれた。
ベッドに入れ、毎晩一緒に寝た。
レイが死んだ。
俺たちはレイの部屋からレイの髪を集めた。
俺の机に並べられた。
ガラスをコツコツと叩く音がした。
ルリちゃんが来ていた。
中に入れて欲しいということか。
俺がガラス戸を開けると、ルリちゃんはいつものように入って来た。
机に乗る。
レイの髪を見ていた。
「お前を大好きだったレイはな。このあいだ死んでしまったんだ」
ルリちゃんがレイの髪を一本くちばしに咥えた。
そのまま、外へ飛び立って行った。
俺はまた泣いた。
ルリちゃんは、俺の庭に来なくなった。
レイを、幸せな場所に運んでくれているのだろう。
俺はそう思う。
山のあなたの 空遠く
「幸」住むと 人のいふ
噫われひとと 尋めゆきて
涙さしぐみ かへりきぬ
山のあなたに なほ遠く
「幸」住むと 人のいふ
《『山のあなた』(カール・ブッセ(上田敏訳))》
うちの庭に、一羽の青い鳥が遊びに来るようになった。
オオルリの雄だ。
非常に美しい青い羽で、腹部が白い。
庭で遊んで、俺の寝室のベランダにもよく止まっている。
子どもたちが綺麗だと騒いでいる。
俺が庭に出ると、よく肩に止まった。
「タカさんはいーなー」
双子が特に羨ましがった。
子どもたちが「ルリちゃん」と名付けた。
ルーが特に喜んだ。
《ピリーピー》
いつからか、美しい声で鳴いて、来たことを告げるようになった。
誰かがいると、窓を開けて眺めるようになった。
ロボも興味深げに見ている。
この辺は公園も多く、木が茂っている。
どこかに巣を作ったのだろう。
しかし、どうしてうちに遊びに来るのか。
レイが特に気に入ったようで、美しい青だと感動していた。
「タカさん、エサは何をあげればいいの?」
双子が俺に聞く。
こいつらは食わせれば懐くと思ってやがる。
「知らねぇ。調べてみろよ」
俺は何でも知っているわけじゃない。
6月のある日。
ベランダのガラス戸を開けていたら、部屋の中へ飛び込んで来た。
俺がいるが、警戒心がまったくない。
ロボも俺のベッドで大人しく観ている。
俺は机で論文を読んでいたが、机に跳び上がり、チョンチョンと近づいて来た。
「焼き鳥」
俺が言っても逃げない。
机の端で、気持ちよさそうに囀り出した。
《ピリーピー、ピピピピ》
それを聞いたか、レイが入って来た。
驚かせないようにドアの前で、黙って囀りを聞いていた。
やがて、また開いたガラス戸から飛び去った。
「石神さんは動物にモテますね」
「まーなー!」
そのうち、窓が開いていると、よくルリちゃんが家の中に入って来た。
レイと子どもたちが喜んだ。
俺がいると、長く囀る。
いないと、数秒のうちに出て行ってしまう。
俺の近くに寄り、俺の肩や腕に止まるので、レイが羨ましがった。
「石神さん! 私にも止まるように言って下さい!」
「無理言うな!」
一応やってみた。
「ピリピー?」
俺の肩に止まり、頬に顔を撫でつけて来た。
レイが怒った。
病院で、響子の部屋にいると、窓辺にルリちゃんがいた。
「タカトラ! 綺麗な鳥だよ!」
「ルリちゃんだな」
「えー!」
俺は、しばらく前からうちに遊びに来ているのだと説明した。
「そうなんだ! じゃあ、タカトラに会いに来たのかなー」
俺はそっと窓を開けた。
ルリちゃんが中に入って来た。
「入って来たよ!」
響子が小さな声で言った。
驚かしてはいけないと思ったのだろう。
「静かにな」
俺は響子の背中を抱き、一緒に見ていた。
すると、響子の頭に止まった。
「!」
響子が喜んだ。
ルリちゃんは、響子の頭に止まり、俺を見詰めていた。
その週の土曜日に、俺はレイを連れて庭に出た。
ルリちゃんが来ていた。
俺はレイの背中を抱き、動くなと言った。
ルリちゃんが飛んできて、レイの頭に止まった。
俺を見詰めた。
「!」
1分程、ルリちゃんはレイの頭にいて、やがて飛び立って行った。
「石神さん!」
「おう、良かったな」
「はい!」
何で嬉しいのかはよく分らん。
たまに、レイがいる時に、そうやって庭でレイの身体に止まらせた。
一緒に飲んでいる時に、レイはルリちゃんがカワイイと言った。
「メーテルランクの『青い鳥』ってあるじゃないですか」
「ああ」
「まさしく、あれですね!」
「アハハハハ!」
レイにとって、ルリちゃんは幸せを運んでくれるようだ。
そのうち、しょっちゅうレイに呼ばれるようになった。
休みが一緒の時には、よく庭に出ようと言われる。
俺は面倒なので、よく断った。
レイが残念そうな顔をし、一人で庭でルリちゃんを待っていることがあった。
俺がいないと、ルリちゃんはレイには止まらなかった。
暑い中、レイはルリちゃんが来ると庭に出て、飛び去るまで眺めていた。
「写真でも撮ったらどうだ?」
「何で早く言ってくれないんですか!」
怒られた。
皇紀が引っ張られ、俺も無理矢理連れ出され、ルリちゃんを自分の身体に止まらせた。
「はやくー!」
皇紀が一生懸命に、何枚も写真を撮った。
レイがカメラを奪い、庭で遊ぶルリちゃんを撮りまくった。
双子が監視カメラの映像からルリちゃんが映ったものを編集し、レイにあげた。
レイが涙を流しそうなほどに喜んだ。
時間があると、その映像をいつも観ていた。
俺は通販で見つけて、オオルリのぬいぐるみを買い、レイにやった。
また大喜びしてくれた。
ベッドに入れ、毎晩一緒に寝た。
レイが死んだ。
俺たちはレイの部屋からレイの髪を集めた。
俺の机に並べられた。
ガラスをコツコツと叩く音がした。
ルリちゃんが来ていた。
中に入れて欲しいということか。
俺がガラス戸を開けると、ルリちゃんはいつものように入って来た。
机に乗る。
レイの髪を見ていた。
「お前を大好きだったレイはな。このあいだ死んでしまったんだ」
ルリちゃんがレイの髪を一本くちばしに咥えた。
そのまま、外へ飛び立って行った。
俺はまた泣いた。
ルリちゃんは、俺の庭に来なくなった。
レイを、幸せな場所に運んでくれているのだろう。
俺はそう思う。
山のあなたの 空遠く
「幸」住むと 人のいふ
噫われひとと 尋めゆきて
涙さしぐみ かへりきぬ
山のあなたに なほ遠く
「幸」住むと 人のいふ
《『山のあなた』(カール・ブッセ(上田敏訳))》
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