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取り皿

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 翌朝、7時に朝食を食べ、ハマーに荷物を積み込んだ。
 亜紀ちゃんは三列目のシートに、毛布を持ってロボと乗り込んだ。
 最初から寝るつもりだ。

 皇紀を助手席に乗せる。
 羽田まで送るのだ。

 俺たちは出発した。





 「皇紀、お前に全部押し付けて悪いな」
 「とんでもありません! しっかりやってきます!」
 「ああ、頼むぞ。お前はVIP待遇だ。ただ、俺たちの情報を掴もうと、いろんな連中が接触して来るはずだ」
 「はい」
 「こっちからはジェイがお前の警護の名目で付く。あいつを頼れ」
 「分かりました!」
 「しつこい連中の名前を覚えろ。俺に後で報告すると言ってやれ」
 「はい!」
 
 皇紀は緊張しながらも、決意に満ちていた。

 「アルと静江さんにもくれぐれもと頼んである。安心して行って来い」
 「はい!」
 「常にジェイを同行させろ。分からないことはあいつに丸投げでいい。あいつは頭のキレる男だ。大体のことは上手く回してくれるだろうよ」
 「はい!」

 俺は様々な場面を想定し、皇紀の言動と態度を指示した。
 皇紀はメモを取りながら、俺の話を聞いて、元気よく返事しようとしていた。

 「まあでも、他のことはどうでもいい。レイを見送ってくれ」
 「はい!」

 皇紀は涙を堪えて答えた。


 空港でジェイと会い、挨拶して皇紀の面倒を頼んだ。
 出発ゲートまで、皇紀を見送った。

 「じゃあ、頼むぞ!」
 「はい!」
 「ジェイもよろしくな」
 「分かってる。任せてくれ」

 俺たちは握手して別れた。




 駐車場に戻り、ハマーのエンジンをかける。
 
 「ルー、たまには助手席に座るか」
 「うん!」
 喜んだ。

 「途中で柳とハーと交代な」
 「はい!」

 恐らく亜紀ちゃんは、他の人間に俺と話すように考えているのだ。
 レイのことでショックを受けているはずの人間を思ってのことだろう。

 「亜紀ちゃん以外は、蓮花の研究所は初めてだよな」
 「うん!」
 「まあ、話には聞いているだろうけど」
 「そうね。研究所の防衛施設とかは皇紀ちゃんと一緒に考えたし、他の装置なんかもね」
 「お前らは本当に頼りになるよ」
 「エヘヘヘヘ」

 「あっちでやりたいことはあるか?」
 「まずは現状の把握かな。皇紀ちゃんがいないから、私とハーでちゃんとやらないと」
 「そうか」
 「でも、ミユキさんたちやデュール・ゲリエとの訓練も楽しそう!」
 「ああ、そうか」
 「あとはー、ああ! 麗星さん関連のことも考えて行かなくちゃ!」
 「そうだな」

 ルーは仕事の話しかしない。
 食事だの風呂だのが楽しみなはずなのに。
 俺が前に進むのだと言ったので、一生懸命にそのことを考えている。
 俺はルーの頭を撫でた。

 「ルー、ありがとうな」
 「うん!」

 「ところでよ」
 「なーに、タカさん?」
 「まさか今回は麗星は来ねぇよなぁ」
 「え!」
 「あいつ、最近どこでも顔を出しに来るじゃない」
 「そうだね!」
 「蓮花の研究所の場所は知らないはずだが」
 「でも、麗星さんなら調べちゃうかも!」
 「あり得るなー」
 「コワイよね?」

 サービスエリアで昼食にした。
 亜紀ちゃんが食事を指揮している間、俺は麗星に電話した。

 「こないだはわざわざ来てもらってすみませんでした」
 「いいえ、とんでもございません! わたく、みんなの石神様のためであれば、どんな所へでも!」
 「そうか。今出かけている最中なんです。ちょっと気になって電話しました」
 「ありがとうございます! わたくしも準備を整えたところでして」
 「なんの?」
 「蓮花様の研究所へ」
 「なんで!」
 「わたくしの力が必要かと」
 「まだいらねぇ!」
 「そうなのですか?」
 「どうして不思議がる!」
 
 「大切な方を亡くされた石神様を、わたくしの身体でお慰みせねばと」
 「!」

 相変わらずの超直球だ。
 まあ、本心から語っているのは確かだ。
 本当に優しい女だが、「機微」という感覚が全くない。

 「いらねぇからな。おい、絶対に来るなよ!」
 「はい、分かりました」
 「来やがったら「クロピョン」に喰わせるぞ!」
 「はい」

 俺の口調が思わず変わった。

 「ところで、場所は分かるんですか?」
 「はい。「大坊鷹黒無奈」に調べさせまして」

 油断がならない奴だ。

 「まあ、今後お力をお借りすることはあると思います。その時はどうか」
 「ええ、喜んで。いつでも呼んで下さい。わたくしの名前を呼べば、それで飛んで参りますので」
 「分かりました」

 俺は電話を切った。
 丁度子どもたちが大量の食事を抱えて集まる所だった。
 食べ始める前に、俺は全員に命令した。

 「いいか! あの京都のトラブルメーカーの名前は、絶対に口にするな! 悪口でもなんでもな!」
 「「「「はい!」」」」
 「出せばそれを口実に飛んでくる!」
 「「「「はい!」」」」
 「来ればどうなるかは分かってるな!」
 「「「「はい!」」」」
 「研究所が半壊するか、死人が出るか!」
 「「「「はい!」」」」

 「あいつを甘くみるな!」
 「「「「はい!」」」」

 電話が鳴った。
 ハンズフリーにした。

 「石神様、今わたくしをお呼びになりましたでしょうか?」
 「いえ、まったく」

 「「「「……」」」」

 電話を切った。

 「こういう奴だ!」
 「「「「よく分かりました!!」」」」

 俺たちは食事をした。

 一つ、誰も手を付けない取り皿があった。
 みんなが少しずつ、その皿に食事を盛った。
 陰膳の知識があってのことかは分からない。
 多分、知らずにやっているのだろう。

 食事が終わる頃、俺はその取り皿から少しずつみんなに分けた。
 俺も一緒に頂く。

 食事を片付け、またハマーに乗った。
 今度はハーが助手席に乗った。



 
 「タカさん、お腹一杯だね!」
 「そうか」
 「うん! きっと一杯だよ!」
 「そうだな。たくさんあったもんな!」
 「うん!」

 ハーは前を向いていた。
 瞳が輝いて、美しかった。
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