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温かな場所

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 石神が仕事へ出掛けている金曜日の午後。
 石神の子どもたちと柳がリヴィングのテーブルに集まっていた。

 「「石神家子ども緊急会議」を始めます」
 パチパチと拍手。

 「今日は、夕べのあの「光」についてね」
 亜紀が議事進行をしている。

 「その前に、タカさんのアメリカでの暴走についてだよ」
 ルーが言った。

 「ああー」
 「亜紀ちゃんも見ているはずだけど、あれはちょっと想定を超え過ぎだよ! 私たちの「R計画」が根底から揺らいだよ!」
 「亜紀ちゃんも、破壊の規模だけなら同じことが出来るけど、あれ、ほとんどタカさんの自力だよ?」
 「うーん」

 「そんなに凄かったの?」
 柳が加わる。

 「凄いなんてもんじゃないよ! 上空に向けてだって、あの規模なんだよ。あれがもっと低かったら、本当にアメリカの半分は消滅してたよね」
 「あたしたちだって、必死に逃げてなんとかだったから。亜紀ちゃんの判断が早かったから、少しは余裕があったけどさ」
 「私はタカさんの怒りがすぐに分かったもの。あんなに怒ったタカさんは見たことない。あれは人間の怒りじゃないよね」
 「「さんせー」」

 「炎の柱が見えたって?」
 柳が聞いた。

 「そうそう! それなの! 前からタカさんは真っ赤な柱の中にいるのね。そんな人はまずいない。いつもなんだから」
 ハーが説明した。

 「じゃあ、いつも怒ってるの?」
 「そうじゃないの。タカさんにとっては、それが普通の状態なのね。あたしたちが悪戯して怒ったって、それは変わらないの」
 「ふーん」
 「だからね、柳ちゃん。タカさんは、最初からとんでもないエネルギーを持ってるってことなの。私たちは「R計画」で、その巨大なエネルギーごとを考えていたわけだけど、どうやら、到底間に合わないって分かったの」
 「大変じゃない!」
 柳は慌てた。

 「だからこうやって緊急会議を開いてるんじゃない!」
 「ああ、ごめん」

 「ルー、計算はどうなの?」
 亜紀が聞いた。

 「仮にだけど、アメリカでのあれがMAXだったとして、あたしたちが20年頑張っても3%かな」
 「えぇー!」
 「でも、多分MAXじゃないし。暴走したっていっても、タカさん、ちゃんとあたしたちのことも考えてたじゃん」
 「全力じゃなかったのね」
 「そう」

 「亜紀ちゃんが天才で、一生懸命に頑張って、どんどん強くなってもタカさんはいつもその上じゃない。それって、間違いなくあの巨大なエネルギーのせいだよね?」
 「うん、間違いない。人間が到達できない場所にタカさんはいる。まあ、これまで聞いたタカさんの人生とかエピソードから予測しても良かったのかもね」
 「尋常じゃないよね」
 亜紀と双子は嘆息した。

 「でも、僕はタカさんを絶対に「R計画で」!」
 「分かってるよ、皇紀ちゃん。それはここにいる全員がそう思ってる。みんな一緒だよ」
 「ルー、頼むよ! どうにか!」
 「うん。それでね、ここからが昨日のあの「光」の話なんだ」
 「みんなも見たよね?」
 双子から促され、亜紀たち三人は頷いた。

 「あれもタカさんならではってことなんだろうけど。あれも本当はあり得ないのね」
 「なつ……」
 「亜紀ちゃん! ダメ! 言ったらダメよ!」
 「うん、ごめん!」
 ハーから亜紀が叱られた。

 「絶対に名前を呼んだらダメ! 本当にダメになっちゃうから! あれは奇跡に間違いないけど、「R計画」に、あの奇跡が関わるかもしれない」
 「ハー、どういうこと!」
 亜紀が詰め寄る。

 「人間には無理でも、ってこと! タカさんは本当に特別過ぎるんだよ。だから、タカさんに限っては、奇跡が起きる可能性があるの」
 「それって!」
 「そう。だってあの人が付いてるんだよ!」
 「「「そうか!」」」
 
 「ずっとタカさんを見てる。ずっとタカさんを愛している。ものすごく高い者になって」
 「多分、レイもそう。レイもそうなる」
 「私もなれるかな」
 柳が言った。
 
 「柳ちゃん、それはダメなんだよ。私たちはダメ。私たちはそのことを知ってしまったから。だから同じようにはなれない。純粋じゃなくなっちゃったから」
 「私は石神さんを愛してるよ!」
 「分かってる。でもダメなの。それを考えてしまえば、同じにはなれないの。これは決まっていることなの。「純粋」っていうのは言葉の綾で、要するに「知らない」ってことなの」
 「じゃあ……」
 「私たちはこれまで通りにやるしかない。もしかしたら、この先に誰かがレイと同じように死んでしまうかもしれない。でも、それでもダメなの。私たちは私たちの出来ることをするしかない」
 「分かった」
 「柳ちゃんも、段々私たちについて来れるようになったじゃない。一緒に頑張ろうよ!」
 「うん、分かった!」
 
 「ルー、でも、僕たちの貯めている分じゃダメなんだろ?」
 皇紀が言った。

 「分からない。計算ではそうだけど、奇跡の世界ではそうじゃないとあたしは思ってる」
 「どういうこと?」
 「あたしとハーがやってるのは、波動方程式から量子的次元構造を計算しているのね。平行世界を無理矢理再構築するような計算。でも、それって所詮は人間の計算なのよ」
 「奇跡は、それを超えていくか」
 「そう、皇紀ちゃん。でも、その奇跡は人間が必死に頑張った先にあるの。私たちはただ頑張るしかないんだよ」
 「分かった。僕も頑張るよ」

 「タカさんも、そうやって生きて来たんだもんね」
 亜紀が言った。

 「そういうこと。タカさんは普通の人が潰れてしまうような悲しみを全部引き受けて来た。それは、あの巨大なエネルギーがあったからとも言えるけど、タカさんの心は人間だから。何で耐えて来たのか分からないよ」
 「優しすぎて、悲しすぎる」
 全員が目を潤ませた。

 「レイを喪ったのは、あまりにも悲しすぎた。前の時はタカさんも弱っていたから何も起きなかったけど。今回は危なかったね」
 「多分、あのままタカさんが暴走したら、アメリカだけじゃなかったかも」
 「麗星さんの薬がなければ、だったのね」
 「そう。あの人はひょうきんだけど、やっぱりタカさんの運命の人なんだね」
 「タカさんの扱い方も、他の女の人とはちょっと違うよね」

 「ねえ、石神さんは大丈夫かな?」
 柳が心配そうに言った。

 「アメリカでね。聖と一晩飲んだんだって」
 「え?」
 「だから大丈夫」
 「どういうこと?」

 「聖は親友だから。御堂さんと並んで、最もタカさんが信頼している人間。そしてタカさんのことを心底から大事に思ってる人間。だからだよ」
 「タカさんが大丈夫になるまで、聖は絶対にタカさんを離さない。そういう人なの」
 「そうか!」
 「聖がタカさんを帰したんだから。もうタカさんは大丈夫だよ。当然まだ悲しいだろうけどね」
 「うん、分かった。素敵な友情だね」
 「「「うん!」」」
 亜紀と双子が笑って請け合った。

 

 「さて、じゃあこの辺にしておきますか!」
 亜紀が宣言した。

 「私たちは私たちの出来ることをやって行く。それでいいのかな?」
 「「「「はい!」」」」

 「じゃあ、明日からは蓮花さんの研究所だ! みんながんばろー!」
 「「「「はい!」」」」

 「皇紀はアメリカだね。宜しくお願いします」
 「うん、ちゃんとやってくるよ」

 子どもたちは解散した。
 皇紀はアメリカへ行く準備をし、双子が手伝った。
 データの整理などもある。

 亜紀と柳は、顕さんの家の掃除に行った。
 ロボは上に上がり、石神のベッドで寝た。




 哀しい出来事はあったが、今日も石神家は温かだった。 
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