富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
上 下
912 / 2,898

温かな場所

しおりを挟む
 石神が仕事へ出掛けている金曜日の午後。
 石神の子どもたちと柳がリヴィングのテーブルに集まっていた。

 「「石神家子ども緊急会議」を始めます」
 パチパチと拍手。

 「今日は、夕べのあの「光」についてね」
 亜紀が議事進行をしている。

 「その前に、タカさんのアメリカでの暴走についてだよ」
 ルーが言った。

 「ああー」
 「亜紀ちゃんも見ているはずだけど、あれはちょっと想定を超え過ぎだよ! 私たちの「R計画」が根底から揺らいだよ!」
 「亜紀ちゃんも、破壊の規模だけなら同じことが出来るけど、あれ、ほとんどタカさんの自力だよ?」
 「うーん」

 「そんなに凄かったの?」
 柳が加わる。

 「凄いなんてもんじゃないよ! 上空に向けてだって、あの規模なんだよ。あれがもっと低かったら、本当にアメリカの半分は消滅してたよね」
 「あたしたちだって、必死に逃げてなんとかだったから。亜紀ちゃんの判断が早かったから、少しは余裕があったけどさ」
 「私はタカさんの怒りがすぐに分かったもの。あんなに怒ったタカさんは見たことない。あれは人間の怒りじゃないよね」
 「「さんせー」」

 「炎の柱が見えたって?」
 柳が聞いた。

 「そうそう! それなの! 前からタカさんは真っ赤な柱の中にいるのね。そんな人はまずいない。いつもなんだから」
 ハーが説明した。

 「じゃあ、いつも怒ってるの?」
 「そうじゃないの。タカさんにとっては、それが普通の状態なのね。あたしたちが悪戯して怒ったって、それは変わらないの」
 「ふーん」
 「だからね、柳ちゃん。タカさんは、最初からとんでもないエネルギーを持ってるってことなの。私たちは「R計画」で、その巨大なエネルギーごとを考えていたわけだけど、どうやら、到底間に合わないって分かったの」
 「大変じゃない!」
 柳は慌てた。

 「だからこうやって緊急会議を開いてるんじゃない!」
 「ああ、ごめん」

 「ルー、計算はどうなの?」
 亜紀が聞いた。

 「仮にだけど、アメリカでのあれがMAXだったとして、あたしたちが20年頑張っても3%かな」
 「えぇー!」
 「でも、多分MAXじゃないし。暴走したっていっても、タカさん、ちゃんとあたしたちのことも考えてたじゃん」
 「全力じゃなかったのね」
 「そう」

 「亜紀ちゃんが天才で、一生懸命に頑張って、どんどん強くなってもタカさんはいつもその上じゃない。それって、間違いなくあの巨大なエネルギーのせいだよね?」
 「うん、間違いない。人間が到達できない場所にタカさんはいる。まあ、これまで聞いたタカさんの人生とかエピソードから予測しても良かったのかもね」
 「尋常じゃないよね」
 亜紀と双子は嘆息した。

 「でも、僕はタカさんを絶対に「R計画で」!」
 「分かってるよ、皇紀ちゃん。それはここにいる全員がそう思ってる。みんな一緒だよ」
 「ルー、頼むよ! どうにか!」
 「うん。それでね、ここからが昨日のあの「光」の話なんだ」
 「みんなも見たよね?」
 双子から促され、亜紀たち三人は頷いた。

 「あれもタカさんならではってことなんだろうけど。あれも本当はあり得ないのね」
 「なつ……」
 「亜紀ちゃん! ダメ! 言ったらダメよ!」
 「うん、ごめん!」
 ハーから亜紀が叱られた。

 「絶対に名前を呼んだらダメ! 本当にダメになっちゃうから! あれは奇跡に間違いないけど、「R計画」に、あの奇跡が関わるかもしれない」
 「ハー、どういうこと!」
 亜紀が詰め寄る。

 「人間には無理でも、ってこと! タカさんは本当に特別過ぎるんだよ。だから、タカさんに限っては、奇跡が起きる可能性があるの」
 「それって!」
 「そう。だってあの人が付いてるんだよ!」
 「「「そうか!」」」
 
 「ずっとタカさんを見てる。ずっとタカさんを愛している。ものすごく高い者になって」
 「多分、レイもそう。レイもそうなる」
 「私もなれるかな」
 柳が言った。
 
 「柳ちゃん、それはダメなんだよ。私たちはダメ。私たちはそのことを知ってしまったから。だから同じようにはなれない。純粋じゃなくなっちゃったから」
 「私は石神さんを愛してるよ!」
 「分かってる。でもダメなの。それを考えてしまえば、同じにはなれないの。これは決まっていることなの。「純粋」っていうのは言葉の綾で、要するに「知らない」ってことなの」
 「じゃあ……」
 「私たちはこれまで通りにやるしかない。もしかしたら、この先に誰かがレイと同じように死んでしまうかもしれない。でも、それでもダメなの。私たちは私たちの出来ることをするしかない」
 「分かった」
 「柳ちゃんも、段々私たちについて来れるようになったじゃない。一緒に頑張ろうよ!」
 「うん、分かった!」
 
 「ルー、でも、僕たちの貯めている分じゃダメなんだろ?」
 皇紀が言った。

 「分からない。計算ではそうだけど、奇跡の世界ではそうじゃないとあたしは思ってる」
 「どういうこと?」
 「あたしとハーがやってるのは、波動方程式から量子的次元構造を計算しているのね。平行世界を無理矢理再構築するような計算。でも、それって所詮は人間の計算なのよ」
 「奇跡は、それを超えていくか」
 「そう、皇紀ちゃん。でも、その奇跡は人間が必死に頑張った先にあるの。私たちはただ頑張るしかないんだよ」
 「分かった。僕も頑張るよ」

 「タカさんも、そうやって生きて来たんだもんね」
 亜紀が言った。

 「そういうこと。タカさんは普通の人が潰れてしまうような悲しみを全部引き受けて来た。それは、あの巨大なエネルギーがあったからとも言えるけど、タカさんの心は人間だから。何で耐えて来たのか分からないよ」
 「優しすぎて、悲しすぎる」
 全員が目を潤ませた。

 「レイを喪ったのは、あまりにも悲しすぎた。前の時はタカさんも弱っていたから何も起きなかったけど。今回は危なかったね」
 「多分、あのままタカさんが暴走したら、アメリカだけじゃなかったかも」
 「麗星さんの薬がなければ、だったのね」
 「そう。あの人はひょうきんだけど、やっぱりタカさんの運命の人なんだね」
 「タカさんの扱い方も、他の女の人とはちょっと違うよね」

 「ねえ、石神さんは大丈夫かな?」
 柳が心配そうに言った。

 「アメリカでね。聖と一晩飲んだんだって」
 「え?」
 「だから大丈夫」
 「どういうこと?」

 「聖は親友だから。御堂さんと並んで、最もタカさんが信頼している人間。そしてタカさんのことを心底から大事に思ってる人間。だからだよ」
 「タカさんが大丈夫になるまで、聖は絶対にタカさんを離さない。そういう人なの」
 「そうか!」
 「聖がタカさんを帰したんだから。もうタカさんは大丈夫だよ。当然まだ悲しいだろうけどね」
 「うん、分かった。素敵な友情だね」
 「「「うん!」」」
 亜紀と双子が笑って請け合った。

 

 「さて、じゃあこの辺にしておきますか!」
 亜紀が宣言した。

 「私たちは私たちの出来ることをやって行く。それでいいのかな?」
 「「「「はい!」」」」

 「じゃあ、明日からは蓮花さんの研究所だ! みんながんばろー!」
 「「「「はい!」」」」

 「皇紀はアメリカだね。宜しくお願いします」
 「うん、ちゃんとやってくるよ」

 子どもたちは解散した。
 皇紀はアメリカへ行く準備をし、双子が手伝った。
 データの整理などもある。

 亜紀と柳は、顕さんの家の掃除に行った。
 ロボは上に上がり、石神のベッドで寝た。




 哀しい出来事はあったが、今日も石神家は温かだった。 
しおりを挟む
script?guid=on
感想 61

あなたにおすすめの小説

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから

咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。 そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。 しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

処理中です...