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挿話: お掃除「ロボ」

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 遡ること、半年前。
 1月のある土曜日に、いつも通り子どもたちは掃除と洗濯をやっていた。
 敷地の左右と裏側に、どんどん新しい建物などが出来て行っている。
 
 「ねぇ、皇紀ちゃん」
 「なんだよ?」
 「お掃除ってめんどくない?」

 皇紀とハーが話している。

 「そんなこと言うなよ。しっかりやろうよ」
 「それはやるんだけどさー。タカさん、綺麗好きだしね」
 「僕もそうだよー」
 「ヘンな汁飛び散らしてるけどね」
 「やめろよー」

 仲がいい。
 ルーが洗濯物を抱えて歩いている。
 
 「あー、二人とも! ちゃんと掃除してよ!」
 「「分かってるー!」」

 二人はルーの洗濯物を少し持って、一緒に一回のウッドデッキに行く。
 皇紀は壁から「物干しセット」を回した。
 壁に収納された物干し竿などが回転しながら横に出て来る。
 石神が東雲たちに作らせた。
 これで、洗濯物を干す作業が大分簡単になった。
 三人で洗濯物を干して行く。

 「何を話してたの?」
 「ハーが掃除が面倒だって」
 「えぇー!」
 「そうじゃないよ! 私は皇紀ちゃんにお掃除ロボットを作れないか相談したかったの!」
 「「なるほどー」」

 ハーは有名な「ル〇バ」などを改良できないかと話した。

 「前にさ、タカさんから聞いたことがあるんだ」

 皇紀が話す。

 「昔、多頭飼いみたいに、10台買ったんだって」
 「「流石タカさん!」」

 「でも、うるさいしウザいからすぐにやめたって」
 「「……」」

 「タカさんは自由に歩くじゃない。僕たちならパッと避けるけど、ロボットは自分の行程しか考えてないからね。主人なのに自分が避けて歩くのが頭に来たらしいよ」
 「あー。それにタカさんが静かに本とか読んでてもブーンって言ってるだろうね」
 
 「でもさ。これから今の何倍も広くなるんだよ?」

 ハーは諦めない。

 「そうだねー」
 「僕はちゃんとやるよ」

 真面目な皇紀はブレない。

 「そうだけどさ。せめてタカさんがあんまし出入りしない場所なら、ロボットでもいいんじゃないかな」
 「でもそれって、タカさんが万一行ったらダメじゃん」
 「だからさ! 皇紀ちゃんにちゃんとしたの作って欲しいの!」
 「そういうことかー」

 皇紀は忙しい。
 しかし、カワイイ妹たちを見捨てることは絶対に無かった。
 何度もそれで酷い目には遭っているのだが。

 「じゃあ、まずは音が静かなことね」
 「それは何とかなると思うよ。防音の筐体に入れればいいよ」
 「タカさん避けは?」
 「それもセンサーで出来るかな。人感センサーで、人が来たら離れるようにプログラムする」
 「あ、いいじゃん!」
 「掃除のプログラムは一緒に考えてね。うちはほとんどロボの毛だから、そんなに吸引力は必要ないよね」
 「拭き掃除もできないかな?」
 「ああ、出来ると思うよ。柔らかいネルとかで人間がこするみたいな動きをさせればいいよ」
 「汚れによって動作変えたりとか、溶剤なんかも使えたらいいな!」
 「それは考えてみよう。あれ、なんだか上手く行きそうな気になってきた!」
 「「皇紀ちゃん、だいすきー!」」

 ルーとハーが両側から皇紀の頬にキスをした。
 二人は本当に好きな人間にしかキスをしない。
 唇は石神だけで、時々蓼科文学だ。





 昼食後、三人は更に話し合った。
 楽しかった。

 「おい、なんか楽しそうだな」
 「タカさん。ちょっと遊びなんですけど、掃除をするロボットを考えてみようって」
 「あ? ル〇バとかはダメだぞ?」
 「分かってます。防音対策をして、あとは人感センサーで……」

 皇紀が概略を石神に話した。

 「そうか。まあモノが出来てからだけど、お前らの補助的なものならいいぞ」
 「「「ありがとうございます!」」」

 石神は亜紀を連れて買い物へ出た。
 三人は続きを話し合った。

 「どうせならさ。攻撃機能も付ける?」
 「ハー! ナイス!」
 「えー! それは危ないよ」
 「ちょっとだけだから! 皇紀ちゃんシステムはあるけど、客のフリして襲ってくる場合もあるじゃん!」
 「それはあるか!」
 
 石神一家がいて、撃退出来ない奴はいない。

 「そういう時にさ。ババババってやっちゃうの」
 「「ババババ」ってなんだよー」
 「うーん。ブローニングM2?」
 「重機関銃じゃないかー!」
 「栞ちゃんちにあったね!」
 「そんなのダメだよー!」
 「じゃあ、イングラムMAC11でいっか!」
 「あ、サイレンサー付けてね! タカさんうるさいの嫌いだから」
 「そういう問題じゃないよー!」

 皇紀は、他人に見られたらタカさんが逮捕されると説明した。

 「じゃあ、ブレードかぁ」
 「それもダメだってぇ!」
 「皇紀ちゃん、ノリが悪いね」
 「二人ともノリ過ぎだよー!」



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 2週間後。
 《Executioner:処刑人》試作機が出来た。

 一階の玄関前で俺と亜紀ちゃんに見せた。
 ロボも付いて来る。

 「あんだ、こりゃ」
 
 高さ140センチの50センチ角のボディ。
 底部でブラシが回りながら、ゴミを吸い上げる。
 非常に静かだ。
 ルーが床に小麦粉を撒いて、その吸引を実演する。
 次いでハーが水を零した。
 今度は拭き掃除モードに切り替わり、床の水は消えた。
 ロボが面白がって、ロボットの四角い頭に飛び乗る。

 皇紀が油汚れの部分にロボットを連れて行く。
 洗剤を使ったのか、泡立ちさせてブラシで拭きとり、水で溶剤を綺麗に拭きとる。
 見事だ。

 「どうですか、タカさん!」

 ハーが俺を呼ぶ。

 「ああ。それよりもな」

 俺は8本のマニピュレーターを見ていた。
 
 100センチの刀。
 金属バット。
 釘バット。
 ハンマー。
 ヌンチャク。
 トンファー。
 イングラム。
 小型ミサイル。

 頭部はホログラムで、ハーの笑顔だ。

 「あー、普段は雑巾とかスプレーとかですよ?」
 「いや、あのな」

 皇紀がリモコンを操作すると、全部の武器が筐体に収納され、代わりに掃除用具が握られていく。

 チャイムが鳴った。
 そのままドアが開く。
 うちの合鍵を持っている栞だった。

 ロボットのホログラムが変わった。
 亜紀ちゃんの鬼モードの顔だ。
 そして掃除用具が放り出され、先ほどの武器が瞬時に握られる。
 ロボが驚いて飛び降りた。

 パパパパパパパパパ!

 イングラムが連射した。

 「なになになになにぃー!」

 栞が外に飛び退く。
 
 「皇紀! すぐに止めろ!」
 
 栞は「震花」を放つ。
 しかしロボットの攻撃は止まない。
 皇紀は慌てて停止ボタンを押した。

 「すいません! 栞さんの顔認識登録がまだでした!」
 「「そういう問題じゃねぇ!」」

 俺と栞が叫んだ。

 「「α」のペンダント付きだよー」

 ハーが言った。
 ぶら下がってた。

 「「だからそういう問題じゃねぇ!」」

 栞と一緒に三人の頭を引っぱたいた。

 俺が廃棄処分にすると言うと、三人が泣いて縋って来た。
 仕方なく、東雲たちのいる家に置いた。





 たまにイングラムの音が聞こえる。
 まあ、あいつらなら大丈夫だろう。
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