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嵐の前

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 ジェイを見送り、家に入った。
 ロボが出迎えるが、離れたまま俺を見ている。
 佐藤家の気配が分かるのだろう。
 そっと近づき、匂いを嗅いで安心したようだ。
 俺に身体を摺り寄せる。

 「みんな、あの家を嫌がるよなー」

 あんなに面白いのに。
 リヴィングに上がると、亜紀ちゃんが俺に声を掛けた。

 「あれ、ジェイさんは帰っちゃったんですか?」
 「ああ」
 「夕食をご一緒にと思っていたんですが」
 「普通の人間はライオンとは喰わないよな」
 「アハハハハハ!」

 今日は唐揚げ大会だ。
 まあ、こいつらが自分で作るからいいのだが。
 俺が作っていた時には大変だった。
 俺は唐揚げではなく、自分で香草焼きを作る。
 亜紀ちゃんにカットする前の腿肉をもらい、塩コショウをし、ローズマリーをたっぷりと、オレガノ、タイム、セージを指で砕きながら振りかける。
 オーブンに入れて焼き、一度出してからフライパンを使いオリーブオイルで炒め、蒸し焼きにする。
 肉を取り出し、ナスとパプリカ、ジャガイモのスライスを炒めた。

 子どもたちが大量の唐揚げを作りながら、俺の香草焼きを見ている。

 「タカさん、美味しそうですね」
 「まーなー」

 泣きそうな顔で俺を見ている。

 「分かったよ!」

 折角作ったが、カットして一口ずつ喰わせた。

 「「「「美味しー!」」」」

 俺は笑ってもう一度五人分を作った。
 結構大変だった。


 食事が始まり、子どもたちは香草焼きから食べた。
 亜紀ちゃんがレシピはばっちりだと言い、三人を喜ばせた。

 「明日は香草焼き大会にします」
 「また鶏肉かよ!」
 「ニャー!」

 予定通りに豚の生姜焼きにすることになった。
 俺は明日一杯が休みだ。
 別荘の他には特に予定を入れなかった。
 来週の土曜日からまた休みを取っている。
 水曜日までの五日間だ。
 三日ほど、子どもたちと柳を連れて蓮花の研究所へ行く予定だった。




 亜紀ちゃんと柳を誘って三人で飲んだ。
 つまみにチョリソーを焼いていると、皇紀と双子も匂いにつられて来た。
 子どもたちには好きなジュースを飲ませ、みんなで飲んだ。

 「ジェイさんのお話って?」

 亜紀ちゃんが聞いて来た。

 「「ヴァーミリオン」の情報だ。開発している基地が分かったらしい」

 俺は聖からの情報と、先ほどジェイから聞いた情報を全員に話した。

 「へー。じゃあ、いよいよですか」
 「まあな。でも今すぐでなくてもいいだろう。一度蓮花に聞いて、欲しい情報があるか確認してからだ」
 「ああ、ただ潰すんじゃないということですね」
 「そうだ。アメリカの基地を叩くわけだからな。別にアメリカと戦争したいわけじゃない。十分に偽装した上で、必要なものは奪うつもりだ」
 「なるほど」

 「石神さん、私も行っていいですか?」

 柳が言った。

 「そうだなぁ。柳の実力もついてきたし、実戦の経験も必要だしな」
 「やった!」
 「でも、ルーとハーと一緒に動け。「ヴァーミリオン」の相手は、まだ柳には厳しいからな」
 「分かりました!」



 
 午後10時を回った。
 俺はレイに電話した。
 ハンズフリーで話し、全員に聞こえるようにする。
 今、ニューヨークは朝の9時くらいのはずだ。

 「石神さん!」

 レイの明るい声が聞こえた。

 「今丁度、聖さんの所へ向かっているんです!」
 「聖の?」
 「はい! ロックハートの幾つかの拠点の防衛をお願いしようと」
 「そうか。おい、レイは元気かよ?」
 「もちろんです!」
 「俺に会えなくても?」
 「あ! 元気じゃありません!」

 みんなで笑った。

 「いつ帰れそうだ?」
 「そうですねー。あと数週間はかかるかと。聖さんの会社で話が決まればいいんですが、こちらの規模も大きくて」
 「そうか。まあ、あいつの所でも横の繋がりもあるしな」
 「はい。何とかします」
 「ジェイからの情報が回っているな?」
 「ええ。ターナー少将から直接伺っています」
 「手が必要ならいつでも言ってくれ」
 「ありがとうございます! その時はよろしくお願いします」
 
 子どもたちもレイと話した。
 レイも嬉しそうだった。

 「じゃあ、帰りを待っているからな!」
 「はい! なるべく急ぎます!」
 「それとな、帰ったら話したいことがあるんだ」
 「え、なんですか?」
 「帰ったらだ! 早く帰って来い!」
 「分かりましたー!」

 電話を切った。
 まだレイは栞の妊娠を知らない。
 驚くだろうか。
 俺はレイとの関係を考えていた。
 レイは俺の女だ。
 もう決めている。




 子どもたちを風呂に入らせ、俺は庭に出た。
 ロボも付いて来る。

 俺の家の増築は中断している。
 蓮花の研究所と御堂の家を先にやらせている。
 新たな皇紀システムの追加だ。
 ニューヨークのロックハート家の方も、近いうちに手を付ける予定だ。
 荷の手配も済んでいる。
 レイが向こうへ行った目的の一つでもある。

 今の防衛システムでも大丈夫だが、俺はジェヴォーダンの襲撃を想定していた。
 今すぐには無いだろうが、いずれはやって来る可能性が高い。
 レールガンでの各個撃破は今のシステムで賄えるが、集団で来た場合の広域殲滅兵器の実装を考えていた。

 今度は俺も行こうか。
 ロックハートの家も楽しみだし、何よりもニューヨークには聖がいる。
 また昔のように、あいつの仕事を手伝うか。

 俺は楽しくなってきた。

 「あー、お前はどうやって運ぶか」

 ロックハートの自家用ジェットならば、一緒に移動できるだろうか。
 俺はロボを抱き上げようとした。
 その時、ロボが空中に上がった。

 「ああ、お前はもう飛べるんだっけか」

 俺は笑った。
 ロボはフヨフヨと浮いている。

 「分かったよ。でも一緒に飛行機で行こう。大物はそうやって行くべきだ」

 ロボが俺の胸に降りて来た。
 抱き締める。

 「来週は久しぶりに埠頭へ行こうな」

 ロボが俺の顔を舐める。
 
 本当に楽しくなってきた。
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