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決戦の予感

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 翌日。
 別荘から夕方に戻り、俺はのんびりとしていた。

 ジェイから電話が来た。

 「ちょっと今から会えないか?」
 「分かった。どこへ行けばいい?」
 「特別な要件だ。俺が使うセイフハウスでもヤバい」
 「じゃあ、うちへ来いよ。完全な場所を提供できる。この近所だ」
 「そうか! じゃあ20分後に」

 ジェイは既に移動していたようだ。
 20分きっかり後で、うちへ来た。
 パジェロに乗って来た。


 「じゃあ行くぞ」

 どこへとは聞かない。
 俺を信頼している。
 俺は「佐藤家」へ行った。

 「元へ戻せ、クロピョン! 俺たち以外に入ろうとする奴、それと様子を伺おうとする奴がいれば、喰え!」
 「おい、タイガー。ここは?」
 「ここ以上に安全な場所はない。まあ、俺がいればだがな」
 「そうか」

 ジェイは不気味なものを感じている。
 勘のいい男だ。

 門を潜り玄関に向かう。

 バン!

 「お、おい、タイガー!」

 血まみれの女にジェイが驚く。

 「気にするな」
 「誰だ、あれは!」
 「誰でもねぇ。お前、仲良くなりたいか?」
 「とんでもねぇ!」

 俺は笑って玄関を開けた。
 誰もいない。

 「おい、さっきの女はどこへ行った!」
 「どこでもねぇ。ああ、来るぞ?」

 子どもの巨大な顔が迫って来る。
 ジェイが飛びのいた。
 驚いてはいるが、やはりうちの子どもらとは違う。
 現実を受け入れ、俺を信頼している。

 「上がれ。靴のままでいい」
 「……」

 俺たちは一番手前の座敷に入った。
 誰かが座っていたが、俺たちが入ると消えた。

 「よし、話せ」
 「タイガー、ここは一体……」
 「どんなセイフハウスよりも、電波暗室よりも安全な場所だ」
 「そ、そうか」

 強引に理解したようだ。
 ジェイは話し出した。

 「「ヴァーミリオン」のことだ。当たりを付けたように、やはりNSAが陸軍の実験部隊を使っていた」
 「ああ、別なルートからも情報が来ている。ソルトレイクのD基地だな」
 「よく分かったな! それとエリア51も関わっている」
 「そうか」
 「エリア51では、主に運用実験だ。開発をD基地が担っている」
 「お前もよく調べたな」
 「ターナー少将の伝手でな。ようやくだ。NSAも一枚岩じゃない。敵対する派閥から情報を得た」
 「なるほど」

 閉めた襖が開いた。
 女が茶を持って来る。
 俺とジェイの前に置いた。
 ジェイは目を丸くして女を見ていた。
 女の顔がほころんだ。
 口が耳まで裂ける。
 
 「!」
 「大丈夫だと思うが、それを飲むなよ?」

 ジェイは汗をかいた顔で何度も頷いた。


 「どちらの基地にも、俺たちは近づけない。だが、開発に関わる人間と接触することができた。非人道的な実験だ。嫌気が挿す奴もいる」
 「ああ、別なルートの方でも同じことを言っていた」
 「それでな、タイガー。お前のエネルギー・システムが狙われているらしい」
 「俺の?」
 「そうだ。お前はフリー・エネルギーの開発に成功しているんだろう?」
 「何のことだ?」
 「まあ、話せないのは分かっている。でも、「ヴァーミリオン」の実験部隊の中では、是非その技術を欲しがっている」
 「なんだ、そりゃ」
 「可能な限り機械化した連中だ。稼働時間は重要ポイントだろう」
 「それはそうだろうが」
 
 俺はどこから俺たちの情報が洩れているのかを考えていた。
 「ヴォイド機関」は俺たちの中枢の機密の一つだ。
 ロックハート家には備わっているが、誰も知らないはずだった。
 日本の拠点でも同じだ。
 俺の家と、あとは蓮花の研究施設、それに御堂の家だ。
 蓮花はもちろん知ってはいるが、あの女が漏らすはずはない。
 御堂家では、存在すら想像もしていないだろう。
 御堂には概略は話しているが、どういう装置かは知らないし、場所も知らない。

 「タイガー、アメリカ国内にはあるのか?」

 ジェイが直球で聞いて来た。

 「ある」

 俺は応えた。

 「ならば気を付けることだ。お前のことだから、防備も完璧なんだろうがな」
 「ああ」

 ジェイには、もうロックハート家にあることは予想がついている。
 防衛システムの輸送の護衛を頼んでいるのだから。
 具体的には荷電粒子砲とレールガンとしていたが、ジェイは俺たちの超技術の存在は考えていただろう。
 レールガンの威力は、既に目にしている。

 「タイガー。これはここだけの話と思って聞いてくれ」
 「ああ」
 「ターナー少将は、もしもアメリカ国内で軍が民間人を襲った場合」
 「ああ」
 「俺たちは野に降ると言っている」
 「なんだと!」
 「俺たちは祖国を守るために存在しているんだ。それが自国民を犠牲にして自分たちが益を得ようとするなら、もう愛想が尽きた。俺たちはお前と共に戦うぞ」
 「ジェイ……」

 「まだだ、タイガー。本当にそんなことが起きたら、の話だ。今はまだ俺たちは米軍だ。アメリカがアメリカである限りはな」

 ジェイは俺を見詰めている。

 「ジェイ。「ヴァーミリオン」は「業」と繋がっていると思うか?」
 「分からない。だが、直接の指揮下にはなくとも、操られている可能性はあると思う」
 「お前もそう思うか」
 「ああ。フランス外人部隊の時には、「業」の命令と同時に「ヴァーミリオン」を実戦投入した。指揮官のアダンは二つの組織から利益を得ようとしていたと言っていたが、俺はどうにもきな臭いと考えている」
 「俺もそうだ。「業」に対抗するために出来たのかもしれないが、俺たちも標的にしているのは確かだ。共闘は無理でも、俺にはずっと引っ掛かっていた。表面的にせよ、普通は俺の協力を求めるはずだ」
 「そうだよな。最初からタイガーたちの戦力を測るなんて、おかしいぜ」
 「それに、対花岡の技術を持っていた。それはどこから流れた?」
 「あっち側だよなぁ」

 「武装だってそうだ。あれは完全に、俺たちを殺すためのものだった」
 「じゃあ、決まりだな、タイガー」
 「そういうことだ。「ヴァーミリオン」は俺たちの敵だ」

 「タイガー、ロックハート家はアメリカ軍に対抗できるか?」
 「その可能性を考えて防衛システムを組んだ。空爆も含めて、大隊規模で攻めても殲滅できる」

 ジェイは短く口笛を吹いた。
 廊下から先ほどの女が顔を出したので、ジェイが硬直した。

 「お、お前が言うのなら、実際にその通りなんだろうよ」
 「まあ、本格的に来れば、ニューヨークは瓦礫の山になるだろうけどな」
 「核攻撃は?」
 「それが本当に使われるのか?」

 俺はニヤリと笑った。

 「大丈夫なのかよ!」
 「のんびりと喰らうのを待つはずがない」
 「本当にお前だけは敵に回したくないぜ!」

 俺たちは笑った。
 ジェイに家を案内すると言ったが、断られた。

 「一体なんなんだ、このゴーストハウスはよ!」
 「行ったことはないけど、ディズニーランドにもゴーストハウスはあるんだろ?」
 「全然違ぇよ!」
 「アハハハハハ!」


 一緒に家に戻り、ジェイは帰った。




 俺は、決着を付ける日が近いことを予感していた。
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