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五度目の別荘 XⅥ

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 花火が終わる頃、聖から電話が来た。
 あいつはいつもタイミングがいい。
 俺は家の中に入った。

 「おう! 元気か?」
 「ああ。トラも元気そうだな!」

 聖が嬉しそうだ。

 「アンジーとは上手くやってるか?」
 「もちろんだ! もうすぐ子どもも生まれっぞ!」
 「本当か! おめでとう!」
 「ああ。トラのお陰だ」
 「俺は何もしてないだろう?」
 「いや。俺が幸せなのは、全部トラのお陰だ!」
 「なんだよ、そりゃ」

 しばらく近況を話し合う。

 「それでどうした?」
 本題を聞いた。

 「今、周りに人間はいるか?」
 「いや、俺一人だ」
 「この電話は安全だと言われた」
 「ロックハートだな。ああ、そうだ。セキュリティは万全だ」

 聖はジャンニーニからの報告だと話し出した。
 「ヴァーミリオン」のことだ。
 
 「ようやく掴んだらしい。金の動きや資材の動きを追いながら、関わっていそうな人間たちから情報を集めた」
 「ほう、あいつもなかなかやるな」
 「ああ。戦力は全然だが、情報に関しては一流だ」
 「お前も手伝ってくれたんだろ?」
 「俺の方は、まあ本当に手伝いだよ。何人か攫ったりな」
 「ありがとうな」

 聖は俺のためにやってくれたのだろう。
 俺の敵だと聞いたからだ。

 「場所も特定出来た」

 聖は、ユタ州ソルトレイクの近くのD基地の名を告げた。
 BC兵器を以前から開発していると言われる秘密基地だった。

 「恐らく大統領も知らない。NSAと軍が結託して極秘裏にやってるぞ」
 「そうか、分かった」
 「トラ、やる時は声を掛けてくれ。俺、手伝うから」
 「ああ、ありがとう。お前は本当にいい奴だな」

 聖が喜んだ。
 資料を送ると聖は言ってくれた。

 「もうすぐな、中枢の人間から話が聞ける手はずなんだ」
 「おい、無理するなよ」
 「いや、うちにな、元CIAの頭の良い奴がいるんだよ。そいつが転がした」
 「そうなのか?」
 「ああ。元々えげつないことをやってるんだ。嫌気が挿しても不思議じゃない」
 「そうだな」
 「そいつに結構な金と安全な新しい身分をやることになってる」
 「金は心配するな。幾らでも用意する」
 「その時は頼むな。まあ、消しちまってもいいんだけどな」
 「金は用意するから、助けてやってくれよ」
 「トラがそう言うならな。じゃあ、また連絡するわ!」
 「おう!」

 電話を切った。
 「業」との戦いの前に、余計な要素は取り除いておきたい。
 アメリカ、少なくとも「ヴァーミリオン」を開発している連中は、俺を敵と見做している。
 ならば叩き潰しておかなければならない。
 俺はしばらく考えていた。
 思考の中で、やけに熱く感じるものがある。
 嫌な予感だ。
 恐らく聖も感じている。
 あいつは俺のために何も言わずに何でもやってくれる。
 その聖が、自分に声を掛けろと言った。
 何かを感じているからだ。





 響子と風呂に入った。
 もちろん、六花も一緒だ。

 「明日は帰るのね」

 響子が言った。

 「そうだ。楽しかったか、響子」
 「うん! でもちょっと寂しい」
 「そうか。ところでお前は何やってんの?」

 俺の股間をまさぐっている六花に言った。

 「はい。響子に石神先生がどんなに立派な方なのか見せてやろうと、ブクブクブク」

 六花の頭を湯船に沈めた。

 「レイも来れば良かったのにね」
 「そうだな。でもレイは大事な仕事があるからな」
 「うん」
 「ロックハートの家を守る仕事だ。アルや静江さんや家で働いてる人たち。それとロックハートのために働いている人たちだ。多くの人間を守るために、レイは頑張ってる」
 「うん、そうよね」
 「帰ってきたら、楽しませてやろう」
 「うん!」

 俺は電灯を消し、暗くした。
 天井のガラスの向こうに、星空が見える。

 「レイが出発するちょっと前にな。俺の部屋のテラスで、一緒に星を見たんだ」
 「へー!」

 戸が開き、亜紀ちゃんと柳が入って来た。

 「あー、暗い!」

 亜紀ちゃんが叫ぶ。
 俺がレイに話したミユキの話を始めると、二人がちょっと待てと言った。
 急いで身体を洗い出し、俺は響子がのぼせるから急げと言った。
 響子を湯船から出し、一緒に二人の背中を洗った。

 みんなで浴槽に入り、ミユキに『フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン』を歌った話をした。

 「間に合ってよかったー!」

 亜紀ちゃんが言った。
 柳が泣いていた。

 「どうしたよ、柳?」
 「父から聞いてたんです。石神さんは、その歌に思い出があるんだって」
 「そうか」
 「私が子どもの頃に、うちでギターで歌ってくれたじゃないですか。その時に聞いて。でも詳しいことは今知りました」
 「ああ、御堂には話したことがあったな」
 「お父さんが石神さんが大好きなのがよく分かります」
 「バカヤロー! 俺の方が御堂を大好きなんだぁー!」
 「ホモですね」

 亜紀ちゃんが笑った。

 「あー、御堂が俺の子を産んでくれないかなー」

 みんなが笑った。




 他の人間も風呂に入り、俺は野菜のつまみを作った。
 亜紀ちゃんも手伝う。

 茹でたチンゲンサイに胡麻ドレッシング。
 千切りニンジンのごま油炒め。
 ナスの煮びたし。
 ほうれん草の胡麻和え。
 シーザーサラダ。
 それに、生鮭のソテー。

 野菜ならば、子どもたちはそんなに食べない。
 響子と亜紀ちゃん以外の子どものために、ミルクセーキを作った。
 氷とバナナと練乳も加える。
 響子のものには氷は入れない。

 みんなで料理と飲み物を屋上に運ぶ。



 「今日は野菜嫌いのケダモノたちも多いので、野菜の話をする」

 みんなが笑った。

 「俺の大学時代のアルバイトだ」
 

 俺は語り出した。
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