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五度目の別荘 Ⅳ

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 屋上のテーブルは12人が余裕で座れる。
 今日は俺の両側に響子と栞が座り、左に六花と鷹、右に双子が皇紀を挟んで座り、正面に亜紀ちゃんと柳だ。
 ロボは俺の後ろに置いた専用クッションだ。

 飲み物を配った。
 今日は全員が「ミロ」だ。
 みんな、不思議そうな顔をしている。
 俺が一人ずつミロを牛乳に溶き、マドラーでかき混ぜて渡した。

 「なんでミロ?」

 ハーが言った。

 「飲んでミロ」

 俺が言うと全員が笑った。

 


 「あー、今日はな。ちょっとみんなに発表がある」

 みんな俺の方を見ている。
 響子はニコニコしている。
 
 「実はな、栞のことなんだがな、栞は妊娠している」

 「「「「「エェェェェェェェェーーーーーーーー!!!!!」」」」」
 「ニャァ!」

 鷹はもう知っている。
 響子にはさっき話した。
 ロボも響子から聞いているんだが、付き合いがいい。

 「誰の子どもかは分からん」

 栞が俺の尻を叩く。

 「まー、ここだけの話、俺だ。驚いたか!」

 みんなが笑った。

 「えーと、今四ヶ月だよな」
 「うん」
 「栞さん! おめでとー!」

 亜紀ちゃんが言った。

 「おめでとうございます!」
 「「おめでとー! よかったねー!」」
 「オメジェドゴヴャイバブ!」
 「おめでとうございます!」
 「ニャニャニャ!」

 みんなが栞に寄って来て口々に祝った。
 六花は泣いていた。
 子どもたちは嬉しそうだ。
 柳もニコニコしている。
 ロボは付き合ってるだけだ。
 響子は俺の膝に乗って、栞のお腹に耳を当てて言った。

 「順調です!」
 
 みんなが笑った。
 以前に俺がふざけて言った言葉だ。

 「まあ、戻れ! 落ち着け」
 「「「「タカさん! おめでとうございます!」」」」
 「石神さん、おめでとう!」
 「ヴィジギャビゼンゼ!」
 「おめでとうございます」

 「うわ! やめろって! 恥ずかしいだろう!」

 みんなが笑った。

 「まあ、栞のことだから心配はしてないけど、一応まだ安定期に入ってないからな。みんなも気を付けてやってくれ」
 「「「「はーい!」」」」
 
 「鷹は前から知ってる。栞から話した。まあ、親友だからな」

 栞の希望で、俺に相談の上で話した。
 親友ということと、鷹がもう子どもが生めないことを思ってだ。

 「それと嫌だったが斬にも話している」
 「ちょっと、石神くん!」

 「蓮花にもな。だからミユキたちも知っている。こないだみんなで祝ったと言っていた」
 「そうなんですか!」

 皇紀が喜んだ。

 「この後、ロックハートの方々や院長夫妻、千両とかにも話すつもりだ」

 みんなが喜んだ。

 「でもな、これはそこまでだ。栞との縁が深い関連者だけだ。その意味は分かるな?」

 みんな頷く。
 「花岡家」の「死王」の誕生を意味しているためだ。

 「まあ、隠してもそのうちに拡がる。でも、今は出来るだけ伏せておきたい。だから一部の人間には、単に栞の妊娠というだけの話になる」

 「あの、タカさん」

 亜紀ちゃんが言った。
 
 「なんだ?」
 「その名前ですが、やっぱり「死王」なんですか?」
 「ああ、そのことか。音は同じだが、俺は「士王」、武士の士に王様の王、つまり「さぶらう者の王」という名にしたい。それに、漢字で「死」というのは名前に使えないんだ」
 「そうなんですか」
 「俺は「花岡家」のことは分からん。だけどまあ、栞も望んでいるし、斬はどうでもいいんだけどな」
 「石神くん!」
 「籍は入れないんですよね」

 柳が言った。

 「そうだ。これは栞にも斬にも納得してもらっている。もちろん認知はするし、元々俺の家族のつもりで付き合っている。これからも、それは同じだ」

 響子が俺を見て手を挙げている。

 「なんだ、響子?」
 「私も先に知ってた!」

 俺は笑った。

 「ああ、そうだな。響子にも事前に話していた。俺のヨメだからな」
 「うん!」

 響子が嬉しそうに笑った。
 まあ、ショックを和らげる意味だったのだが。

 「おい、六花! お前大丈夫か?」
 「ヴァイ!」
 「でもお前」
 「いじがみぜんぜー! おべでどうございまず! ばだじ、ぶれじいでず!」
 「ありがとう、何となく分かったよ」

 みんなが笑う。
 栞が六花を抱き締めに行った。
 響子がもらい泣きした。
 俺が抱き締めた。

 「あの、タカさん!」

 亜紀ちゃんがちょっと真剣な顔で聞いて来た。

 「あの、麗星さんの言う通りにしたんですね!」
 「いや、違うって! だからさっき妊娠四ヶ月だって言っただろう!」
 「あ!」

 「俺も栞も実はあの時驚いたんだ。もうあの時には栞のお腹には俺の子どもがいたからな」
 「そうだったんですね! じゃあ、麗星さんは気付いてあんなことを?」
 「いや、それもなぁ。俺は違うと思うんだ」
 「そうなんですか?」
 「あいつは、何て言うか。お前たちもちょっと付き合って分かるんじゃないかと思うけど、勘がいいと言うよりも運がいいというものだな。それにちょっとトラブルメーカーなんだけど、みんなの役に立つというなぁ」
 「「「「あー」」」」

 子どもたちが分かったようだ。

 「考えてはもちろんいたんだろうけど、思わず口に出ちゃったというな。それが実は大当たりという。俺はそんな感じだと思うぞ」
 「なるほど」

 亜紀ちゃんと一緒に皇紀や双子も頷いている。

 「麗星は悪い人じゃないし、俺も大好きだし、道間家の当主としても優秀な上に頑張っている。だけど、どうも天真爛漫と言うかな、とんでもないことも平気でしちゃう、ちょっと枠からはみ出す人だ」

 みんなが笑う。

 「あの人は「業」との戦いに「死王」が必要だと言ったけどな。これは俺が栞に何度も言っていることだが、栞の子は戦いをさせない! 俺はそんなつもりで、栞に子どもを産んでもらうんじゃないんだ!」
 「「「「「「「!」」」」」」」
 「そうだよな、栞」
 「うん」

 「もちろん、「花岡」の当主になるのかもしれん。だから「花岡」を習得するのは止めない。でも、もしも今後「士王」がそのつもりはないと言ったら、俺はどんなことをしてでも止める。それに「花岡」の使い手になったとしても、俺は「業」との戦闘には入れないつもりだ。それはみんなも分かってくれ!」
 「「「「はい!」」」」
 「お前たちは、申し訳ないが覚悟してくれ。ああ、でも抜けたくなったらいつでも言ってくれな。子どもたちと柳はダメな」

 みんなが笑った。
 柳は嬉しがった。

 「でも、響子も六花も鷹も、もう離せないけどな」

 響子は俺に抱き着く。




 「あの、石神さん。どうして栞さんは子どもが出来たんですか?」

 柳がおずおずと聞いて来た。

 「え? お前マジで知りたいの? それはなー、俺のオチンチンを栞の……」
 「そういうことじゃなくってぇー!」

 俺は笑った。
 ルーとハーは「ギャハハハ」と笑った。

 「まあ、そういうことは俺と栞の問題だからな。俺たちだけのものだ」
 「はい、分かりました」

 柳も納得した。
 気持ちは分かるが、今は何も言えない。

 「今後も誰かに子どもが出来るかもしれん。でもそれは、俺とその女との関係でのことだ。いいな」

 全員が分かってくれる。

 「俺のオチンチンはまだまだ元気だからな!」

 みんなが笑う。

 「それから、これはちょっと先の話になるけどな。栞は年末までに仕事を辞めて、ある場所で子どもを産んで育てる。これも二人で話し合って決まったことだ。だから少なくとも一年くらいは、栞とは会えなくなる」
 「「「「「「「!」」」」」」」

 「石神くん、時々は会いに来るよ! それに石神くんは来てよ!」
 「ああ、そうか。そういうことらしい!」

 みんなが笑った。
 俺たちには敵がいることに加え、「花岡」の特別なものがあるらしい。
 子育てに関して、特殊なやり方があるのだ。
 それを他の人間に知られたくない。
 栞の希望だった。
 場所は俺だけが知っている。

 「話は以上だ! ああ、この話をするんで、「強い子のミロ」を用意した。乾杯!」
 「「「「「「「「かんぱーい! おめでとうございます!」」」」」」」」

 ミロを飲み干した。
 
 「じゃあ、あとは適当に飲みたい奴は好きな飲み物を持って来てな! 栞はもう寝ろよ」
 「うん」

 俺は栞を連れて下に降りた。
 



 「石神くん」

 ベッドに横たわった栞が俺を呼んだ。
 俺は隣に横になった。

 「ああ」
 「これで良かったのかな」
 「分からないよ。でも、俺たちは決めた。それでいいじゃないか」
 「そうだね」

 栞は笑った。

 「元気な子を産むね」
 「前にさ。皇紀が双子をかばって脊髄をダメにしそうになったんだ」
 「ああ、知ってる」
 「山中がまた半狂乱でな。その時にさ、俺が「もしも半身不随になっても、お前たちは皇紀を大事に育てるだろう」って言ったんだ」
 「うん」
 「山中は一瞬も迷わずに、「もちろんだ!」って言った。流石だと思ったよ。感動した」
 「うん」
 「俺たちの子だ。俺たちは全力で育ててやればいいよ」
 「うん、そうだね」

 俺は栞を抱き寄せ、キスをした。

 「多分、響子も六花も柳も俺の子を産む」
 「うん」
 「そういう予感がする」
 「うん」
 「多分、レイもな」
 「うん」
 「一江と大森はねぇ」
 「アハハハハ」
 
 「あ、響子も柳もレイも、何もしてないぞ!」
 「分かってるよ!」

 俺たちはまたキスをした。

 「鷹は……」
 「鷹を愛している。子どもがいるかどうかは全然関係ねぇ」
 「うん」

 俺は栞を寝かせた。
 眠れるのかは分らんが、栞は目を閉じた。


 俺は灯を消して、ドアを閉めた。




 俺は栞も生まれて来る子どもも、今上にいる連中も、今ここにはいない大事な人々も、みんな守る。
 そのために何でもする。
 
 「俺が父親になるとはなー」

 何か感慨深いものがある。
 ヘビはちょっとおく。
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