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御堂家、大騒動 Ⅲ

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 まずはロボだ。
 ロボは亜紀ちゃんと一緒にいた。

 「おーい、ロボ」

 俺の姿を見てトコトコと駆け寄って来る。
 カワイイ。
 俺は畳に座ってロボを抱いた。

 「お前なぁ。御堂の家に来ていきなり撃つなよなぁ」

 ロボは俺の顔をペロペロ舐めている。

 「誤魔化そうったってダメだ。もうやるなよな」

 ロボは俺の顔をじっと見ている。

 「やーるーなー!」
 「ニャ」

 分かったらしい。
 まあ、一応は被害が出ないように上空へ撃った。
 こいつなりに気遣いはあるのだろう。
 
 「タカさん、どうしてロボは……」

 亜紀ちゃんが言う。

 「俺に聞かれてもなぁ」
 「オロチを攻撃したんですかね?」
 「それはないな。そうだったら、まっすぐオロチにぶっ放したはずだ」
 「じゃあ、一体」
 「あいさつ、うーん、まあ示威行為かな」
 「それって?」
 「要は、舐められないように、かな?」
 「へぇー」

 よくは分からん。
 でも、ロボもオロチが途轍もない奴だと一瞬で分かったのだろう。
 もしも攻撃するのならば、ただじゃ済まさん、と。
 もしかしたら、俺たちを守るつもりだったのかもしれん。
 だったら、俺が仲良しだと分かって、もう大丈夫だろう。
 分らんが。


 「もう帰ろうかなー」
 「やめて下さいよ!」

 


 俺は麗星に電話した。

 「石神様!」

 麗星は嬉しそうに言ってくれた。

 「大変申し訳ないのですが」
 「いいえ! 何でも仰って下さいませ!」

 俺は麗星にこれまでの経緯を話した。
 オロチが5月に床下を叩き、俺が呼ばれて御堂の家に来たこと。
 不思議な夢と、その時の状況。
 今日、また御堂の家に来たら、オロチが出迎え、虹色の小さなヘビを見たこと。

 「「羅天遠呂智」は稀に「大虹龍破魔王」を地上に顕現させると、古文書に記述があります」
 「ダイコウリュウハマオウ?」

 麗星は字を教えてくれた。

 「数千年に一度。この世の危機に現われる究極の一体です。世界でただ一体の救世の存在です」
 「あの、五匹いたんですが?」
 
 「……」

 「あの、麗星さんへの信頼度が40パーセント減りました」
 「そんなに!」

 麗星はちょっとだけ待って欲しいと言った。
 10秒ほど保留になる。

 「あの、古文書には最大5体だとありました」
 「絶対、今作りましたよね!」

 「とにかく大変な事態でございます」
 「それでね、麗星さんに一度見て頂きたいのですが」
 「もちろんです」

 俺は御堂家の住所を告げた。

 「すぐに向かいます。今日の夕方には必ず」
 「お手数をお掛けします」

 出発してから、具体的な時間などをすり合わせることにした。




 俺は御堂と一緒に正巳さんの部屋へ行った。

 「申し訳ありませんでした!」

 畳に頭を擦り付けた。
 本当に申し訳ない。
 折角呼んで下さったのに、とんでもないことをしてしまった。

 「石神さん、お顔を挙げて下さい」

 正巳さんが笑って言った。
 美味そうに、俺の土産のコイーバをふかしている。
 菊子さんがコーヒーを運んで来た。

 「石神さんがコーヒー好きなんで、自分たちもすっかり。いや、美味いものですな」
 
 俺はロボはもう暴れないことを約束した。
 そしてオロチの子について話す。
 正巳さんも初めて聞いたようで、驚いていた。
 俺は麗星から聞いた話をした。

 「正嗣!」
 「うん」
 「すぐに祝いの準備を!」
 「分かった」

 「絶対やめてー!」

 俺は必死で止めた。

 「まだ秘密にして下さい。あれは今は幼体です。他に知れては不味い」
 
 正巳さんは考えていた。
 尤もらしいことを言ったが、俺は以前の大宴会に辟易としていた。

 「静かに見守る時期です。他の人間にはまだ話さないで下さいね」
 「分かった。石神さんの言う通りだ。いや、早まったことを考えてしまった」
 「いいえ。でも、流石は御堂家ですね。とんでもない守り神が、今度は世界を守るものを生み出したんですから」
 
 俺が言うと、正巳さんが嬉しそうだった。

 「それで、一度ああいうものの専門の家の人間に相談したいんです」

 俺は道間家のことを簡単に話し、今その当主がこちらへ向かっていることを話した。

 「それは是非そうして欲しい。ああ、大きな祝いはできんが、せめて今晩はみんなで祝おう。その方も一緒に」
 「ありがとうございます」

 麗星の了承を得た。
 これで一通りのことはやった。
 俺は御堂と食事の座敷へ行った。





 子どもたちと柳は、昼食の準備を手伝っている。
 食事のためだけであれば、家を6時に出ることはない。
 準備を手伝うためだ。
 俺はルーに言って、茶を頼んだ。
 澪さんが持って来た。

 「柳まで手伝っているんですよ」

 澪さんが嬉しそうに御堂に言った。

 「そうなのか。ありがとう、石神」
 「いや、柳が俺の家でも率先してやってただけだよ」
 「まあ」

 澪さんが微笑んだ。

 「本当は石神さんが、そうして下さったんでしょ?」
 「アハハハハ! まあ、うちの家族にもなったわけですからね」
 「ありがとうございます」

 澪さんはまた厨房へ戻った。


 麗星から電話が来た。
 三時に松本空港に着くらしい。
 俺が迎えに行くと言うと喜んだ。
 片道一時間くらいだ。
 一服して、俺は部屋に行った。
 亜紀ちゃんがロボと一緒にいる。

 俺はロボを連れ、庭に出た。
 もう二度とあんなことはさせてはならない。
 ロボを抱きかかえ、オロチのいる軒下へ行った。

 「おい、ロボ。もうやるんじゃないぞ」

 ロボは俺の顔を見ている。

 「オロチー!」

 呼んだ。
 出て来る。

 「オロチ、こいつは俺の家族のロボだ。大事な奴なんだ」

 オロチは俺を見ている。

 「ロボ、オロチだ。オロチも俺の大事な奴なんだ」

 ロボはオロチを見た。
 俺はロボを降ろした。
 何かあれば、俺が止める。
 ロボに威嚇や警戒の兆候は無い。
 オロチは――――分らん。
 ヘビの威嚇姿勢ってどんなだ?

 二頭が見合っている。
 10分経った。

 オロチが軒下の奥へ戻って行った。
 ロボはそれを見送り、上半身を伸ばし、俺の腰に前足を掛けた。
 抱けという合図だ。
 俺は笑ってロボを抱き上げ、座敷に戻った。




 ロボはずっと、俺の顔を舐めていた。
 ヒリヒリした。
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