上 下
857 / 2,806

御堂家、大騒動

しおりを挟む
 土曜日の朝6時。
 俺たちはハマーに荷物を積み込んでいる。
 朝食はサンドイッチを前の晩に作っている。
 俺はリヴィングで食いながら。
 子どもたちは出発してから車の中で食べる。
 レイの分もテーブルに用意してある。

 《レイのサンドイッチ 食べたらタカさんパンチの上、ロボのウンチ》

 張り紙がしてあった。
 レイはどう思うだろうか。

 「タカさん! 荷物が積み終わりました!」

 皇紀が呼びに来た。
 俺はゆっくりとコーヒーを飲み干した。
 皇紀が食器を片付ける。
 寝てていいと言ったが、やはりレイが起きて来た。

 「出発ですね」
 「ああ」

 俺はレイを抱き締めてキスをした。
 
 「悪いが、留守番を頼むな」
 「はい、いってらっしゃい」

 レイは明るく笑った。
 テーブルの張り紙に気付く。
 驚いているが、笑った。

 「ここでいいよ。じゃあ、行って来るな」
 「はい」




 ハマーが走り出すと、子どもたちが早速サンドイッチを食べ始める。
 一番人気はタンドリーチキンだ。
 葉野菜と共に、ヨーグルト・ドレッシングをかけてある。
 俺が作った。
 次いでローストビーフとビーフカツ。
 俺が作った。
 子どもたちは、普通のハムサンドや卵、ツナなどを大量に作った。
 ロボは俺がマグロを炙ったものを食べている。

 以前に、俺が好きなサンドイッチということで、「赤とんぼ」のものを喰わせたことがある。
 一つが5センチ角くらいの小さなもので、子どもたちにはその量の少なさが災いして何も伝わらなかった。
 俺はよく病院で食べていた。
 近所に「赤とんぼ」の店があり、しょっちゅう部下に買いに行かせていた。
 諸事情で閉店してからも、デパートで買っている。
 それほどに美味いのだが。

 柳も負けじと食べていた。
 最近、「花岡」の技もある程度になり、子どもたちとの食事の奪い合いも混ざれるようになっている。
 まあ、本人は基本的にゆっくりと喰いたいようだが。

 但し、大学では大食いだと思われていると俺に言って来たことがある。
 本人の意志に関わらず、すっかり洗脳されているようだ。

 早朝に出発したのは、昼食を是非うちで食べて欲しいという御堂の願いからだ。
 二泊ということで、御堂家の方々が一回でも多く、子どもたちのやんちゃな「喰い」を見たいということだった。
 世の中には、変わった趣味の人間がいる。



 助手席は誰も座っていない。
 奪い合いに参加できないためだ。
 子どもたちの食事も終わり、東名に乗った所でサービスエリアに寄った。
 飲み物を買い、柳が助手席に乗った。

 「柳、本当にロボまで大丈夫だったかな」
 「大丈夫ですよ。お父さんも会ってますし」
 「そうか」

 ロボをどうするかで、少し迷った。
 いくら家族だとはいえ、他人様の家に連れて行くのはどうなのだろう。
 しかし、御堂は快諾してくれ、他の家族にも話しておくと言った。
 まあ、俺の傍にいれば問題もないだろう。

 オロチ以外は。

 「もしもオロチとロボが衝突したら、俺たちで止めるぞ」
 「私もですかぁー!」
 「当たり前だ! 今週のオロチ当番だろう!」
 「こないだもそんなこと言ってましたけどー!」




 30分ほど走り、中央自動車道に入る。
 亜紀ちゃんが寝始めると、皇紀も双子も眠った。
 
 「柳、お前も寝ていいんだぞ?」
 「大丈夫ですよ。石神さん、寂しいじゃないですか」
 「お前! そんな気遣いが出来るよになったか!」
 「ちょっと、酷くないですか?」

 ロボが寝心地が良さそうな場所を探している。
 亜紀ちゃんと双子の膝の上に乗った。

 「みんな寝ちゃいましたね」
 「喰ったら寝る、という野生の獣だからな」

 二人で静かに笑った。

 「昨日の銀三さんのお話、素敵でした」
 「そうか」
 「最初は悲しいお話で終わるのかと思いましたが」
 「ああ」

 「奥様を一生大事にされたんですね」
 「そうだなぁ」

 道はそれほど混んでいない。
 早朝に出発したのは良かったのかもしれない。

 「昔は、そういうことが多かったんだよな」
 「どういうことです?」

 「惚れ合ったとかじゃなく、互いが必要で一緒に暮らす、というな。昔は女性の職業は少ない。だから男性と一緒にならなければ、生きて行けなかったわけだ」
 「そうですね」
 「でもな。男だって家の世話をしてくれる人間がいなきゃ悲惨なんだよ。今みたいに食堂があちこちにあるわけでもないし、コンビニだってねぇ。買い物をして食事を用意してくれる人間がいなかったら大変なんだ」
 「なるほど」
 「今は女性が虐げられていたなんて言うけど、要は役割分担だったんだよ。まあ、もちろんそうは言っても、男性が上に立っていたことは確かだけどな」
 「そうですね」
 「御堂家は今でもそうじゃない。でも、別に悪いものでもないだろ?」
 「まあ、いろいろ言いたいことはありますけど」
 「アハハハハ! まあ、それは男の方でもそうなんだよ。上に立ってればありがたいということでもないからな」
 「はぁ」

 「石神家は完全な男女平等だ」
 「そうですか?」
 「お前! 何で疑問形なんだ!」
 「アハハハハ」

 「俺は男女問わずにぶん殴るし。男女問わずに一緒に風呂に入るしな!」
 「アハハハハハ!」
 「まあ、家長は俺だから俺が一番偉い。食事も俺の邪魔はさせねぇし、一品多くつくことも多い」
 「そうですね」

 「でも、俺は家長をやりたがってるわけじゃないんだ。俺の役目だからやっているだけでな」
 「はい!」
 「俺は別にあいつらと殴り合って飯を喰ってもいいんだよ。楽しいしな」
 「楽しいですか!」
 「そうだよ。あいつらだって、楽しいからやってるんだからなぁ」
 「え、自分が食べたいからじゃなく?」
 「違うよ。亜紀ちゃんだって、長女だから頑張って奪って多く喰おうとしてるんだ。皇紀は優しいから、妹たちに譲るけどな。ルーもハーも、自分たちが下だから一生懸命に姉兄に負けないように喰ってるんだよ」
 「ちょっと分かりません」

 「仲良し兄弟だからな。みんなああやって元気だって示してるんだ」
 「へぇー」

 柳は後ろで寝ている子どもたちを見た。




 「前にな。双子がボロボロになって、飯が食えない時があったんだ」
 「え! あのルーちゃんとハーちゃんが!」
 「ああ、俺が思い切り殴り飛ばしてな」
 「……」

 「その時はさ。亜紀ちゃんも皇紀も肉を双子の前に置いたりしてたよ。二人は喧嘩しながら喰ってたけどな」
 「へぇー!」
 「だからさ、あれはこいつらの日常のじゃれ合いみたいなものなんだ。大体、どうしたって二人前以上は絶対に喰ってるんだからな。大人しくしてても命に別状は絶対ねぇ」
 「アハハハハハ!」

 「正巳さんたちが嬉しそうに見て下さるのは、こいつらの仲の良さなんだよな。本当の仲良しだから、あんなことが出来るんだ」
 「はい。私が正利のご飯を取ったら、ただのいじめですもんね」
 「まあな。まあ、仲が悪くないから奪わないんだし、仲良しだから喧嘩しながら喰うってことだな」
 「なんとなく分かりました」

 柳と楽しく話しながら、高速を疾走した。

 「でもなぁ。外でこいつらが困らないかって時々思うんだよ」
 「そうですねぇ」
 「前に亜紀ちゃんの学校から連絡が来てさ」
 「なんだったんですか?」
 「それがな。学食で食べる場合は事前に連絡してくれって」
 「アハハハハハハハハ!!」

 柳が大笑いした。

 「俺も驚いたよ。亜紀ちゃんが来ると、他の生徒が喰いっぱぐれるんだと」
 「大変ですね」
 「しかもよ。それでいて自分が大食いなのを隠そうとしてるらしいよ。人で壁を作って、食事も数人前ずつ運ばせて」
 「そんな人間がいるんですか!」
 「亜紀ちゃんを締めようとした先輩たちらしいよ。もちろん逆に締められてパシリになってんだな」

 柳がまた笑った。

 「ああ、双子はさ。給食の時間はでかい皿が置かれるんだよ」
 「?」
 「その皿に、クラスの連中が次々に給食を入れてくの。凄いだろ?」
 「アハハハハハ!」

 甲府で降り、御堂家に向かった。

 「もうすぐだな、柳」
 「はい!」




 やはり柳も実家は嬉しいらしい。

 そりゃそうだ。
 御堂がいるんだからな!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...