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麒麟と龍馬
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乾さんの店で、夜の9時くらいまで話し込んでしまった。
家に帰るのは10時くらいか。
亜紀ちゃんは寿司を食べ、いろんな話が聞けてご機嫌だ。
まあ、俺も懐かしい話が出来て良かったが。
「タカさん! 今日は楽しかったですね!」
「ああ、そうだな」
亜紀ちゃんは歌を歌い、俺の肩を揉み、「チューしましょうか」と言うので断った。
「ところでタカさん」
「あんだよ」
「今回は全然言いませんよね?」
「あにが?」
「ほら! 御堂さんの家に行くのが楽しみだーって」
「楽しみだよ!」
見透かされていた。
来週の土曜日から二泊するのだが、もちろん物凄く楽しみだ。
しかし……
「今回は二泊で、ちょっと短いですよね?」
「ああ、いろいろ俺もみんなも忙しいしな」
「そうですかー」
俺は五月のゴールデンウィーク明けに、御堂家へ行ったことを気にしていた。
あの時、ヘビの産卵について調べた。
5月から6月にかけて交尾をし、7月から8月に産卵。
今は8月だ。
だが、それは普通のシマヘビの場合で、オロチがどうなのかは分らん。
大体、人間の遺伝子がヘビに結び付くわけはない。
でもオロチがどうなのかは分らん。
もしも、だ。
オロチが俺に卵でも見せてきたら……
どーすりゃいいの?
ここはやっぱりアレだ。
専門家に相談だ。
月曜日に、麗星に電話した。
「石神様!」
麗星が嬉しそうな声で出た。
俺は早速用件と言うか、事前説明を始めた。
俺の知り合いの家で守り神と言われているヘビがいること。
そのヘビを俺が見つけ、盛り上がったこと。
どうも俺に懐いているようで、俺が行くとしょっちゅう出てくること。
そして、5月の不思議な話だ。
オロチのサイズや口から熱線を吐くことは言ってない。
「ああ、御堂家のオロチですね?」
「なんでー?」
呆気に取られた。
「それは石神様の親しい方のことですし、私たちもよく存じておりますし」
「オロチを?」
「はい。言ってませんでしたっけ?」
「そうだよー!」
「羅天遠呂智のお話を確か」
「あれは肚の探り合いの中ででしょう!」
「そうでしたっけ」
まあ、余計な問答をするつもりもない。
「では、俺たちが言う「オロチ」は、その「羅天遠呂智」のことなんですか?」
「さようでございます」
「それで、その、俺の子を産むとか……」
「石神様は上田秋成の『蛇精の淫』をご存知ですか?」
「はい。「道成寺」の話ですよね?」
「能の『道成寺』とは多少異なりますが、より元となった話に近い。その中で、年を経た蛇は牛と交われば麒麟を産み、馬と交われば龍馬を産み、と書かれています」
「えーと」
「はて、石神様と交わると何が産まれましょうか」
「麗星さーん!」
麗星は声を挙げて笑っていた。
「アハハハ! まあ、そうお悩みにならずとも、もう精は放たれたのでしょう」
「あの、もうちょっとですね」
「「オロチ」が何を産むのかはわたくしにも分かりません。まして石神様ですので。お役に立てず」
「いや、なんとかなりませんか!」
「もっと以前にご相談いただければ。しかし、もうこの段階では、生まれて来る者を愛おしむしかないかと」
「ヘビを!」
「蛇ではございません。石神様の御子でございます」
麗星は、今後も協力してくれると約束してくれたが、事態の打破は無理だと言われた。
俺も放置していたのだから、何も言えない。
でも、なんだか麗星は楽しんでいるようにも感じる。
意外ときつい性格のようだ。
俺は帰ってから柳を部屋に呼んだ。
「よし、パンツ脱げ」
「え!」
「おう、冗談だ」
「……」
乙女心がなんだとか言う。
「うるせぇ! お前んとこのオロチに俺は頭を悩ましてんだぁ!」
「なんで私のせいなんですか!」
俺は5月の出来事の詳細を柳に話した。
「だからな」
「なんですか?」
「お前が眠りこけたから、俺がとんでもないことになったんだ!」
「しょうがないじゃないですか! オロチの力なんですから!」
まあ、それもそうだ。
「じゃあ、石神さんは眠ってる私の横で散々ヤッタと?」
「う、まあ、そうなのかもな」
「し、信じられない!」
「オロチの力なんですから!」
柳も納得した。
「それでな、柳はどう思う?」
「何が産まれるかってことですか?」
「ああ、まあ、そもそも本当に何か生まれるかも分らんけどな」
「でも、麗星さんはそう言ったんですよね?」
「まあ、そこまで具体的じゃないけどな」
「あの、石神さん」
「あんだよ」
「ビビってます?」
「お前!」
「もうしょうがないじゃないですか。大体、大勢の女とヤリまくって、これまでどっかに石神さんの子どもがいても不思議じゃないんですよ?」
「!」
「冷静に考えると、もう私より年上の子がいたりして」
「やめて、柳ちゃん」
「今更何を言ってるんですか! ビシッとして下さい!」
「はい」
説教されてしまった。
まあ、柳の言う通りだった。
俺の子ならば、大事にすればいい。
それだけのことだった。
覚悟を決めよう。
家に帰るのは10時くらいか。
亜紀ちゃんは寿司を食べ、いろんな話が聞けてご機嫌だ。
まあ、俺も懐かしい話が出来て良かったが。
「タカさん! 今日は楽しかったですね!」
「ああ、そうだな」
亜紀ちゃんは歌を歌い、俺の肩を揉み、「チューしましょうか」と言うので断った。
「ところでタカさん」
「あんだよ」
「今回は全然言いませんよね?」
「あにが?」
「ほら! 御堂さんの家に行くのが楽しみだーって」
「楽しみだよ!」
見透かされていた。
来週の土曜日から二泊するのだが、もちろん物凄く楽しみだ。
しかし……
「今回は二泊で、ちょっと短いですよね?」
「ああ、いろいろ俺もみんなも忙しいしな」
「そうですかー」
俺は五月のゴールデンウィーク明けに、御堂家へ行ったことを気にしていた。
あの時、ヘビの産卵について調べた。
5月から6月にかけて交尾をし、7月から8月に産卵。
今は8月だ。
だが、それは普通のシマヘビの場合で、オロチがどうなのかは分らん。
大体、人間の遺伝子がヘビに結び付くわけはない。
でもオロチがどうなのかは分らん。
もしも、だ。
オロチが俺に卵でも見せてきたら……
どーすりゃいいの?
ここはやっぱりアレだ。
専門家に相談だ。
月曜日に、麗星に電話した。
「石神様!」
麗星が嬉しそうな声で出た。
俺は早速用件と言うか、事前説明を始めた。
俺の知り合いの家で守り神と言われているヘビがいること。
そのヘビを俺が見つけ、盛り上がったこと。
どうも俺に懐いているようで、俺が行くとしょっちゅう出てくること。
そして、5月の不思議な話だ。
オロチのサイズや口から熱線を吐くことは言ってない。
「ああ、御堂家のオロチですね?」
「なんでー?」
呆気に取られた。
「それは石神様の親しい方のことですし、私たちもよく存じておりますし」
「オロチを?」
「はい。言ってませんでしたっけ?」
「そうだよー!」
「羅天遠呂智のお話を確か」
「あれは肚の探り合いの中ででしょう!」
「そうでしたっけ」
まあ、余計な問答をするつもりもない。
「では、俺たちが言う「オロチ」は、その「羅天遠呂智」のことなんですか?」
「さようでございます」
「それで、その、俺の子を産むとか……」
「石神様は上田秋成の『蛇精の淫』をご存知ですか?」
「はい。「道成寺」の話ですよね?」
「能の『道成寺』とは多少異なりますが、より元となった話に近い。その中で、年を経た蛇は牛と交われば麒麟を産み、馬と交われば龍馬を産み、と書かれています」
「えーと」
「はて、石神様と交わると何が産まれましょうか」
「麗星さーん!」
麗星は声を挙げて笑っていた。
「アハハハ! まあ、そうお悩みにならずとも、もう精は放たれたのでしょう」
「あの、もうちょっとですね」
「「オロチ」が何を産むのかはわたくしにも分かりません。まして石神様ですので。お役に立てず」
「いや、なんとかなりませんか!」
「もっと以前にご相談いただければ。しかし、もうこの段階では、生まれて来る者を愛おしむしかないかと」
「ヘビを!」
「蛇ではございません。石神様の御子でございます」
麗星は、今後も協力してくれると約束してくれたが、事態の打破は無理だと言われた。
俺も放置していたのだから、何も言えない。
でも、なんだか麗星は楽しんでいるようにも感じる。
意外ときつい性格のようだ。
俺は帰ってから柳を部屋に呼んだ。
「よし、パンツ脱げ」
「え!」
「おう、冗談だ」
「……」
乙女心がなんだとか言う。
「うるせぇ! お前んとこのオロチに俺は頭を悩ましてんだぁ!」
「なんで私のせいなんですか!」
俺は5月の出来事の詳細を柳に話した。
「だからな」
「なんですか?」
「お前が眠りこけたから、俺がとんでもないことになったんだ!」
「しょうがないじゃないですか! オロチの力なんですから!」
まあ、それもそうだ。
「じゃあ、石神さんは眠ってる私の横で散々ヤッタと?」
「う、まあ、そうなのかもな」
「し、信じられない!」
「オロチの力なんですから!」
柳も納得した。
「それでな、柳はどう思う?」
「何が産まれるかってことですか?」
「ああ、まあ、そもそも本当に何か生まれるかも分らんけどな」
「でも、麗星さんはそう言ったんですよね?」
「まあ、そこまで具体的じゃないけどな」
「あの、石神さん」
「あんだよ」
「ビビってます?」
「お前!」
「もうしょうがないじゃないですか。大体、大勢の女とヤリまくって、これまでどっかに石神さんの子どもがいても不思議じゃないんですよ?」
「!」
「冷静に考えると、もう私より年上の子がいたりして」
「やめて、柳ちゃん」
「今更何を言ってるんですか! ビシッとして下さい!」
「はい」
説教されてしまった。
まあ、柳の言う通りだった。
俺の子ならば、大事にすればいい。
それだけのことだった。
覚悟を決めよう。
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