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乾さんへの礼
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院長の家から帰り、俺はすぐに横浜に出掛けた。
亜紀ちゃんを乗せて、シボレー・コルベットだ。
もうこの車に一緒に乗ってくれるのは亜紀ちゃんと六花くらいだ。
こんなにカッチョイイのに。
「乾さん、喜んでくれますかねー」
亜紀ちゃんがニコニコして言う。
「まあ、嫌がるんじゃねぇか?」
「そうですか?」
「そりゃそうだ。あの人は人から何かしてもらうのが嫌いなんだよ」
「ああ、タカさんと一緒!」
「ばかやろー! 俺は人から優しく可愛がってもらうのが大好きだ!」
「そうですか」
「そうだ! もっと俺に優しくしろ!」
「アハハハハハ!」
乾さんの店には1時間ほどで着ける。
昼食がまだだったので、俺たちは中華街に行った。
「私、中華街って初めてです!」
「そうか。お前ら大食いにはお似合いなんだけどなぁ」
「そうなんですか!」
「ああ、もうすっかり大食いは否定しなくなったな」
「エヘヘヘ」
前はバナナを持ってけと言ったら膨れていたのだが。
中華街には数多くの中華料理屋がある。
当然だ。
そして、その中にとんでもなく美味い店がある。
どこでもそこそこに美味いのだが、次元が違うのだ。
それは中華料理の奥深さを物語っている。
本場の香港の一流料理人は、塩の一粒の違いが分かるという。
俺は予約した店に入り、亜紀ちゃんと座った。
予め注文してあるので、即座に料理が出される。
「もちろん時間のかかるものもあるけど、基本的に中華料理は早いんだよ」
「へぇー」
亜紀ちゃんは既にバクバクと喰い始めた。
のんびりしていると、俺も喰えなくなるので、俺も出されるとすぐに自分の器に取る。
「ほんとに美味しいですね!」
「そうだろ?」
俺たちはニコニコして料理を堪能する。
俺たちのペースに合わせて、どんどん料理が運ばれてくる。
北京ダックが出た。
亜紀ちゃんが大喜びだ。
今日は8羽頼んだ。
「これ、最高です!」
「牛だけが肉じゃねぇって分かったか!」
「はいはい!」
それでなくても分量が多く油も多い中華料理を8人前だ。
さすがの亜紀ちゃんも満腹になった。
でも、最後のタピオカ・ココナッツを絶賛し、杏仁豆腐で大満足していた。
「今度たった一人の友達の真夜とでも来いよ」
「余計な形容詞が付きましたが」
「ほぼボッチめ」
「あー!」
俺は笑った。
「ここは俺の知り合いの店なんだ。陳さんというな。俺の名前を出せばサービスしてくれるぞ。支払いもいらん」
「そうなんですか!」
「俺に請求が来るようにしてやるから。楽しく飲み食いしろよ」
「分かりましたー!」
まあ、今日でどれほど喰うのかは分かった。
北京ダックも安くはないが、他の超高級食材なのは頼まないだろう。
乾さんに連絡し、店に向かった。
俺と亜紀ちゃんを店の前で歓迎してくれる。
「トラ! 良かった、ちゃんと遊びに来てくれるんだな」
「もちろんです! まあ、今日はお話もありましたんで」
「話?」
俺は乾さんの隣の土地を見た。
「隣は始まって来ましたね」
「ん? ああ、まあ。誰かが引っ越して来るのかな」
俺がここへ来た時は何も無かった土地だ。
簡単な柵囲いがあるだけで、ただの雑草の生えた更地だった。
今は本格的な囲いが出来、基礎工事が始まっている。
看板を見ると、杭打ち作業だ。
「うちがこんな商売だからな。マフラーを改造してでかい音を出す奴もいる。まあ、一度挨拶しておかなきゃだなぁ」
「ああ、大丈夫ですよ」
「あ?」
「すんごく、いい人ですから」
「なんだ、トラ、知ってる人なのか?」
「そりゃーもう!」
「?」
俺は乾さんを引っ張って店の中に入った。
カウンターに行き、亜紀ちゃんが図面を拡げた。
「一階に広い整備室とバイクの置き場を作ろうと思うんです」
「なに?」
「ほら、今も整備はお店の外でやるでしょ? 雨が降ったら出来ないし、夏は暑いし冬は寒いし」
「おい、トラ」
「乾さん、今もカッコイイけど、そろそろ外の作業はきついでしょ?」
「お前!」
「二階と三階は基本住居ですけど。部屋はたくさん作れるので、良かったら従業員さんが住んでも」
「お前! 何言ってる!」
「俺が出来るお礼の話をしてます!」
掴み掛かった乾さんに俺は言った。
「乾さん! 俺、乾さんたちに本当にお世話になって! 何にもできなくて。出来るようになっても二十年もなんにもしなくって!」
「トラ!」
「乾さんたちは俺のためにいろいろしてくれたじゃないですか。だから俺もいろいろしたいんですよ」
「ふざけんな!」
「ふざけてませんよ、乾さん。乾さんだって、ふざけて俺のためにあんなにしてくれたんじゃないですよね?」
「お前……」
「乾さんたちは、俺が一番腹が減ってた時に美味い物をたくさん喰わせてくれた。俺が一番大事なものを何も言わずに二十年も預かってくれた」
「……」
「俺は一生、どんなことをしてもその感謝の気持ちを現わせない。本当にありがとうございました!」
俺が頭を下げると、亜紀ちゃんも一緒に頭を下げた。
「トラ、お前、そうでも、いくらなんでも」
「乾さん、こんなものじゃ足りない。乾さんたちが俺にしてくれたことは、とってもじゃないけどこんなものじゃ全然足りないですよ」
「おい、困るよ」
「乾さん、昔のバカな俺みたいに、笑ってどんどん貰って下さいよ。そうじゃなきゃ、俺……」
乾さんは笑った。
「分かったよ。お前、すごい金持ちになったんだもんな」
「はぁ、まあそんなに大したもんじゃないですけど」
その時、店の前にハーレーなどの大型バイクが停まり、五人の人間が店に入って来た。
「トラ!」
俺に向かって走って来る。
「お前が来るっていうんで、みんなに声を掛けたんだ」
乾さんが笑って言った。
昔、乾さんと一緒に俺を可愛がってくれた方々だった。
「おい、聞いてくれよ! またこのトラがバカなことを言い出してなぁ!」
乾さんが笑いながら話した。
亜紀ちゃんを乗せて、シボレー・コルベットだ。
もうこの車に一緒に乗ってくれるのは亜紀ちゃんと六花くらいだ。
こんなにカッチョイイのに。
「乾さん、喜んでくれますかねー」
亜紀ちゃんがニコニコして言う。
「まあ、嫌がるんじゃねぇか?」
「そうですか?」
「そりゃそうだ。あの人は人から何かしてもらうのが嫌いなんだよ」
「ああ、タカさんと一緒!」
「ばかやろー! 俺は人から優しく可愛がってもらうのが大好きだ!」
「そうですか」
「そうだ! もっと俺に優しくしろ!」
「アハハハハハ!」
乾さんの店には1時間ほどで着ける。
昼食がまだだったので、俺たちは中華街に行った。
「私、中華街って初めてです!」
「そうか。お前ら大食いにはお似合いなんだけどなぁ」
「そうなんですか!」
「ああ、もうすっかり大食いは否定しなくなったな」
「エヘヘヘ」
前はバナナを持ってけと言ったら膨れていたのだが。
中華街には数多くの中華料理屋がある。
当然だ。
そして、その中にとんでもなく美味い店がある。
どこでもそこそこに美味いのだが、次元が違うのだ。
それは中華料理の奥深さを物語っている。
本場の香港の一流料理人は、塩の一粒の違いが分かるという。
俺は予約した店に入り、亜紀ちゃんと座った。
予め注文してあるので、即座に料理が出される。
「もちろん時間のかかるものもあるけど、基本的に中華料理は早いんだよ」
「へぇー」
亜紀ちゃんは既にバクバクと喰い始めた。
のんびりしていると、俺も喰えなくなるので、俺も出されるとすぐに自分の器に取る。
「ほんとに美味しいですね!」
「そうだろ?」
俺たちはニコニコして料理を堪能する。
俺たちのペースに合わせて、どんどん料理が運ばれてくる。
北京ダックが出た。
亜紀ちゃんが大喜びだ。
今日は8羽頼んだ。
「これ、最高です!」
「牛だけが肉じゃねぇって分かったか!」
「はいはい!」
それでなくても分量が多く油も多い中華料理を8人前だ。
さすがの亜紀ちゃんも満腹になった。
でも、最後のタピオカ・ココナッツを絶賛し、杏仁豆腐で大満足していた。
「今度たった一人の友達の真夜とでも来いよ」
「余計な形容詞が付きましたが」
「ほぼボッチめ」
「あー!」
俺は笑った。
「ここは俺の知り合いの店なんだ。陳さんというな。俺の名前を出せばサービスしてくれるぞ。支払いもいらん」
「そうなんですか!」
「俺に請求が来るようにしてやるから。楽しく飲み食いしろよ」
「分かりましたー!」
まあ、今日でどれほど喰うのかは分かった。
北京ダックも安くはないが、他の超高級食材なのは頼まないだろう。
乾さんに連絡し、店に向かった。
俺と亜紀ちゃんを店の前で歓迎してくれる。
「トラ! 良かった、ちゃんと遊びに来てくれるんだな」
「もちろんです! まあ、今日はお話もありましたんで」
「話?」
俺は乾さんの隣の土地を見た。
「隣は始まって来ましたね」
「ん? ああ、まあ。誰かが引っ越して来るのかな」
俺がここへ来た時は何も無かった土地だ。
簡単な柵囲いがあるだけで、ただの雑草の生えた更地だった。
今は本格的な囲いが出来、基礎工事が始まっている。
看板を見ると、杭打ち作業だ。
「うちがこんな商売だからな。マフラーを改造してでかい音を出す奴もいる。まあ、一度挨拶しておかなきゃだなぁ」
「ああ、大丈夫ですよ」
「あ?」
「すんごく、いい人ですから」
「なんだ、トラ、知ってる人なのか?」
「そりゃーもう!」
「?」
俺は乾さんを引っ張って店の中に入った。
カウンターに行き、亜紀ちゃんが図面を拡げた。
「一階に広い整備室とバイクの置き場を作ろうと思うんです」
「なに?」
「ほら、今も整備はお店の外でやるでしょ? 雨が降ったら出来ないし、夏は暑いし冬は寒いし」
「おい、トラ」
「乾さん、今もカッコイイけど、そろそろ外の作業はきついでしょ?」
「お前!」
「二階と三階は基本住居ですけど。部屋はたくさん作れるので、良かったら従業員さんが住んでも」
「お前! 何言ってる!」
「俺が出来るお礼の話をしてます!」
掴み掛かった乾さんに俺は言った。
「乾さん! 俺、乾さんたちに本当にお世話になって! 何にもできなくて。出来るようになっても二十年もなんにもしなくって!」
「トラ!」
「乾さんたちは俺のためにいろいろしてくれたじゃないですか。だから俺もいろいろしたいんですよ」
「ふざけんな!」
「ふざけてませんよ、乾さん。乾さんだって、ふざけて俺のためにあんなにしてくれたんじゃないですよね?」
「お前……」
「乾さんたちは、俺が一番腹が減ってた時に美味い物をたくさん喰わせてくれた。俺が一番大事なものを何も言わずに二十年も預かってくれた」
「……」
「俺は一生、どんなことをしてもその感謝の気持ちを現わせない。本当にありがとうございました!」
俺が頭を下げると、亜紀ちゃんも一緒に頭を下げた。
「トラ、お前、そうでも、いくらなんでも」
「乾さん、こんなものじゃ足りない。乾さんたちが俺にしてくれたことは、とってもじゃないけどこんなものじゃ全然足りないですよ」
「おい、困るよ」
「乾さん、昔のバカな俺みたいに、笑ってどんどん貰って下さいよ。そうじゃなきゃ、俺……」
乾さんは笑った。
「分かったよ。お前、すごい金持ちになったんだもんな」
「はぁ、まあそんなに大したもんじゃないですけど」
その時、店の前にハーレーなどの大型バイクが停まり、五人の人間が店に入って来た。
「トラ!」
俺に向かって走って来る。
「お前が来るっていうんで、みんなに声を掛けたんだ」
乾さんが笑って言った。
昔、乾さんと一緒に俺を可愛がってくれた方々だった。
「おい、聞いてくれよ! またこのトラがバカなことを言い出してなぁ!」
乾さんが笑いながら話した。
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