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道間家 Ⅶ

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 翌朝も、豪華な朝食だった。
 俺と栞には鱧の焼き物と豆腐や煮野菜。
 子どもたちには山盛りの焼肉が付いている。
 吸い物は麩で、出汁と塩が絶品だった。


 朝食の後、俺は双子に庭の散策に誘われる。
 亜紀ちゃんと栞は、また地下闘技場へ行った。
 相当気に入ったらしい。

 闘技場の台は鉄板を敷き、すぐに修復されたようだ。
 事前に準備されていたのだろう。

 「ほら、格闘ゲームがあるじゃないですか」
 亜紀ちゃんが言った。

 「あんな感じなんですよ。いろんな得意技を持った相手と対戦できて!」
 まあ、楽しいのならいい。



 双子に「高い高い」をしながら、美しい庭を歩く。
 時折、手入れをしている人間が俺たちを見つけると頭を下げて来る。
 俺たちも挨拶を返しながら、庭を見て行った。

 「タカさんがいないと、ちょっと歩き辛いんだよね」
 ルーが言った。
 
 「どうしてだよ?」
 「うーん、あのね、しょっちゅう私たちに寄って来るのが多いから」
 「なんだそりゃ?」
 「あのー、ああ! 「痴漢電車」みたいな?」
 「おい!」

 最近、石動から「痴漢物」が送られてきた。
 こいつら、早速チェックしてやがる。

 ハーを交えて聞いて行くと、どうやら双子は「あやかし」たちの興味を引くらしい。
 だが、俺には近づかないので、一緒にいれば安心ということらしかった。

 「うちのカワイイ娘たちにちょっかい出してやがるのか!」
 「「アハハハハハハ!」」

 「ぶっ飛ばしてやるかぁ!」
 「ダメだよ、タカさんがやると無事に済まないから」
 ルーに止められる。

 「じゃあ説教するから呼べ」
 「タカさんの傍にいるだけで消えちゃうのも多いから」
 分らんが、そういうことらしい。
 二人は、また詳しくは話さなかった。




 散歩から戻ると、麗星に誘われた。
 庭に面した広いサンルームに案内される。

 俺にはコーヒーが、双子にはバナナジュースが出された。

 「石神様、五平所から聞きました」
 「ああ」

 「本当に何から何まで」
 「いいんですよ。麗星さんには一緒に戦ってもらわなきゃならないんですから」
 
 麗星は俺を見て微笑んだ。
 
 俺は「クロピョン」の試練の話をした。

 「「Ω」の粉末を飲みました。死に掛けていた身体が、一瞬で甦りました」
 「そのような!」
 「こいつらも見てますが、俺の身体は燃えるように熱くなり、氷がどんどん溶けて行った。やせ細って、恐らく体重は40キロを切っていたでしょうね」
 「はい」
 麗星は真剣に頷いた。

 「もう死ぬことが分かった。だから最後の賭けに、「Ω」の翅を削って飲んだんです」
 「なぜそのような?」
 「それはまだ話せません」
 「分かりました」

 「オロチ」やロボのことは、まだ黙っていたい。

 「それともう一つあります。それは後日送りますので、それが揃ってからにしてください」
 「はい、分かりました。仰せのままに」

 「麗星さん、絶対に大丈夫だよ」
 「タカさんに任せて下さい」
 ルーとハーが言った。
 麗星は二人に微笑み、頭を下げた。

 「お二人にも、本当にお世話になりました」
 「麗星さん」
 「はい?」
 「みんなが見てるよ」
 「!」

 「髪を後ろで束ねた人がね、「ガンバレ」って」

 麗星が大粒の涙を流した。
 双子が次々に麗星の周囲に見える人間を説明していく。
 麗星はただただ、涙を流した。

 俺たちは麗星を残して部屋を出た。



 「良かったのか? あんなに話しても」
 「うん。大天使様がいいって」
 「大天使?」
 「言えなーい」

 俺は二人の頭を抱いて引き寄せた。

 「天使はお前らだろう!」
 「「アハハハハハ!」」



 昼食を頂き、俺たちは帰ることにした。

 麗星や五平所の他、何人かが見送りに出た。
 ハマーと亜紀ちゃんのCBRは丁寧に洗車されていた。
 麗星たちは、また何度も礼を言って来た。

 「また是非いらして下さい」
 「はい、麗星さんもうちへ是非」
 「ウフフフ、本当に伺いますからね」
 「楽しみです」

 俺たちは出発し、山を下り京都市街へ出た。

 「石神くん、折角だからどっか見て行こうよ」
 栞が言った。
 俺は車を脇に停めた。

 「ルー、ハー」
 「「はい?」」
 「覚悟しろ」
 「「はい?」

 「栞」
 「なーに?」
 「限界だ。運転を頼む」
 俺はそう言って、車から出て口から血を吐いた。

 「石神くん!」
 「「タカさん!」」

 三人が駆け寄って来た。
 目の前の店の人が驚いて出て来て、救急車を呼ぼうとした。
 俺は必死に止めた。
 これ以上、京都にいて堪るか。
 店の人に迷惑料だと10万円を渡す。


 ハーが亜紀ちゃんに連絡していた。

 「ハー、大丈夫だ。京都を出れば治る」

 栞の運転で、俺たちは京都を出た。
 相変わらず酷い運転で、双子が俺の身体に障ると何度も栞の頭を殴っていた。

 鈴鹿のパーキングで亜紀ちゃんと待ち合わせた。
 俺の体調もみるみる戻って行った。

 「タカさん!」
 ハーが俺を担いで降ろした。

 「やめろ! もう大丈夫だ!」
 ルーとハーが両脇で俺の手を握る。

 「石神くん!」
 栞も抱き着いて来る。

 「タカさーん!」
 亜紀ちゃんが俺を見つけて駆け寄って来た。

 「おい、もう大丈夫だ!」
 しかし亜紀ちゃんはベッドを確保したと言い、俺を担いで走った。

 「おい」
 「はい!」
 「俺を自殺させたいのかぁ!」

 おむつ交換用のベビーベッドだった。





 俺たちはソフトクリームを食べ、しばらく休んだ。
 亜紀ちゃんと双子は十数種類のソフトクリームをすべて制覇した。

 俺が復調したので、俺が運転して帰った。
 亜紀ちゃんはずっとハマーの後ろを走った。
 時々横に来て、俺の様子を伺った。


 帰りも道はガラガラだった。
 首都高を降りる時、前方から上空へ飛んで行く、大きなカラスを見た。
 恐らく、行きも帰りも、麗星が何かしてくれたのだろう。



 俺は双子に話し、麗星の周りに見えた人たちの絵が描けるか聞いた。

 「うん、大丈夫だよ」
 「頑張って描くね!」

 俺はその絵を麗星に送った。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 「麗星様、石神様からです」

 五平所が大きな平たい包みを持って来た。

 「あら、何かしら」

 平たい箱と、袱紗に入った手紙と透けた茶色の皮があった。
 麗星は手紙を読む。
 「Ω」の粉末と共に、口にするように書いてあった。
 そして

 「瑠璃と玻璃が、どうしても麗星さんへ送りたいと言いまして」

 そのようなことが書かれてあった。
 麗星は平たい箱を開いた。
 額縁が見えた。


 「!」


 麗星は机に突っ伏して嗚咽を漏らした。
 驚いて近寄る五平所も、額縁の絵を見た。

 懐かしい、今はもうこの世にいない、道間家の人間とそれを守った人間たちが描かれていた。





 五平所は麗星の肩に手を置き、共に涙を流した。 
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