上 下
840 / 2,806

大堕陀王 Ⅱ

しおりを挟む
 「麗星さん。「クロピョン」を呼びます。必要なことをなさって下さい」
 「では15分ほどお時間を頂けますか?」
 「分かりました」

 「クロピョン」を呼べば、道間家の防衛システムに干渉することがあるだろう。
 その障りを外す時間だ。
 麗星は室内の電話で、何回か指示していた。

 「石神様、「クロピョン」で消すおつもりですか?」
 「いいえ、それでは辺り一帯に影響が出るでしょう。ですから俺たちがやりますよ」
 「それは?」
 「「クロピョン」に結界を作らせます。俺たちが暴れてもいいように」
 「!」

 「俺もやったことはありませんよ。でも、あいつなら出来るはずです」
 「そして石神様は「大堕陀王」に勝つと?」
 「そのための「虎王」です。まあ、俺たち自身の力で何とかなるかもしれませんが、綺羅々にも通じませんでしたからね」

 「あの、私もご一緒に結界に入るわけには参りませんでしょうか?」
 「麗星さんが?」
 「はい。皆様の戦いを拝見したく思います」

 俺は少し考えた。
 恐らく亜紀ちゃんは奥義を最大出力で撃つはずだ。
 それを麗星に見せるのはどうなのか。
 しかし、俺は承諾した。

 「いいでしょう。しかし、中で観たことは決して話さないように」
 「もちろんでございます」

 口約束だ。
 だからこそ、俺は麗星を信じた。




 麗星が準備が出来たことを知らせて来た。

 「クロピョン! 地下の化け物と戦う。お前は外に影響しないようにしろ!」

 俺が言うと、地下闘技場の壁が全面黒くなる。
 内側にいる俺たちは、「クロピョン」が作った異空間に移行したようだ。
 砂と岩場の景色に変わる。
 俺は結界と言ったが、「クロピョン」はその命令を独自に解釈し、実現した。


 「タカさん!」

 亜紀ちゃんが叫ぶ。
 俺にも分かっている。
 これは「異世界召喚」だ。
 だから俺と亜紀ちゃんには、以前に召喚された記憶が甦っている。

 「あのダイダラボッチって!」
 「「大堕陀王」だ! ほぼボッチ!」
 「ひどいですよ! でも、あれは異世界から呼ばれたんですね!」
 「羽虫もそう言ってたよな?」

 「クロピョン」が、佐藤さんちの連中を呑み込んだり戻したりできる理由が分かった。
 こういう異世界に移行させているのだろう。
 それがどういう世界かは分からないが。
 「クロピョン」は、世界間を自由に移動させる能力があるらしい。
 
 「石神くん! 来るよ!」

 栞が叫んだ。
 栞は突然の変化に、そうは驚いていない。
 双子も落ち着いている。

 「お前ら! とにかくいつもの戦闘だ! ビビるなよ!」
 「「「「はい!」」」」

 500メートル先に、巨大な肉の塊があった。
 大きさはともかく、シャネルのマトラッセのように、四角い肉の表面にステッチのような模様がある。
 
 「亜紀ちゃん! 全力で「トールハンマー」を撃て!」

 亜紀ちゃんは1キロの幅で、巨大な雷撃を放った。
 肉の表面が焼け焦げたが、ダメージは少ないと見た。
 麗星が不安そうな顔をしている。

 「ルー、ハー! 「巨震花」だ!」

 双子が左右対称の動きを見せ、直径200メートルのプラズマを撃ち込んだ。
 衝突した肉が大きく抉れた。
 しかし、800メートルのサイズの中で、10メートルくらいだ。
 
 「栞、攻撃が来たら何とか防げ! 俺たちは攻撃に専念するからな!」
 「はい!」
 「ルーとハーは「巨震花」を撃ち続けろ! 亜紀ちゃんは「ヴァジュラ」を撃て!」
 「いいんですか!」

 亜紀ちゃんが確認する。

 「やってみろ!」
 「はい!」

 亜紀ちゃんは揺らめくような足の動きを見せ、右の拳を「大堕陀王」に放った。
 直径50メートルの紫色の螺旋状の巨大な光の柱が伸び、「大堕陀王」に衝突した。
 激しい雷光が閃き、美しい青のコヒーレント光が、地平の彼方へ伸びて行った。
 「大堕陀王」の身体は、大きく抉られ、その傷口が激しく燃えていた。

 「やったぁー!」

 亜紀ちゃんが喜ぶ。
 しかし、巨体がうごめき、炎が消え千切れた肉体が融合を始めた。
 双子は「巨震花」を放ち続け、融合を阻止しようとする。
 麗星は固唾を飲んで見守っている。
 その両手が重なり、無意識に祈っている。

 「タカさん!」
 「まて。これ以上はこの世界も不味い。俺が出る」
 「はい!」

 俺は「虎王」の鞘を抜いた。
 みんなが俺を見る。

 「虎王」の刀身が紅に燃え上がる。

 俺は500メートルを一気に飛んで「虎王」で「大堕陀王」を斬り裂いた。
 無数の触手のようなものが俺を囲む。
 俺が斬り裂いた場所は爆発しながら「大堕陀王」の身体を引き裂いた。
 触手は宙に留まり、下に項垂れるように落ちて行った。

 俺は高速で「虎王」で斬り裂いて行く。
 刀身が潜る度に、「大堕陀王」の巨体が四散していく。
 縦横に移動しながら、超高速で切り刻む。

 俺の周囲の空気が高熱を帯びて行った。

 「コキュートス!」

 亜紀ちゃんが冷気を撃ち込んでくれる。

 30秒ほど経ったか。

 「大堕陀王」は四散していた。




 「タカさーん!」

 亜紀ちゃんが駆け寄って来た。
 双子と栞も遅れて来る。
 俺たちは「大堕陀王」だった肉塊を見ていた。
 再生はしない。

 念のために、「螺旋花」や「虚震花」で残った肉塊を破壊して行った。



 「麗星さん、どうですか?」

 俺は「大堕陀王」の存在を確認してもらった。

 「すべて消え去ったようです。お見事でした」

 麗星は笑顔で言った。

 「クロピョン! 戻せ!」

 再び俺たちは黒い空間に包まれ、元の地下闘技場へ戻った。

 「あの「大堕陀王」が、あんな僅かな時間で消滅するとは」

 麗星が俺に言った。

 「ほぼ、無抵抗でしたね」
 「石神様……」
 
 「大堕陀王」は人間を取り込んでしまったばかりに、狭い穴倉で身動きが取れなくなっていた。
 死ぬことも出来ず、未来も無かった。




 「あれは、本当に外へ出たかったんでしょうかね」
 「分かりません」

 麗星は、ただの穴となった闘技場の台を見詰めていた。 
 俺には、あの最後の包み込むような触手が「大堕陀王」の感謝ではないかと思っていた。
 悲しい妖魔の歓喜を感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

まさか、、お兄ちゃんが私の主治医なんて、、

ならくま。くん
キャラ文芸
おはこんばんにちは!どうも!私は女子中学生の泪川沙織(るいかわさおり)です!私こんなに元気そうに見えるけど実は貧血や喘息、、いっぱい持ってるんだ、、まあ私の主治医はさすがに知人だと思わなかったんだけどそしたら血のつながっていないお兄ちゃんだったんだ、、流石にちょっとこれはおかしいよね!?でもお兄ちゃんが医者なことは事実だし、、 私のおにいちゃんは↓ 泪川亮(るいかわりょう)お兄ちゃん、イケメンだし高身長だしもう何もかも完璧って感じなの!お兄ちゃんとは一緒に住んでるんだけどなんでもてきぱきこなすんだよね、、そんな二人の日常をお送りします!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

イケメン歯科医の日常

moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。 親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。 イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。 しかし彼には裏の顔が… 歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。 ※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。

処理中です...