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大堕陀王 Ⅱ
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「麗星さん。「クロピョン」を呼びます。必要なことをなさって下さい」
「では15分ほどお時間を頂けますか?」
「分かりました」
「クロピョン」を呼べば、道間家の防衛システムに干渉することがあるだろう。
その障りを外す時間だ。
麗星は室内の電話で、何回か指示していた。
「石神様、「クロピョン」で消すおつもりですか?」
「いいえ、それでは辺り一帯に影響が出るでしょう。ですから俺たちがやりますよ」
「それは?」
「「クロピョン」に結界を作らせます。俺たちが暴れてもいいように」
「!」
「俺もやったことはありませんよ。でも、あいつなら出来るはずです」
「そして石神様は「大堕陀王」に勝つと?」
「そのための「虎王」です。まあ、俺たち自身の力で何とかなるかもしれませんが、綺羅々にも通じませんでしたからね」
「あの、私もご一緒に結界に入るわけには参りませんでしょうか?」
「麗星さんが?」
「はい。皆様の戦いを拝見したく思います」
俺は少し考えた。
恐らく亜紀ちゃんは奥義を最大出力で撃つはずだ。
それを麗星に見せるのはどうなのか。
しかし、俺は承諾した。
「いいでしょう。しかし、中で観たことは決して話さないように」
「もちろんでございます」
口約束だ。
だからこそ、俺は麗星を信じた。
麗星が準備が出来たことを知らせて来た。
「クロピョン! 地下の化け物と戦う。お前は外に影響しないようにしろ!」
俺が言うと、地下闘技場の壁が全面黒くなる。
内側にいる俺たちは、「クロピョン」が作った異空間に移行したようだ。
砂と岩場の景色に変わる。
俺は結界と言ったが、「クロピョン」はその命令を独自に解釈し、実現した。
「タカさん!」
亜紀ちゃんが叫ぶ。
俺にも分かっている。
これは「異世界召喚」だ。
だから俺と亜紀ちゃんには、以前に召喚された記憶が甦っている。
「あのダイダラボッチって!」
「「大堕陀王」だ! ほぼボッチ!」
「ひどいですよ! でも、あれは異世界から呼ばれたんですね!」
「羽虫もそう言ってたよな?」
「クロピョン」が、佐藤さんちの連中を呑み込んだり戻したりできる理由が分かった。
こういう異世界に移行させているのだろう。
それがどういう世界かは分からないが。
「クロピョン」は、世界間を自由に移動させる能力があるらしい。
「石神くん! 来るよ!」
栞が叫んだ。
栞は突然の変化に、そうは驚いていない。
双子も落ち着いている。
「お前ら! とにかくいつもの戦闘だ! ビビるなよ!」
「「「「はい!」」」」
500メートル先に、巨大な肉の塊があった。
大きさはともかく、シャネルのマトラッセのように、四角い肉の表面にステッチのような模様がある。
「亜紀ちゃん! 全力で「トールハンマー」を撃て!」
亜紀ちゃんは1キロの幅で、巨大な雷撃を放った。
肉の表面が焼け焦げたが、ダメージは少ないと見た。
麗星が不安そうな顔をしている。
「ルー、ハー! 「巨震花」だ!」
双子が左右対称の動きを見せ、直径200メートルのプラズマを撃ち込んだ。
衝突した肉が大きく抉れた。
しかし、800メートルのサイズの中で、10メートルくらいだ。
「栞、攻撃が来たら何とか防げ! 俺たちは攻撃に専念するからな!」
「はい!」
「ルーとハーは「巨震花」を撃ち続けろ! 亜紀ちゃんは「ヴァジュラ」を撃て!」
「いいんですか!」
亜紀ちゃんが確認する。
「やってみろ!」
「はい!」
亜紀ちゃんは揺らめくような足の動きを見せ、右の拳を「大堕陀王」に放った。
直径50メートルの紫色の螺旋状の巨大な光の柱が伸び、「大堕陀王」に衝突した。
激しい雷光が閃き、美しい青のコヒーレント光が、地平の彼方へ伸びて行った。
「大堕陀王」の身体は、大きく抉られ、その傷口が激しく燃えていた。
「やったぁー!」
亜紀ちゃんが喜ぶ。
しかし、巨体がうごめき、炎が消え千切れた肉体が融合を始めた。
双子は「巨震花」を放ち続け、融合を阻止しようとする。
麗星は固唾を飲んで見守っている。
その両手が重なり、無意識に祈っている。
「タカさん!」
「まて。これ以上はこの世界も不味い。俺が出る」
「はい!」
俺は「虎王」の鞘を抜いた。
みんなが俺を見る。
「虎王」の刀身が紅に燃え上がる。
俺は500メートルを一気に飛んで「虎王」で「大堕陀王」を斬り裂いた。
無数の触手のようなものが俺を囲む。
俺が斬り裂いた場所は爆発しながら「大堕陀王」の身体を引き裂いた。
触手は宙に留まり、下に項垂れるように落ちて行った。
俺は高速で「虎王」で斬り裂いて行く。
刀身が潜る度に、「大堕陀王」の巨体が四散していく。
縦横に移動しながら、超高速で切り刻む。
俺の周囲の空気が高熱を帯びて行った。
「コキュートス!」
亜紀ちゃんが冷気を撃ち込んでくれる。
30秒ほど経ったか。
「大堕陀王」は四散していた。
「タカさーん!」
亜紀ちゃんが駆け寄って来た。
双子と栞も遅れて来る。
俺たちは「大堕陀王」だった肉塊を見ていた。
再生はしない。
念のために、「螺旋花」や「虚震花」で残った肉塊を破壊して行った。
「麗星さん、どうですか?」
俺は「大堕陀王」の存在を確認してもらった。
「すべて消え去ったようです。お見事でした」
麗星は笑顔で言った。
「クロピョン! 戻せ!」
再び俺たちは黒い空間に包まれ、元の地下闘技場へ戻った。
「あの「大堕陀王」が、あんな僅かな時間で消滅するとは」
麗星が俺に言った。
「ほぼ、無抵抗でしたね」
「石神様……」
「大堕陀王」は人間を取り込んでしまったばかりに、狭い穴倉で身動きが取れなくなっていた。
死ぬことも出来ず、未来も無かった。
「あれは、本当に外へ出たかったんでしょうかね」
「分かりません」
麗星は、ただの穴となった闘技場の台を見詰めていた。
俺には、あの最後の包み込むような触手が「大堕陀王」の感謝ではないかと思っていた。
悲しい妖魔の歓喜を感じた。
「では15分ほどお時間を頂けますか?」
「分かりました」
「クロピョン」を呼べば、道間家の防衛システムに干渉することがあるだろう。
その障りを外す時間だ。
麗星は室内の電話で、何回か指示していた。
「石神様、「クロピョン」で消すおつもりですか?」
「いいえ、それでは辺り一帯に影響が出るでしょう。ですから俺たちがやりますよ」
「それは?」
「「クロピョン」に結界を作らせます。俺たちが暴れてもいいように」
「!」
「俺もやったことはありませんよ。でも、あいつなら出来るはずです」
「そして石神様は「大堕陀王」に勝つと?」
「そのための「虎王」です。まあ、俺たち自身の力で何とかなるかもしれませんが、綺羅々にも通じませんでしたからね」
「あの、私もご一緒に結界に入るわけには参りませんでしょうか?」
「麗星さんが?」
「はい。皆様の戦いを拝見したく思います」
俺は少し考えた。
恐らく亜紀ちゃんは奥義を最大出力で撃つはずだ。
それを麗星に見せるのはどうなのか。
しかし、俺は承諾した。
「いいでしょう。しかし、中で観たことは決して話さないように」
「もちろんでございます」
口約束だ。
だからこそ、俺は麗星を信じた。
麗星が準備が出来たことを知らせて来た。
「クロピョン! 地下の化け物と戦う。お前は外に影響しないようにしろ!」
俺が言うと、地下闘技場の壁が全面黒くなる。
内側にいる俺たちは、「クロピョン」が作った異空間に移行したようだ。
砂と岩場の景色に変わる。
俺は結界と言ったが、「クロピョン」はその命令を独自に解釈し、実現した。
「タカさん!」
亜紀ちゃんが叫ぶ。
俺にも分かっている。
これは「異世界召喚」だ。
だから俺と亜紀ちゃんには、以前に召喚された記憶が甦っている。
「あのダイダラボッチって!」
「「大堕陀王」だ! ほぼボッチ!」
「ひどいですよ! でも、あれは異世界から呼ばれたんですね!」
「羽虫もそう言ってたよな?」
「クロピョン」が、佐藤さんちの連中を呑み込んだり戻したりできる理由が分かった。
こういう異世界に移行させているのだろう。
それがどういう世界かは分からないが。
「クロピョン」は、世界間を自由に移動させる能力があるらしい。
「石神くん! 来るよ!」
栞が叫んだ。
栞は突然の変化に、そうは驚いていない。
双子も落ち着いている。
「お前ら! とにかくいつもの戦闘だ! ビビるなよ!」
「「「「はい!」」」」
500メートル先に、巨大な肉の塊があった。
大きさはともかく、シャネルのマトラッセのように、四角い肉の表面にステッチのような模様がある。
「亜紀ちゃん! 全力で「トールハンマー」を撃て!」
亜紀ちゃんは1キロの幅で、巨大な雷撃を放った。
肉の表面が焼け焦げたが、ダメージは少ないと見た。
麗星が不安そうな顔をしている。
「ルー、ハー! 「巨震花」だ!」
双子が左右対称の動きを見せ、直径200メートルのプラズマを撃ち込んだ。
衝突した肉が大きく抉れた。
しかし、800メートルのサイズの中で、10メートルくらいだ。
「栞、攻撃が来たら何とか防げ! 俺たちは攻撃に専念するからな!」
「はい!」
「ルーとハーは「巨震花」を撃ち続けろ! 亜紀ちゃんは「ヴァジュラ」を撃て!」
「いいんですか!」
亜紀ちゃんが確認する。
「やってみろ!」
「はい!」
亜紀ちゃんは揺らめくような足の動きを見せ、右の拳を「大堕陀王」に放った。
直径50メートルの紫色の螺旋状の巨大な光の柱が伸び、「大堕陀王」に衝突した。
激しい雷光が閃き、美しい青のコヒーレント光が、地平の彼方へ伸びて行った。
「大堕陀王」の身体は、大きく抉られ、その傷口が激しく燃えていた。
「やったぁー!」
亜紀ちゃんが喜ぶ。
しかし、巨体がうごめき、炎が消え千切れた肉体が融合を始めた。
双子は「巨震花」を放ち続け、融合を阻止しようとする。
麗星は固唾を飲んで見守っている。
その両手が重なり、無意識に祈っている。
「タカさん!」
「まて。これ以上はこの世界も不味い。俺が出る」
「はい!」
俺は「虎王」の鞘を抜いた。
みんなが俺を見る。
「虎王」の刀身が紅に燃え上がる。
俺は500メートルを一気に飛んで「虎王」で「大堕陀王」を斬り裂いた。
無数の触手のようなものが俺を囲む。
俺が斬り裂いた場所は爆発しながら「大堕陀王」の身体を引き裂いた。
触手は宙に留まり、下に項垂れるように落ちて行った。
俺は高速で「虎王」で斬り裂いて行く。
刀身が潜る度に、「大堕陀王」の巨体が四散していく。
縦横に移動しながら、超高速で切り刻む。
俺の周囲の空気が高熱を帯びて行った。
「コキュートス!」
亜紀ちゃんが冷気を撃ち込んでくれる。
30秒ほど経ったか。
「大堕陀王」は四散していた。
「タカさーん!」
亜紀ちゃんが駆け寄って来た。
双子と栞も遅れて来る。
俺たちは「大堕陀王」だった肉塊を見ていた。
再生はしない。
念のために、「螺旋花」や「虚震花」で残った肉塊を破壊して行った。
「麗星さん、どうですか?」
俺は「大堕陀王」の存在を確認してもらった。
「すべて消え去ったようです。お見事でした」
麗星は笑顔で言った。
「クロピョン! 戻せ!」
再び俺たちは黒い空間に包まれ、元の地下闘技場へ戻った。
「あの「大堕陀王」が、あんな僅かな時間で消滅するとは」
麗星が俺に言った。
「ほぼ、無抵抗でしたね」
「石神様……」
「大堕陀王」は人間を取り込んでしまったばかりに、狭い穴倉で身動きが取れなくなっていた。
死ぬことも出来ず、未来も無かった。
「あれは、本当に外へ出たかったんでしょうかね」
「分かりません」
麗星は、ただの穴となった闘技場の台を見詰めていた。
俺には、あの最後の包み込むような触手が「大堕陀王」の感謝ではないかと思っていた。
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