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大堕陀王
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翌朝。
俺と亜紀ちゃん、栞の三人は麗星に頼んで地下闘技場で遊んだ。
昨日のような怪我人の出るようなバトルではなく、組み手に近い互いの技を磨くようなものだ。
「では瑠璃様と玻璃様は、私とお茶でも飲みますか」
麗星がそう言って、二人を連れて行った。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
ルーとハーは、庭の竹林の脇に建てられた茶室へ案内された。
麗星が茶を点てる。
二人は目の前に出された和三盆の菓子をボリボリと食べていた。
ルーの前に、麗星が茶碗を置いた。
ルーは一気に飲み干す。
「あぁー!」
ハーが叫び、ルーも気付いた。
麗星は笑い、もう一度茶を作ってハーの前に置いた。
ハーも飲み干す。
「「結構なお点前で」」
「ありがとう存じます」
麗星は双子の前に冷たいミルクセーキとショートケーキを置いた。
「なんだ、あるんだ!」
二人は喜んで食べ始めた。
「あのね、麗星さん」
「はい」
「なんか言って?」
麗星は微笑んでルーを見た。
「やはり、お見通しでいらっしゃる」
「それはそうですよ! タカさんだって、だから私たちを残したんだし」
「そうでございましたか」
「私たちの力が知りたいんでしょ?」
「はい。その通りでございます」
麗星は頭を下げた。
「私たちはいろいろ見える。でも、それは教えてはいけないことばかりなの」
「さようですか」
「タカさんにも話さない。それはタカさんも知ってる」
「はい」
「でも話せる範囲もあるよ。麗星さんは、地面の下のアレを考えているんでしょ?」
「!」
「アレは、タカさんに相談すべきだと思う。私たちじゃ手に負えないかな」
「タカさんなら、何とかできるかも。聞いてみれば?」
ルーとハーは麗星に言った。
「でも、石神様はお力をお貸しして下さいますでしょうか」
「大丈夫だと思うよ。タカさん、麗星さんのこと気に入ったみたいだから」
「本当ですか!」
麗星は喜んだ。
「タカさんはね、大事な人間のためならとことんやるよ。麗星さんは、もっとタカさんに飛び込むべきだと思うな」
「わたくしがですか?」
「そう! まだ遠慮してるし、タカさんの負担になっちゃいけないって考えてるでしょ?」
「それはもちろん」
「隠してることも、話せばタカさんの負担になるからでしょ?」
「はい、その通りでございます」
双子は麗星に言い合う。
「タカさんを試すようなことをしたのも、タカさんに遠慮したいからでしょ?」
「それもお見通しですか」
「普通だったら、あんなことをしたらタカさんは怒っちゃうよ。でも、麗星さんの気持ちが分かってるから怒らないで付き合ってるんだよ」
「そうでしたか」
麗星は笑った。
「あんなに美味しい生八つ橋を一杯持って来て、多分誰にも渡しちゃいけないようなお酒を贈って来て。タカさんには麗星さんの気持ちは通じてるって!」
「はい、ありがとうございます」
「時間も無いし。タカさんのとこに行こ?」
「はい」
麗星は立ち上がり、双子と共に地下闘技場へ向かった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
麗星と双子が地下へ降りて来た。
双子が俺に駆け寄って来る。
亜紀ちゃんは二十人の闘士を相手に、暴れまわっていた。
「石神様」
「ああ、どうしました?」
「お力をお貸し下さい」
麗星が深々と頭を下げた。
「いいですよ。今日はうちの最強戦力もいますし、栞も双子も強い。大抵のことは大丈夫です」
「ありがとうございます」
麗星の両脇に双子が来た。
麗星の手を握って笑った。
「20代前の当主が、大きなものを自身に取り込みました」
麗星が語り出した。
それは「業」よりも強大な「あやかし」であり、道間家の歴史でも最大最強の「あやかし」であると言う。
しかし、制御は出来ず、ただこの世に存在するための道具として、当主が利用されるようになった。
「道間家の全力で封じましたが、それももう限界です。この闘技場も、実を申せばそのモノを大人しくさせるための、娯楽のようなものなのでございます」
「ここが?」
「はい。上で戦いを見せることで、退屈を和らげていると。アレが動き出せば、京都は一瞬で壊滅いたします」
「厄介ですね」
「石神様。どうか「クロピョン」のお力で、鎮めていただけないでしょうか」
「「クロピョン」が出ると、ここも無事では済みませんよ?」
「覚悟の上でございます。日本を守るために生きて来た私共が、日本を脅かすことになっております。これは何をどうしようとも、解決せねばなりません」
「分かりました。でも、まずは俺たちでやってみましょう」
「え?」
「亜紀ちゃん、「虎王」を持って来い」
「はい!」
麗星が驚いている。
「ここに「虎王」をお持ちだったんですか!」
「ええ。出掛けに俺に向かって飛んで来ましたからね。必要だったんでしょう」
「それは!」
「気付かなかったでしょう?」
「はい、まったく!」
「虎王」は、「Ω」をふんだんに使ったケースに入れていた。
道間家に持ち込むには、影響が大きすぎると判断したためだ。
「Ω」の翅は、「花岡」だけではなく、様々なものを「遮断」することが出来る。
双子の視線でも見えないと実験して分かっていた。
亜紀ちゃんがケースごと抱えて来た。
俺はケースを開き、「虎王」を取り出した。
「これが「虎王」……」
麗星が見詰めていた。
「タカさん、この下だよ!」
ハーが言った。
闘技場の巨大な台を指さした。
亜紀ちゃんが分厚いコンクリートと鉄板を破壊する。
台の下には、直径8メートルの空洞があった。
俺たちは下を覗き込む。
黒い平らな肉の塊がうごめいていた。
「800メートル四方あります。私たちは「大堕陀王(ダイダダオウ)」と呼んでおります」
麗星が言った。
俺と亜紀ちゃん、栞の三人は麗星に頼んで地下闘技場で遊んだ。
昨日のような怪我人の出るようなバトルではなく、組み手に近い互いの技を磨くようなものだ。
「では瑠璃様と玻璃様は、私とお茶でも飲みますか」
麗星がそう言って、二人を連れて行った。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
ルーとハーは、庭の竹林の脇に建てられた茶室へ案内された。
麗星が茶を点てる。
二人は目の前に出された和三盆の菓子をボリボリと食べていた。
ルーの前に、麗星が茶碗を置いた。
ルーは一気に飲み干す。
「あぁー!」
ハーが叫び、ルーも気付いた。
麗星は笑い、もう一度茶を作ってハーの前に置いた。
ハーも飲み干す。
「「結構なお点前で」」
「ありがとう存じます」
麗星は双子の前に冷たいミルクセーキとショートケーキを置いた。
「なんだ、あるんだ!」
二人は喜んで食べ始めた。
「あのね、麗星さん」
「はい」
「なんか言って?」
麗星は微笑んでルーを見た。
「やはり、お見通しでいらっしゃる」
「それはそうですよ! タカさんだって、だから私たちを残したんだし」
「そうでございましたか」
「私たちの力が知りたいんでしょ?」
「はい。その通りでございます」
麗星は頭を下げた。
「私たちはいろいろ見える。でも、それは教えてはいけないことばかりなの」
「さようですか」
「タカさんにも話さない。それはタカさんも知ってる」
「はい」
「でも話せる範囲もあるよ。麗星さんは、地面の下のアレを考えているんでしょ?」
「!」
「アレは、タカさんに相談すべきだと思う。私たちじゃ手に負えないかな」
「タカさんなら、何とかできるかも。聞いてみれば?」
ルーとハーは麗星に言った。
「でも、石神様はお力をお貸しして下さいますでしょうか」
「大丈夫だと思うよ。タカさん、麗星さんのこと気に入ったみたいだから」
「本当ですか!」
麗星は喜んだ。
「タカさんはね、大事な人間のためならとことんやるよ。麗星さんは、もっとタカさんに飛び込むべきだと思うな」
「わたくしがですか?」
「そう! まだ遠慮してるし、タカさんの負担になっちゃいけないって考えてるでしょ?」
「それはもちろん」
「隠してることも、話せばタカさんの負担になるからでしょ?」
「はい、その通りでございます」
双子は麗星に言い合う。
「タカさんを試すようなことをしたのも、タカさんに遠慮したいからでしょ?」
「それもお見通しですか」
「普通だったら、あんなことをしたらタカさんは怒っちゃうよ。でも、麗星さんの気持ちが分かってるから怒らないで付き合ってるんだよ」
「そうでしたか」
麗星は笑った。
「あんなに美味しい生八つ橋を一杯持って来て、多分誰にも渡しちゃいけないようなお酒を贈って来て。タカさんには麗星さんの気持ちは通じてるって!」
「はい、ありがとうございます」
「時間も無いし。タカさんのとこに行こ?」
「はい」
麗星は立ち上がり、双子と共に地下闘技場へ向かった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
麗星と双子が地下へ降りて来た。
双子が俺に駆け寄って来る。
亜紀ちゃんは二十人の闘士を相手に、暴れまわっていた。
「石神様」
「ああ、どうしました?」
「お力をお貸し下さい」
麗星が深々と頭を下げた。
「いいですよ。今日はうちの最強戦力もいますし、栞も双子も強い。大抵のことは大丈夫です」
「ありがとうございます」
麗星の両脇に双子が来た。
麗星の手を握って笑った。
「20代前の当主が、大きなものを自身に取り込みました」
麗星が語り出した。
それは「業」よりも強大な「あやかし」であり、道間家の歴史でも最大最強の「あやかし」であると言う。
しかし、制御は出来ず、ただこの世に存在するための道具として、当主が利用されるようになった。
「道間家の全力で封じましたが、それももう限界です。この闘技場も、実を申せばそのモノを大人しくさせるための、娯楽のようなものなのでございます」
「ここが?」
「はい。上で戦いを見せることで、退屈を和らげていると。アレが動き出せば、京都は一瞬で壊滅いたします」
「厄介ですね」
「石神様。どうか「クロピョン」のお力で、鎮めていただけないでしょうか」
「「クロピョン」が出ると、ここも無事では済みませんよ?」
「覚悟の上でございます。日本を守るために生きて来た私共が、日本を脅かすことになっております。これは何をどうしようとも、解決せねばなりません」
「分かりました。でも、まずは俺たちでやってみましょう」
「え?」
「亜紀ちゃん、「虎王」を持って来い」
「はい!」
麗星が驚いている。
「ここに「虎王」をお持ちだったんですか!」
「ええ。出掛けに俺に向かって飛んで来ましたからね。必要だったんでしょう」
「それは!」
「気付かなかったでしょう?」
「はい、まったく!」
「虎王」は、「Ω」をふんだんに使ったケースに入れていた。
道間家に持ち込むには、影響が大きすぎると判断したためだ。
「Ω」の翅は、「花岡」だけではなく、様々なものを「遮断」することが出来る。
双子の視線でも見えないと実験して分かっていた。
亜紀ちゃんがケースごと抱えて来た。
俺はケースを開き、「虎王」を取り出した。
「これが「虎王」……」
麗星が見詰めていた。
「タカさん、この下だよ!」
ハーが言った。
闘技場の巨大な台を指さした。
亜紀ちゃんが分厚いコンクリートと鉄板を破壊する。
台の下には、直径8メートルの空洞があった。
俺たちは下を覗き込む。
黒い平らな肉の塊がうごめいていた。
「800メートル四方あります。私たちは「大堕陀王(ダイダダオウ)」と呼んでおります」
麗星が言った。
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