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道間家 Ⅲ

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 俺たちは麗星が用意してくれた浴衣を着ていた。
 麗星は廊下で声を掛け、部屋へ入って来た。

 「先ほどは大変失礼いたしました」
 「いや、こちらこそ娘がご迷惑を」
 「夜も遅うございますが、酒席を用意いたしました。宜しければ、別室で」
 「そうですか。是非いただきます」

 俺はルーとハーにもう寝るように言い、栞と亜紀ちゃんを連れて行った。
 先ほどの広い洋間に案内される。

 「何を召し上がりますか?」

 麗星が聞いて来た。

 「バーボンは何がありますか?」
 「ワイルドターキーがございますが」
 「では、それをロックで」
 「私は何かソフトドリンクを」
 「私は『霊破』!」

 俺は亜紀ちゃんの頭をはたく。

 「ここで、面倒くさくなるんじゃねぇ!」

 麗星が笑った。

 「日本酒がよろしいですか?」
 「いえ、じゃあタカさんと同じで」

 麗星はインターホンでどこかへ連絡した。
 すぐに酒の用意がされ、つまみも運ばれてきた。

 麗星も俺たちと同じものを飲んだ。




 「ここへ来て、初めて尋ねられましたね」

 俺が言うと、麗星が微笑んだ。

 「いろいろと申し訳ありませんでした。石神様の御意向を試すような真似をいたしました」
 「それは御当主ですからね。ある程度は覚悟していました。

 「お怪我を負わせるつもりはございませんでした。ただ、道間の成果を実感していただこうと」
 「分かっています。俺の方の実感も味わっていただけましたか?」
 「はい、存分に」

 麗星は笑った。

 「まさか、道間の本気まで晒されるとは思いませんでしたが」
 「娘が手を掛けた方々は大丈夫ですか?」
 「はい。お嬢様も大分手加減して下さったようですから」
 「タカさん! 結構強かったですよ!」
 「そうか」
 
 「でも、お嬢様は道間の防衛担当を制してしまわれました。石神様が私たちに敵対するのなら、ほとんど抵抗出来ませんね」
 「そんなことは。現実に「道間家」が成し遂げた「業」を持て余している状態ですから」

 麗星が沈黙し、俺を見ていた。

 「石神様、率直にお伺いいたしますが、道間家とどのようなお付き合いを考えていらっしゃいますか?」
 「「業」は日本と敵対します。まあ、世界とですけどね。俺たちがいる日本は特別に狙われる」
 「さようですか」

 「俺は「花岡」を使い、「虎王」を使い、「道間家」と共に「業」と戦うつもりでいます」

 麗星は、目に力を込めて、俺を見詰めている。

 「麗星さん、道間家の力を貸して下さい」
 「……」
 「お願いします」

 「石神様、元より私はそのつもりでおりました」

 麗星は微笑んだ。

 「「大黒丸」を従え、「虎王」の主である石神様に、道間家は全てを捧げます」
 「ありがとうございます」
 「石神様に、そう言って頂けるようにお誘いしたつもりでした。大分予想を上回りましたが」

 麗星が笑った。

 「私も当主です。私から頼み込んで石神様の下に着くことは出来ませんでした。煩わしい思いをさせて申し訳ありませんでした」
 「いいえ」





 「「業」のことをお話しいたします」

 麗星が語り出した。





 先代「道間宇羅」は、幼い子どもに霊的な繋がりを持たせ、成長と共に「あやかし」と融合させることを考えていた。
 融合は、適性の有無で決まり、その度合いは限定的なものになる。
 人間としての思考を残しながら行なうためだ。
 だからパイプの太さが決まってしまう。

 そこで宇羅は、成長と共に融合度を変えていく方法を試みた。
 適性は「残忍」であること。
 あやかしに、人間の善悪は無い。
 思うままに破壊し、殺す素質が求められた。

 そのことで、強大な力を持つものとの融合が成功した。
 赤星綺羅々は二体もの「あやかし」と融合出来た。
 もう一人は一月後に身体が四散して失敗した。
 宇羅は三人目を慎重に扱った。
 「花岡」の血と素質は、最大最強の「あやかし」との融合を成功させた。

 《大羅天王》

 それが宇羅が呼び出した「あやかし」の名前だった。
 遙かな古代より、あやかしの「核」を集め、使役する「闇の霊獣の王」と呼ばれる存在だった。
 人間の魂を汚し、別な存在として下天させる。
 「業」の邪悪な性質と結び合い、もはや誰にも止められないものとなっている。




 「宇羅は道を踏み外したのです。一族が求めていた最強の者を生み出しはしましたが、それは倭を守るものではありませんでした」

 麗星は何の思いも映さない声で言った。

 「宇羅はどうなったんですか?」
 「「業」に操られています。恐らくは「業」の近くに、まだ居りましょう」
 「先ほど、成長、と仰いましたが」
 「はい。「業」は覚醒いたしました」
 「それは?」

 「石神様との出会いが、「業」を変えました。「業」は石神様を求めずにはいられない。覚醒したのは、そのようなことだと思われます」
 「俺を?」

 「石神様は御自分では自覚があられない。しかし、その眩しい程の火柱は、「あやかし」共にとって抗い難い魅惑のものなのです。味方もあるでしょうが、反対に敵も引き寄せる」
 「厄介ですね」
 
 麗星は栞に向いた。

 「花岡様」
 「え、私!」
 「石神様の御子を」
 「へ?」
 「「業」との戦いには、「死王」が必要です」
 「え、え、え、え、え、えぇー!」

 栞は驚いていた。

 「あの、私は!」

 亜紀ちゃんが叫んだ。

 「技を御磨き下さい」
 「えぇー!」

 俺は亜紀ちゃんの頭をひっぱたいた。


 「具体的に、「業」の力というのはどういうものなんですか?」
 「もう、道間家にもよくは分からないのです。《大羅天王》の力は、自分が取り込んだ悪鬼たちの使役です。人間に潜り込ませれば、人間を汚染します。しかし、その力そのものを「業」が扱えるかどうかは分かりません。でも、私は「業」が同じようなことを地上で行なうのではないかと考えています」
 「!」

 俺はチェルノブイリでの未知の伝染病の話を麗星にした。
 そして「業」がその病原菌を手に入れているのではないかと。

 「石神様の御考えの通りかと。恐ろしいことでございます」
 
 麗星は即座に同意した。
 





 俺たちはみんな、言葉を喪った。   
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