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道間家 Ⅱ

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 俺たちは、また長い階段を昇り始めた。
 俺の服の背を、栞が引いている。

 「ちょっと、石神くん」

 栞が小声で話す。

 「ねぇ。これ、どうなってるの?」
 「まあ、後だ。よく頑張った」
 「全然分からないんだけど!」
 「上に戻ったら、麗星に聞いてみろよ」
 「うん!」

 20分かけて、地上へ出た。
 
 「麗星さん! ちょっといいですか!」

 麗星が振返った。

 「あの! お食事は美味しかったんですけど! さっきのバトルって何だったんですか?」
 「はい? 石神様はお分かりかと思っておりましたが」

 「え? 俺はただ戦えと言われたので致し方なく」
 「そうなのですか」

 麗星は俺を見ながら言った。

 「まあ、死ぬかとは思いましたが、ああいう状況ではもうやるしかないと。いやぁ、みんな無事で良かったなぁ」
 「ちょっと、石神くん!」
 「何しろいきなりだったもんな。有無を言わさず。まいったよなぁ」
 「それは大変失礼いたしました。わたくしも……」

 俺は言葉を遮った。
 麗星は会話の展開を訝しんでいる。

 「もちろん! 身内の者が暴走しちゃうこともあるでしょう。俺たちも危なかったけど、仕方ありませんよ」
 「石神さん?」

 俺はスマホを取り出した。
 電話をした。




 5秒後。
 離れた場所で大きな轟音が響いた。
 続いて巨大な閃光が辺りを昼のように照らす。

 「これは!」

 麗星が叫んだ。
 同時にスマートフォンを取り出し、どこかへ連絡した。

 「あー、「トールハンマー」まで使ってるよ」
 「威力はさすがに抑えてるみたいだけどねー」

 ルーとハーが呟いた。
 俺は黙って立って待っていた。
 10人ほどの男たちが駆け寄って来る。

 「侵入者です! 不審なバイクに乗った人物が、塀を乗り越えて来ました!」
 「状況は!」

 麗星が問う。

 「『景殷熊』と『黄舞羅』は瞬く間に斃されました。現在『泥澄亀』と『青屡竜』が応戦中!」
 「おい! 出し過ぎよ!」
 「いえ! 侵入者は強大です! あの二体を出しても収まるか」
 「そ、それほどか!」
 「はい」

 報告が終わったようだ。




 「麗星様! 早く!」

 男たちは、麗星をどこかへ連れて行こうとしているらしい。
 しかし、麗星は動かない。
 俺を見詰めている。
 俺は笑って激しい音のする方向を見ていた。
 一際大きな閃光と地面を揺るがす震動があった。
 麗星は青ざめ、その周囲を十人の男たちが緊張して囲んでいる。

 バイクの音が近づいてくる。
 真っ直ぐにここを目指している。
 双子が前に駆け出した。

 「タカさーん!」
 「「亜紀ちゃーん!」」

 栞が俺の腕を掴んだ。

 「あの、なにアレ?」
 「ニャハハハハハ!」

 亜紀ちゃんが俺の前でバイクを止めた。

 「タカさーん!」
 「おう!」

 「あの、石神様……」

 麗星が俺に問う。

 「申し訳ない! 甘ったれた娘が、どうも俺に会いに来てしまったようで!」
 「はい?」
 「あの、一緒に泊めて頂いていいですかね?」
 「石神様……」
 「アハハハハハ! いやぁ、まいりました。ここまで追い掛けてくるとは思いませんで」
 「タカさーん!」

 亜紀ちゃんは俺にべったりくっついている。





 「フフ、ウ、ウワハハハハハハハ!」

 麗星が爆笑した。
 男たちが不安そうに見ている。

 「もちろんです、石神様! どうぞお嬢さんをうちへ! 歓迎いたします」
 「あ! こいつ無理矢理入って来たみたいですけど、警備の人とかにご迷惑かけてません?」
 「いいえ、大したことはないようです」
 「そうですか! 良かったー!」

 麗星を囲んでいた男たちは、二人を残し、後の八人は亜紀ちゃんが来た方へ駆け出して行った。





 俺たちは風呂を頂き、俺の部屋に全員が集まった。

 「石神くん! 亜紀ちゃんが来ることは分かってたの?」

 栞が叫んだ。

 「ああ」
 「二人も知ってたのね!」
 「「うん!」」

 双子が笑顔で頷く。

 「どうして私だけ!」
 「栞は腹芸が出来ないからなぁ」
 「えぇー!」
 「ルーとハーは「ワル」だからな。俺に付き合って悪いことが出来る。でも栞はダメだ」
 「ひどいよ、私だけ何も知らないで」
 「まあ、悪かったよ。でも何かあれば俺が命をかけても救うつもりだったしな」

 俺はそう言って栞の肩を抱いた。

 「え!」

 栞は驚きつつも、俺に身体を預ける。
 いつもながらに、ちょろい。


 「さて、麗星の探りはそろそろ終わりだろう」
 「ねぇ、石神くん。その「探り」って何?」
 「俺たちを信用できるか、自分たちを信頼してくれるか。どこまでのお付き合いか。そういう感じかな」
 「どういうこと?」

 俺は説明した。
 道間家は長い歴史の中で、特別な術を生み出した。
 恐らく最初は「あやかし」などの使役、また助力の方法だった。
 そこから、それらを人間と融合させる術を求めた。
 まだまだ途上にあるのだろうが、ある程度は成功している。
 
 しかし、その技術を外へ漏らすことは絶対に出来ない。
 だから秘匿しつつも、力の一端を見せながら、自分たちに協力させるようになった。

 「それがさっきの「地下闘技場」なんだろうな」
 「なるほど」
 
 「そして、俺たちが道間家と交流するつもりがあるのかどうかを探ったのが今回のことだ」
 「いきなり闘わせたりってこと?」
 「そうだ。食事で面白くもないもてなしをし、次に無茶なことをやり。俺たちがそれで文句も言わなければ、当然付き合いたがっている、ということだ」
 「じゃあ、亜紀ちゃんは?」

 「「お付き合い」のレベルを上げたってことだな」
 「どういうこと?」
 
 「麗星は手の内を見せたように見せかけたんだ。チャンピオンって言ってただろ?」
 「ああ!」
 「あの地下闘技場は、特別な人間しか案内してない。でも、あれが道間家の頂点なわけはねぇ。だからもっと本気でお付き合いしてもらえるように、亜紀ちゃんに暴れてもらった」
 「なるほど!」
   



 麗星が来た。
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