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道間家

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 斬と蓮花に会った翌週の金曜日。
 俺は3時に仕事を上がり、栞と双子をハマーに乗せて京都へ向かった。
 以前は京都へ行くと決めた途端にぶっ倒れた。
 でも、今はそんなこともない。
 奈津江が今も俺を見てくれていることを知ったせいだろう。
 そのことを教えてくれたルーとハーには、本当に感謝だ。
 
 俺の隣で栞は上機嫌だ。
 
 「石神くん! もっと飛ばそうよ!」
 「えーとー」
 「運転替わろうか?」
 「……」

 連れて来ない方が良かっただろうか。
 でも、ニコニコと笑っている栞は、確かに美しかった。
 双子は、後ろのシートでおやつの骨付き唐揚げを喰っている。
 亜紀ちゃんが作ってくれた。
 3キロある。

 東名も新東名も、道は空いていた。
 栞に促されたせいではないが、俺も結構飛ばしている。
 ハマーのV8エンジンが、解放された歓びに唸っている。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「麗星さん、それでは来週の金曜の晩に伺いますね」

 俺は蓮花の研究所から戻った日に、麗星へ確認の電話を入れた。

 「はい。楽しみにお待ち申し上げております」
 「あの、本当に二泊もしてよろしいのでしょうか」
 「もちろんです。石神様が宜しければ、もっと長く滞在していただきたいのですが」
 「申し訳ありません。俺も忙しいものでして」

 麗星は、本当に残念がっていた。

 「そうだ。お土産で何か欲しいものはありますか? 前回は俺が無理を言って生八つ橋をあんなに頂いてしまったので」
 「とんでもありません。どうか何も持たずにいらしてください」
 「そうですか」
 「そういえば、可愛らしいお二人のお子さんもご一緒なんですよね?」
 「はい。その辺の雑草でも喰わせてもらえば結構ですから」
 「オホホホホ!」

 「それと、俺の友人を。花岡栞です」
 「まあ、それは本当に楽しみです」
 「宜しくお願いします」

 俺は電話を切った。



 「タカさーん」

 亜紀ちゃんが寄って来た。

 「お前はダメだ!」
 「そんなー」
 「大勢でお邪魔できない。それでなくても四人で行くんだしな」
 「亜紀ちゃんといると楽しーですよー」
 「まあ、それはそうだけどな。今回は家にいろ」
 「えー」

 はっきり言って、俺も迷った。
 亜紀ちゃんにも道間家と繋いでおいて損は無いとも考えた。
 しかし、今後も付き合いはあるだろう。
 序盤でうちの手の内をあまり拡げたくは無い。
 今回はルーとハーに、出来るだけ道間家を見させる。
 その上で、付き合い方を考えるつもりだ。


 俺の勘は、道間家と敵対することはないと告げていた。
 だから「クロピョン」も見せたし、ロボを隠すことも無かった。
 「虎王」の存在も知らせた。


 しかし道間家の女だ。
 表面の明るい優し気なものだけではないだろう。
 それでも、俺はまた麗星に会えるのを楽しみにしていた。



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 俺たちは豊田東ジャンクションの手前まで来ていた。
 まだ5時前だ。
 異常に道が空いていた。

 「石神くん」

 栞が俺にポッキーを差し出していた。
 俺は口を開け、ポリポリと食べた。

 「道間家のことをおじいちゃんにも聞いたのね」
 「ああ」
 「私も全然知らなかった。でも、うちとも交流があったって」
 「そうだってな」

 「今の当主は若い人なんでしょ?」
 「ああ、まだ30代に見えたな」
 「信頼できそうな人?」
 「斬よりもな」

 俺は腕を叩かれた。

 「石神くんがそう言うならいいんだけど」
 「俺のために、あんなに美味い生八つ橋をたくさん持って来てくれた女だ。悪い人間のはずはねぇ」
 「そうなんだ」

 俺は今回の京都行きで、麗星が買って来てくれた店に予約を入れた。
 だが、三ヶ月先まで予約で埋まっているとのことだった。
 それに、一人二つまで。
 俺に急に会いにきてくれた麗星は、どうやって10箱も用意してくれたのか。
 


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 双子は気持ちよさそうに眠っていた。
 しょっちゅう大騒ぎし、大問題も起こすが、本当にカワイイ奴らだ。
 俺は新名神高速のサービスエリアに寄った。
 ルーとハーはまだ寝ている。
 双子の食べた大量のゴミを持って、栞と二人でそっと出た。

 コーヒーを飲んだ。

 「道がやけに空いてたなぁ」
 「そうだったね」
 「栞に運転してもらっても良かったな」
 「だから言ったじゃない」
 「アハハハハハ」

 まるで前に車がほとんどいなかった。

 「あと1時間くらいかな」
 「なんだか緊張してきたね」
 「まあな。ここからは俺の体調をみて、もしもの場合は頼むぞ」
 「うん!」

 でも、大丈夫だろうと感じていた。
 俺たちは六時半頃に、道間家の近くを走っていた。
 麗星に電話した。

 道間家は山間部にある。
 やがて、大きな門が見えて来た。

 ハマーが近付くと、門が自動で開いた。
 俺は敷地を走って行くと、作務衣を着た男性が手を振っている。
 
 「石神様ですね。ご案内しますので、乗っても宜しいですか?」
 
 栞を後ろに座らせ、男性を助手席に乗せた。
 広大な敷地だ。
 SRCの大きな建物も点在している。
 蓮花の研究所と似ている。
 敷地の中央に大きな日本家屋が見えた。
 男性はそこの駐車場に停めるように言った。

 車を停めると、麗星が出て来た。

 「ようこそ、石神様」
 「麗星さん、お世話になります」

 荷物は麗星と一緒に出て来た人間たちに預け、俺たちは庭を案内されて進んだ。
 
 「まずはお茶をお出しするところですが、もう夕飯をご用意した方がよろしいかと」
 「お気遣いすみません」

 うちの夕食は早い。
 もうとっくに食べている時間だった。

 驚いた。

 案内された庭に、バーベキューの用意がしてあった。
 大量の肉がある。
 石神家シフトだった。
 双子が後ろで喜んだ。

 「石神様の御宅のようには参りませんが」
 「いえ、驚きました」
 「私どもも、ご紹介した者がおりますが、お食事をしながらでも宜しいですか」
 「はい。お願いします」

 俺たちはバーベキュー台の近くのテーブルに座った。
 どんどん焼いたものが運ばれる。
 冷えたビールがあり、俺たちは楽しく食事を始めた。

 麗星が何人かの人間を俺に紹介した。
 俺も栞と双子を紹介する。
 双子は席を立たない。
 二人の食べるペースに合わせて肉が皿に置かれる。
 見事なサパーだった。

 俺と栞ももちろんそうだ。
 しかも、俺たちが食べたいものが運ばれてくる。

 座ったまま、良いタイミングで料理が運ばれ、楽しく会話し、紹介の人間も絶妙な間隙に来る。
 見事な晩餐だった。

 俺は立ち上がって歌った。

 ♪ Buddy, you're a boy, make a big noise Playing in the street, gonna be a big man someday …… We will, we will rock you ♪

 「おい、お前ら何ぼうっと喰ってやがる! 踊れ!」
 「「はい!」」

 双子が踊り出し、空中を跳ねて舞う。

 焼きのタイミングがずれた。
 会話が途切れた。
 紹介の人間が立ち止まった。

 歌い終わると、麗星が拍手し、他の人間たちも手を叩いた。

 「おい! あとは自分たちで好きに焼かせてもらえ!」
 「「はーい!」」
 
 双子はバーベキュー台に走って行き、トンを借りて自分たちで焼き始めた。

 「どうにも俺の育て方が雑で。自分でやらないと喰った気にならないんですよ」
 「さようでございますか。余計なことをいたしました」

 もう、俺たちに紹介する人間は来なかった。
 麗星と俺と栞にだけ、焼いたものが置かれた。
 俺たちは好きなように食べた。



 麗星は笑顔で俺たちの食事を眺めていた。  
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