富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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蓮花の証言

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 蓮花の研究所では、すぐに話を始めた。
 蓮花にも、「業」の行方と目的の話をしている。
 それに加え、俺は先ほどの斬から聞いた話をした。

 「蓮花、お前は俺に、姉の蓮華が「呪縛から解放された」と言ったな」
 「はい、申し上げました」
 「そのことを、もっと詳しく話せるか?」
 「はい。姉は「業」に操られていたと申しますか、魅了されていたようです」
 「そうか」

 蓮花は言葉を選び、ゆっくりと話した。

 「最初は斬様の命令で、「業」の世話を申し付かりました」
 「その時、お前は?」
 「わたくしは、その折は別な場所に居りました。チバガイギー社、現ノバルティス社ですね」
 「なに!」
 「何か?」
 「お前、OLだったの?」
 「はい」

 「「!」」

 驚いた。

 「スーツとか着てたの?」
 「それは、もう」
 「その着物じゃなく?」
 「はい。あの、そのお話をいたしましょうか?」
 「いや、いい。またいつかな」
 「かしこまりました」

 まさか蓮花が世界的な製薬会社にいたとは思わなかった。
 蓮花は蓮華の変遷を話した。

 「「業」の下へやられたのは、「業」が望んだからだそうです」
 「ほう」
 「「業」は与えられた屋敷から出ぬように言われておりましたが、度々抜け出して斬様の屋敷にも行っていたようです」
 「その辺りは「ブラン」たちの記憶にもあったな」
 「はい。そして「業」は姉の蓮華を見つけ、自分の手元に置くように望んだと」
 
 想像は出来る。

 「でも、よく斬が手放したな。蓮華は斬が見込んでいたんじゃないのか?」
 「はい。斬様が気付いた時には、既に蓮華の魅了は完成していたようです。手元に置くことも出来ず、斬様は蓮華を手放しました」
 「そうか」

 斬はそう言ったことはなかったが、恐らく当時から「業」の強さを恐れていた。
 正面から対峙すればどうだったかは分らん。
 しかし、出来るだけ、それを避けていた。
 雅さんが襲われミユキが拉致された時にも、斬は手をこまねいていた。

 「蓮花、「業」の能力は分かるか?」
 「申し訳ありません。それは蓮華にもよくは分からなかったようです」
 「魅了に関してはどうだ」
 「それもはっきりとは。ただ、最初はとても恐ろしかったとしか」
 「そうか」


 俺たちは話し合いを終えた。




 俺と亜紀ちゃんはミユキたちブラン、そしてデュール・ゲリエと戦闘訓練をした。
 亜紀ちゃんは、もうデュール・ゲリエに追い込まれることは無かった。
 デュール・ゲリエ自体を楯として戦うことを覚えた。

 デュール・ゲリエも戦法を変えて来た。
 ツーマンセルになり、一体が防御、もう一体が攻撃の役割分担で亜紀ちゃんに向かう。
 しかしそれも、亜紀ちゃんが二体を同時攻撃し、撃破した。
 手数は増えても、亜紀ちゃんはそれを「一体」として捉えていたためだ。

 今回はティーグフの巨大化は出さなかった。
 亜紀ちゃんは悔しそうだった。

 「折角攻略法を考えてたのにー!」
 「アハハハハ!」

 俺と亜紀ちゃんは風呂に入った。




 「タカさん、今日はいろんなお話が聞けましたね」
 「そうだな。まあ、決定的なものは無かったが、十分な成果だろう」
 「亜紀ちゃんマスコットのお陰ですね!」
 「なんだ、そりゃ?」
 「お出掛けの時に亜紀ちゃんを連れてくと、いいことがあるんですよ!」
 「そうだったのか」

 「だからー、京都もー」

 俺は笑った。

 「どうせハマーで行くんですよね?」
 「まあ、そうだな」
 「私が乗っても大丈夫じゃないですか!」

 俺は考えておくと言った。
 俺はあまり人数を増やしたくは無かった。
 双子はあの不思議な感知能力を当てにしている。
 道間家は不思議な家系だ。
 ルーとハーは、俺が感じ取れないものを見てくれるかもしれない。
 それと、情けないが俺がダメになった時の運転手だ。
 その役割ならば、六花が最適だ。
 しかし、今回は「花岡」との関りを重視し、栞を選んだ。
 今、栞はハマーの運転に慣れてもらっている。
 「絶対に傷つけるな」と本気で言っているので、それなりに運転は慎重だ。
 まあ、「人喰いランクル」が出ても、俺たちならば問題はない。

 亜紀ちゃんには役割がない。
 他のことであれば、連れ歩くのもいい。
 亜紀ちゃんといると楽しい。
 俺は道間家に、まだあまりうちを探られたく無かった。
 そのために、最小限の人数にしたかった。

 俺は亜紀ちゃんに掌を前に出しておくように言った。
 亜紀ちゃんは何かに期待して、目を輝かせる。

 「螺チン花!」

 オチンチンを掌に突き刺す。

 「アァ! ボンってしましたよ!」
 「ワハハハハハ!」
 「ギャハハハハ!」

 「俺がオチンチンで戦える日も遠くないな!」
 「はい!」

 亜紀ちゃんといると楽しい。




 夕食は、蓮花がローストビーフを作っていた。
 うちでも時間がかかるので、あまりやらない。
 亜紀ちゃんは大喜びだった。
 5キロをたちまち食べる。

 まだ肉は半分ほど残っている。
 亜紀ちゃんの大食いに合わせ、10キロも用意していたのだ。

 「おや、亜紀様。もうお腹一杯ですか」
 「え! まだまだ食べますよ!」

 蓮花が嬉しそうに微笑んでいる。

 「あと40キロ用意しております」
 「!」
 「前回と同じ趣向です」

 亜紀ちゃんが俺を見た。
 前回は肉が少なく、亜紀ちゃんが悲しそうな顔をした。
 そして蓮花は、ずっと大きな肉の塊を出して、亜紀ちゃんを喜ばせた。

 「亜紀様、冗談でございますよ?」
 「エェー」
 「ウフフフ」

 亜紀ちゃんは7キロ食べ、残りは土産にしてもらった。



 俺と亜紀ちゃんはミユキを呼んで、また花壇を見せてもらった。
 前回の写真を皇紀が感動し、双子に頼んで「花壇」の土を少し送った。
 シロツメクサが、大倫の美しいピンクの花を咲かせていた。
 
 「ちょっと雰囲気が違うな」
 「でも綺麗ですよ?」
 「そうだけどなぁ」

 ミユキが笑っていた。

 「皇紀様が送って下さったものです。私には何よりも嬉しい」
 「そうか」



 中へ戻ると、蓮花が酒の準備をしてくれていた。
 今日は日本酒だった。

 「亜紀様、おつまみにローストビーフをお出ししますか?」
 「いえ、どうか別なもので」

 蓮花は笑って、刻んだタラの芽の味噌和え、子持ちししゃも、刺身の盛り合わせを出して来た。
 ミユキは俺が作った「キール」を飲む。

 「少し前にな、道間麗星から酒を貰ったんだ」
 「さようでございますか」
 「ああ。俺は夜遅く帰って、開いてなかったんだよ。そうしたら、こいつが勝手に飲みやがって。なぁ?」
 「タカさん、その話は」

 「そうしたらな。突然甘えた猫になりやがった! 「亜紀ちゃんニャンコですよー」とか言い出してよ!」
 「「アハハハハハ!」」
 「タカさーん」

 「夜中だったけど、心配で麗星に電話したら。甘やかして寝かさないとダメだって言われた」 
 「少し怖いお酒ですね」
 「おお。本来は霊的に悪いことが起きた人間に飲ませるものらしいんだな。平常の人間は飲んだら甘えて来る」
 「そうなんですか」

 「それでな。一緒に飲んでた柳までがバッと飲みやがって! お陰でひでぇ目に遭った」

 蓮花は可笑しそうに笑った。

 「すいませんでしたぁ!」
 「柳なんて、「甘やかしてくれるんですよね」とか言ってよ。まったく、お前らは何なんだよ」
 「だからすいませんってぇー!」

 みんなで笑った。
 その後で、蓮花が真剣な顔で言った。

 「石神様、そのお酒は、「業」の防御に使えないでしょうか?」
 「ん? あぁー!」
 「霊的防御はわたくしも未熟です。今後は研究してまいりますが、今のお話は即効性があるのではないかと」
 「蓮花! お前天才だな!」
 「亜紀ちゃんマスコット効果もー!」
 「アハハハハハ!」

 偶然、いいことを発見した。

 「蓮花さん、うちの近くの「佐藤さん」の家って知ってます?」
 「いいえ、あいにく」

 亜紀ちゃんは恐ろしい土地で、霊的な現象が恐ろしいのだと話した。

 「そこにタカさんに連れ込まれて!」
 「それは大変ですね」

 蓮花は笑っている。

 「そうなんですよ! 玄関に血だらけの女の人とか。気が付くと大勢の人が周りに立ってるとか!」
 「ウフフフ」
 「そういえば、なんでタカさんって平気なんですか?」
 「俺?」

 「そうですよ! あんなに怖いのに」
 「まーなー。俺はそんなに怖くねぇから」
 「だから、どーして!」
 
 亜紀ちゃんは不満そうだ。

 「亜紀様、石神様はお強いんですよ、命が」
 「そうなんですか?」
 「はい。亜紀様は戦う力は強大です。でも、命は普通なのだと思います」
 「はぁ」
 「石神様は違う。命の大きさも大きいんでしょう」
 「そういうものですか」

 蓮花は微笑んで言った。

 「亜紀様は、石神様が何度も死に直面したことは御存知ですよね?」
 「ああ、なるほど!」
 「普通の人間が常に死ぬところを、石神様は生き延びていらっしゃいます。わたくしたちとは、命、運命が違うのでございます」
 「蓮花さん、すごい!」

 ミユキも口を開いた。

 「私たちがまだ虚ろな頃。石神様が来られた時だけ、命の欠片が輝いた気がいたしました」
 「ミユキさん……」

 「後から記憶を取り戻して、あの時のことがはっきりと分かります。石神様の命の炎に触れて、何も無かったはずの私たちが、確かに震えたのです」
 「そうなんですか」

 「あともう御一方。皇紀様の涙が」
 「はい」
 「皇紀様の御優しい心も、私たちに届いておりました」

 亜紀ちゃんは弟が褒められ、嬉しそうだった。

 「亜紀ちゃん」
 「はい、タカさん!」
 「もうちょっと皇紀にも肉を喰わせてやれ」
 「タカさん!」

 みんなで笑った。





 俺たちは早めに切り上げ、翌朝早く蓮花の研究所を出た。
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