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佐藤家の散歩

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 乾さんの店に行って大泣きした翌週の土曜日。
 俺は仕事が忙しく、何も出来なかった。
 もちろん、院長や栞、鷹、響子、六花、それに一江や大森たちには深く詫び、また礼を言った。
 みんな良かったと言ってくれ、そしてニヤけていた。

 随分と恥ずかしかった。

 金曜の晩には鷹のマンションへ行った。
 今日の昼は栞を招いた。
 夕方には響子に会いに行き、六花のマンションへ行くつもりだ。
 院長のお宅には昨日の晩から双子が泊まりに行ってくれている。
 一江と大森は、「ざくろ」でたらふく喰わせている。
 レイと柳には、ちょっとしたアクセサリーを買い、礼と詫びとした。
 子どもたちには、いい肉を喰わせた。
 肝心の乾さんには、お金は受け取らないだろうから、今準備中だ。
 そのために、翌週に伺うことにしている。



 さて。
 じゃあ、けじめを付けようか。



 昼食で栞はご機嫌で、先週の俺の乾さんとRZとの再会を喜んでくれた。
 俺は顔から火が噴きそうなほど恥ずかしかったが、努めて笑顔を保った。

 「石神くん! 本当に良かったね!」
 「ありがとー」

 我がことのように喜んでくれる栞に心底感謝する。
 優しい女だ。

 「タカさん! 来週がまた楽しみですね!」

 亜紀ちゃんが言う。

 「あ?」
 「?」

 楽し気に、昼食が終わった。
 栞は美味しかったと言って、ニコニコ顔で帰って行った。



 「亜紀ちゃん」
 「はい?」
 「散歩に行こう」
 「ほんとですかー!」

 喜んでいる。
 
 「コンバットスーツを着て行くぞ」
 「はい?」
 「いいから」
 「え、分かりました」

 訝しがっている。
 
 「散歩は久しぶりだな!」
 「あ、そうですね!」

 喜んでいる。
 単純な娘だ。



 家を出た。

 「タカさん、こんな格好でどこへ行くんですか?」
 「まあ、いい服を汚したくないからな」
 「じゃあ、ちょっと運動するとか?」
 「まあ、そうなるだろうな」
 「エヘヘヘヘ」

 ニコニコしてやがる。

 「先週は本当に世話になったな」
 「いーえ!」
 「本当にありがとう、心から礼を言う」
 「いいんですよー! タカさんのためなんですからー!」
 「そうか」
 「はい!」

 俺は亜紀ちゃんの腕を組んだ。
 俺からやられるのは初めてなので、亜紀ちゃんは驚き、喜んだ。
 自分から腕にしがみ付いて来る。

 「どこへ行くんですか?」
 「佐藤さんち」
 「え?」

 もう着いた。




 「タカさん! ここってぇ!」
 「礼は本心だが、俺を嵌めやがったことと、大恥を掻かせたことは絶対に許さん」
 「そ、そ、そんな……」

 亜紀ちゃんは既に怖がっていた。
 双子から話は聞いているし、俺からも絶対に入るなと厳命してある。

 「「クロピョン」! 住人を前に戻せ!」

 空気が変わった。
 門の外にいても、汚れ爛れた雰囲気が伝わって来る。

 「さあ、入ろうか」
 「タカさーん! ごめんなさーい!」

 俺は泣き顔の亜紀ちゃんの腕を引きずって門の前に立つ。
 チャイムを押した。

 「おいで……おいで……おいで……おいで…………」

 「なんか言ってますよー!」
 「おう、佐藤さんは在宅だな」
 「イヤァァァーーー!」

 門を開けて玄関へ行った。

 バンッ!

 血まみれの女が曇りガラスの向こうに立っている。

 「出迎えてもらって申し訳ないなー」
 「た、た、た、た、タカ、さん」

 玄関を開けると、女はいなくなっていた。

 「どこ行ったんですかぁー!」
 「お茶を淹れにじゃねぇか?」
 「そ、そんなのいりません!」

 「あ、お子さんがいるぞ」

 亜紀ちゃんが俺が指さす廊下の奥を見ると、子どもが俯いている。
 次の瞬間、でかい顔だけが迫って来た。

 「ギャギャンギャン、ギャァァァァァーーーーー!!」

 気を喪うので顔を張って目覚めさせる。

 「さあ、上がるぞ。ああ、土足でいいからな。外国で暮らしてたのかなー」
 「……」

 廊下を進むと襖が開いていく。

 「おい、全員に挨拶しとけよな」

 もう亜紀ちゃんは声が出ない。
 俺にしがみついている。


 「一緒にお風呂に入ろうな!」

 俺は風呂場に入り、浴槽の蓋を開け、亜紀ちゃんを蹴り入れた。

 「グッ、グギャァァァァァァァーーーーーー!!!!」 
 
 開けて開けて開けてと、亜紀ちゃんが絶叫した。
 全身に長い髪が絡んでいた。

 「どうだ、漏れそうだろう。ちゃんと出して来い!」

 俺は反対側のトイレを開けてやる。

 「フッーーー」

 また気絶した。
 俺は頭を下げ、ドアを閉めた。
 もう一度風呂場に転がすと、勝手に目覚め、また絶叫した。
 ドアが吹っ飛んだ。
 亜紀ちゃんが駆け出て来る。

 「タ、タ、タ」
 「許さん」
 「た、た、た」

 もう口が回らない。
 俺は亜紀ちゃんを抱き上げて階段を昇った。
 
 「いつものように飲もうな」
 「アワワワワ」

 楽し気な宴会の音が聞こえる。

 「すいません、うちの娘も一緒にー」

 障子を開けると誰もいない。

 「おい、ここで終わりだぞ」
 
 亜紀ちゃんは真っ青な顔で首を縦に動かしていた。

 「じゃあ、ゆっくり飲んで来い」
 「?」

 俺は窓を開け、外へ飛び出した。

 「グガァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

 空中で振り返ると、亜紀ちゃんは部屋にびっしりと立っている大勢の奴らに取り囲まれていた。
 空中で俺は命じた。

 「「クロピョン」! 衝撃波を全部受けろ!」

 巨大な閃光が光ったが、爆発の轟音は外に漏れることはなかった。
 二階部分が消失しており、亜紀ちゃんはクロピョンの触手によって、庭にそっと降ろされた。

 「お前、優しいとこもあるんだな!」

 俺は笑った。
 亜紀ちゃんはヘラヘラと笑っていた。

 「テメェ! よく分かったかぁ! 二度と俺を嵌めたり恥を掻かすんじゃねぇぞ!」

 朦朧とした目で俺を見ていた。

 「あんだぁ! もう一周するかぁ!」
 「ごめんなさいー!」

 



 その夜、亜紀ちゃんは二人前しか夕飯を食べなかった。
 俺と目が合うと、「ごめんなさい」と叫んで震えた。




 翌朝、すっかり元に戻った。
 タフな女だ。
 二階が吹っ飛んだ佐藤さんちも、通りかかるとすっかり元に戻っていた。
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