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ざまぁ! スイーツ・フェア

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 6月最後の日曜日。
 俺は昨日行けなかった六花とのツーリングへ出掛けた。
 病院で待ち合わせ、響子の部屋へ顔を出す。
 丁度響子の昼食時だ。

 今日は「山里」の焼き鳥弁当だ。
 焼き鳥が大好きな響子は上機嫌で食べていた。

 「タカトラ、美味しいよ!」
 「そうか、良かったな」

 俺と六花は笑って響子の食事を眺めていた。

 「響子、一口下さい」
 「やー!」

 響子が美味そうに食べているので、俺たちも腹が減って来た。
 デザートの練乳いちごを食べ終えた所で、俺たちは麻布へ向かった。




 いつものハンバーガー店でサルサバーガーを2人前ずつ平らげる。
 一応腹も落ち着いたが、物足りない感じがある。

 「もうちょっと食べたいですね」

 六花も同じようだった。

 「ああ、だけどもうハンバーガーはいいよなぁ」
 「甘いものが欲しいです」

 言われてみて、その通りだと思った。
 六花に探させた。
 俺よりも、六花の方がそういう検索は上手い。
 俺はネットが苦手だ。

 「新宿の三井ビルでスイーツの食べ放題がありますよ」
 「よし! そこへ行ってみるか!」

 幾つかのイタリアンレストランが企画したものらしい。
 美味そうな予感がする。
 電車で行くのなら面倒だが、俺たちはツーリングを楽しみながら向かえる。

 俺たちは明治通りを走った。
 気温が暑くもなく寒くもなく、気持ちがいい。
 バイクには冷暖房が無いので、外気がそのままだ。





 明治通りから靖国通りに曲がって、俺たちは三井ビルへ着いた。
 54階の一部の区画で開催しているらしい。
 俺と六花は駐車場にバイクを停め、エレベーターに乗った。

 「こんな格好で大丈夫ですかね」
 「平気だろう」

 普段は会員制のフレンチレストランだが、今日はフェアだ。
 ライダースーツとはいえ、断られることはないだろう。 
 フロアに着くと、受付で驚かれたが、特に何も言われることなく中へ入った。
 会費は一人5000円だ。
 随分と高いが、それなりのものがあると考えた。

 中は大勢の人間がいた。
 みんな、それなりの服装で来ている。
 テーブルが指定されているので、俺たちはもらったカードのテーブルを探した。

 「あ、ここですよ!」

 六花が嬉しそうに言う。
 二人でビュッフェのテーブルへ行き、好きな物をトレイにどんどん乗せて行った。 
 周囲の客たちが俺たちを見てギョッとする。
 六花は気にしていない。
 ニコニコして、ケーキなどを取って行った。
 二人でテーブルに戻り、食べ始めた。
 楽しく話しながら食べていると、二人の若い女性たちが声を掛けて来た。

 「あの、芸能人の方々ですか?」
 
 俺と六花は顔を見合わせた。

 「いや、違うけど」
 「え! でもお二人とも素敵で」
 「芸能人なんてなぁ」
 「でも」
 「ああ、こいつは前にアストのモデルにスカウトされたよ」

 六花は俺の先輩にアストへ来ないかと言われた。

 「やっぱり! 物凄くお綺麗ですもんね!」

 六花は口一杯にケーキを詰め込んで、笑顔で手を振った。
 そのうちに、俺たちの周囲に大勢の人間が集まって来る。
 人間の心理としての、人だかりに群がる野次馬の習性だ。
 俺たちは口々に質問され、喰うどころではない。
 まあ、六花は無視してひたすらに頬張っていたが。

 「どういうお仕事ですか?」
 「ヤクザ」
 「なんでそんなに素敵なんですか?」
 「整形」
 「奥様ですか?」
 「奴隷二号」
 「この後、一緒にどこかへ行きませんか?」
 「七つの玉を集めろ」
 
 俺は喰ってられない。
 黙々と喰ってる六花に言った。

 「お前も何か言え!」
 「ギョボジグ!」

 ダメだった。




 「おい! 店員!」

 俺は大声で店の人間を呼んだ。

 「人を払え! 何突っ立って見てやがる!」
 「すみません!」

 しかし、店員が追い払おうとしても、高い金を出してるとか言い返され誰も言うことを聞かない。
 俺は責任者を呼べと言い、出て来たフロアマネージャーに何とかしろと言った。

 「お客様同士のトラブルは、私共では責任を負いかねます」

 平然と言いやがった。

 「ほーう」

 俺は家に電話した。
 亜紀ちゃんと双子に至急来るように言う。

 15分で来た。
 俺は三人の入場料を払う。

 「俺が恥をかかされた。目に物を見せてやれ」
 「「「はい!」」」

 三人は掃除機が埃を吸い取るようにスイーツを平らげていく。
 他の客も店員も、ただ茫然とそれを眺めていた。

 「おい、2時間で好きなだけ喰わせると言ってたよな。もしも喰ってる間にブツが無くなったら訴えるからな」

 フロアマネージャーに言った。
 俺はスイーツをテーブルに運ぶのを手伝い、三人にコーヒーや紅茶を注いでやる。
 もう大半が三人に喰われている。
 六花も本気で喰っている。
 フロアマネージャーは慌てて追加を命じていた。

 「おい、お前ら。美味いか?」
 「「「はい!」」」
 「そうかそうか。好きなだけ喰えよな」
 「「「うん!」」」

 100ほどのスイーツが追加された。
 たちまち、俺たちの腹に収まった。
 ビュッフェテーブルが空になった。

 「おい、金を帰せ」
 「はい?」
 「詐欺だな」
 「はい?」
 
 俺は取り囲んでいた他の客にも言った。

 「みなさん! 詐欺ですよね!」

 みんな口々に金を返せと言った。
 フロアマネージャーは慌てて全員に返金した。

 「じゃーこれから警察へ行きましょうか!」
 「勘弁してください」
 「あの時、お前が俺に謝ってればな」
 「そんな!」

 フロアマネージャーは青ざめていた。
 全員が、詫び料として五千円を受け取った。

 「期間中、友達も連れて毎日来ますね!」

 亜紀ちゃんが獰猛な笑顔で言った。

 「!」

 「私のタカさんに、よくも恥をかかせてくれたなぁ!」
 「どうかご勘弁を!」







 六花は俺の家に来て、ロボと遊んで帰った。
 スイーツ・フェアは翌日から中止になった。
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