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未来予知の男

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 俺の名は「神久連(じん・くれん)」。
 神戸山王会の直系組織「直心組」の幹部だ。
 元は俺が率いていた愚連隊から、ここまでのし上がった。
 俺らを子飼いにしようとしてた山王会の下部組織を乗っ取り、そこから上の組織を喰い破っていった。
 他の組から畏れられ、嫌われているのは知っている。
 それは大したことじゃない。
 でも、ここまでだ。
 これで十分だ。
 あとは面白おかしく生きていけばいい。

 これ以上はヤバい。
 この上には本当に恐ろしい連中がいる。
 日本最大の組だけはある。
 俺が異能「未来予知」があるとしても、これ以上は通じない。
 


 俺には10秒先が見える。
 もっと先も見れるが、それは不確定だ。
 1分先まで見えることは見えるが、相手が何をしようとするのかが分かる程度で、それが変わることもある。
 10秒はもうほとんど確定だ。
 俺はその10秒に賭けて、十分な成果を上げて来た。

 しかし、それを覆す奴がいた。
 


 四月に京都のシマを持つ組から頼まれた。
 組の金を持ち出したというバーのマスターを始末するという、つまらない仕事だ。
 今は警察がうるさい。
 だから荒事を請け負ううちに話が回って来た。
 俺はその道でのし上がった。
 今更「もうできません」とは言えない。

 簡単な仕事のはずだった。
 ちょっと締め上げて金の在処を聞き出せばいい。
 好都合なことに、そいつは地下でバーを経営していた。
 俺は8人を連れて出掛けた。

 木下の連絡で、そいつが一人でバーに入ったと聞いた。
 俺たちはホテルを出て向かった。

 俺の顔を見て、そいつは何が起きたのか悟った。
 俺は床に座らせ、アイスピックを太ももに突き刺した。
 尋問は他の奴にやらせ、俺は酒を飲み始めた。



 その時、あいつらが来た。
 最初はただの若い女が紛れ込んだと思った。
 看板を仕舞い忘れたのでノコノコと入って来やがった。

 面倒だったが、脅せばいい。
 二人ともなかなか顔がいい。
 一人は胸は小さいが、とにかく美人だ。
 もう一人は顔は少し劣るが、十分に美人で胸がある。

 ここで撮影してから、どこかへ連れてくか。

 その俺の予想が大きく外れた。
 胸の小さい方が、とんでもない荒くれだった。
 何かの拳法のようだが、でたらめに強い。
 チャカも通じない。

 狭い店なのも災いした。

 俺は「未来予知」を使った。
 女がいくら強くても、こうなれば俺には当たらない。
 どう動けばいいのかが分かるからだ。
 そして俺は詰んだことが分かった。
 何をどうしようと、この女は倒せない。
 女の実力は底が知れなかった。

 俺は店のガス管を抜き、仲間ごと店を吹っ飛ばすことにした。
 その未来が見えた。
 女一人なら逃げ出せるだろうが、女はもう一人を見捨てられない。
 一緒に焼け死ぬはずだった。

 しかし、女は俺が見た「未来」を覆した。

 何をしたのか、店の入り口ごと大きく吹っ飛ばし、充満したガスはそこからほとんどが外へ出て行った。
 俺は必死で逃げた。

 その後、警察が国宝の盗難事件の調査だと俺の所へ来た。
 痛くも無い肚を探られ、大変だった。 

 

 あれから、女を探した。
 話し方から、東京の人間であることは分かっていた。
 それに化粧をしていたが、とにかく若い。
 化粧の仕方も未熟だ。

 探していると、東京から修学旅行で高校生が来ていたことが分かった。
 俺の勘が、その中にいると告げていた。
 そこから女まで辿るのはすぐだった。
 修学旅行を抜け出した二人の女がいることが分かった。
 女たちのヤサもすぐに知れた。

 俺は20人を連れて東京へ向かった。




 東京で事務所を構えている奴らに頼んで、俺たちが自由に使えるアパートを手に入れた。

 「まずは一人を拉致するぞ」
 「分かりました、神さん!」

 柿崎真夜という、胸のでかい女を攫うことにした。
 中野区のアパートに家族と住んでいる。
 夜に家族ごと襲おうと思った。
 金曜の晩に二台の車で8人で行く。

 周囲の家の灯はほとんどない。
 もう深夜1時を回っている。

 「ここだな」
 
 俺たちが車を降りると、誰かが来た。
 こんな時間になんだ。
 アパートに近づいて来る。
 俺たちは車に入り、様子を見た。




 「神さん! なんすか、アレ!」

 俺も驚いていた。
 三人のガキの女。
 しかも二人はまだ小学生か。

 それはいい。
 問題は、その三人が全裸だったことだ。
 しかも、両肩にでかいイノシシだのの頭をぶら下げている。

 仲間たちも驚いて見ている。

 何人かが外に出ようとした。
 俺は「未来予知」を使った。

 「ダメだ! 車に戻れ! 急いで出せ!」

 俺は叫んだ。

 恐ろしい未来が見えた。
 あの小学生の二人が俺たちをズタズタにして殺す未来だ。
 しかもほんの短い時間で。
 あれは悪魔だ。
 
 慌てて去る俺たちを、小学生のガキ共が見ていやがった。
 恐ろしい顔をして笑っていた。


  

 翌日の土曜日。
 俺たちは全員がチャカを呑んで、石神亜紀の家に向かった。
 いくらあいつが強いと言っても、20人の荒事の専門家が囲めばどうにでもなる。
 あのツラは惜しいが、とにかくけじめをつけなければならない。

 全員にシャブを配り、気合を高めた。



 でかい家だった。
 東京都心でこんなでかい家はあり得ない。
 親父は医者のようだが、医者だってこんな家には住めない。
 相当な金持ちだ。
 俺はけじめの他に、いろいろ楽しい思いが出来ると思った。
 門の向こうからすげぇ車が来た。

 見たことが無い。
 フェラーリじゃねぇ。
 真っ赤なすげぇスポーツカーだった。
 俺たちが門の前にいるので、運転していた男が降りて来た。
 でかい男だ。
 それにツラがいい。

 「なんだ、てめぇらは?」

 俺は「未来予知」を使った。

 「全員! 逃げろぉーーーー!」

 俺は叫んで急いで車を出させた。

 あれはとんでもない。
 荒事の俺たちには分かる。
 潜って来た修羅場、鉄火場が違う。
 
 俺は全員が一瞬で消される未来を見た。
 躊躇なくやる男だと分かった。



 あの男がいては絶対に無理だ。
 俺は何人かを使って、あの男について調べさせた。
 向かいの家に行かせる。
 「レイチェル・コシノ」という外人かハーフの名前だ。
 インターホンを押した。

 「何か御用で?」

 一人のいかつい男が出て来る。

 「あの、お向かいの石神さんのことで」
 「あ? 石神の旦那に何か?」
 「いえ、あのどういう人かお話を」

 男はじっと見ていた。
 
 「お前ら、カタギじゃねぇな」
 
 懐からチャカを抜いた。
 しかし、次の瞬間に全員が斃されていた。
 車で待っていた奴の話だ。
 その後、あの門から出て来たでかい男、恐らく石神が二人を運ばせた。
 「佐藤」という表札の家に入れられたそうだ。
 俺に連絡が来て、俺は見張っているように言った。

 そして石神たちが戻った連絡を受け、俺たちは「佐藤」の家に全員で向かった。



 「誰も出て来てません!」
 「分かった。中へ入るぞ」

 俺は「未来予知」を使った。

 「だめだぁー! 誰も入るな! 死ぬより恐ろしい目に遭うぞ!」

 俺は信じられない光景を見た。
 あんな最後だけは絶対に嫌だ。
 



 俺たちは大阪へ帰った。
 あの石神たちに関わるのはダメだ。

 その後、上の組から回状が来た。
 関東の千万組が石神高虎の下に着き、もう一つの双璧だった稲城会が看板を下ろし、実質石神の下に着いたことが分かった。
 組長が俺に言った。

 「絶対に石神高虎と関係する人間と揉めるな」
 「はい」
 「うちの組も簡単に潰される。絶対に手を出すなよ!」
 「分かりました」
 
 手を出すつもりは全く無かった。
 俺は石神に関わることだったので手を引いたことに出来た。
 メンツが保てた。

 問題は、あちらが俺を許してくれるか、ということだけだ。
 俺の名前が割れているのは分かっている。

 意を決して連絡をした。
 他の人間に聞かれたくない。
 自分のマンションの部屋で電話した。




 「すみません、突然に。自分は「神久連」という者ですが」
 「ああ! 山王会かぁ!」

 石神はすぐに気付いた。

 「少し前に、お宅のお嬢さんと」
 「ああ、そのうち行くからな!」
 「いえ! あの、詫びを入れたいと」
 「あ? 今更何言ってんだよ」

 俺は必死で謝り、何でもすると言った。

 「しょうがねぇなぁ。じゃあ」

 石神は幾つかの条件を言った。
 まず、大阪の「梅田精肉店」の肉を、関連の店で使わせること。
 その社長が恩人で、社員のフウカ・アシュケナージは石神の大事な人間だそうだ。
 もちろん、絶対に社長やフウカ、そして社員に手を出さないこと。
 恐らく、その社長もフウカも相当恐ろしい人間に違いない。
 俺は絶対を誓った。

 「それとな、娘が京都で生八つ橋を買い忘れたんだ。いいものを選んで送れ」
 「分かりました!」
 「うちは大食いが多いんだ。数は揃えろ。足りなきゃ出向くからな!」
 「は、はい!」

 



 石神高虎。

 意外と優しい人だった。
 良かった。   



 未来が見えたって、別に万能じゃない。
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