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くしゃみ

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 蓮花の研究所から家に帰ると、ロボが物凄いスピードで階段を駆け降りて来た。
 二本足で立って俺に抱き着いて来る。

 「おう、ただいま、ロボ」

 抱き上げて上がると、亜紀ちゃんが俺の靴を仕舞う。
 階段の途中で駆け上がって来て、亜紀ちゃんもロボを撫でた。
 ロボは嬉しそうに壮大にゴロゴロと喉を鳴らした。

 リヴィングでは食事の用意を皇紀と双子、柳でやっていた。
 今日はカレーライスだ。
 レイはまだ戻っていない。

 「「「「おかえりなさーい!」」」」

 「おう、ただいま」
 「ただいまー」

 俺と亜紀ちゃんは着替えに行く。
 ロボは俺にべったりだ。
 寂しかったのだろう。
 俺はベッドにロボを置いて着替えた。

 《クチッ》

 ロボがくしゃみをした。
 見ると、小さな鼻提灯が出ている。
 物凄くカワイイ。
 ロボは前足で鼻をこすった。

 「おい、カゼ引いたのか?」

 俺が服を着てロボの頭に触る。
 少し熱いような気がする。

 「大丈夫かよ?」
 「ニャー」

 俺はリヴィングへ行った。



 「ロボがくしゃみをした」

 俺がそう言うと、柳が説明してくれた。

 「石神さんがいないんで、家中探してたんですよ。夜は一緒に寝ようかと誘ったんですが、一時は一緒にいても、すぐに石神さんのベッドに行って。夜中も何度も寝室と玄関を行き来してたみたいです」
 「そうなのか」

 この二日は結構朝晩は冷えた。

 「ちょっと食欲も無かったんですよ」

 ルーが言った。
 俺はロボの食事を準備した。
 マグロの柵を切ってやり、卵黄をまぶしてやった。
 ロボは夢中で食べる。

 「あ! 美味しそうに食べてる!」

 ルーが叫んだ。

 「まあ、しばらく温かくしてれば大丈夫だろう」
 
 今日はタイカレー(グリーンカレー)だ。
 蓮花の作ったタイカレー風の自然薯で刺激された。
 レシピは『カレーのすべて―プロの味』を参考に、ナスとオクラを入れ、エビはクルマエビを使うように指示した。
 蓮花の研究所を出る前に電話した。
 双子は辛いものが苦手だったが、タイカレーは気に入ったようだ。
 俺がココナッツミルクを少し甘くして出してやると、バカみたいに飲んだ。




 月曜日。

 昼頃に響子の部屋へ行こうとすると、六花から響子が風邪気味だと聞いた。
 熱は37度程度だ。
 部屋へ行くと、六花はマスクをしていた。
 俺も聞いているので着けている。

 「おい、風邪を引いたんだって?」
 「うん」
 「また夜中に出歩いたんだろう」
 「やってないよ」

 《クチュッ》

 響子がくしゃみをした。
 少し洟が出た。
 カワイイ。
 六花がティッシュで拭ってやる。

 「しばらく、温かくしてろ」
 「うん」

 俺はSDカードを響子のタブレットに挿し、首都高での映像を見せてやった。
 ドライブレコーダーの動画だ。

 「偶然、栞に会ったんだ」

 響子が爆笑する。

 「お前、絶対に栞の車には乗るなよな」
 「うん、こわいよね」
 「こないだバイクのハンドルがルーフに刺さってたからな」
 「なんでぇー!」
 「「首都高の人喰いランクル」って呼ばれてるらしいぞ」
 「こわいー!」

 俺と六花で笑った。

 「お前だって「真夜中の妖精少女」って呼ばれてるかもしれないじゃん」
 「そんなのないよー」
 「ふと目が覚めたら、可愛い美少女が病室のドアから自分を見てた、とかな」
 「なんか怖いよ」
 「見られた患者は三日以内に死ぬ」
 「そんなことしないよ!」

 「じゃあ見てるだけか」
 「うん、見てるだけ」

 「「出歩くんじゃねぇ!」」

 俺と六花で怒鳴った。
 三人で笑った。

 俺はルールを決めた。
 出歩くときは、必ずガウンを羽織ること。
 週に三回までで、一回の時間は15分以内。
 ナースセンターに寄って、散歩することを伝えること。
 セグウェイは音が出るので禁止。
 それと、行っていい場所と範囲を言った。

 俺は六花に、「散歩中」のカードストラップか何かを作るように言った。

 「響子が正式な散歩中と分かるようなものであれば、なんでもいいよ」
 「分かりました」

 響子は長い入院生活でストレスが溜まっている。
 ずっと室内にいるのは辛いのだろう。
 多少の院内の夜中の散歩も仕方がない。
 
 後日、六花がミツバチの触角付きのカチューシャを買って来た。
 物凄くカワイかった。
 ナースたちにも大好評だった。
 夜中に散歩中の響子を見ると、いいことがあるという噂が流れた。
 夜勤のナースたちの楽しみができた。




 俺は響子の部屋から戻り、午後のオペの資料を読んでいた。
 一江は朝からマスクをしている。
 風邪を引きやがった。
 しばらくオペは出来ない。

 《ヘクチュッ》

 俺は部屋から出て、一江の頭を引っぱたいた。

 「テメェ! なんのつもりだぁ!」
 「へ?」
 「なんだぁ、今のクシャミはぁ!」
 「は、はい、すみません!」

 「ロボや響子ならいいけどなぁ! テメェみたいなブサイクがやるんじゃねぇ!」
 「ひどいですよ!」
 「《ヘックショイ! アー!》とかやれ!」
 「できませんよ!」

 「お前、大体なんで風邪ひいたんだよ?」
 「ああ、大森と土曜に飲んで。そのまま寝ちゃいました」
 「最低だな!」
 「だからすいませんって!」
 
 俺はもう一度頭を引っぱたいた。

 「おし! 俺が直々に診察してやろう」

 俺はキャビネから聴診器を出した。

 「おう! 胸を見せろ!」
 「部長! セクハラですよ!」
 「治療行為だ!」
 
 一江が上の裾をまくった。
 下着の胸が見えた。

 「どうぞ!」
 「てめぇ! 何貧相なものを俺に見せてんだぁ!」
 「部長が言ったんじゃないですか!」
 「冗談だ! よくも気持ち悪いものを俺に!」
 「部長の裸の方が気持ち悪いですよ!」
 「あ! お前よくも俺が気にしてることを!」

 大森と斎木が俺たちを止めた。

 


 家に帰るとロボが元気よく迎えに来た。
 子どもたちに聞くと、全然洟も出ていないらしい。
 俺は快気祝いに、ロボの大好物の貝柱乗せステーキをロボに食べさせた。
 ロボは「ぐぉー」と唸りながら食べた。

 響子も翌日には治った。
 俺は六花にキハチのロールケーキを買って来させ、三人で食べた。
 響子は「うぉー」と喜んで食べていた。

 一江はまだ洟を啜っている。
 俺はバグームの「ミミズジャーキー」を喰わせた。

 「特効薬だ、喰え」
 「絶対嫌ですー!」
 「大森、押さえろ」
 「一江、すまん!」

 「ウゴゥォー!」

 そう叫んで、俺が無理矢理口に入れたものを呑み込んだ。





 翌日に、一江は洟を啜っていた。

 「特効薬じゃなかったな」
 「……」




 二日後に、一江は治った。
 ア〇ゾンで、幾つかの昆虫食を買っていた。

 なんか怖い。
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