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亜紀ちゃんと蓮花研究所 Ⅴ

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 俺と亜紀ちゃんはまた7時頃に起きた。

 朝食は鮭の炊き込みご飯にイクラ。
 出汁巻き卵。
 ナスとベーコン炒め。
 オクラとホワイトアスパラとポテトの温野菜サラダ。
 それに俺には緑色の自然薯がついていた。

 「自然薯は、緑唐辛子とココナッツミルクと若干の香辛料を入れています」
 「タイカレーのイメージか」
 「はい」

 亜紀ちゃんが欲しそうに見ているので、一口やった。

 「美味しい!」

 まあ、家でも俺に一品多いことも普通なので、自分も欲しいとは言わない。
 自然薯は精力食物だ。
 蓮花なりの礼なのだろう。




 食事の後で、俺たちはミユキとシロツメクサの花壇を見に行った。

 「ああ、綺麗だな」

 20メートルもの長さの大きな花壇だった。
 丁度開花期で、一面に花が咲いていた。
 亜紀ちゃんが自分のスマホで写真を撮って行く。
 俺とミユキも花壇の前で写真を撮られた。

 「私にはもったいないような、美しい花です」
 「そんなことはない。ミユキのような可憐な花だ」
 「ありがとうございます」

 ミユキは嬉しそうに笑っていた。
 我が子を慈しむ母のような優しさに満ちていた。
 俺と亜紀ちゃんはミユキに礼を言って中へ戻った。
 ミユキはまだ花壇を見ていた。

 「ミユキは時間があると、ああやって花壇を眺めています」
 「そうか」

 蓮花が話してくれた。

 「皇紀がくれたからですかね?」

 亜紀ちゃんが言う。

 「それもあるだろうけどな」
 「他に何か?」
 「ミユキは子どもを産めない。鷹と同じだ。子宮を喪って生体チップが入っている」
 「!」

 「ミユキはシロツメクサを育て、増やして、それを慈しみ自分の歓びとしている」
 「タカさん、じゃあ……」
 「いいじゃないか。自分の子どもじゃなくたって。人間はそういう優しい心も持っているんだ」

 亜紀ちゃんが笑顔で俺の腕を掴んで一緒に歩く。

 「なんだよ」
 「いいえ、何となく!」

 俺はしばらくして気付いた。
 ミユキのことを話していてそんなつもりは全く無かったのだが、そういえば俺がよく知っている奴がいた。




 昼食は俺の希望で、近くの山林までピクニックに行く予定だった。
 そのための準備を俺と亜紀ちゃん、蓮花で始めた。
 俺と蓮花で大量の握り飯を作る。
 亜紀ちゃんはひたすら唐揚げ等を作った。

 昼前に全員で出発する。

 山林は俺の所有だ。
 以前にも来た広場でシートを敷き、みんなで昼食を摂る。
 今日はみんな穏やかに笑っている。
 ミユキや前鬼、後鬼たちはもちろん、アナイアレーターたちも嬉しそうに笑っていた。

 「今日の食事は石神様と亜紀様が作って下さいました」

 蓮花が言うと、全員が立ち上がり頭を下げた。

 「普段は何も出来ないからな。こんなもので申し訳ないが沢山食べてくれ」

 全員が礼を述べ、各々座って食べ始めた。
 亜紀ちゃんも笑顔で頬張っている。
 目の前に唐揚げの山がある。

 「蓮花、俺はこの光景を忘れないよ」
 「はい、わたくしも」
 「みんな、こんなに笑って楽しく食事をしている。これがみんなの本当の姿だ」
 「はい」
 
 俺は全員を修羅の戦場へ赴かせようとしている。
 アレスだ。


 ミユキが俺に近寄って来た。

 「石神様」
 「どうした?」
 「私は、今日の日を忘れません」
 「なに?」

 俺はミユキの唐突な言葉に驚いた。

 「共に戦う皆とこのように穏やかな時間を」
 「ミユキ」
 「これで、心置きなく戦場で散れるというものです」
 「お前……」

 「あの日、私が再び魂を取り戻した日。私はあの日から石神様のために戦うことを望んでいます」
 「……」
 「どうか、私たちを戦場へお連れ下さい」
 「分かった。必ずな」
 「はい!」

 見ると全員が俺とミユキを見ていた。






 俺と亜紀ちゃんは蓮花の研究所を出た。
 シボレー・コルベットで高速をぶっ飛ばす。
 
 「亜紀ちゃん」
 「なんですか?」
 「肉を喰ってくか」
 「え、どうして?」

 「なんか悲しそうな顔をしてるからよ」
 「え!」

 亜紀ちゃんは俺を見ていた。

 「タカさんだって」
 「俺はいいんだよ」
 「どうしてですか」
 「俺が石神高虎だからだよ」

 「なんですか、それ!」

 亜紀ちゃんが笑った。

 「石神高虎はなぁ、みんなを地獄に連れて行く悪い奴だからな」
 「何言ってんですか」
 「てめぇら、覚悟しろってなぁ」
 「アハハハハハ」

 亜紀ちゃんが悲しそうな顔で笑った。

 「タカさん」
 「おう」
 「また来ましょうね」
 「そうだな」
 「地獄かどこかは知りませんけど。私はずっとタカさんの傍にいますから」
 「バカだな」
 「そうです」

 「お前らを酷い目に遭わせるって言ってるのにな」
 「平気ですよ」
 「そうかよ」
 「そうです!」




 
 首都高に戻った。
 もう家は近い。

 「タカさん、後ろから物凄いスピードで来る車がいますよ?」
 
 俺も気付いている。
 バックミラーに白い車が映った。

 「「アァー!」」

 俺と亜紀ちゃんは同時に叫んだ。
 白いランドクルーザーが次々と前方の車を危険走行で追い上げている。

 栞だった。

 俺と亜紀ちゃんは大笑いした。
 栞も特徴的な俺の車に気付いたか、クラクションを鳴らした。
 俺たちに並走してくる。

 「石神くーん!」

 亜紀ちゃんが窓を開け、ルーフに半身を乗り出した。

 「亜紀ちゃーん!」

 「ヨーイ!」

 亜紀ちゃんが叫んだ。

 「ドーン!」

 俺はギアをトップに入れ、アクセルを踏み込んだ。
 弾かれたようにランドクルーザーを引き離す。
 栞もスピードを上げたが、まったくついて来れない。
 車の性能が違い過ぎる。





 その日、首都高で15台の玉突き事故があった。

 俺たちのせいではない。








 たぶん。 
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