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大森明紀

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 土曜日の朝。
 朝食を食べ、亜紀ちゃんはCBRで流しに行った。
 俺はベッドに戻り、ロボと少し遊んでから論文を読んだ。
 レイは皇紀や双子たちと話し合いと勉強をしている。
 レイは漢字も覚え始め、皇紀たちとのコミュニケーションはスムーズになってきている。
 柳も大学のレポートや予習に追われている。

 論文を読み終え、俺はロボを連れて庭に出た。
 増築部分は大分出来て来た。
 ゆっくりやれと言っているが、何しろ造作が多い。
 夏まではかかるだろう。

 諸見がいた。
 また壁を見ている。
 俺とロボは後ろから静かに近づき、諸見を抱き締めた。
 ロボは足にタックルする。

 「もろみー! 捕まえたぞ!」
 「石神さん!」
 「もう離さないからな! 一緒に昼飯を喰え!」
 「そんな! 石神さん、離して下さい!」

 俺は笑って諸見の肩を叩く。
 
 「また見てたのか」
 「すいません。日の当たりを確認したくて」
 「なんだ?」
 「光の当たり具合で、壁の表情が変わりますから」
 「お前、変態かよ!」
 「へ?」

 俺は笑って昼は必ず喰いに来いと言った。



 家の外に出て、ロボと近所を散歩した。
 一回りして戻ると、亜紀ちゃんが帰って来た。

 「タカさーん!」

 目の前でバイクを降り、ロボの頭を撫でた。

 「散歩ですか?」
 「ああ、今帰る所だ」
 「じゃあ、一緒に!」

 亜紀ちゃんはロボをバイクに乗せて、押し始めた。
 何のこともない。

 「吉祥寺まで行ってきました」
 「そうか。楽しそうな街だろ?」
 「はい! オシャレな喫茶店があって、寄ってきました」
 
 亜紀ちゃんの話を聞きながら帰った。
 みんなで昼食の準備をする。
 今日はボンゴレ・ビアンコと鶏肉のハニーマスタードだ。
 諸見の分も作る。
 庭の諸見をハーが呼んで来た。

 「諸見、スパゲッティっていうんだ」
 「はい、知ってます」
 「こう、フォークでな、クルクルってやって食べるんだ」
 「あの、石神さん」
 「あ、ああ! やっぱ箸を出すよ」

 「大丈夫ですから!」

 みんなで笑った。



 昼食を終え、各自また自由にする。
 皇紀たちはテーブルで図面を拡げて話し合っている。
 柳はまた自室で。
 亜紀ちゃんは俺の傍に来た。

 「午前中はさびしかったでちゅねー」
 「いや、全然」
 「さて、何しましょうかー」
 「少し寝るかな」
 「あ、じゃあ一緒に」
 「……」

 「私と一緒は嫌ですかぁー」
 「はぁ。じゃあ、ケーキを買いに行くか」
 「はい!」

 後で誰かに買いに行かせるつもりだったが、亜紀ちゃんと出掛けた。
 「ドーカン」で大量に予約してある。
 昼のお茶の分と、夕飯後のデザートだ。
 今日は大森と弟が来る。

 途中で公園に寄った。
 缶コーヒーを買ってベンチで飲んだ。

 「大森さんって、弟さんを可愛がってるんですよね」
 「ああ。あいつの最大の心の支えだな」
 「そうなんですか」
 「だから明紀のことは絶対に悪く言うなよな」
 「分かりました」

 「大森は本当に優しい奴なんだ。あれだけ弟を思い遣るってことだけでも分かるけどな」
 「そうですね」
 「以前に一江とはよく衝突してたけどな。絶対に暴力は振るわなかった。自分がどんなに嘲られてもな。一江は結構きつい性格だからなぁ」
 「アハハハハ!」

 「一江も大森のそういう優しさに気付いたんだな。だから今じゃ大森とは大親友になった」
 「一江さんも優しいですよね」
 「ちょっとヒネてるけどな」
 「ウフフフ」

 二人で、駅前のソフトクリーム屋へ行く。

 「分かってます! 根性!」

 いつもの店員が大盛りにしてくれた。
 俺たちが美味い美味いと言って食べていると、また行列が出来た。
 暑くなってきたので、みんな嬉しそうだ。

 帰りに東中野の「ドーカン」に寄る。
 頼んでおいたケーキとジェラートを受け取った。
 亜紀ちゃんと二人で大きな手提げを持って帰った。

 家に戻り、ケーキやジェラートを仕舞っていると、大森たちが来た。

 「部長、お休みの時にすいません」
 「いいよ! 大森も泊まるのは久しぶりだよな」
 「はい!」
 「石神先生、お世話になります」
 「おう! さあ、入ってくれ」

 明紀はうちの大きさに驚いていた。
 二階に上がり、リヴィングに通す。
 お茶にした。

 大森と明紀はケーキが美味しいと言った。

 「明紀、身体は最近どうなんだ?」
 「はい、相変わらずで。無理をするとすぐに熱が出ます」
 「そうか。まあ、そういう身体なんだから、上手く付き合って行くんだぞ」
 「はい!」

 お茶を飲んで、俺は大森たちに少し寝ろと言った。

 「いえ、部長、それは」
 「明紀も疲れてるだろう。少し休め。それに今晩は「すき焼き」だ」
 「ヒィ!」
 「体力を温存しろ」
 「はい!」

 俺は二人を部屋に案内した。

 「夕飯の準備が出来たら起こすからな」
 「部長、すみません」
 「遠慮するな、お前は大事な部下だ」
 「はい」

 俺は柳の部屋へ入った。

 「石神さん!」
 「どうだ、勉強は」
 「はい、ちょっと苦労してます」
 「どこだ?」
 
 俺は幾つかアドバイスをした。

 「実験はいい相手が見つかったか?」
 「はい。生物学の専攻の女の子ですが、いい感じでやってますよ」
 「シケタイはどうだ?」
 「私も一つ受け持ちました。自分の勉強よりも大変ですね」
 「責任はな。でもちゃんと資料はもらってるだろ?」
 「はい」

 東大には「試験対策員(シケタイ)」制度がある。
 学生たちの中から選抜され、試験ごとに傾向と対策をみんなに配る役目だ。
 この制度によって、試験の成績が良くなる。
 合理的な制度だ。

 「勉強に浸れる最後の期間だ。楽しめよ」
 「はい!」





 俺はロボを連れて自分の部屋へ入った。
 亜紀ちゃんがベッドにいた。
 布団をポンポンやっている。

 俺は笑って着替えて寝た。

 「後で起こしに来ますね」
 「ああ」

 俺はすぐに眠り、いい夢を見た。 
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