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別荘の日々: レイも一緒 Ⅵ

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 翌朝、双子に起こされた。

 「タカさーん! 朝ですよー!」
 「ご飯ですよー!」

 俺のベッドに入って来る。

 「今朝はお前らのカワイイお尻でいいや」
 
 俺は二人のパンツを脱がせ噛みついてやる。

 「「いやー!」」


 顔を洗って下に降りると、みんな待っていた。

 「悪いな、こいつらがどうしてもお尻を見てくれって言うんでな」
 「「タカさん!」」

 みんな笑った。
 今朝はパンケーキだ。
 レイもトッピングの多さに喜ぶ。

 「柳、大丈夫か?」
 「はい!」
 「気分が悪けりゃ休んでろよな」
 「大丈夫です!」

 朝食の後、レイと散歩に出掛けた。
 子どもたちは勉強だ。




 「レイは忙しくしているよなぁ」
 「はい。でも石神さんも」
 「俺は適度に休んでいるからな。レイは相変わらず休み方が下手だよな」
 「アハハハハハ!」

 腕を組んで歩いた。
 身長が俺とほとんど変わらないので、新鮮な感覚だ。
 亜紀ちゃんも六花も栞も日本人としては長身だが、それでも俺とは10センチ以上差がある。
 レイは180センチを超えているので、俺よりも少しだけ低い。
 今日はスニーカーだが、ヒールを履けば俺よりも高くなることもある。

 「石神さんの身体は逞しいですよね」
 「ああ。ようやく筋肉も戻って来たよな」

 一時はクロピョンのせいで著しく痩せた。
 倒木の広場に着いた。
 二人で腰かけ、俺はレイに冷やした紅茶を渡す。
 一緒にのんびりと飲んだ。

 「自然っていいですよね」
 「たまにはな」
 「石神さんは、結構田舎の出身と聞いてますが」
 「またあの「資料」かよ」

 レイが笑った。

 「そうだけどな。奈津江を連れてった時には「ここが高虎の村なのね」って言いやがった。まあ、山と畑だらけだったけど、町だよ、町」
 「でも、自然が一杯で」
 「まあな。でも俺は都会の方が好きだな」
 「そうなんですか」

 レイがニコニコしている。

 「山に登ると遠くの東京の町が見えたんだ。夜なんか物凄く綺麗でさ。だからだろうな」
 「どういうことです?」
 「遠くにある、宝石のような輝きに憧れたんだよ。だから、俺はその宝石の中にいるのがいいんだ」
 「ああ、なるほど」

 《(覆された寶石)のやうな朝 何人か戸口にて誰かとさゝやく それは神の生誕の日。》

 「西脇順三郎という詩人の『天氣』という詩だ。俺は毎朝、そういう気分で朝を迎える。俺が好きなように生きている場所だからな。それなのに、みんな俺に優しい。それは俺の「宝石」だ」

 「お子さんたち、みんないいですよね」
 「ああ、そうだ。それにレイや柳までもな。外に出れば他にも一杯いるよ」
 「私も宝石ですか」
 「当たり前だ! まあ、その綺麗な瞳から、アクアマリンって感じかな」
 「嬉しいです」

 俺たちは宝石に当てはめていった。
 亜紀ちゃんはルビー、皇紀はサファイア、双子は真珠。
 栞はオニキス、六花はファイアオパール、鷹は翡翠。
 
 「響子は?」
 「ダイヤモンドだな」
 「まあ、やっぱり特別なんですね」
 「まあな。あいつは一番にしておかないと、すぐ死んじゃうからな」
 「アハハハハ!」

 「あいつがいると、いつも響子を中心にしなければならない。別にそれが嫌だとか言うわけじゃないけど、みんなで守ってやらないとな」
 「はい、そうですね」
 「別に誰が一番とかじゃない。俺にとって、みんなが宝石だというだけだ」

 「あ、柳さんは?」
 「あ、忘れてた」

 レイが笑った。

 「あいつって、つい忘れちゃうんだよなぁ」
 「アハハハハ!」
 「まあ、あいつはタイガーズアイでいいんじゃねぇか?」
 「なんか適当ですね?」
 「そんなもんよ。レイと響子以外は全部適当だしな!」
 「アハハハハ!」

 紅茶を互いに一口含んだ。

 「あ、じゃあ御堂さんは?」
 「超ダイヤモンド!」
 「アハハハハ!」

 俺たちは楽しく帰った。
 昼食にショートパスタを食べた。
 ナス、ベーコン、マイタケ、アスパラ、それらを炒め、最後にレタスを小さく千切って振りまく。
 粉チーズをさっと掛ける。

 昼食後、俺はレイを誘って買い物に出た。




 「レイ、俺たちの食事は大丈夫か?」
 「はい? ええ、とても美味しいですよ」
 「じゃあ良かった。レイの食生活とは違うかもしれないと思っていたんだ」
 「石神さんは、いつもそうやって気遣って下さいますよね」
 「そんなことはないよ。ただな」
 「ただ?」
 「食事って美味しくないとな。俺はそう思っているから」
 「ああ」

 「レイが我慢して食べてるかと思うと、ちょっとだけ心配なんだ」
 「大丈夫です。本当に美味しい。アメリカで食べていた頃よりも、ずっと食事が楽しみです」
 「そりゃ良かった!」
 「ウフフ」

 レイの好きなものを聞いてみた。
 結構、あっさりとしたものが好みのようだった。

 「今日のパスタなどは、本当に美味しかったです」
 「やっとうちに肉食じゃねぇ女が来た」
 「柳さんは?」
 「あ、忘れてた」

 二人で笑った。
 柳も肉よりも魚や野菜などが好きだ。
 まあ、レイも柳も肉が苦手ということではないが。

 「うちの子らはよ、とにかく「肉」だからなぁ。六花もな。亜紀ちゃんも六花も、どんなに大泣きしてても怒り狂ってても、肉を喰わせると大人しくなるというなぁ」
 「アハハハハ!」




 スーパーに着いた。
 また店長が迎えに来てくれるが、アメリカ人のレイに驚く。

 「友人の所で働いている人なんだ。今は俺の家に住んでるんで、別荘に一緒に来たんです」
 「ああ、そうですか! またお綺麗な方ですね!」

 レイが綺麗な日本語で挨拶するので、また驚かれた。

 「今日も買い物です」
 「言われましたものは、既にご用意しています。またお帰りの際に申し付けて下さい」

 俺は店内に入ると『ワルキューレの騎行』が流れると教えた。
 その通りになったので、レイが笑った。

 「俺たちの登場音楽なんだ」
 「ウフフフフ」

 レイと一緒に売り場を回る。
 レイが好きなものを取って、俺がカートを引いた。
 野菜売り場でカボチャを見つけてレイが喜ぶ。

 「石神さん、別荘にカボチャはありますか?」
 「ああ、無いかもな」
 「じゃあ買ってもいいですか?」
 「もちろんだ。好きなのか」

 レイが嬉しそうに頷いた。

 「美味しいパンプキンの見分け方って知ってるか?」
 「え、いいえ」

 ヘタが枯れていること、周囲が盛り上がっているもの、皮が硬く色つやのいいもの、持って重みのあるもの。
 俺が教えると、レイは喜んで選んだ。

 「いいんじゃないか」

 俺が言うと、嬉しそうに笑った。
 5つほど購入する。

 「どんな食べ方がいいんだ?」
 「何でも。焼いても煮ても好きです。でも、ああ、パンプキンプディング?」
 「また面倒なものを」
 「ウフフフ」
 「任せろ!」

 俺たちは買い物を店長に預け、支払いを済ませてからフードコートに寄った。
 コーヒーを飲んでいると、店長がみたらし団子を10本持って来た。

 「こんなものですみません」
 「いや、ありがとうございます」

 レイが喜ぶ。
 浅草で食べている。

 「本当に石神さんはどこでも人気者ですね」
 「アハハハハ!」

 俺はレイに一本食べろと勧めた。

 


 「石神さんは傭兵をやってたことがあるんですよね」
 「ああ、話したな。ああ! 「資料」にもあるかぁ!」
 「はい」

 レイが笑った。

 「一時はとても有名になっていたと」
 「聖と二人でな。まあ、聖の会社がすぐに成功したのは、その名前が売れていたこともあるな」
 「伝説の傭兵チャップの所ですしね」
 「そうだ。聖とそこへ行った」
 「そこでもまた人気者に」
 「そんなことはないよ。特に最初は嫌われてたよなぁ。東洋人だからな」
 「でも、仲の良い方もいらしたんでしょ?」
 「まあな。忘れられない連中がいるよ」

 「また夜にお話ししてくれます?」
 「ああ? そんなの聞きたいのか?」
 「はい!」
 「なんだ、「資料」には無かったか」
 「はい。特殊な世界ですからね」
 「分かったよ」






 俺は左胸の銃痕が痛むのを感じた。
 幾つかの傷は、今でも痛む。
 それはどうしようもないものだ。
 俺の魂と繋がっているのだから。

 俺は傷を抱えて生きていくしかない。
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