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久しぶりの梅酒会

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 双子たちがキャンプ(変態サバイバル)に行った夜。
 俺は亜紀ちゃん、柳と梅酒会をした。
 梅酒なら柳も飲める。

 明後日から二泊で別荘に行く。
 軽く打ち合わせというか、食事メニューと簡単な行動予定を話した。
 
 「今回はうちの連中だけだ。だから早めに出て、昼食は別荘で食べたいな」
 「分かりました。じゃあ、朝7時くらいの出発で」
 「そうだな。柳、大丈夫か?」
 「え! いや、私なんてどうでも良くて」
 「何言ってんだ。お前も家族なんだから、お前がきついようならどうとでも変えるよ。お前、朝はあんまり強くないだろ?」
 「石神さん……」

 柳が泣き出す。

 「ば、ばかやろう! 何泣きやがるんだ!」
 「だって、嬉しくて。私なんてただの居候じゃないですか」
 「なんだよ、バカ! そんなこと誰も思ってねぇぞ! 居候なんか冗談じゃねぇ。この家に置くもんかよ。お前だから家族として一緒に暮らしてるんじゃねぇか」
 「石神さーん! 本当に嬉しい」

 まあ、こいつなりに肩身が狭いなんて勝手に思ってたのか。
 俺に関しては欲しがりだが、与えると戸惑うまだガキだ。

 もっとちゃんと早く言ってやり、示してやれば良かった。

 「柳、悪かった」
 「え?」
 「お前がそんなに苦しんでいたとは思わなかった。堂々とこの家で生活して欲しかったのに、俺はお前の心が分かって無かった。すまない」

 俺は立って頭を下げた。

 「そ、そんなことは! 石神さん、全部私が悪いんですからぁー」

 泣いて俺に抱き着く。

 「お前は大事な女だ。そう言っただろう。お前が来るのが楽しみだって言ってただろう」
 「はい、そうでした」
 「俺を信じろよ」
 「え、でも信じて散々からかわれたような気が」

 俺はパンパンと手を叩いた。

 「ということで、じゃあこの話は終わりだ。柳は家族! いいね、さんはい!」
 「柳さんは家族」

 亜紀ちゃんが言った。

 「おし! 終わりだ」
 「……」

 柳は黙って座った。
 もう泣いてない。
 良かった。




 「それで7時だと朝食はどうしましょうか?」
 「前の晩にサンドイッチでも作るか。冷蔵庫に入れて置けば、途中の車で食べるのにいいだろう」
 「なるほど」
 「柳はどう思う?」
 「ええと、他に唐揚げとかソーセージとか?」
 「ああ、いいな! 柳ちゃん、頭いい!」
 「……」

 「次に昼食な。朝が軽いから、昼は何にするか」
 「カレーとかは着いてすぐじゃ難しいですよね?」
 「そうだな。煮込む時間で双子がキレるな」
 「アハハハハ!」

 「あの、どんぶりなんかどうでしょうか。それなら作りながらすぐに食べれますし」
 「柳、天才?」
 「いえ、石神さん。もうそんなに気を遣わなくていいですから」
 「そう?」
 「はい」

 亜紀ちゃんが笑う。

 「いや、でもどんぶりっていいじゃないか。カツ丼、親子丼、牛丼とか、何種類か作るか」
 「いいですね! ちょっと種類を考えてみますね」
 「ホイコーロー丼とか麻婆豆腐丼とか、結構あるよな」
 「あの、私も作りますからね」
 「ああ、頼むぞ」

 柳が嬉しそうな顔をした。

 「夜はやっぱアレかぁ」
 「二日間バーベキューでいいんじゃないですか?」
 「まあ、鍋と違って喧嘩も少ないしな」
 「レイはどう思うかなぁ」
 「そうですねぇ」
 「レイさんですか?」
 「ああ、柳。今回の別荘はレイを中心にしたいんだ」
 「なるほど」
 「柳は一度行ったけど、レイはまだないからな。本当は夏に行くんだけど、去年は顕さんか」
 「そうでしたよね」

 懐かしい。

 「どうしても見せたい人間がいると、このゴールデンウィークにも行く、というかな。今回はレイがそうだということだ」
 「分かりました」
 「もちろん、柳も他の子どもたちも楽しんで欲しいけどな」
 「ありがとうございます」

 「タカさん。レイさんのバーベキューって串に刺すでしょ?」
 「ああ、そうか。うちのは鉄板焼きって感じだもんな」
 「そうですよ。自分で好きな物を焼くのって、レイさんも珍しいんじゃ」
 「そうだな。それと二日目はまた海鮮も多く入れるか」
 「いいですね!」

 「じゃあ、残りの食事は亜紀ちゃんと柳で考えてくれよ。あのスーパーには早めに連絡してな」
 「分かりましたー」
 「私も頑張ります!」
 「柳は育ちがいいからな。食事のメニューなんかはなかなかいいアイデアをだしてくれる」
 「いえ、そんな」
 「これからも頼むな。亜紀ちゃんも助かるだろう」
 「はい!」

 俺たちは話題を変えた。





 「それで山王会の神だけどなぁ」
 「はい、すみません」

 亜紀ちゃんが恐縮している。

 「桜にも調べさせたんだけどな。どうもあっちでも持て余している奴らしいんだ」
 「そうなんですか」
 「あの、私は外しましょうか?」

 柳が言う。

 「だからぁ。お前は家族なんだから一緒に聞いとけ!」
 「はい」
 「それからもっとつまみを喰え! デブになっても好きだからな!」
 「はい!」

 柳はアスパラベーコンを食べる。

 「最初は大阪の愚連隊だったらしいんだ。それが結構な勢力になって、山王会の下部組織から誘われた」
 「そうなんですか」
 「でも上を立てねぇし、他所の組と揉めるしで、嫌っている奴も多い」
 「じゃあ、どうして止めないんですか?」
 「単純に強いからだよ。まあ、綺羅々の山王会版って言うかな」
 「ああ、なるほど!」
 
 柳がずっと黙って俺たちの顔を見ている。

 「ところで柳、神って知ってるよな?」
 「いいえ、全然」
 「亜紀ちゃん、話しておけよ!」
 「だって、そのあとで怒涛のいろんなことがあったじゃないですかぁ!」
 「言い訳すんなぁ!」
 「タカさんこそ、こないだ一緒に出掛けたんですから話す機会はあったでしょう!」

 「いえ、あの、いいですから教えてもらえますか?」
 「そう?」

 俺たちは、亜紀ちゃんが修学旅行で向こうのヤクザと揉めた話をした。

 「このバカ娘が夜に飲みに出やがってよ。そこで衝突したんだ」
 「あー! 飲みに出たから貢さんのあの人と知り合えたんじゃないですかぁ!」
 「ふざけんな! どこの家庭で女子高生が修学旅行中に飲みに出るんだぁ!」

 「まあまあ、話が進みませんし」
 「そう?」

 亜紀ちゃんがみりん干しをバリバリ喰うので、俺の分を遺しておけと言った。
 噛み千切って残りを皿に置く。




 「この亜紀ちゃんがなぁ。仕留めきれなかったんだよ」
 「え!」
 「地下のバーに行ったら、神とその仲間がマスターを脅してる現場だったのね。それで襲ってくるんで撃破したんだけど、神には全然攻撃が当たらないの」
 「そんな、亜紀ちゃんが?」
 「まあ、店ごと吹っ飛ばせばな。でもそんなことは出来ねぇ。だから逃げられた」
 
 柳は驚いている。
 亜紀ちゃんの無敵の強さは分かっている。

 「ガス管を引きちぎって、ライターを投げて来たの。店の中には友達もいたし、怪我してるマスターとかも。だから追いかけることも出来なくて」
 「それにしたって、亜紀ちゃんが斃せないなんて信じられない」
 「柳さん、あの神って奴ね。10秒先が見えるんだって」
 「え?」
 「本当だと思う。私の攻撃が全然当たらなかったもの」
 「……」

 「タカさんはどう思います?」
 「相手の動きを読むのは格闘技の基本だ。出来なきゃ上には上がれない。初動の動き、その前の筋肉の動き、表情や目線。そいつの癖や習得しているもの。そういったもので読むことは出来るよ」
 「でも神は……」

 「ああ、俺も別物だと思う。上級者であれば攻撃も出来るからな。神は見えるだけで、格闘技に関してはそれほどでもないのかもしれない」
 「でも」
 「ああ。狡猾だ。ガンでもガスでも、何でも使って来る。用意されると厄介だな」
 「はい」
 「いずれこっちから出向いた方がいいかもしれねぇ。早乙女に調べてもらおう」
 「はい。山王組からの圧力はどうでしょうか」
 「それは表面化してからだな」
 「分かりました」

 俺は柳に向かって言った。

 「柳、お前はもっと強くなってくれ。お前が一番心配だ」
 「はい、分かりました」
 「お前に万一があれば、俺が耐えられない」
 「……」

 柳はじっと俺を見ている。

 「どうした?」
 「いえ、いつ「なんちゃって」って言うのかと」

 俺は笑って、そんなことは言わないと言った。

 「お前を大分からかい過ぎたようだな」
 「そうですよ」
 「悪かったよ」

 俺は柳を後ろから抱き締めた。

 「本当に大事なんだ。お前はうちの家族の中じゃ一番まだ弱い。伸びしろはあるけどな。だから今お前を危険に遭わせたくないんだ」
 「石神さん……」

 「気を付けてくれな」
 「はい」
 「本格的に危なくなったら、護衛もつけるけどな」
 「え?」
 「お前のことは、いつも考えてるんだぜ?」
 「石神さん!」

 柳の頭を撫で、お開きにした。
 亜紀ちゃんが梅酒を飲み干し、柳に片付けましょうと言った。
 二人で笑いながら洗い物をした。





 俺はロボを抱き上げて寝室へ上がった。
 
 「お前も家族だからな」

 俺が言うと、顔を舐めて来る。
 ロボは先のことを考えない。
 俺は背負うものが多くなった。
 でも、悩むことはやめよう。
 俺も今を生きるのだ。
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