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「紅六花」ビル、再び Ⅲ

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 車の中で、全員が泣いていた。
 困った。
 俺は途中で車を停め、小鉄に肉を用意してくれと電話で頼んだ。

 「紅六花」ビルに戻り、そのまま8階へ上がる。
 リビングに入るとキッチがコーヒーを淹れてくれ、小鉄が唐揚げを持って来てくれた。

 「悪いな」
 「いえ、どうしちゃったんですか?」
 「俺が余計なことを言ったんでな」
 「そんなことないですよ!」

 亜紀ちゃんが言った。
 もう唐揚げを喰っている。
 みんな無言で食べ始めた。
 泣かなくなった。
 響子がロボを連れて来た。
 寝間着だ。

 「タカトラー」

 俺は膝の上に乗せてやる。

 「どうだ、オセロは勝てたか?」
 「うん! 全部勝った!」
 「そうか」

 頭を撫でてやる。
 キッチは全然無理だったと言った。

 「じゃあ、俺と一勝負するか」
 「うん!」

 キッチがボードを持って来る。
 俺たちの勝負をみんなが眺める。
 なんとか勝った。

 「くっそー」
 「ガハハハハハ!」





 俺は少し早いが、風呂に入ることにした。
 宴会が始まると、響子と一緒に入るタイミングが無くなるかもしれない。
 珍しく六花が遠慮し、俺は響子と二人で入った。

 「待ってる間にね、キッチさんが下に連れてってくれたの」
 「へぇ」
 「なんか一杯来ててね。私に挨拶したいって」
 「そうか」

 宴会が始まる前に、総長六花の宝を見たかったのだろう。

 「みんな優しい人たちでね。一杯撫でられちゃった」
 「良かったな。みんな六花が大好きなんだ。だから六花が一番大事にしているお前を見たかったんだよ」
 「そうなんだ」
 「響子はカワイイし、みんな喜んでただろう?」
 「うん!」

 「みんなな。響子のためなら命を捨てても惜しくないって連中だ。それを忘れないでやってくれ」
 「うん! 私もみんなのためにガンバルね!」
 「そうか」

 俺はEGO-WRAPPIN'の『老いぼれ犬のセレナーデ』を歌った。


 ♪ゴールまでまっしぐら 息を切らした犬は走るよ 通り過ぎたら 湿った雨音の群れ♪


 「俺たちは、とにかく走るしかねぇ」
 「うん」
 「その後のことなんて、知ったこっちゃねぇ」
 「うん」
 「一緒に走ろうな」
 「うん!」

 「お前にはセグウェイがあるしな」
 「アハハハハ!」

 



 宴会場へ行った。
 もう全員が揃っていて、席について話し、料理や酒を運んでいる人間もいる。
 俺と響子を見つけると、全員が立ち上がって頭を下げた。
 タケがテーブルに案内してくれる。

 「もうしばらくお待ちください」
 「ああ、構わないよ。ゆっくりやってくれ」

 みんなこっちに来るので、そいつらと話して待つ。
 響子はずっと褒められるので上機嫌だった。
 俺の子どもたちと柳が降りて来て、小鉄たちを手伝い始める。
 六花がロボと一緒に来た。
 みんなに囲まれる。
 俺たちのテーブルに来て、響子の隣に座った。
 ロボは俺と響子、六花の膝に伸びて甘えた。

 タケがロボに焼いたササミを持って来る。
 ロボには宴会の時間など関係ない。
 喜んで食べ始めた。
 準備が終わり、宴が始まった。
 六花が挨拶し、俺も簡単にやる。
 柳が俺の隣に座っている。
 肉食獣ではないからだ。
 そいつらは、俺たちの向かいに座った。




 食べ始めると、早速子どもたちがステーキを取りに行く。
 着席ビュッフェだが、幾つかの料理は最初からテーブルに置いてもある。
 響子のために八宝菜とスープを取った。
 リッカチャンハンも食べる。
 六花はステーキを喰い破りながら、笑って響子を観ている。
 子どもたちは何の心配もない。
 俺に空の皿を見せてから、つぎつぎにステーキを取って来ていた。

 みんなが驚いて見ていた。
 タケとよしこが、皇紀以外はステーキを取っている間は近づくなと全員に注意した。
 60キロあったステーキが1時間もしないうちに無くなった。

 「あ! 六花だー!」

 響子がリッカチャンハンを食べた後に出てきた、皿の六花の似顔絵に驚いた。
 
 「「虎チャーハン」は、虎の顔なんですよ」
 「そうなの! 見たい!」

 俺は六花に持って来させた。

 「すごいよー!」

 響子が興奮している。

 「タケー!」

 俺はタケを呼んだ。
 走って来る。

 「おい、10杯喰ったら六花の写真って、どうした?」
 「はい! もう大好評です!」
 「ちょっと響子に見せてやってくれないか?」
 「はい、すぐに!」

 レジの下から何枚も持って来た。

 「今のところ、10周まで用意してます。ポイントカードがこちらで」
 「おい、この写真はなんだ?」
 「はい! ご希望の方は石神さんの写真も用意してますんで」
 「なんでだよ!」
 「え? でも、こっちも大好評ですよ! 女性の方が主に!」
 「主にって、男もいるのかよ?」
 「はい!」

 複雑な思いだ。
 俺の顔のアップや幾つかの全身、着物もある。
 フェラーリとアヴェンタドールと一緒の写真もあった。

 「総長3で石神さん2ですかね」
 「そうなの?」
 「はい! お陰様でまた売れ行きが良くなったのと、何よりも皆さん喜んで下さって」
 「お前らも持ってんの?」
 「もちろんです! 「紅六花」でコンプリートしてない奴はいません!」

 ロボの写真もいいかと言うので、許可した。
 俺がロボを誘ってジルバを踊ると、喜んで何枚も撮った。
 まあ、売り上げになるならいい。

 「俺のオチンチンも撮るか!」
 「ダメです! それは私だけです!」

 六花が抗議する。
 もちろん冗談だが。

 「ところでお前よ、いつチンチン撮ったんだよ?」
 「響子に頼んで」
 「あんだと!」
 「石神先生が立ってシャンプーを流している時に」
 「このやろう!」

 響子を睨むとニコニコ笑っていた。 
 どうやら、二人でこっそり俺を撮っているらしい。
 そう言えば、フェラーリの写真を六花が撮っていたことを思い出した。

 「まあいいけど、絶対に外に出すなよな」
 「「はい!」」

 タケが笑っていた。





 食べる方が落ち着いて、本格的に飲む方へ移って行った。
 よしこがステージのような場所に立ち、マイクで全員に言った。
 俺たちが孤児院に行き、いろいろやったと話した。

 「その後で「紫苑六花公園」にも寄って下さった!」

 全員が黙って聴いている。

 「その時に石神さんが教えてくれたんだぁ! 「紫苑」の花言葉は「君を忘れない」なんだって!」

 全員が立ち上がり、拍手をし、何人も泣いていた。
 俺はよしこに近づき、マイクをもらった。

 「あのな、お前らみんな女の子なんだから、花言葉とかちょっとは興味を持て!」

 みんなが笑った。
 六花を手招いた。
 俺の隣に立つ。

 「それでな。俺の提案だけど、六花とお前らと紫苑との話を石碑にしてあそこに置いたらどうかな? 読んでくれたら、きっとあの公園を大事に使ってくれると思うぞ?」

 大歓声が沸いた。
 タケが駆け寄って来ると、全員が俺の周りに集まった。

 「胴上げだぁ!」
 「やめろ、酔っ払いがぁ!」

 俺は持ち上げられ、空中を舞った。
 天井があるので、それほど高くはない。
 六花もやられる。
 六花は美しく笑っていた。





 タケとよしこは早速手配すると、みんなの前で言い、みんなが盛大な拍手を送った。

 六花は俺の腕を絡め、美しく笑っていた。
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