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「紅六花」ビル、再び Ⅱ 君を忘れない

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 孤児院では、みんな俺と六花のことを覚えていてくれた。
 部屋に入ると二人で囲まれた。
 俺は子どもたちと柳を紹介する。

 「柳は俺の親友の娘だ。山梨に親がいる。でも、こいつら四人の両親はもう死んでしまっていない。俺が引き取った」

 孤児院の子どもたちは黙って聞いている。

 「可哀そうに今じゃ俺の奴隷だ。夜も寝ないで働き、普段はハダカで暮らしている」
 「嘘だよー」

 亜紀ちゃんが言うと、みんなが笑った。

 「まあ、お前たちももう俺の子どものようなもんだ。何も心配いらないからな!」

 大きな声で、みんなが返事をした。
 よしこが来る時に、みんな勉強を一生懸命にやっていると教えてくれた。

 「石神さんが言った勉強法だと言うと、みんな頑張ってやってます」
 「そうか」
 「勉強が楽しくなったって言ってますよ」
 「それは良かった」

 


 子どもたちは昼食を作った。
 食材は送ってあった。
 もちろん、ステーキだ。
 それとシチューを作る。
 量は多いが、まあ若干うちよりも少ない。

 俺は外で鬼ごっこをやった。
 
 「俺に捕まったらパンツ脱がすぞー!」
 「石神さん!」
 「アハハハハハ!」

 一人、参加しない子がいた。
 一通り遊んでから、その子に近づいた。
 痩せた男の子だ。

 「初めてちゃんだよな?」

 俺が声を掛けても黙っている。

 「最近入ったんです」

 よしこが説明してくれた。
 小学校三年生で、竹流(タケル)という子らしい。

 「いい名前じゃねぇか!」
 「……」

 シングルマザーで、この孤児院の前に置き去りにされていた。
 警察に届けて母親を探したが、自殺していた。

 「おい、ちょっと付き合えよ」

 竹流が俺を見る。
 俺は抱きかかえて空に上がった。
 他の子どもたちが叫んで見ている。

 「竹流にはこないだの「奇跡」を見せてねぇからな」

 竹流は俺にしがみ付きながら、下を見ていた。

 「自分のために生きるな。自分以外の人間のために生きろ。そうすれば奇跡が起きる。こないだそういう話をしたんだ」

 竹流が俺を見る。
 徐々にスピードを上げ、時速50キロくらいで移動した。

 「誰にも言うなよ? 俺たちだけの秘密だ。お前は奇跡を知った。これからどうするのかはお前が決めればいい」
 「はい」

 初めて喋った。

 「辛かったよな。でもそれはお前の運命だ。それをあんまり嫌うな。もう俺と出会ったんだから、お前は大丈夫だぞ」
 「神様ですか?」
 「いや、石神ってんだ」
 「そうですか」

 竹流は笑顔で下を見た。

 「空も見ろ。もっともっと高いぞ」
 「はい」
 「一杯勉強して、一杯誰かの役に立て」
 「はい」
 「よし! お前はいい奴だな!」
 「フフフ」

 「その竹流という名前な、本当に素敵だな」
 「そうですか?」
 「ああ。親が一生懸命に考えて付けてくれたのが分かる。お前は愛されて生まれたんだ」
 「……」
 「最後は辛くてどうしようもなかったんだよ。だけどお前は確かに愛されて生まれた。それを忘れるな」

 竹流が泣いた。
 声を上げ、これまで胸に詰まっていたものを流した。


 俺たちは孤児院に戻った。
 子どもたちが集まって来る。
 口々に自分も飛びたいと言う。

 「悪いな。これは竹流と一緒じゃないと出来ないんだ」
 「えー!」
 「もしかしたら、そのうちに竹流が飛べるようになるかもしれん。そうしたらまた、こいつに頼めよ」

 子どもたちは竹流にガンバレと言った。
 竹流にいつかやって欲しいと言い、竹流も頷いていた。
 よしこが泣いていた。

 「引き取ってから、本当に寂しそうで。でもあたしたちは何もしてやれなくて」
 「それでいいんだ。誰も何も出来ないものなんだからな」
 「でも石神さんは」
 「俺だって同じだよ。竹流が自分で何とかするしかねぇ」
 「でも」
 「よしこ、タケ、お前らがここを守ってるんだ。俺じゃねぇ。お前たちが、「紅六花」があいつらを守っている。それを忘れるな」
 「「はい!」」




 昼食をみんなで食べた。
 ステーキとシチューの美味さにみんなが喜んだ。
  
 「来るときにでかいヘビが死んでてな、拾って来たんだ!」

 みんな笑った。

 「たまにはヘビもいいだろ?」

 亜紀ちゃんがヘンな顔をしていた。

 「美味かったら、また捕まえて来るからな!」
 
 食後は俺がギターを弾いて、ちょっとしたコンサートをやった。
 亜紀ちゃんたちがライブのノリを教え、ジャンプさせたりヘッドバンキングをやらせる。
 双子が足で二回、手を一回でリズムを刻み始める。
 子どもたちが次第に合わせて来る。
 俺は苦笑して、クイーンの『We Will Rock You』を歌う。
 みんな大喜びで熱唱した。
 六花の周囲の子どもは、耳を塞ぎながら歌った。

 三時におやつを配る。
 タケとよしこが用意すると言っていたので、俺たちは待っていた。
 いちご大福だった。

 「あ! いちご大福だぁ!」

 六花が叫ぶ。
 丁度この話をしていたと、タケたちに話した。
 俺は売っている場所を聞いておけと言った。
 六花が聞いたが、覚えられないので後でメモをくれと言った。
 俺は笑って、俺が覚えたからいいと言った。

 「頭いいですね!」
 「東大卒だからな!」

 子どもたちが笑って見ていた。




 俺たちは帰ることにした。
 子どもたちが寄って来て、俺は一人一人抱き締めた。

 「お前らは俺の大事な子だ! また来るからな!」

 よしこが泣いていた。
 タケが肩を叩いて歩かせた。

 「ばかやろう、涙を見せるな」
 「えー、でもタカさんもよく泣きますよね!」

 亜紀ちゃんが言うので頭を引っぱたいた。

 「私たちは、だからタカさんが大好きなんですよー!」
 「うるせぇ!」

 よしことタケが笑った。
 車の中で、何度も礼を言われた。

 「俺の子だって言っただろう! あんなのは当たり前だ」
 「ありがとうございます」
 「タカさんの子って、多いですもんね」
 「なんだ?」
 「え? あれ、なんだろう?」
 「ちょっと頭をこっちに持って来い!」
 「いやですよー!」

 なんか、分かる気がするのだが、分からない。
 隣で六花が自分の股間を指さしている。

 「お前! これからお父さんと紫苑の墓参りだぞ!」
 「はい!」

 みんなが笑った。

 「柳、疲れてないか?」
 「大丈夫です!」
 「お前に関係ない場所ばっかりで悪いな」
 「いえ! 私も「石神一家」ですから!」
 「そうか!」

 俺たちは墓参りを済ませ、「紫苑六花公園」へ向かった。




 「なんだ、その名前にしたのか」
 「はい、他に思いつきませんで」

 タケが鍵を開け、建設中の公園に入った。
 中央に、でかい長いベンチがある。

 「真っ先にあれを作りました」
 「そうか」
 
 亜紀ちゃんが柳に、この場所の話をしていた。

 「あそこらへんに、紫苑の花畑を作ろうと思います」
 「そうか、綺麗だろうな」

 遊具は砂場程度で、あとは憩いの公園にするつもりのようだ。
 ベンチをあちこちに置き、屋根付きのエリアを作り、小規模のコンサートなども出来るようだ。

 「いいじゃないか」
 「はい!」

 後ろで柳が大泣きし始めた。
 驚いて振り向くと亜紀ちゃんが慌てて慰めている。
 六花が近付いて柳を抱き締めた。

 「おい、ところで「紫苑」の花言葉を知っているか?」

 六花が俺を見る。
 首を振っている。




 「「君を忘れない」だ」




 六花と柳が大泣きした。
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