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柳のお仕事

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 ゴールデンウィーク。
 7日間の休みだ。
 子どもたちも当然休みだ。
 こいつらは休んでばかりいるように見える。
 まあ、数日前はバケモノと死闘したのだが。

 俺は朝食を食べ、亜紀ちゃんが淹れたコーヒーを飲んでいる。
 今日は予定は何も無い。
 明日からは「紅六花」ビルへ行く予定だ。
 子どもたち四人と柳と六花と響子。
 レイは行かない。
 大使館にゴールデンウィークは無いためだ。
 その後の別荘には一緒に行く予定だ。

 特別移送車は、今回は使わない。
 響子が大分体力が付いたためだ。
 一応、向こうでの大きな病院の手配はある。
 ハマーに、響子のための特別なベッドを用意した。

 今年に入って、別荘も大々的に改装した。
 寝室を増やし、風呂も拡張している。
 屋上は、もちろんそのままだ。
 何も考えずに建てたものだったが、もう石神家の楽しみの一つになっている。
 不思議なものだ。

 「紅六花」ビルで一泊。
 別荘で二泊。

 それがゴールデンウィークの主な予定だった。
 とにかく、今日はのんびりする。
 夕方に響子と六花が泊りに来る。
 明日が早いためだ。




 修学旅行を終えて、どうも亜紀ちゃんがべったりで参っていたが、綺羅々との戦いの後で、不思議と無くなった。
 本人に聞くと、「なんだか十分に二人きりになった気がします」と言った。

 「そうか、まあ良かったな」
 「はい。でもなんでしょう。あんなにタカさんに夢中だったのに」
 「そうかよ」
 「は! もしかしてこれが「倦怠期」!」
 「アハハハハ」

 「笑い事じゃないですよ!」
 「別にいいじゃねぇか」
 「そんなぁ!」

 不思議と、俺も何か満足と言うか、結構ペッタリしたと感じていた。
 まあ、散々引っ付かれたからなぁ。

 「今日はタカさんはどこにも行きませんよね?」
 「まあな。ああ、ルーとハーを連れて散歩でも行くかな」
 「はい、行ってらっしゃい!」

 亜紀ちゃんが明るく笑う。
 俺たちの遣り取りを、柳が見ていた。
 授業が始まり、俺に選択科目の相談をしてきて、俺が結構な数を勧めた。
 それで今、勉強が大変になっているようだ。
 情けねぇ。

 「あの、私も行きたいなーとか」
 「おう、一緒に行くか」
 「はい!」

 四人で行くことにした。




 いつもの公園でベンチに座り、まったりする。
 ちょっと肌寒いが、日差しが当たるベンチは快適だった。
 ルーとハーがジュースを買ってくる。
 俺はコーラを、柳はオレンジジュースを、双子はメロンソーダだ。
 四人で目を閉じて日差しを感じる。

 「あー、のんびりですねー」

 柳が言った。

 「お前、勉強に追われてるな」
 「はい。でも頑張りますよ」
 「別に頑張る必要もねぇけどな。飽きたら捨てていいんだぞ?」
 「えー、でも。折角石神さんと話して取ったんですから」
 「そう思うならいいけどな」

 ルーとハーが服を脱ぎだしたので、やめろと言った。
 木に登りたかったらしい。

 「柳ちゃん、キャンプいこ?」
 「やめとく」

 何度も誘われているが、俺がそこで何があるのか話しているので断っている。

 「タカさん、亜蘭ちゃん誘ってもいい?」
 「やめといてやれ」

 きっと死ぬ。
 死んでもいいと思いながら死ぬ。
 亜蘭はすっかり体力も増して、真面目にうちの工事をやってくれている。
 東雲が驚いていた。

 「すぐにいなくなると思いましたけどね」
 「愛があるからなぁ」
 「あ、最初にあいつ、そんなこと言ってましたっけ」
 「あいつは純粋なんだよ」
 「ロリコンでもですか?」
 「そうだよ。ロリコンだって、貫けば大したもんだ」
 「そんなもんですか」

 東雲はまだ理解は出来ないが、亜蘭の真面目さは認めている。




 ソフトクリーム屋。
 俺たちの顔を見るなり「根性!」と店員が言った。
 柳が大盛りのソフトクリームを見て笑った。
 自分は普通でいいと言う。
 四人で店の前のベンチで食べた。

 「あ、美味しいですね」
 「そうだ、何しろここは日本一のソフトクリーム屋だからな!」

 俺は大声で言った。

 「タカさん! こんな美味しいの食べたことないよ!」
 「ニューヨークのお店より美味しいよ!」

 双子が俺に合わせて大声で言う。
 客が集まって来た。

 「ありがとー、根性の人たち!」

 店員が叫んで、みんなが笑った。

 俺は即興で『ソフトクリーム・ラヴ』を歌った。

 ♪ ソフトクリーム ソフトクリーム ラヴ! ラヴ! にっぽんいちの~ お店なんだぜ ラヴ! ♪

 双子も覚えてみんなで歌う。
 柳が大笑いした。
 本当に客が混んで来たので、俺たちは早めに食べて去った。




 俺たちは喫茶店に入った。
 双子は当然クリームメロンソーダだ。
 俺と柳はコーヒーを頼んだ。

 「どうだよ、東京は慣れたか?」
 「はい。でも人が多いのは、まだちょっと」
 「電車とかはそうだよな」
 「ええ」

 俺は思いついて柳に言った。

 「ああ、柳。お前午後は暇か?」
 「はい! 全然暇です!」
 「ちょっと顕さんの家に行くから付き合えよ」
 「はい! 喜んで!」
 「車は何がいい?」
 「え、あの、アヴェンタドールで」
 「シボレー・コルベットじゃねぇのか」
 「え! ええと、石神さんがそれならそれで」

 俺は笑って冗談だと言った。

 「じゃあ、昼を食べたらな。勉強は大丈夫か?」
 「はい!」

 まあ、デートコースではないが、柳と出掛ける機会があまりなかった。
 気晴らしにもなるだろう。

 「タカさん、パティスリーODAに寄ってこ?」

 ルーが誘う。

 「おう、いいな」
 「「ワーイ!」」

 俺たちはケーキ屋へ行った。

 「ルーちゃん、ハーちゃん、いらっしゃいませ!」

 女性の店員が明るく迎えてくれる。

 「石神さんたちは、どこでも大人気ですよね」

 柳が言った。

 「まあ、バカみたいに買うんだからなぁ」
 「アハハハハ」

 50個買う。
 ルーとハーに持たせる。

 「おい! こないだみたいに車にぶつかって潰すなよ!」
 「「はーい!」」

 前に、双子が横断歩道を渡ろうとして、右折車に吹っ飛ばされた。
 もちろん身体は平気だが、ケーキがグシャグシャになった。
 二人が泣きながら運転手を責め、ケーキの買い直しをさせたが、俺たちが大量に買ったので数が足りない。
 俺が勘弁してやれと言ったが、双子は運転手の服を脱がし、散々チンコをバカにしてから許した。



 家に帰り、俺は柳と出掛けた。

 「おい! 俺たちとレイのケーキは喰うなよ!」
 「「「「はーい!」」」」

 言っておかないと絶対に喰う。
 柳は笑いながらアヴェンタドールのシザードアを自分で開けて座った。



 「初めて伺いますね」
 「そうだな。時々行って掃除やらするんだ」
 「はい!」

 柳は嬉しそうだ。
 俺は大学のことなどを聞きながら運転する。

 「まだキャンパスを全部覚えきれません」
 「別に、必要な場所だけでいいだろう」
 「あ、弓道場に行きましたよ!」
 「そうか」
 「奈津江さんとの出会いですよね!」
 「まあな」

 東大の弓道は日置流の一派だが、他の流派が斜め打ち起こしに対し、東大の本多流は正面打ち起こしだ。
 俺はその方が典雅があると感じている。

 「ちょっと見学させてもらいました」
 「入るのか?」
 「いえ。他にやりたいことが多いので」
 「そうか」

 柳は部活やサークルに入る気はないらしい。
 まあ、そのうちに興味を持つかも知れんが。
 でも、勉強の他に、うちの一員としての活動もある。
 主には「花岡」の習得だ。
 活発な柳は楽しんでやっている。
 栞と亜紀ちゃんが中心だが、双子も喜んで教えている。
 俺もたまに付き合うが、見る見る上達しているようだ。
 もう、その辺の暴漢相手なら、何の心配もない。





 「おう、着いたぞ」
 「へぇー、ここですか」

 俺たちは門を開け、車を中へ入れた。
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