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トラ&亜紀:異世界転生 XⅢ

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 首都トランジルヴァニアへ来て約半年。
 ようやくペストは沈静化した。
 亜紀ちゃんは毎日「サーチ」で菌を持つネズミを探し、駆逐していった。
 不思議と、首都の内部のネズミしかペスト菌を持っていなかった。

 王国の点在する町や村も、俺がほぼ治療を終えた。



 「じゃあ、多分最後の村だ」
 「はい! 今回は一緒に行きますね」

 亜紀ちゃんが俺の腕を掴んで言う。

 「まあ、いいだろう。久しぶりに、シエルで行くかぁ!」
 「はい!」

 その村はゴリラ人族の村だった。
 獣人は種族はあるが、他種族への偏見は無い。
 同じ種族で固まることの方が珍しい。
 またトラヤールが案内に付くと言ったが、俺たちは必要ないと断った。
 地図をもらって、二人で向かった。

 「ゴリラ人族って、どういう人たちですか?」

 俺の腰に捕まりながら、亜紀ちゃんが聞いて来た。

 「いや、俺もあんまり会ったことは無いんだ。知性的で、物静かな連中らしいんだけどな」
 「そうなんですか」
 「だから静かに暮らしたいっていう連中で、それで首都から離れた場所でひっそり固まって生活しているんだって」
 「へぇー」

 まあ、分からないでもない。
 俺もどちらかと言えば、賑やかなのもいいが、基本的には静かに暮らしたい。
 都会が好きなのは、静かに暮らすための様々な必需品が簡単に揃うからだ。
 田舎でのんびり、という性格ではない。
 本を読み、音楽を聴き、美術品を愛でる。
 そういった「静か」な生活だ。

 40分ほどで着いた。
 それだけの時間が掛かるのは、むしろこの世界では相当な遠方だ。




 俺たちの到着は事前に知らされているので、村人全員が広場に集まっている。
 もちろん、隔離患者は別だ。

 「ようこそ、お出で頂きました。村長のタテシーナです」
 「マジか?」
 「はい?」

 俺と亜紀ちゃんは顔を見合わせた。
 院長にそっくりだった。
 まあ、院長がゴリラに似ているのだが。

 「亜紀ちゃん、この村はもういいんじゃねぇか?」
 「何言ってるんですか!」
 「だってよー」
 「「トラ」様! どうかお見捨てることなく!」
 「いや、冗談だよ」

 村長は慌てている。

 「何もお礼らしいことは出来ないのですが」
 「別にいいよ。首都でも他の町や村でも、全部無償だ」
 「ならば、どうかここも」
 「ああ、任せろ」

 院長によく似た奴が下出に出てくるので気持ち悪い。




 俺たちは隔離の建物へ向かって歩き出した。

 「村長の奥さんは、まさかシズコさんとかじゃないよなぁ?」
 「はい。シオーリと言います」
 「あんだとぉ!」
 「タカさん、落ち着いて!」
 「どうかされましたか!」

 俺に殴られるかと、村長は脅えていた。

 「亜紀ちゃん、やっぱりこの村は」
 「ダメですよー! それにタカさんは院長先生にとてもお世話になってるじゃないですか」
 「でも栞だぞ?」
 「それはしょうがないでしょ!」
 「あの、シオーリさんてどんな方ですか?」

 亜紀ちゃんが聞く。

 「はい。お恥ずかしいのですが、ずっと年下でして」
 「浮気かぁ!」
 「はい?」

 院長は栞が密かに好きだった。

 「亜紀ちゃん、この村は燃やそう」
 「タカさん! 何言ってんですかぁ!」
 「来たらみんな死んでた。だから燃やした」
 「絶対だめですよ!」

 村長が哀れなほど震えていた。

 「あの、私、何かご機嫌を損ねるようなことを」
 「そうだな!」
 「タカさん!」

 亜紀ちゃんが俺の腕を持って暴れないようにしている。

 「ちょっと「おい、石神」って言ってみろ」
 「はい。「オイ、イシガミ!」」
 「やっぱ殺そう」
 「なんでですかぁ!」

 「あれで俺は散々酷い目に遭わされたんだぁ!」
 「でも、命を救ってくれたじゃないですかぁ!」
 「それは、あっちの院長に恩を返す」
 「タカさーん!」

 村長が硬い表情で俺に言った。

 「あの、もしや私の妻のことでしょうか! それでしたら、妻を「トラ」様に差し上げます!」
 「なに?」
 「それでこの村が救えるのなら」
 「タカさん! 話がヘンなことになっちゃってますよ!」

 亜紀ちゃんが慌てる。

 「よし! とにかくお前の女房を連れて来い!」
 「はい!」
 「タカさん!」

 村長が走って行き、一人の女性を連れて来た。

 「これがシオーリです」
 「「……」」

 完全にゴリラだった。
 
 「悪かったな。別にお前から妻を奪おうなんて思っちゃいなかったから」
 「え?」
 「まあ、仲良く暮らせよ」
 「はい?」

 胸は大きかった。




 俺は隔離の小屋で病人たちを治療し、健康な村人たちにも「エクストラ・ハイヒール」を掛けた。
 亜紀ちゃんが「サーチ」でネズミを探すが、病気を持った奴はいない。
 村長に聞くと、首都から税官吏が来たとのことだった。
 そいつからの感染だったのだろう。
 全て終わり、食事に誘われた。
 大量のバナナのような果物が見えたので断った。

 「ところでよ」
 「はい!」
 「この村で「トラ」なんとかって名前の奴はいるか?」
 「いいえ、居りません。「トラ」が名に付くのは、「トラ」様の子孫だけですから」
 
 俺はホッとした。

 「亜紀ちゃん! いねぇってよ!」
 「そうですか」

 俺をちょっと睨んでいる。

 「首都には一杯いますからね!」
 「う、うん……」

 



 俺と亜紀ちゃんは首都トランシルヴァニアへ戻り、王城のラーラにペストは克服したと伝えた。
 ラーラたちは喜び、俺たちに褒賞を用意すると言うのを断った。

 「これで俺たちは帰るからな」
 「そうなのですか」
 「まあ、今回は戦争も無しだ。人族やエルフ族とも仲良くやってくれよ」
 「はい」

 俺は、もう一度霊廟のロボに会いたいと言った。
 ラーラ自ら案内してくれる。

 「ロボ……」

 俺はロボの美しい姿を見つめた。

 「千年後に、タカさんはあっちで再会したんですね」
 「ああ、そうなのかもな」
 「どうりでロボがベタ惚れのはずです」
 「そうだな」

 俺は少し笑った。

 「まあ、世界が違うんだ。偶然とは言わんが、別な存在だよ」
 「そうですね」




 元の世界に帰る前に、俺と亜紀ちゃんであちこちを回った。
 クライスラー王国で王とアイザックに魔王の次第を話した。
 エルフの里の「ヤマト煮」にウマヘビを大量にやった。
 最初の獣人の村へ行き、ルーとハーと遊び、一緒に食事をした。

 その夜、海へ行った。
 砂浜に二人で座る。




 「亜紀ちゃん、そろそろいいか?」
 「そうですね。かれこれ、二年以上いましたもんね」
 「そうだな」

 二人で笑った。

 「誰も知らない土地で二人でだよな」
 「え? タカさんの子孫だらけでしたが」
 「アハハハハ!」

 「また来たいですね」
 「もうよせよ!」
 「だって。こっちも楽しかったですよ」

 亜紀ちゃんが俺の手を握った。
 
 「向こうはもっと楽しいさ」
 「そうですね!」




 羽虫を呼んだ。

 「どうかな、楽しんでくれたかな?」
 「バカヤロー! 俺たちはどこだって一緒なら楽しいんだよ!」
 「タカさん……」
 「じゃあ、お帰りいただくとして」

 「あの」

 亜紀ちゃんが言った。

 「こっちの記憶って残せないんですか?」
 「うん。ダメって言うか、無理なのね。違う世界ってことは、通じ合っていないということだから」
 「そうですかぁ」
 「こっちのものを持ち出すことも出来ないよ。あなたたちが飲み食いしたものも、全部消える。まあ、転移前に戻るってことだけどね。だから記憶も消えるの」
 「じゃあ、どうして向こうの記憶は持っているんだ?」
 
 俺が聞く。

 「それはね、実はこっちに来た時に植え付けてるのよ。移動したんじゃないの。あっちの管理神と連携してね。だけど逆は出来ない。あなたたちの存在する場所なんだから、異世界の要素は残せないの」
 「ふーん、なんだかなぁ」
 「こっちは、あなた方を「呼ぶ」から出来るのよ」
 「じゃあ、あっちの世界も呼んだ奴は、記憶も能力も引き継いでいるのか?」
 「そういうことね」

 「俺たちがそうだったように、あっちの世界でも途轍もない奴が来るかもしれないってことか?」
 「そうだったでしょ?」
 「あ?」
 「あなたたちは簡単に勝っちゃったけどね。普通はああは行かないわよ」
 「何のことだ?」

 「ここに来る前の話」

 「「あ!」」

 「分かったようね。まあ、よくもあんなバケモノに勝ったわよ。あなた、とんでもないよね!」
 「おい! その記憶だけでも」
 「だーめ!」




 俺と亜紀ちゃんは眩い光に包まれた。

 「なんにしても、ありがとう。これでこの世界は救われたよ」
 「もう呼ぶなよな」
 「ウフフフフ」

 羽虫の楽しそうな笑い声が聞こえた。






 ハマーに荷物を積み込みながら、俺は子どもたちを見ていた。

 「タカさん! 焼肉はいつもの新宿のお店ですよね!」

 ハーが嬉しそうに俺に言う。

 「タカさん?」
 「あ、ああ。そうだ、あそこだ」
 「ウマヘビはないですけどね」
 「そうだな!」
 「ウマヘビって?」

 ハーが聞く。

 「え?」
 「そうだなぁ。亜紀ちゃん、なんだよそりゃ?」
 「え、タカさんも知ってたような」
 「知らねぇよ」
 「そうですよね。なんですかねぇ」
 「二人ともしっかりしてよ!」

 ハーが笑って言う。

 「そうだぞ、疲れたのか?」
 「大丈夫ですよ!」



 俺はよく分からなかったが、無事に終わったことは分かっている。
 早乙女の肩を叩いた。
 早乙女も嬉しそうに笑った。
 生意気なのでバンバン叩くと痛いと言った。

 俺たちは笑いながら帰った。
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