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トラ&亜紀:異世界転生 Ⅵ

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 「ヒマだなぁ、亜紀ちゃん」
 「そーですねー」

 俺たちは王都に豪奢な屋敷をもらった。
 侯爵の位ももらっている。
 まあ、名誉叙爵であった。
 但し、俺の血が王家に入っているので、実質的には複雑だ。
 亜紀ちゃんには話せないが、聖が相手していた人族は50代以上。
 王家に関して言えば、当時の王の妹の53歳だった。
 子を産むことは絶対に無い。
 町でも同様だ。

 屋敷は侯爵が住んでいたもので、地方へ隠居するとのことで、俺たちが譲り受けた。
 大勢の使用人ごとだ。


 「冒険者ギルドの仕事も、全然つまんないですよ」
 「ああ、一週間も俺たちが狩ったら、もう魔獣もいねぇんだからなぁ」

 後は採集系か、護衛任務。
 退屈極まる。
 そもそも、侯爵親子に護衛されるなど、相手も困るだろう。

 「町に悪人とかいないんですかね?」
 「まあ、いるんだろうけど、それを探すのもなぁ」
 「人間じゃ魔獣より弱いですしね」

 「「うーん」」

 俺たちはコーヒーを飲み終わると、やることもないので町に出てみた。
 馬車を用意すると言われたが、歩いて行く。

 「西が商業街ですよね」
 「ああ。何か面白そうなのを探すか」

 俺たちの服を見て、町の人間が驚く。
 貴族が歩いているなんて、あり得ない。
 俺と亜紀ちゃんは構わずに腕を組んで歩いた。
 高級店はすぐに分かる。
 店がでかい。
 まずは大きな商店に入った。
 
 《トラティファニ商会》

 宝飾を扱う店らしい。
 貴族の服を着ている俺たちは、恭しく案内された。
 店主のトラティファニが挨拶に来る。

 「石神高虎だ。こっちは娘の亜紀」
 「はぁ!」

 店主は腰を折り曲げた。

 「楽にしてくれよ。気軽に見て回りたいんだ」
 「いえ! ご先祖様!」
 「また?」

 亜紀ちゃんの顔が険しくなった。

 「また聖がなぁ!」
 「……」

 一番でかい紅玉のリングを亜紀ちゃんに買ってやった。
 次の店は、高級服地の店だった。

 《トラエルメース服飾店》

 「俺は……」
 「ご先祖様!」
 「「……」」

 《トランポリン運動具商会》
 《トラウメーダ高級肉店》
 《トランプ不動産》
 《トラトラトラ奇襲に成功店》

 「タカさん」
 「あんだ?」
 「いいお店って、みんな「トラ」なんとかですね」
 「そうだったかな?」
 
 「タカさん」
 「なーに♪」
 「タカさんの血だから成功してんですよね!」
 「お前、何を言う!」
 「誤魔化してもダメですよ!」
 「証拠はねぇだろう!」

 「聞きました! イシガミタカトラの血筋の人間はみんな「トラ」を付けるんだってぇ!」
 「ホント?」

 亜紀ちゃんが泣き出した。
 そんなこと言われてもなぁ。

 「私もタカさんの子を産みたいよー!」
 「バカを言うな!」

 冗談じゃねぇ。

 屋台通りに出て、大量の串焼き肉を食べさせ、なだめた。
 驚くほどに機嫌が直る。

 「まあ、俺も聖も18歳だったんだよ。後先考えないって言うか、本当にみんな困っていたからな」
 「そーなんですか?」
 「ああ。エルフの里はもう知っているだろうけど、アイザックの家も、この王都も、男は兵役の魔獣戦でどんどん死んで行ったし、魔獣の被害で一般市民も大分殺された。人口が激減し、男もいなくなっていたんだ」
 「まあ、それは分かりますけど」
 「俺たちだって、楽しんでいたわけじゃない(大嘘)。人助けで已む無くだったんだ」
 「はぁ」

 「亜紀ちゃんだって、目の前で困ってる人がいたら、何とかしたいだろ?」
 「まあ、私はやらせませんけどね。タカさん以外は」
 「亜紀ちゃんは女性だからそれでいいよ。でも俺たちは男だからな」
 「うーん、分かりましたー」

 ホッとした。

 「そう言えば、この世界には魔人族もいたんですよね」
 「あ、うん。いたね」
 「獣人族はティボーにいるんですよね」
 「おう! そうだ」
 「魔人族は?」

 答えに窮する。

 「どうしたんですか?」
 「あーあのな。滅びたかな」
 「え?」

 「いやぁー、あいつらさ、結構強かったんだよ」
 「そうなんですか」
 「魔力量が高くて、しかも魔法戦は達者と言うかな。それに加えて肉体も桁違いに戦闘力が高い」
 「へぇー」
 「先天的に魔素を大量に圧縮して取り込んでいるんだよな。だからだよ」
 「そうなんですか」

 「それで聖がなぁ」
 「また?」

 「魔王を斃して暇になったんで、遊び相手にな」
 「はぁ?」

 「それで全部殺しちゃった、アハハハハハ!」
 「タカさん!」
 「俺は必死で聖を止めたんだよ!(もう勘弁してやろうって言うから」
 「そうなんですか?」
 「でも、あいつらも俺たちにしつこく向かってくるから(あちこちの村や町をぶっ潰して回って怒ってたから)」
 「それでも……」

 「いやいやいや! 元々悪い連中だったんだよ! 人族やエルフ族や獣人族にも戦争を吹っかけて来るし、迷惑な連中だったんだ(あいつらの領地に入った時はな)」
 「だからって!」

 「でもな! 俺たちも正々堂々と戦ったんだ!」
 「さっき遊び相手って言ってましたよね!」
 「ああ、スポーツって遊びの戦争じゃん」
 「また言いくるめようと思って!」

 肉を買って来た。
 収まった。

 「亜紀ちゃんだって、魔獣をガンガン狩るじゃない」
 「そーですけどぉ」
 「魔人族って、要は魔獣と同じなんだよ。人間を見ると殺そうとするって言うかな(そうじゃない奴もおおかったけどな)」
 「そうなんですか!」
 「ああ。言葉もよく通じないしな(大嘘、俺たちは言語理解スキル持ち)」
 「じゃあ、仕方ないかもしれませんね」
 「うん!(バーカ!)」

 言いくるめた。




 「そう言えば、この世界に海ってあるんですか?」
 「ああ、あるよ。前回は行かなかったけどな。ここから獣人の国のティボーに行くには海を渡るんだ」
 「じゃあ、船で?」
 「いや、ワイバーンに乗ってった。だから見はしたけど、空からだ」
 「なるほど」
 
 「行きたいのか?」
 「はい! 折角ですから」
 「じゃあ行ってみるか!」
 「行きましょう!」

 言われて気付いたが、海産物を食べたことも見たこともなかった。
 海と都市は離れてはいたが、流通できない距離ではなかったと思う。
 亜紀ちゃんに話すと、ショックを受けていた。

 「お魚、食べましょー!」
 「オォー!」

 

 俺たちは屋敷に戻り、執事に海のことを聞いた。

 「旦那様! 危険でございます!」
 「そうなのか?」
 「海には、陸の魔獣よりもずっと大きな魔獣がいるんです!」
 「そうかぁ」

 「人間は海から離れて暮らすしかございません」
 「漁師とかいないのか?」
 「リョウシ?」
 「船に乗って魚を獲ったりするとか」
 「とんでもございません! 船は川を移動する手段しか使いません」
 「なるほどね」

 亜紀ちゃんに話した。

 「海水は浮力があるから、巨大化できるんだろう。地球でも鯨とかそうじゃん」
 「なるほど!」
 「まあ、危険ってことなんだけど」
 「え? 行きますよね?」
 「だろうな!」
 「ですよね!」

 俺たちはサングラスの製作に、数日を費やした。
 海はサングラスだ。
 水着はこの世界には、だから無い。
 湖や川もヤバイものが多いためだ。

 宰相のアイザックに数日海に行くと伝えた。
 非常に驚いていたが、俺たちなら大丈夫だろうと判断した。

 「宜しければ、王都の軍も連れて行ってもらえませんか?」
 「いやぁ、俺たちは空を飛んで行くからなぁ。ついて来れないだろう」
 「それでしたら、ワイバーン騎士たちだけでも」
 「まあ、勝手について来るのは構わないぞ?」
 「ありがとうございます! お二人の戦いを、是非お傍で見せてやって下さい」
 「分かったよ」

 編成をすぐに組むと言うので、屋敷で待った。
 20名ほどの人数が選出され、翌朝に俺たちは出掛けた。

 「タカさん」
 「あんだよ」
 「ワイバーン騎士さんたち、もう点になっちゃいましたよ?」
 「おっせぇなー」
 「ちょっと待ちます?」
 「いいよ、行き先は決まってんだからな」
 「そーですね!」
 「俺は早く魚とかカニが喰いてぇよ」
 「私も!」

 三日月形の湾に着いた。
 真っ白な砂浜には、当然誰もいない。

 「綺麗ですねー!」
 「そうだな!」

 俺たちは着替えた。

 俺はバミューダパンツのようなものに。
 亜紀ちゃんは、それと胸に布を巻いた。
 サングラスは大事なので外す。

 やっとワイバーン騎士たちが到着した。
 浜から大分離れた場所に集まる。

 「お前らは、薪になるものを集めてくれ。美味い物を喰わせてやるからな!」
 「はい! お気を付けて!」

 空間収納からでかい鍋を幾つも出し、それぞれに水を入れる。
 特注で作った金属の網も出す。
 鉄板も出す。

 久しぶりのバーベキューだ。




 俺と亜紀ちゃんは笑いながら海に入った。
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