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暗黒龍とアークトリスメギラ Ⅱ

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 早乙女が狙われるのは予想していた。
 綺羅々は俺を手に入れるために、様々な俺の不利になる証拠を消して回っている。
 早乙女の存在はその邪魔になる。
 それに恐らく、早乙女が自分たちを狙っていることも知られているだろう。
 何にしても、早晩、早乙女は消されていたに違いない。

 俺は聖の会社に、早乙女のガードを頼んだ。
 日本での仕事になるため、ガンは俺の方で用意した。
 あいつらも自前で用意するだろうが、俺がやった方が簡単だ。
 狙撃ライフルとステアーAUG。
 サイドアームにH&KP30。
 それで十分なはずだ。
 警察官が、プロの傭兵に敵うはずもない。
 しかも聖に鍛え上げられ、聖が俺のために送る込む人間なのだ。

 スナイパーは早乙女のマンション付近に配置した。

 予想通り、マンションの駐車場で早乙女が襲われた。
 俺との会合の直後だった。
 聖の会社の連中から、敵は二人だったと聞く。
 俺は遺体を回収させ、「佐藤家」で処分した。



 早乙女に、決戦を宣言する。
 あいつは躊躇なく受け入れた。
 俺は「仲間」として扱うことにした。
 最大戦力の亜紀ちゃん、そしてルーとハーを連れて行く。
 皇紀は念のためにうちの防衛だ。
 まだ戦闘経験の浅いレイと柳がいる。

 戦闘は俺と亜紀ちゃんで十分なはずだったが、今回は取りこぼしは出来ない。
 だから双子に哨戒任務を与えた。
 早乙女も連れて行くが、主に綺羅々の最後を見せるためだ。
 だが、俺は早乙女に対物ライフルM82を与えた。
 本来は必要のないことだったが、俺の中の勘がそうさせた。



 また双子が勝手に獣を狩って来る。
 殺してしまったものは仕方ない。
 俺は亜紀ちゃんに調理させた。
 早乙女が緊張している。
 長い時間の緊張は、急速に集中力を衰えさせる。
 俺は早乙女を双子と寝かせ、ぐっすりと休ませた。

 警戒していたが、綺羅々は別段罠を張るようなこともなかった。
 全員で乗り込んで来た。
 俺は綺羅々を誘い込む際、二重に意味を伝えるように話した。

 一つはあいつの妄想通りに暗黒龍とアークトリスメギラを滅すること。
 もう一つは、俺たちとの戦闘であること。
 頭のぶっ飛んだ綺羅々がどちらの意味で来るのかは分からない。
 俺は迷わせ、思考をブレさせるように意図したつもりだ。

 6台の車が正午に来た。
 距離500メートル。
 俺は初弾を早乙女に撃たせた。
 先頭の車のボンネットが吹き飛び、一瞬後に車が火を吹いた。
 炸裂弾だ。
 他の車は散り、広い敷地をこちらに向かってくる。
 
 「今ので三人やったよ!」
 「魂が地面に吸い込まれていくよ!」

 双子からインカムに連絡が入った。
 地面にというのは、きっと悪業の者の報いなのだろう。

 俺と亜紀ちゃんが前に出る。
 車は100メートル手前で止まり、それぞれ人間が降りて来る。
 全員アサルトライフルを持ち、一人はロケットランチャーを担いでいた。

 亜紀ちゃんが「虚震花」を放った。
 人も車も、全てが消えた。






 はずだった。

 「タカさん!」
 「おう」

 綺羅々が立っていた。
 その隣に一人の男も。
 亜紀ちゃんの技を喰らって生きているはずがない。

 「敏夫!」

 綺羅々が叫んだ。
 男が高速で移動する。
 亜紀ちゃんが飛び出した。
 数秒後に激突する。
 激しい電光が走り、二人の周辺の地面が抉られ、爆発していく。

 俺は綺羅々を見ていた。

 「早乙女、やっぱり異常事態だ」
 「ああ」
 「こいつらを本当に人間と思うなよ」
 「分かっている」

 高速でぶつかり合う亜紀ちゃんたちの塊から血煙が拡がり始めた。
 俺には見えている。
 亜紀ちゃんのものではない。

 「ワハハハハハ!」

 亜紀ちゃんの声が聞こえる。
 やがて激突は動かなくなり、小さな塊になった「敏夫」が現われた。
 人間の顔ではなかった。
 鬼のように角が生えた頭。
 亜紀ちゃんはそれを俺に見せ、右手のブローで粉砕した。

 俺は早乙女を見た。
 ビビってない。
 大した男だ。




 綺羅々が俺たちに近づいて来る。
 でかい女だ。
 筋肉も物凄い。
 その身体が更に膨らんだ。

 「タカさん!」

 亜紀ちゃんが俺の隣に走って戻る。
 俺を守るつもりなのが分かった。
 笑顔が漏れた。

 「亜紀ちゃん、やるぞ」
 「はい!」

 異常なことが起きているが、俺たちは何も動揺はない。
 やるべきことをやる。
 それだけのマシーンになっていた。

 綺羅々の右手が持ち上がった。
 俺は早乙女を抱えて左に走る。
 亜紀ちゃんは右だ。

 綺羅々の右手から黒い煙が吹き上がる。
 それは一本の太い線となり、地面に叩きつけられた。
 地面が100メートルに渡って大きく抉られる。

 綺羅々の身体は8メートルにもなっていた。
 筋肉が膨れ上がり、全身が黒く、顔は異様なものに変わっている。
 左目が幾つも縦に並び、口から長大な牙が生えている。
 額の真ん中に、1メートルもあろうかと思われる角が生えていた。

 「!」

 俺も亜紀ちゃんも驚いているが、行動に変わりはない。

 「早乙女、500メートル離れろ! そこから撃て!」
 「分かった!」

 亜紀ちゃんがブリューナクを放った。
 綺羅々が軽々と避けていく。
 俺はトールハンマーを撃つ。
 その電光も避けられる。

 遠方から「巨閃花」が来た。
 ルーとハーが事態を見て撃ったのだろう。
 しかし、綺羅々は回避し、地面が爆発した。

 綺羅々の左目が上から順に光った。

 「回避しろ!」

 俺は叫んだ。

 亜紀ちゃんに顔が向き、その前方から壁のような激しい光の帯が伸びる。
 地面に深い割れ目が刻まれ、空中に激しい電光が拡がっていく。
 亜紀ちゃんは瞬時に判断し、空中に飛び出した。
 マッハ3の超音速で移動した。
 服が瞬時に四散する。

 綺羅々が俺に近づいて来た。
 その首で血煙が弾けた。
 早乙女の攻撃だ。
 誰も傷つけられなかった綺羅々に一矢報いた。

 「やるな、早乙女!」

 俺はインカムに叫び、右手を上げた。

 俺は腰の「虎王」を抜いた。
 右手から伸びる黒い帯を「虎王」で斬った。
 切られた帯は根元から消失する。

 「綺羅々! 今から暗黒龍を殺すからな!」

 綺羅々だった巨大な怪物が咆哮した。
 周辺の空気が激しく振動する。

 俺は超高速移動で瞬時に綺羅々の前に移動し、跳躍した。
 右手から伸びる黒い帯を斬り裂きつつ、右腕を肩から切り落とす。
 黒い液体をまき散らしながら、右腕が地面に落ちた。
 地面で右腕がうごめく。
 俺がブリューナクを放つと、肉が爆ぜていき、やがて動かなくなった。

 俺はそのまま「飛翔」して離れる。

 綺羅々の怪物が激しく吼えた。
 痛みなのか、歓喜なのか。

 綺羅々の右目がまた光り出す。
 その脇から、また血煙が上がる。
 M82の弾頭が次々に撃ち込まれていく。

 「綺羅々ぁー!」

 俺は空中を高速移動しながら、怪物を頭頂から両断した。
 一層激しい咆哮を上げながら、怪物は二つに斬り裂かれた。

 轟音と共に地面に斃れる。

 「タカさん!」

 亜紀ちゃんが来た。
 油断なく、怪物を睨んでいる。
 双子が早乙女を抱えて飛んで来た。
 早乙女は激しく呼吸している。
 やっと恐怖を感じているのだ。

 「早乙女、止めを刺せ!」
 「え?」

 「まだこいつは死んでねぇ! お前がやれ!」
 「わ、分かった」

 早乙女が怪物の左の顔面に銃弾を撃ち込んだ。

 ルーとハーが両断された怪物を、俺の指示で「轟雷」で焼却していく。
 時間が掛かるかと思ったが、意外と呆気なく燃え尽きて行った。
 何か、が抜け出たのだろう。




 「石神」
 「終わったな」
 「ああ」
 「お前が斃した」
 「ありがとう」

 双子が夕べ使った毛布を抱えて、亜紀ちゃんに巻き付けた。
 その後で戦いの跡を「虚震花」で消していく。
 ビデオや荷物を回収し、ハマーに積み込んだ。

 「タカさん、服買ってくださいよー」
 「あ、ああ、そうだな」
 「シャネルがいいです!」
 「下着売り場までの道は遠いな」
 「アハハハハハ!」

 毛布を巻きつけた全裸の女が、どうやって買い物をするのか。
 途中のホームセンターで安いジャージを双子が買って来た。
 早乙女がルーに目隠しをされ、亜紀ちゃんは車の中で着た。

 「着替えてから、焼肉でも喰いにいくかぁ!」
 「「「わーい!」」」

 「あんたら……」

 「早乙女、お前も来いよな!」
 「分かった。ご馳走になる」
 「あ? 誰が奢るって言ったよ?」
 「なに?」

 「アハハハハ! 冗談だって!」

 



 俺は、隣で俺たちと同じタイガーストライプのコンバットスーツを着た早乙女の肩を叩いた。
 こいつには似合わない。
 でも、今は確かに俺の仲間だ。
 俺が何度も叩くと「痛ぇ」と言った。

 俺たちは笑った。
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