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亜紀の修学旅行 Ⅳ
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「あー! 夕べのことを早くタカさんに話したいのにー!」
亜紀は「柊屋」の豪勢な朝食を食べながら唸った。
真夜は笑って見ている。
「本当に不思議なご縁でしたよね」
「そーなのよー!」
メールで送ればと真夜は言ったが、そっちも拒否されているとのことだった。
一応緊急連絡先は石神の病院だが、滅多なことでは使えない。
後で石神の怒りは受けたくない。
「「亜紀ちゃん道」に外れてる!」
「アハハハハ!」
朝食の後、亜紀は着物に着替えた。
石神に買ってもらった、元極道の妻の遺品だ。
「カッコイイ!」
「ね?」
亜紀はご機嫌だった。
先ほどの怒りは微塵もない。
真夜は、そんな亜紀のさっぱりとした性格も好きだった。
感情を明確に示すが、それに引きずられない。
切り替えが早いのだ。
タクシーで、哲学の道に行く。
「タカさんはね、西陣会館で着物を借りて奈津江さんと二人で歩いたんだって」
「そうなんですか」
真夜は何も知らないが、亜紀が行きたい所なら喜んで付き合うつもりだった。
「お昼は「チロリン茶漬け」でね!」
「はい!」
石神の話だと、歩いていると見つかるということだった。
しかし、一向に見えない。
「おっかしーなー」
亜紀が言う。
「潰れちゃったんですかね」
「そんなぁー」
ついに最後まで見つからなかった。
銀閣寺まで着いてしまった。
「亜紀さん、ほら、あそこのお店にしましょうよ」
「うーん」
団子を売っている店があった。
中で食事もできそうだ。
「折角着物まで着たのにな」
「お綺麗ですよ!」
真夜は何とか亜紀の機嫌を直そうとした。
「ひゃー、素敵な御着物ですなぁ」
すれ違った、品のいい老婦人に褒められた。
「父に買ってもらったんですよ」
「そうどすかぁ」
真夜はドキドキした。
前の柄はともかく、背中に般若だ。
「失礼ですが、前にこれを着てはらした方は?」
「え、分かるんですか? 父の友人の呉服屋さんで頂いたもので。すいません、前の方はよく知らなくて」
「へぇ。でもとっても大事にされてたもんやなぁ。お嬢さんに着てもろうて、ありがたい、おっしゃってるわぁ」
「そうですか!」
一気に亜紀の機嫌が直った。
団子と茶そばをどんどん持って来て、と言う。
老婦人は笑顔で会釈し、立ち去った。
「あの、今の方は?」
亜紀が店の人に聞いた。
「へぇ、まあちょっとお話しできへんわ」
「そうですか」
亜紀が食事に満足し、二人で出た。
「今日はみんな自由行動だったよね?」
「亜紀さん、それ何か私たちに関係あります?」
「アハハハハハ!」
二人は一度宿に戻り、亜紀は着替えた。
「じゃあ、蛤御門に行くよ!」
「はい!」
タクシーで移動する。
「ここかぁ」
亜紀は京都御所西の「蛤御門」を初めて見た。
しばらく、門とそこに刻まれた数々の傷を眺めた。
「ここでね。奈津江さんはタカさんに「蛤御門の変」の話を詳しくしたんだって」
「そうなんですか」
「タカさんが、懐かしそうに話してた。大事な思い出だったのね」
「はい」
「ところで亜紀さん、「蛤御門の変」って、どういうものだったんですか?」
「え? ああ、ほら。今はみんなネットで自分で調べる時代だよ」
「はぁ」
二人でウィキペディアを読んだ。
「「ふーん」」
真夜に顔を向けられ、亜紀は戸惑った。
「あたしってさ。幕末は何と言っても新選組だから」
「はぁ」
「タカさんにね、『新選組血風録』ってDVDを見せてもらったの! もう最高よ!」
「そうなんですか」
「あれはいいわー! 主役の土方歳三を演じた栗塚旭が、もう最高にいいのよ!」
「へぇー」
「タカさんが「神掛り的名演」って言ってた。本当にそうなの!」
「私も観てみたいな」
「今度タカさんに借りてあげる!」
「本当ですか!」
真夜は、亜紀がそこまで絶賛するものに興味を抱いた。
それに、石神が勧めているのだ。
タクシーは三時間借り切っていた。
「あー、もうタカさんと奈津江さんの思い出のコースは回っちゃったしなー」
「私、一か所行きたい所があるんですけど」
「え! なんだ、早く言いなよ」
「すいません。大徳寺って、どうですか?」
「おし! 行くよー!」
タクシーの運転手が笑って出発した。
「でも、どうして大徳寺?」
「あの、家族に納豆のお土産を」
「へぇー!」
二人は境内の散策もそこそこに、早速店に入った。
「じゃー、まずは食べよう!」
「はい!」
予約はしていなかったが、店の人が特別に精進料理を用意してくれた。
亜紀も、一人前だ。
美しい膳と、京都の品の良い味に、二人は喜ぶ。
土産に大徳寺納豆を大量に買い込んだ。
その後も名所に詳しい運転手と話しながら、二人であちこちを回った。
「じゃあ、宿に戻ってゆっくりするかぁー」
5時に戻り、早めの夕食を用意してもらった。
また、大量の食事が出る。
「亜紀さん、私はとても入りません」
「そーお?」
亜紀は気にせずにどんどん食べた。
二人で風呂に入り、部屋で寛ぐ。
真夜は、浴衣の亜紀をマッサージした。
「亜紀さん、あんなに食べてどうして太らないんですか?」
「さー」
真夜は笑った。
亜紀は石神と奈津江の話を真夜にした。
真夜は真剣に聞いていた。
「あのね、タカさんの前では絶対に奈津江さんの話はしないでね」
「分かりました」
「タカさんは今でも奈津江さんが特別なの。思い出すと辛いようだから」
「優しい人なんですね」
「そうなの!」
夜になっていた。
「じゃあ、今夜も素敵な出会いを求めて!」
「やっぱり行くんですね」
真夜は笑って浴衣を着替えた。
また真夜は亜紀に化粧する。
亜紀は動きやすい、ジーンズに長袖のTシャツに、薄手のシャネルの黒い革のジャケットを羽織る。
真夜は同じくジーンズに白のシルクのブラウス、フェラガモの茶のジャケット。
亜紀に任せ、二人は地下のバーに入った。
ヤバい男たちがいた。
亜紀は「柊屋」の豪勢な朝食を食べながら唸った。
真夜は笑って見ている。
「本当に不思議なご縁でしたよね」
「そーなのよー!」
メールで送ればと真夜は言ったが、そっちも拒否されているとのことだった。
一応緊急連絡先は石神の病院だが、滅多なことでは使えない。
後で石神の怒りは受けたくない。
「「亜紀ちゃん道」に外れてる!」
「アハハハハ!」
朝食の後、亜紀は着物に着替えた。
石神に買ってもらった、元極道の妻の遺品だ。
「カッコイイ!」
「ね?」
亜紀はご機嫌だった。
先ほどの怒りは微塵もない。
真夜は、そんな亜紀のさっぱりとした性格も好きだった。
感情を明確に示すが、それに引きずられない。
切り替えが早いのだ。
タクシーで、哲学の道に行く。
「タカさんはね、西陣会館で着物を借りて奈津江さんと二人で歩いたんだって」
「そうなんですか」
真夜は何も知らないが、亜紀が行きたい所なら喜んで付き合うつもりだった。
「お昼は「チロリン茶漬け」でね!」
「はい!」
石神の話だと、歩いていると見つかるということだった。
しかし、一向に見えない。
「おっかしーなー」
亜紀が言う。
「潰れちゃったんですかね」
「そんなぁー」
ついに最後まで見つからなかった。
銀閣寺まで着いてしまった。
「亜紀さん、ほら、あそこのお店にしましょうよ」
「うーん」
団子を売っている店があった。
中で食事もできそうだ。
「折角着物まで着たのにな」
「お綺麗ですよ!」
真夜は何とか亜紀の機嫌を直そうとした。
「ひゃー、素敵な御着物ですなぁ」
すれ違った、品のいい老婦人に褒められた。
「父に買ってもらったんですよ」
「そうどすかぁ」
真夜はドキドキした。
前の柄はともかく、背中に般若だ。
「失礼ですが、前にこれを着てはらした方は?」
「え、分かるんですか? 父の友人の呉服屋さんで頂いたもので。すいません、前の方はよく知らなくて」
「へぇ。でもとっても大事にされてたもんやなぁ。お嬢さんに着てもろうて、ありがたい、おっしゃってるわぁ」
「そうですか!」
一気に亜紀の機嫌が直った。
団子と茶そばをどんどん持って来て、と言う。
老婦人は笑顔で会釈し、立ち去った。
「あの、今の方は?」
亜紀が店の人に聞いた。
「へぇ、まあちょっとお話しできへんわ」
「そうですか」
亜紀が食事に満足し、二人で出た。
「今日はみんな自由行動だったよね?」
「亜紀さん、それ何か私たちに関係あります?」
「アハハハハハ!」
二人は一度宿に戻り、亜紀は着替えた。
「じゃあ、蛤御門に行くよ!」
「はい!」
タクシーで移動する。
「ここかぁ」
亜紀は京都御所西の「蛤御門」を初めて見た。
しばらく、門とそこに刻まれた数々の傷を眺めた。
「ここでね。奈津江さんはタカさんに「蛤御門の変」の話を詳しくしたんだって」
「そうなんですか」
「タカさんが、懐かしそうに話してた。大事な思い出だったのね」
「はい」
「ところで亜紀さん、「蛤御門の変」って、どういうものだったんですか?」
「え? ああ、ほら。今はみんなネットで自分で調べる時代だよ」
「はぁ」
二人でウィキペディアを読んだ。
「「ふーん」」
真夜に顔を向けられ、亜紀は戸惑った。
「あたしってさ。幕末は何と言っても新選組だから」
「はぁ」
「タカさんにね、『新選組血風録』ってDVDを見せてもらったの! もう最高よ!」
「そうなんですか」
「あれはいいわー! 主役の土方歳三を演じた栗塚旭が、もう最高にいいのよ!」
「へぇー」
「タカさんが「神掛り的名演」って言ってた。本当にそうなの!」
「私も観てみたいな」
「今度タカさんに借りてあげる!」
「本当ですか!」
真夜は、亜紀がそこまで絶賛するものに興味を抱いた。
それに、石神が勧めているのだ。
タクシーは三時間借り切っていた。
「あー、もうタカさんと奈津江さんの思い出のコースは回っちゃったしなー」
「私、一か所行きたい所があるんですけど」
「え! なんだ、早く言いなよ」
「すいません。大徳寺って、どうですか?」
「おし! 行くよー!」
タクシーの運転手が笑って出発した。
「でも、どうして大徳寺?」
「あの、家族に納豆のお土産を」
「へぇー!」
二人は境内の散策もそこそこに、早速店に入った。
「じゃー、まずは食べよう!」
「はい!」
予約はしていなかったが、店の人が特別に精進料理を用意してくれた。
亜紀も、一人前だ。
美しい膳と、京都の品の良い味に、二人は喜ぶ。
土産に大徳寺納豆を大量に買い込んだ。
その後も名所に詳しい運転手と話しながら、二人であちこちを回った。
「じゃあ、宿に戻ってゆっくりするかぁー」
5時に戻り、早めの夕食を用意してもらった。
また、大量の食事が出る。
「亜紀さん、私はとても入りません」
「そーお?」
亜紀は気にせずにどんどん食べた。
二人で風呂に入り、部屋で寛ぐ。
真夜は、浴衣の亜紀をマッサージした。
「亜紀さん、あんなに食べてどうして太らないんですか?」
「さー」
真夜は笑った。
亜紀は石神と奈津江の話を真夜にした。
真夜は真剣に聞いていた。
「あのね、タカさんの前では絶対に奈津江さんの話はしないでね」
「分かりました」
「タカさんは今でも奈津江さんが特別なの。思い出すと辛いようだから」
「優しい人なんですね」
「そうなの!」
夜になっていた。
「じゃあ、今夜も素敵な出会いを求めて!」
「やっぱり行くんですね」
真夜は笑って浴衣を着替えた。
また真夜は亜紀に化粧する。
亜紀は動きやすい、ジーンズに長袖のTシャツに、薄手のシャネルの黒い革のジャケットを羽織る。
真夜は同じくジーンズに白のシルクのブラウス、フェラガモの茶のジャケット。
亜紀に任せ、二人は地下のバーに入った。
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