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ドライブ: シボレー・コルベット C7ZR1

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 亜紀ちゃんが修学旅行に出掛け、俺も病院へ向かった。
 今晩は六花とシボレー・コルベットで走るつもりだ。
 やはり、こういう車を理解する奴と一緒に乗りたい。
 出勤すると、早速六花が車を見たがった。

 「凄いですね! 『マッドマックス』じゃないですか!」
 「そうだよな! やっぱこのスーパーチャージャーだよなぁ!」
 「はいはい! 楽しみですぅ!」
 「おう!」

 俺たちはハイテンションのまま響子の部屋へ行き、響子にも見せてやった。

 「アニコレ?」
 「どうだよ、シボレー・コルベットC7ZR1を改造したんだ!」
 「ふーん」

 「なんだよー、お前テンション低めじゃん?」
 「だってねぇ」
 「ナニナニ?」
 「ヘン」
 「「……」」

 俺と六花は消沈した。
 二人で両手を上げ、額に皺を寄せて、アメリカ人の嘆きのポーズをした。



 まあ、アメ公には分からんのだろう。
 レイもそうだった。
 アメ車なのになぁ。
 俺と六花は響子の部屋でずっと『マッドマックス』の話で盛り上がった。
 響子が段々と不機嫌になっていく。
 カワイイ。

 「もう! なんなのよ!」
 「おいおい」
 「ここは私のお部屋! 私が楽しい話をして!」

 「じゃあ、そろそろ『マッドマックス2』の話に入るかぁ!」
 「あぁ! ニトロ・インジェクションですねぇ!」
 「「ワハハハハ!」」

 「……」

 響子はむくれて、セグウェイでどこかへ行った。
 響子も前に『マッドマックス』を六花のマンションで観ている。
 怖かったようだ。

 子どもにはそうだろう。


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 俺が最初に『マッドマックス』を観たのは劇場だった。
 井上さんや族の仲間たちと一緒に、横浜駅の近くの映画館へ行った。

 「トラ! なんかすげぇ映画らしいぞ!」
 井上さんが言った。

 「そうなんですか!」

 俺たちはバイクで出掛け、近くの駐車場に停めた。
 チームの革ジャンをみんな着ている。
 俺はだから真っ赤な特攻服だ。

 鬼愚奈巣や他のチームを潰して、金は結構あった。
 金庫番の奴が、みんなのチケットを買う。
 モギリの女性が怖がっていた。
 下の連中がプログラムをみんなの分買い、ジュースなどの注文を取って行く。
 一番いい席を、何人かで確保する。
 まあ、俺たちと並んで座ろうとする奴もいない。

 俺は一番でかいポップコーンとコーラを手に、ワクワクして席に座っていた。
 俺のポップコーンに手を入れる奴はいない。
 井上さんでさえ、遠慮する。
 俺がブチ切れるからだ。
 映画が始まるとボリボリやってられないので、俺は急いで喰い始めた。

 劇場が暗くなる。
 仲間たちがため息のような声を上げる。
 広告宣伝の映像が終わり、本編が始まった。

 初っ端から爆走するシーンに、俺たちは興奮した。
 V8マシンの雄々しい疾走。
 俺たちの憧れの青春がそこにあった。

 でかい斧で襲うシーン。
 特攻隊の一人が、あれをやりましょうと言った。
 後日、本当に鉄工所の息子が作って来た。

 そして、あのスーパーチャージャーのインターセプターの登場だ。
 俺たちは燃えに燃えた。
 いつか、自分のマシンにスーパーチャージャーを取り付ける。
 俺たちの夢になった。

 俺はやったぞ!


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 


 仕事が終わり、6時から六花とドライブへ出掛けた。
 俺が高校時代に仲間と観た『マッドマックス』の話をする。

 「私はビデオでみんなで観たんですが、劇場だと迫力が違うでしょうね」
 「そうだなぁ。でも、俺も今はブルーレイとかで観るけど、やっぱりいいよな!」
 「何度観てもいいですよね!」

 第二作が最高だと言い合い、第三作は評判は悪いが二人とも好きだと意見が合った。
 そして『怒りのデスロード』!
 俺たちは大興奮で語り合った。

 「「V8に捧げよ!」」
 「「ワハハハハハハ!!」」

 「ああ。みんなで映画を観るというのがあの後ちょっと続いてな。よく観に行ったよ」
 「へぇー。何を観たんですか?」
 「印象的なのは『ジャンク』だな」
 「?」

 「知らないか。まあゲテモノ映画なんだけど、実際の事故とか死体をガンガン見せるっていうな。みんなショックを受けてたよ。なかなか本物の死体なんて見ないからなぁ」
 「なるほど」
 「結構ウケたらしくて、その後も何作も作られたな」
 「石神先生のコレクションにもあるんですか?」
 「一応なぁ。DVD化されたものはな」
 「何でもあるんですねぇ」
 「まーなー!」




 俺たちは首都高に入り、V8エンジンの唸りと、スーパーチャージャーの回転に喜んだ。

 「唸ってますね!」
 「そうだな!」

 ウキウキだ。
 しかし、回転数が上がると、スーパーチャージャーは止まり、ターボチャージャーに切り替わる。

 「あー、止まっちゃいましたよ!」
 「回転数が上がると、スーパーチャージャーはむしろ邪魔なんだ。ターボチャージャーで本領を発揮するんだよ」
 「へぇー!」

 アクセルを踏み込み、スピードメーターがどんどん動いていく。
 時速350キロを超える。

 「石神先生! 飛ばし過ぎですよ!」
 「大丈夫だよ」
 「だって! 高機に捕まっちゃいますって!」
 「おー、それな!」

 時速400キロを超える。

 「石神先生!」
 「大丈夫なんだ。何しろこの車は「外ナンバー」だからな!」
 「へ?」

 六花がヘンな顔をして俺を見た。

 「六花、俺が何のためにレイの車だと言って手間を掛けたと思ってんだ」
 「どういうことですか?」
 「レイは大使館の人間だ。だから俺は思い切り好きなように改造して、あいつが嫌がる車にした」
 「はい?」
 「でも、ナンバーは大使館のものだ。レイがいらないと言い、俺がもらった。ナンバーはそのままでな」
 「えぇー!」

 「欲しかったんだよ。日本の警察が手出しして来ない車をな。そのために頑張ったんだ」
 「頭いいですね!」
 「まーなー! この見た目で、警察は何も言って来ない。どんなにスピード出したって、捕まらない。まあ、まさか兵装まであるとも思ってねぇだろうけどな」
 「はぁー!」

 俺たちの車を見て、みんなが驚いている。
 何しろ虎(レイ)のでかいプリントに、でかいスーパーチャージャー。
 おまけにルーフの「ロボ」だ。
 
 「じゃあ、石神先生も大使館の人間ってことですか?」
 「まあ、一応はな。アビーにも、その旨で許可を得たしな」
 「何かするんですか?」
 「うーん、お茶くみとか?」
 「アハハハハ!」

 所属がアメリカ大使館員になっただけで、別に仕事はない。
 アビゲイルのサービスだ。

 


 俺たちは高速を降り、羽田空港へ向かった。
 もっと遠くまで行っても良かったのだが、下道でスーパーチャージャーの回転を見たかったのと、腹が減って来たからだ。
 駐車場で車を降り、六花がルーフの「ロボ」に触った。

 「ろぼー」

 《ニャンですか、六花さま!》
 「喋ったー!」

 六花は大喜びだった。
 この車には人工知能が搭載されている。
 そのため、荷物のための収納スペースはない。
 
 「音声でいろいろな操作が出来るんだよ」
 「そうなんですか!」
 「ロボ、ガソリンは大丈夫か?」

 《はい。でもまだドライブをなさるなら、給油をお勧めしますニャ》

 「分かった」
 「カワイー!」

 後で話そうと言い、六花を焼肉店へ連れて行った。
 前に、亜紀ちゃんを連れて来た店だ。
 六花はニコニコして大量の注文を入れた。
 すぐに皿が運ばれ、俺たちは焼き始める。

 「そういえば、響子は六花のマンションで『マッドマックス』を観たんだよな?」
 「はい。一緒に楽しもうと思ったんですが、ちょっと怖がってしまって」
 「まーなー」
 
 六花が特上ロースから食べ始める。

 「しかし、六花の家にもまともなDVDがあったんだな!」
 「石神先生、私を一体なんだと思ってるんですか」
 「アハハハハ!」

 俺は自分で焼いた特上カルビを食べようとして、六花に奪われる。
 美しく笑うので、そのまま譲った。




 「そういえばよ、こないだ石動から届いたDVDが、なんかみんな六花に似てるんだよ」
 「へぇー、そうなんですか?」

 エロ友達の六花は、当然石動の話も知っている。

 「まあ、あいつは俺の好みとかも良く知ってるからな。今までのレポートとか感想からあいつが揃えてくれたのかもな」
 「じゃあ、石神先生のお好みは私ということで!」
 「アハハハ。他の奴が言ったら怒るけど、確かに六花は最高に好みだけどな!」
 「ありがとうございます!」

 俺たちは楽しく食べながら話して行く。

 「あ! こないだ私が神保町に行ってた時に、石神先生からお電話いただいたじゃないですか」
 「あー、あったな」
 「あの時、よくお店で一緒になる男の人と、ちょっと親しくなったんですよ」
 「おい、大丈夫かよ?」
 「はい! とても紳士的な方で、ちょっと石神先生に似てるって思いました」
 「そんな場所にいる奴が?」

 別に何かを心配していたわけではない。
 万一六花を襲おうとしても、返り討ちに遭うだけだ。
 それに、六花は俺以外の男にまったく興味は無い。

 「そうなんですが、何か気持ちのいい方でした」
 「へぇー」

 六花がそういうことを言うのは珍しい。
 本当に良い人だったのだろう。

 「ああ、その方もエロ映像を研究してるって言ってました」
 「そうかぁ。結構そういう人がいるんだな」
 「はい。私の趣味がいいって褒められましたよ」
 「そうか!」
 俺は笑った。

 「なんでも、その方も知り合いにDVDを送ってるとか」
 「まあ、自分のコレクションは自慢したがるものだからな」
 「あ、今度その私に似てるっていうDVD貸してください」
 「ああいいよ。でも、絶対に返せよな!」
 「もちろんですよ。大事にします」
 「ああ、俺の大事な六花ソックリの作品なんだからなぁ」
 「アハハハハハ!」
 「ワハハハハハ!」

 明るくエロを語れる女は六花と双子だけだ。
 最高の女だ。




 俺たちは展望デッキを眺めてから、竹芝桟橋へ寄った。

 「ロボをちょっと使ってみるか!」
 「いいですね!」

 誰もいないのを確認する。

 「ロボ! 「虚震花」をちょっと見せてくれよ」
 
 《ニャ!》

 ロボの像が口を開いた。
 海面に向けて発射する。
 50メートル先の海面が爆発し、盛大な水しぶきを放った。

 「「おぉー!」」

 俺たちは拍手して称えた。
 



 帰りの車の中で、六花はずっとロボに話しかけ、喜んでいた。
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