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今年の花見

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 土曜日。
 
 俺たちは簡単な朝食を摂り、花見の準備に入った。
 大量の食材と調理器具、食器を運ぶ。
 ある程度のものは、既に元の住居の中へ運んでいる。
 イスやテーブルなどだ。

 一時的に、電気、ガス、水道を通している。

 俺たちは、食材の仕込みを始めた。
 基本的には石神家らしいバーベキューだが、花見らしいものも作る。
 手はいらないと断ったが、栞と鷹も手伝いに来てくれた。
 梅田精肉店が、肉を運んでくれる。
 今日は80キロだ。
 うちの冷蔵庫でも厳しいので、直接運んでもらった。
 レイと柳が皇紀の指導の下で懸命に肉を切る。

 12時前になり、徐々にみんな集まって来る。

 アビゲイルとアメリカ大使館大使夫妻が主賓だ。
 ジェイとマリーンたち数人がガードで一緒だ。
 院長夫妻。
 響子と六花に、俺の部下たち。
 千両と桜に東雲たち15人。

 主賓が到着したので、調理の途中だったが、乾杯をした。

 大使夫妻、アビゲイル、響子、六花、ジェイたちが同じテーブルに着く。
 六花が緊張しまくっている。
 まあ、後で俺が座る。

 千両と桜が、一人連れて来た。

 「諸見といいます。お見知りおきを」
 桜が言った。
 身長180センチの偉丈夫だ。
 頭を桜と同じく角刈りにしている。
 眼光が鋭い。
 やる奴だ。

 「そうか。よろしくな」
 「今日はどうしても諸見が来たいと言うんで連れてきました」
 「そうなのか?」
 「はい。こいつ、石神さんに惚れ込んでまして」
 桜が笑った。

 「へぇ、そうかよ」
 諸見はずっと俺に頭を下げていた。

 「おい、石神さんに挨拶しろ」
 「……」
 「おい、諸見!」
 「……」
 「てめぇ!」

 「いいよ、桜。男は滅多に言葉にできねぇこともあるさ」

 「!」

 「すいません、石神さん」
 「いいって。おい、諸見。これからも宜しくな」

 諸見は一層頭を下げた。

 「今日はよく来てくれた。存分に呑んで喰って帰ってくれな」
 「はい!」

 「おう、いい声だ。お前の魂は綺麗だな!」
 諸見が泣き出した。
 でも頭は上げなかった。
 俺は肩を叩いて離れた。




 子どもたちが料理や酒を配っている。
 今日は子どもたちに、もてなす役を与えている。
 いつも自分たちが喰い散らかすだけなので、たまには逆の立場に置くのもいい。
 柳も懸命にテーブルを回った。

 アビゲイルたちのテーブルから用意していった。
 あらかじめ用意した重箱を双子が置いて回る。
 亜紀ちゃんが焼いた肉などを、皿に盛って皇紀が置いて回る。
 双子と柳もそれに加わる。
 置いて行くタイミングで、酒や飲み物を注いで行く。
 人数が多いので、忙しい。
 皇紀が亜紀ちゃんと役目を交代した。
 亜紀ちゃんが配りながら、テーブルを盛り上げていく。

 俺も接待役だ。
 アビゲイルたちのテーブルに行った。
 六花が質問攻めに合っていて、沈没しかかっていた。

 「おい、レイを呼んで来い」
 俺は笑って、栞たちといるレイと交代させた。
 響子は大丈夫そうだ。

 六花はフラフラしながら歩いて行った。

 「響子、楽しいか?」
 「うん!」
 「アビー、今日は響子を撫でまくって行けよな」
 「ああ、イシガミ! 響子はどんどん大きくなるな」
 「そうだぞ。こないだは毛が生えたもんな!」
 「なに!」

 俺は「ケポリン」の話をした。
 みんなが大笑いする。
 
 レイが来たので、シボレー・コルベットの話をした。

 「こいつ、俺に頼んだくせに、苦労して用意したら乗らないって言うんですよ、大使閣下!」
 「そうなのかね」

 「そうです! ひどい女です」
 「石神さん! あの車は酷いですよ!」
 「俺の愛の塊だろう!」

 「大使閣下! 女性が運転する車に、大きなスーパーチャージャーを付けるんですよ! 『マッドマックス』みたいな!」
 「アハハハハ!」
 「それも大きな「虎」のペイントがフロントにあって」
 「アハハハハ!」

 「物凄い改造車で、ああ! ルーフに自分の飼ってる大きなネコを乗せたんです!」
 レイが駆けまわっているロボを指さした。

 「カワイイだろう!」
 「だからって、乗せないで下さい!」

 大使夫妻とアビゲイルとジェイが爆笑した。
 俺はスマホの画像を見せた。
 また爆笑した。
 響子も笑っている。

 「マーシー(大使)、僕も見たんだ。石神にレイを虐めるなと言った」
 「ワハハハハ!」

 「響子は乗りたいよな?」
 「イヤ」

 みんなが笑った。

 レイがニューヨークでの子どもたちの話を始めたので、俺は席を離れた。
 千両たちの所へ行く。
 レジャーシートに座っている。

 「よう、みんな吞んでるか?」
 「はい!」

 全員が言った。

 「千両たちは、今日は泊るんだよな?」
 「はい。東雲たちがお借りしている家に」
 桜が応えた。

 「じゃあ幾らでも飲めるな」
 「ありがとうございます」
 
 「千両、年なんだから羽目を外すなよ」
 「ありがとうございます」

 「裸になんかなるなよな!」
 「分かりました」
 「本当になるなよ!」
 「はい」
 「絶対だぞ」
 「はい」

 「こないだ、稲城会の連中がうちで真っ裸になりやがってよ」
 「あれは石神さんが!」
 「うるせぇ、東雲!」
 「すいません!」
 みんなが笑った。

 「亜紀ちゃんがいるのになぁ。それでみんなモップを尻に突っ込みやがってよ」
 「石神さんが!」
 「ヘンタイ共だよな!」
 「ひでぇ。ビデオも撮ってましたよね」
 爆笑された。




 「その後、変わりはありませんか」
 千両が聞いて来た。
 何か手が必要なのかを聞いている。

 「まあな。毎日どっかの事務所や店をぶっ壊してるよ。あいつらからは何もして来ねぇ。やったらどうなるのかは分かってるからな」
 「それは何よりです」

 「千両、東雲たちに、ちょっとは遊びに行けと言ってやってくれ」
 「はい」
 「こいつら、男同士で休みの日も家に引きこもってよう。間違いが起こるんじゃねぇかって心配なんだ」
 みんなが笑った。

 「桜たちも、うちのフロでホモ物見てただろ?」
 「あれは石神さんが!」

 「まあ、そういうのでもいいけどよ」
 俺は千両の家で10人の女を相手にした話をした。
 みんな面白がって聞いていた。

 「別に女じゃなくてもいいけどな。飲みに行くくらいはさせてやれよ」
 「ありがとうございます」
 「こいつら、毎日一生懸命やってくれてるんだ。頼むな!」




 俺は栞たちのテーブルに行った。
 六花が幸せそうに唐揚げと焼肉を食べていた。

 「石神くん、桜が綺麗だよね」
 「おお! 今日初めて聞いた!」
 みんなが笑った。

 「桜なんて必要ねぇと思ってたんだ」
 「うーん、ちょっとそうかもだけど」
 
 「六花、ちゃんと食べたか?」
 「はい!」
 「じゃあ、そろそろやるか」
 「石神、またあれをやるのか!」
 院長が嬉しそうに言う。

 「はい。お二人も一緒にやりますか?」
 二人は見ていると言った。

 俺はあちこちにいる子どもたちに声を掛けた。
 でかいラジカセを用意する。

 みんなが家の中に着替えに行く。

 『ガラスを割れ』を流した。

 全員が踊る。
 響子がセグウェイで走る。

 双子が空中に跳ね、鷹が空中を舞った。
 亜紀ちゃんが50メートルも跳ねて、でかい「轟雷」を天空に放つ。

 見ている人間が驚いた。

 曲が終わって、大きな拍手をもらった。




 双子が急いで家の中へ入り、着替えて来た。
 両肩にサメとウツボ。
 今日は裸ではない。
 マイクロビキニだ。

 『日本印度化計画』を踊った。
 みんな爆笑していた。
 亜蘭がまた鼻血で倒れた。

 俺はギターで『人生劇場』を弾き、桜とレイに歌わせた。
 次いで千両と亜紀ちゃんを呼び、千両の映画のテーマソング『叩き斬るのは涙じゃねぇ』を歌わせた。

 『The Star-Spangled Banner』の前奏を何度も弾き、アビゲイルのテーブルに手招きする。
 笑いながら、大使夫妻、アビゲイル、響子、レイ、ジェイが来る。
 全員で歌った。

 俺はバーベキューコンロに入り、子どもたちに飲み食いさせた。
 みるみり食材が消えて行った。

 四時ごろに大使夫妻とアビゲイルが帰った。
 本当はもっと早く帰る予定だったが、何度も電話して伸ばしていた。
 院長と静子さんもその後で帰った。
 楽しかったと言ってくれた。

 五時頃に、一旦解散とし、千両たちがまだ飲むというので、食材とコンロを残して片付けた。
 夜桜まで楽しむのだろう。

 六花は響子と帰り、鷹は栞の家に行くと言って帰った。

 俺は子どもたちとレイと一緒に帰った。




 「レイ、花見は楽しかったか?」
 「はい! それはもう!」
 「まあ、ただ飲んで騒ぎたいだけなんだけどな」
 「はい! それがいいですね」
 「柳はどうだ?」
 「はい、楽しかったです!」
 「そうか、良かった」


 「タカさん」
 ハーが呼んだ。

 「なんだ?」

 「夕飯はどうするの?」
 「お前、マジか!」

 みんなで笑った。
 うちの食材で好きに喰えと言った。

 
 楽しい宴が終わった。
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