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ラムジェットよ、永遠なれ。

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 三月最後の土曜日。
 双子が俺を起こしに来た。

 「タカさん、今日の私たちのスケボーのお披露目に来てもらえますか?」
 ルーが言った。
 少し前に、アニメで観たものを双子が欲しがっていた。
 今日は完成披露の日だ。

 「もちろんだ。楽しみだな」
 「「うん!」」



 二ヶ月前。

 「皇紀ちゃん、作ってー」
 「えー、僕は結構忙しいんだけどなぁ」
 「お願い!」

 皇紀は双子に甘い。

 「わかったよー」
 「ラムジェットエンジンを付けて」
 「えぇー!」
 「お願い!」
 「わかったよー」

 やれやれだぜ。




 以前に皇紀はラムジェットを試作した。
 結構頑張ったが、悲惨な結果に終わった。
 今の皇紀は違う。
 急激に様々な知識を吸収し、レールガンまで作るようになった。
 一種の天才と言うか、才能の化け物だった。
 双子の理論も化け物だ。
 三人の力で、様々な防衛システムが完成した。
 レールガンはレール長が短いにも関わらず、凄まじい威力を発揮する。
 レールガンは、レール長に比例して威力を増す。
 その根底を覆した。
 大電力の供給が大きいが、特殊な電磁コイルによってマッハ300で弾頭を撃ち出す。
 空気摩擦でも燃え尽きない弾頭の開発の方が厄介だった。
 スペースシャトルの外装を作る会社を買収した。
 ジルコニウムを基調にしたセラミックスを更に向上させた驚異的な技術だ。
 1キロ先で数千度になる弾頭が、あらゆるものを破壊する。

 そんなものを作り出す皇紀にとって、もはやラムジェットごときは児戯に等しい。

 はずだった。



 「スケボーじゃ、安定性が悪過ぎるよー」
 「でも、ちゃんとあいつは乗ってるじゃん」
 「あれはアニメだよ!」
 「えー、あれがいいのにー」

 「わかったよー」
 
 皇紀は俺に相談に来た。

 「後部だけじゃ無理だよな。前部にも装着して、ダウンフォースを得ないとな」
 「そうなんですけど、そうするとラムジェットの高温排気が」
 「それは曲げて脇に出せよ」
 「ああ!」

 「むしろタイヤと軸の強度だろう」
 「二人は時速300キロって言ってます」
 「無茶苦茶だな」
 「そうなんですよ!」

 「軸とベアリングの素材からの研究になるぞ?」
 「大変ですね」
 「耐摩耗性の高いものだよなぁ」
 「ちょっと研究機関を探してみます」

 つまらん遊びに、最先端の研究機関を動員することになった。



 「レールガンの砲塔を作ってる所でやってくれそうです」
 「ご苦労さん」
 「まあ、今回は小さなものなので、結構大変そうですが」
 「しかし、人類には扱えないオモチャになるよなぁー」
 「あの二人なら乗りこなすでしょう」
 「吹っ飛んでも平気だしな」

 「「アハハハハ!」」

 二ヶ月ほど試作を繰り返し、ついに完成した。
 チタン合金のボディに、双子が自ら塗装した。
 ウサギとネコ。

 院長の家で履いている双子の専用のスリッパだ。
 但し、でかい牙が生え、血まみれだが。



 観客が多い方がいいだろうと、みんなを呼んだ。
 亜紀ちゃんと皇紀、栞、鷹、響子、六花、レイ、院長夫妻、便利屋、俺の部下たち、ヒマしている東雲たち作業員。
 前回失敗した、小学校の校庭に集まった。

 俺や亜紀ちゃんも一緒にやろうと誘われたが、普通のスケボーにした。
 俺はエゴンシーレ風の俺の似顔絵を描いてもらい、亜紀ちゃんはウィリアム・ブレイクの「赤き龍」を描いてもらった。

 双子が颯爽とスケボーを抱えている。
 でかい。
 ほぼ、サーフボードのサイズだ。
 二つのラムジェットエンジンを積むので、そのサイズになった。
 東雲たちが、2トントラックで運んだ。
 まあ、元々公道を走れるわけではない。
 
 ボードの上には二機のラムジェットエンジンが前後に固定されている。
 それぞれ両側に噴射装置があり、通常走行は30度の角度で噴射する。
 ブレーキは当然無い。
 双子の足の操作で、エンジンの向きが変わり、前方に噴射させて止まる。
 出力調整も、足の操作だ。

 

 皇紀がエンジンを始動した。
 小さいながらも、爆炎を吹きながらラムジェットエンジンが唸り出した。
 みんなその様子をニコニコと見ている。

 「石神、大丈夫なのか?」
 院長が心配げに俺に聞いた。

 「大丈夫ですよ。まあ見てて下さい」

 双子がボードに乗った。
 手を振って来るので、俺たちも手を振った。

 「帽をふれー!」
 ルーが叫んだ。
 便利屋が帽子を取って回した。
 ゆっくりと進み出す。
 歩くスピードくらいだ。
 時々体重移動をしながら様子を見ている。
 徐々にスピードを上げる。

 時速30キロ程で校庭内を自在に走り回った。

 「すごいよ!」

 響子が叫んだ。
 俺は笑って抱き上げてやる。

 「タカトラ! すごいよ!」
 「そうだな」

 更に出力を上げた。
 皇紀がスピード計で測っている。

 「時速100キロ!」

 叫んだ。
 双子は校庭を円を描くように回り出した。

 「石神! すごいな!」
 院長が叫んだ。
 栞と鷹が抱き合って喜んでいる。
 六花が寄って来て、俺と響子を抱き締める。
 レイは亜紀ちゃんと楽しそうに大声で話している。
 東雲たちも興奮している。

 「ルー、ハー! 今日はそこまでにしてー!」

 皇紀が叫んだ。
 それを聞いて、双子が校庭の最長コースを走った。
 
 「あぁーーーーーー!」

 ハーが叫んだ。
 ラムジェットの向きが変わらない。
 そのまま200キロを超えるスピードで壁に突っ込んだ。
 壁の寸前で「虚震花」を放ち、何とか止まった。
 豪快な噴煙が上がった。

 「ハーちゃん!」
 院長が叫んで駆け寄ろうとするので、俺が止めた。
 転んだら大変だ。
 俺が指さすと、ハーがルーのボードに乗って元気に帰って来た。

 「石神!」
 「大丈夫ですって」
 「お前!」

 静子さんも心配そうだ。

 「あー、失敗しちゃったぁー」
 「ちゃんと皇紀の指示を聞けよ」
 「ごめんなさーい」

 院長がハーの身体を見ている。
 もちろん、かすり傷一つない。
 亜紀ちゃんが鷹と話していた。
 亜紀ちゃんがハマーから自分のスケボーを降ろした。
 鷹が乗る。

 スケボーが走り出す。

 「亜紀ちゃん、出来ますね!」
 「やっぱりー!」

 「飛行」の応用だった。
 俺も自分のスケボーでやってみる。
 面白い。
 時速50キロくらいで滑走する。
 チックタックから、オーリーを決める。
 亜紀ちゃんが鷹からボードを返してもらい、俺に並走する。
 楽しい。

 二人で校舎の壁を使って、豪快なジュードエアーをかます。
 みんなが拍手した。

 みんなの所へ戻ると、栞と鷹もやりたがる。
 鷹はボードに乗ったまま空中を滑走した。
 もう何でスケボーなのか分からない。

 響子も乗りたがる。
 俺は栞を呼んで、六花と響子を乗せた。
 
 「ゆっくりだぞ」
 「はい!」

 二人で楽しそうに走った。


 


 「タカさん」
 ルーが俺を呼ぶ。

 「なんだ?」

 「ラムジェットいらなかったね」
 「そうだな」
 「皇紀ちゃんに謝って来るね」
 「やめといてやれよ」

 皇紀は壊れたラムジェット・スケボーを抱え、呆然と鷹や響子たちを見ていた。
 俺は皇紀の肩を組んで言った。

 「いつかお前の失敗作を集めて、記念館みたいの立ててやるよ」
 「別にいいですよ」
 「そお?」
 「はい」




 家に帰って、みんなでお茶にした。
 みんなが自分のクッキーを皇紀にやった。

 「別にそんなに悲しくも無かったんですけど」
 「おう」
 「なんか泣きたくなってきました」

 「おう、泣け泣け」


 みんなが優しい目で皇紀を見ている。






 「あの、今回は別に失敗じゃないんですけど」

 皇紀が呟いた。
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