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稲城会、崩壊。 Ⅱ

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 土曜日。
 俺が遅く起きてリヴィングへ行くと、亜紀ちゃんが電話で話していた。

 「なんであんたがこの番号知ってるのよ?」

 俺の姿を見て、亜紀ちゃんが携帯の音声をオープンにする。

 「あんたの知り合いを締めて聞いた」
 「あんた、何やってんの?」

 「これからあんたの家に行く。面白いことになるよ」
 「へぇー」
 「うちの猛者を連れてくから」
 「へぇー」

 電話が切れた。

 「タカさーん」
 「あんだよ、それ」
 「夕べ話した真夜が来るそうです」
 「へぇー」

 「守って下さいね」
 「隕石じゃねぇじゃん」
 「でも、うちを壊されちゃうかも」
 「何とかしろ」
 「えぇー!」

 まあ、一応は待ってみるか。
 予定もねぇしな。




 1時間後、門にベンツが停まった。
 降りてきた奴が、うちの門を蹴っている。
 決まりだ。

 俺が出て行き、門を開けた。
 ベンツが断りもなく庭に入って来る。
 4人の男たちと、真夜らしい女子高生。
 男たちは黒いスーツが3人、もう一人はキラキラするスタジャンを着ていた。
 全員サングラスだ。
 カタギじゃねぇ。

 「おい、おま……」
 スタジャンの顎を蹴り上げた。
 2メートルも宙に浮き、砕けた顎から地面に落ちた。
 三人の男たちが刃物を抜く。
 「慣れている」連中だ。
 数秒後に全員が地面にへたばった。

 「!」

 真夜の髪を掴んで、鼻にパンチを入れた。
 盛大に血が噴き出す。
 頬を何度も殴った。
 全員の服をひん剥いて、中庭の天幕の下に運ぶ。
 亜紀ちゃんも来た。
 他の子どもたちとレイは中にいる。
 何の心配もしていないはずだ。

 「うちにカチコミなんて、お前ら正気か?」
 「「「「「……」」」」」

 「お前、こんなことして、分かってんのか」
 男たちの中で、一番上らしい奴が言った。
 抱き鯉の刺青を背負っている。

 「分かるも何も、お前らこそ、この後どうなんのか分かってるのか?」
 「てめぇ」
 「ところでお前ら、誰ちゃんよ?」
 「稲城会だ」
 「ああ!」
 日本最大の暴力団「神戸山王組」と並ぶ、関東の巨大組織だ。 

 「うちの親は直系だぞ!」
 「ほうほう」
 「稲城会を敵に回すってかぁ!」
 「全然平気」
 「なんだとぉ?」

 亜紀ちゃんに、東雲を呼ぶように言った。
 すぐに飛んでくる。

 「石神さん、こいつらは?」
 「ああ、うちにカチコミやがった」
 「なんですって!」
 「稲城会だとよ。どう思う?」
 「まあ、でかい組織ですが、石神さんなら問題ないかと。それともうちでやりますか?」
 「いや、いいよ。千両にはちゃんと死に場所を用意してやるって約束したしなぁ」
 「はい!」




 上らしい男が驚いて言った。

 「今、千両って言ったか!」
 「そうだぜ、あんちゃん。千万組の千両弥太だ。覚悟しろよな」
 「なんでこいつが!」
 「回状送ったはずだ。千万組は全員、この石神さんの下に着くってなぁ」
 「!」

 「さてと、お前らの始末だな」
 俺が言うと、全員が震え上がった。

 「生きて帰れるなんて思ってねぇよなぁ」
 「「「「「!」」」」」

 「おい! 俺たちは稲城会だぞ!」
 「おう、全面戦争だってな。ちゃんと分かってるぞ?」
 「いや、待て、待ってくれ」

 俺はモップを手にした。

 「死にたくねぇってか」
 「赦して下さい!」
 全員が必死に土下座する。
 真夜は放心している。

 「お前の組にカチ込んで来た奴は、謝ったら許すのか?」
 「申し訳ありません!!」
 「そりゃ無理だろう? 光モンまで出して、お前、何言ってんの?」
 「何でもします! どうか!」
 俺は上らしい男の顔を蹴り上げ、引っ繰り返った男の尻にモップの柄を突っ込んだ。

 声にならない叫びを上げる。
 亜紀ちゃんが笑っていた。

 「このまま口から出すぞ」
 「ま、ま、待って下さい!」

 尻から鮮血が噴き出していた。
 モップを抜いて、手足をへし折った。

 「ああ、カメラ持って来い」
 「はーい!」

 亜紀ちゃんが走ってカメラを持って帰って来る。

 「もう一度だ」
 俺はまたモップを突っ込んで、写真を何枚か撮った。

 「じゃあ、次はお前な」

 全員を写真に収める。
 真夜も尻を向けさせた。
 真夜は亜紀ちゃんが手で千切ったスコップの柄を突っ込もうとしたので、俺が止めた。

 「さて、まずはお前の親の家にカチコミだ」
 真夜の髪を掴んで立たせる。
 こいつだけは手だけしか折っていない。

 全員をハマーの荷台に投げ入れた。
 呻き声を上げる。
 住所を聞き、亜紀ちゃんと東雲を乗せて向かった。




 六本木のでかいビルだった。
 最上階とその下が住居らしい。
 キャバレーやクラブなどが入っている。
 その他は、恐らく組の事務所兼フロント企業だろう。
 真夜のカードを使って、エレベーターで上に上がった。

 出口にガードらしい男たちがいた。
 亜紀ちゃんが瞬時に倒す。
 俺と東雲は真夜たちを抱えている。
 扉を開けて、中へ放り出した。

 十数人の男たちが集まって来た。
 恐らく、まだ下からも来る。
 総勢、百人ほどか。

 15分後、俺たちは血まみれで転がった男たちを隅に片付けた。
 一応、まだ誰も殺していない。

 真夜の親と妹らしい三人が残った。
 電子機器はあらかた破壊している。
 東雲は、斃した連中を広い部屋に閉じ込めていく。





 「亜紀ちゃん、コーヒーを淹れてくれよ」
 「はーい!」

 リヴィングで、俺は真夜の父親・柿崎雄大と、母親、妹を床に座らせた。
 真夜をその前に転がす。

 「何を勘違いしたのかよ、うちにさっきカチコミに来た」
 「はい」
 「稲城会と全面戦争だって言うんで、最初にここを潰しに来た」
 「そ、そんな……」

 「お前ら、死ね」
 俺が獰猛に笑う。

 「どうか! どうか勘弁してください!」
 「あんだと?」
 「仰る額をお支払いします! どうかそれで手打ちに!」
 「うーん、じゃあ、100兆円」
 「!」
 「うちの資産は既に200兆円を超えてるんだ。それを獲りに来たんだからな。幾ら何でも半額は大サービスだろうよ」
 「でも、その金額は」
 「だから、死ねって。それしかねぇだろう」
 「……」

 亜紀ちゃんがコーヒーを持って来た。

 「うちのより不味いですけど」
 「しょうがねぇ。安いヤクザだからな」
 「アハハハハハ!」

 「おい、石神さんに手を出したんだ。お前ら覚悟しろよな」
 東雲が言った。

 「石神さんって! 千両が下に着いたっていう、あの!」
 「そうだよ。まあ、千万組相手ならまだ手打ちもあったろうけどなぁ。石神さんとこのお嬢さんはダメだ。稲城会も、もう終わりだな」

 「そんな!」

 「まあ、想像もつかないだろうけどよ。この方々は自衛隊が束になってもびくともしねぇぞ?」
 「ばかな……」

 「まあ、東雲、見せてやろうぜ」
 「いいんですか?」

 「ヤクザ潰しも面白いけどよ。やっぱ飽きるだろうしなぁ」
 「はぁ」





 俺たちは外に出た。

 「石神さん、さっき部屋に閉じ込めた連中は?」
 「あ!」

 「タカさーん、もうやっていいですかぁー?」
 「ちょっと待て! ああ、今から取りに行くのめんどくせぇなぁ」
 「タカさーん!」

 「亜紀ちゃん、下の方だけ消せ。上は自然に落ちて来るだろう」
 「えぇー! 全部やっちゃダメなんですか!」
 「それで我慢しろ!」

 亜紀ちゃんが膨れ面で中くらいまでを吹っ飛ばす。
 上のフロアが、そのまま下に落ちて来た。

 「「「「!」」」」

 轟音と激しい土ぼこりが舞う。
 東雲が「轟風花」で吹き飛ばした。

 「お前らの拠点を全部ぶっ壊してもいいんだがな。けじめをつけるんなら、今晩連絡して来い」
 「「「「……」」」」



 六本木のビルは、ガス爆発と欠陥建築が原因による崩壊と報道された。
 100人程の重軽傷者が出たらしい。


 二ヶ月後。
 50か所近い事務所や拠点を破壊され、稲城会は解散を宣言した。
 稲城会と親しかった神戸の山王組は、千万組と不可侵条約を交わした。
 実質的に、下に着く形となった。

 


 うちの門は、総プラチナのものに変わった。
 時々、ロボがマーキングしている。
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