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Model RAY

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 月曜日。
 俺はいつものように、一江からの報告を聞いた。

 「よし、平常運転だな! 今週も頑張ろう!」
 「おー」
 「みなさーん! 響子は好きですかー!」
 「オォォォー!」

 「今週も毒を盛られることはねぇな!」



 俺は午前の書類仕事を終え、響子の部屋へ行った。
 レイが来ていた。

 「なんだ、来てたのか?」
 「はい。大使館に用事がありましたので」

 響子は昼食を食べていた。
 ズワイガニのリゾットだ。

 「ズワイガニを喰う時はパンツをちゃんと脱げ!」
 「やー」

 「最近、騙されなくなったよ」
 「それは、その」
 レイが困っていた。
 六花は笑っている。
 響子が食べ終わり、六花が食器を片付けに行く。

 「あの、響子を外へ連れ出すのはまずいですか?」
 「近くならいいんだけどな。六花が時々外に連れて行くよ」
 「車でも?」
 「たまに羽田空港とか俺が連れて行くけどなぁ。あまり良くはないんだ」
 「そうですか」

 「特別移送車というのがあるんだ。身体に負担を掛けない設計になっている。それに乗せてなら、遠くまで行けるよ」
 「じゃあみんなで行きましょうよ」
 「ああ、でも、二人乗りなんだよ。俺と響子だけしか行けない。六花も運転できるけどな」
 「それ以上乗れるものはないんですか?」
 「うん。残念だけどなぁ」
 「でもおかしいですね。需要はありそうなものですが」
 「ああ。うん?」

 言われてみると、ちゃんと聞いてみたことがなかった。
 俺は早速問い合わせた。

 「はい、ございますよ。5人まで乗れるクーペタイプもありますが」
 「早く言ってよ!」

 「レイ、あるらしいよ」
 「そうですか」
 「頭いいな!」
 「いえ」

 レイは日本の普通免許を取ろうとしている。
 移住を視野に入れてのことだ。



 前から思っていた。
 響子を、静江さんの実家の大社へ連れて行ってやりたい。
 ただ、非常に遠方だ。
 本州の端にある。
 行くとなれば、途中で何泊か必要だろう。
 そうすると、響子の体調に万一があった場合に対応が困難だ。
 道中での緊急対応を含め、万全の対策を組んでからになるだろう。



 その日の晩に、俺はレイから相談を受けた。

 「自動車免許は、もうすぐ取得できそうです」
 「そうか」

 現在のレイの移動は、ほとんどがタクシーだ。
 やはり自分の車が欲しいだろう。

 「それで、向かいの家の駐車場を使おうかと思っているんですが、石神さんの名義になっているので許可をいただきたく」
 「ああ、それはもちろん構わないけど、丁度うちも拡張工事が始まっているから、その駐車場を使ったらどうだ?」

 千両たちが手配した業者が、既に基礎工事を始めている。

 「いいんですか!」
 「もちろんだ。十分なスペースがあるよ。俺もこれ以上車を置くこともないだろうしな。せいぜいあともう一台だ」
 「それはありがたいです。それで、どういう車にしようかということもご相談したくて」

 「レイが好きにすればいいけど、アメリカじゃ何に乗っていたんだ?」
 「自分ではプリウスでした」
 「じゃあ、それでいいじゃないか」

 「石神さん」
 「あんだよ」
 「この家でプリウスは無理ですよ」
 「あ?」

 「だって、アヴェンタドールにベンツのAMGに超改造ハマーですよ?」
 「別にいいだろう」
 「格が違い過ぎます!」
 「そんなもんかよ」
 「石神さん、選んでもらえませんか?」
 「俺に?」
 「はい、お願いします」

 俺はニヤリと笑った。

 「俺に任せるんだな!」
 「はい!」
 「マニュアル車で大丈夫か?」
 「はい、問題ありません」
 
 「よし! 俺に任せろ!」




 翌月。
 
 「石神さん、なんですか、これ?」
 「おう! レイの車だぁ!」
 「……」

 シボレー・コルベット C7ZR1 「Custom Model RAY」。
 メタリック・イエローの特注色。
 販売店とカスタムカーの専門の店に大金を払い、大急ぎで仕上げさせた。
 蓮花の研究所も通っている。

 「なんか、描いてますね」
 「ああ、レイって言えば虎だからな!」
 フロントに虎の顔が描いてある。

 「なんか、機械が飛び出てますが」
 「ああ! スーパーチャージャーな! 安心しろ、ターボチャージャーも付いてるぞ!」

 「あの、一番お聞きしたいのはルーフに乗っている、あの……」
 「ロボだ」
 「はい?」
 「ロボだよ! 実はな、あれは「IVA」なんだ。「虚震花」「轟雷」「槍雷」「ブリューナク」が撃てるぞ!」
 「……」

 「あと、見えないけどボディの内側に6体の「Ω」が埋め込んである。亜紀ちゃんの攻撃にも耐えるかもな! アハハハハ!」

 「あの、石神さん」
 「あんだよ」
 「私、プリウス買います」
 「なんで?」
 「無理です」

 「てめぇ! 俺に任せるって言っただろうがぁ!」





 レイは半泣きで俺を乗せてアメリカ大使館へ行った。
 アビゲイルに見せた。

 「イシガミ、レイをいじめないでくれ」
 アビゲイルと二人で懇願された。

 結局レイは「アストンマーティン V12ザガート」を買い、納車までは俺のベンツに乗った。
 それから、レイに買い物の相談をされたことはない。
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