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御堂家 見送り

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 翌朝。
 朝食を頂いた後で、御堂と二人で話した。

 「電話では話せなかった。監視がついている可能性があったからな」
 「どうしたんだ?」
 「公安が俺に目を付けたようだ」
 「なんだって?」

 俺は公安の「ゼロ」の組織の中の、赤星綺羅々という女の率いる部隊が接近してきたことを話した。

 「「ゼロ」というのは、公にはなっていない組織だ。国家の安全のために存在する公安の中でも、秘匿性が異常に高い」
 「ああ」
 「恐らく、非合法活動も厭わない連中だ。そこの優秀な部隊なんだろう。「銀狼部隊」と自分たちのことを呼んでいた」
 「そうか」

 「俺が手に入れた情報では、それだけではない。自分たちの私欲にも国家権力を使っている」
 「どういうことだ?」
 「気に入った男女を拉致して欲望をぶちまけている。そのあとで、密かに始末する」
 「なんだって!」

 御堂が身を乗り出して驚いた。

 「赤星綺羅々が俺に目を付けたようだ。きっかけはもちろん246やフランス外人部隊の襲撃などからだけどな」
 「石神、お前……」

 「大丈夫だ。逆に俺を手に入れるために、俺に繋がる情報が破棄されたようだ。まあ、軍隊が来ても対応できる俺たちだが、相手は相当に頭の切れる奴らしい」
 「気を付けてくれよ」
 「ああ、任せろ」

 御堂は俺がそう言うと少し安心した。

 「今な、警察の組織の中で対抗勢力を作っている」
 「そうなのか」
 「現段階でもなかなかのものだぞ」
 「石神なら、やるだろうな」
 「そうだ」

 俺はそれに関わる、もう一つの話をした。
 御堂は驚きを隠せなかった。

 「石神、それは幾ら何でも」
 「状況によってだ。その時が来たら、覚悟を固めてくれ」
 「無理だよ」
 「俺の友達は大変だよな」
 「お前なぁ」


 足音がした。


 「お父さん」
 柳だった。

 「なんだい?」
 「お母さんが、石神さんにお昼も召し上がっていって欲しいって」
 「食べていってくれよ」
 「分かった。ありがたく頂くよ」

 「石神は食べていってくれるって伝えてくれ」
 「はーい!」

 足音が遠ざかった。

 「入って来なかったね」
 「夕べ、そういう話をしたからな」
 「そうなんだ」
 「俺と御堂の間に入るなって」
 「アハハハハハ!」

 俺たちは、俺の家の増築の話をした。
 出来上がったら、是非来てくれと御堂に話した。

 「ああ、必ず行くよ」
 「待ってるぞ」


 俺は正巳さんの部屋へ行き、世話になった礼を言った。
 正利の部屋にも行く。

 「どうだよ、俺の言ったことはやっているか?」
 「はい!」
 「じゃあ、ちょっと見てやろう」
 「はい!」

 俺たちは庭に出た。
 正利と組み手をする。
 その後で、身体の動きなどを指導した。
 柳に動きの基礎を教え、正利にも教えさせている。
 電話でも、何度か話をしていた。

 「花岡」の習得だ。

 「なかなかいいぞ。柳ともやっているか?」
 「はい、時々。技によっては、一緒に山の中に入っています」
 「そうか。よろしく頼むな。柳はうちに来るから、この家を守るのは正利の役目だ」
 「はい!」

 柳が出てきた。

 「私もいいですか?」
 「ああ」

 俺は柳とも組み手をした。
 正利よりもセンスがいい。
 10分ほどやって、いい仕上がりと感じた。

 「お前もいいな。二人でしっかりやってくれ」
 「「はい!」」

 

 俺は厨房へ行った。

 「石神さん! 今日はうちでやりますから」
 澪さんが慌てて言う。

 「一人くらい奴隷を連れてくれば良かったですね」
 「そんな!」
 俺は笑ってエプロンを借り、リンゴをもらった。
 飾り切りで、バラを作って行く。
 他に、白鳥などを作った。

 「まあ!」

 澪さんや手伝いの女性が驚いていた。
 昼食にほうとう鍋をいただいた。
 デザートに俺のリンゴの飾り切りが出た。
 正巳さんと菊子さんには白鳥を。
 御堂と澪さんと正利にはバラを。

 「石神さんが作って下さいました」
 澪さんが言うと、みんな喜んでくれた。

 「石神さん!」
 柳だ。

 「私のはなんでウンコなの!」
 「ばかやろう! それはオロチだぁ!」
 「あ、すいません!」
 ウンコだ。


 御堂家のみんなが見送りに出てくれた。

 「じゃあな、御堂。また世話になったな」
 「何を言う。僕の方こそ、いつもありがとう」

 「みなさん、じゃあまた」
 俺は御堂家のみなさんの後ろにも言った。
 誰も気付いていなかった。

 「じゃあな、オロチ! また来るからな!」

 一斉に全員が振り返って腰を抜かした。
 オロチが見送りに来ていた。

 「アハハハハハ! じゃあ、また!」

 俺はアヴェンタドールに乗り、御堂家を去った。





 俺は途中のサービスエリアでコーヒーを飲みながら家に電話をした。

 「ああ、タカさん!」
 亜紀ちゃんだ。
 いつもと様子が違う。

 「どうした?」
 「今、警察の人が来てるんです!」
 「誰だ?」

 「それが、早乙女さんという方で」
 「ああ、そうか」
 「タカさんがお出掛け中だと言ったら、中で待たせてもらうって勝手に上がって来るんですよ」
 「悪いな。あと1時間で帰ると伝えてくれ」
 「追い返さないでいいんですか?」
 「待たせておけ。俺たちの味方だ」

 「え、じゃあお茶を出しますね」
 「インスタントでいいぞ」
 「うちにないじゃないですか!」
 「アハハハ! とにかく、放っておいていいからな」
 「分かりましたー!」

 俺はコーヒーを飲み終え、アヴェンタドールに戻った。
 また何人もが俺の車を囲んでいる。

 「どーも、どーも」
 俺は手を上げて振りながら、シザードアを開けて乗り込んだ。
 急いで家に向かう。





 早乙女久遠(さおとめ・くおん)。
 警察庁警備局外事課。
 俺と共闘する、公安の人間だ。
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