富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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静馬くんの墓参り

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 御堂家で朝食を頂いた。
 食後に、俺はオロチに卵をやりに行った。
 御堂家のみなさんが付いて来る。

 「オロチー! また来たぞ!」

 ズルズルと音がする。
 みんな緊張している。
 オロチが顔を出した。
 もう大人の人間の大きさがある。

 「お前、またでかくなったのかよ。軒下は大丈夫か?」

 舌を出して、俺の顔に近寄って来た。
 オロチの顔を抱き締める。

 「カワイイなぁ、お前は」

 俺は卵を割って、下に置いた。
 オロチが卵を舌で巻き取って呑み込んだ。
 器用に殻だけ吐き出す。

 「こないだもここを守ってくれたんだってなぁ。ありがとうな!」

 オロチは俺を見ていた。

 「お前は本当に最高だ! これからも御堂家のみなさんを頼むな!」
 「じゃあ、行きましょうか」

 みんな地面にへたり込んでいた。




 「石神、なんでお前が呼ぶと出て来るんだよ」
 「さあ」
 「今まで誰が呼んでも出て来なかったですよ」
 柳が言う。

 「さあ」
 「あぁ!」
 澪さんが叫んだ。
 外を指さしている。
 見ると、オロチが縁側にいた。
 何か引きずって来ていた。
 全員が硬直した。

 「よう! あれ、それまた脱皮したの?」
 抜け殻を持って来たようだ。

 「ありがとうな!」
 帰って行った。

 「石神……」
 「あれ、宅急便で送ってくれる?」
 「わ、分かった」
 「月曜の6時~8時着で」
 「絶対に送る」

 「じゃあ、みなさん。すみませんが、ちょっと出掛けてきます」
 「「「「「「はい!」」」」」」

 なんか気合の入った返事をされた。
 俺はアヴェンタドールで静馬くんの墓のある寺へ向かった。
 




 カーナビに住所を登録していたので、迷うことなく着いた。
 駐車場に車を停め、中へ入った。
 住職に挨拶する。

 「今日はお世話になります」
 「いえいえ、このような田舎寺へわざわざ」

 お茶を頂いた。
 俺は改めて、静馬くんや、そのご両親に大変にお世話になったことを話す。

 「もっと前に来るべきだったんですが」
 「こういうことは、仏様のお導きですよ」

 住職は俺よりも少し上の方で、柔和な笑顔が素敵な男性だった。
 一目で、誠実な方だと分かる。

 「ここには、静馬くんとお父様が?」
 「はい。お母様はお宅のお墓へ入っているようですね」
 「そうですか。それで分骨の件は」
 「あちらの御寺と家の方にお話しているところです」
 「お手数をおかけします」

 「どうも御父上が、娘さんを溺愛していたようですね。それで自分と一緒の墓に入れるようにしたようです」
 「そうでしたか」

 本堂で住職自身で読経してくれ、俺は卒塔婆を持って墓へ行った。
 頼んでいたので、墓花も挿してある。
 掃除もしてもらったようだ。
 墓石の前でも、また読経してくれた。
 住職が戻り、俺は線香を焚いた。

 「静馬くん、お礼を言いに来ました。随分と遅くなっちゃいました。すいません」
 「お父さん、俺、ちゃんと医者になりました。静馬くんとお二人のお陰です。ありがとうございました」
 「あの頂いた万年筆は、大事にとってあります。毎日見て、みなさんのことを思い出してます」

 話しているうちに、涙が出てきた。

 「静馬くん、あの時俺に話しかけてくれて嬉しかった。俺ってこんなだから、なかなか優しくしてもらえなくって」
 「あのエロ魔人のチョーさんがね、静馬くんがいなくなって寂しいなって言ってましたよ」
 「あの人、入院が長くって。肝臓壊したのに、よく夜中に飲みに抜け出してたから、アハハハ」
 「俺がスカートまくった看護婦さん、あのあと結婚したんですよ。相手は〇〇先生! 驚いたなぁ」

 「前に静馬くんのことを、息子に話したんです。ああ、その息子は俺の親友の子でね。突然奥さんと一緒に死んじゃって、それで引き取ったんです」
 「皇紀って言うんですけどね。泣いてました。優しい奴なんですよ、親友にそっくりで」
 「他に三人いるんです。そいつらと何度か静馬くんの話をしたら、ああ墓参りに行きたいなって。それで探したんですよ」
 「ええ、あいつらのお陰です。やっと静馬くんに礼を言えた」

 静馬くんの遺品のレコードの話。
 後からもらった参考書や問題集や文房具の話。
 俺が通知表を持っていくと、ご両親が喜んでくれた話。
 静馬くんに教わった勉強法で、子どもたちも成績トップになった話。
 俺は何時間も話していた。
 
 「さっき、住職の方が素晴らしいお経を上げて下さったけど、最後に俺にもやらせてください」

 俺は般若心経を唱えた。
 唱え終わると、住職が立っていた。

 「まだいらっしゃったんですね」
 「ああ、すみません。久しぶりだったもので、つい話し込んでしまって」
 
 住職は微笑まれた。
 俺はまた誘われて、お茶を頂いた。

 「永代供養をお願いしたいのですが」
 俺は住職に頼み、供養費を差し出した。

 「いただかなくても、こちらでちゃんとやりますよ」
 「いいえ。静馬くんやご両親に渡せなかったものですから」
 「そうですか」

 俺は、子どもの頃に貧乏で、参考書などが買えなかったと話した。

 「助けてもらったんです」
 「そうですか」
 「静馬くんもご両親も、本当に親切で素敵な方々でした」
 「はい」
 「今、俺がまっとうに生きていられるのは、あの方々のお陰なんです」
 「そうですか」

 俺は礼を言って帰ろうとした。




 「石神さん」
 「はい」
 「さっきね。三人の方々が嬉しそうに笑っていらっしゃいましたよ」
 「え?」

 「本当に立派な方になったと、喜んでいらっしゃいました」
 「!」
 「また来てください」
 「はい! 必ず!」



 俺は全然立派でもなんでもない。
 だけど、嬉しかった。
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